レース・ローズ ◇おまけ | 有限実践組-skipbeat-

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 現代パラレル蓮キョのおまけをお届けいたします。

 お楽しみ頂けたら幸いです♡


 本編こちらです↓ ※色が違うのはキョコside

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■ レース・ローズ ◇おまけ ■





 最後に社さんが、じゃあ元気でな・・・と言って去って行った背中を椹さんはいつまでも見送っていた。

 それまでほとんど口を開いていなかったのに、社さんの姿が見えなくなると、椹さんはしみじみとこぼした。



「 敦賀くん。覚えているか、前に俺、20代でギャラリストオーナーなんて君が初めてだって言ったことがあっただろ 」


「 あ、そう言えば・・・ 」


「 社くんのことを内緒にしたのは、彼がそうして欲しいとお願いして去ったからだ。

 6年前、もうそんなになるのか。社くんがギャラリストを辞めると報告に来た時はとにかくひどい状態だった。言い方はあれだけど、まるで落ち武者みたいでね。今の彼からは想像しにくいかもしれないけど 」




 ご迷惑をおかけして申し訳ありません。本当なら名誉挽回を、という所なのかもしれないですが、俺はもう頑張れそうにありません。俺、ギャラリストを廃業します。本当に申し訳ありません。

 どうか俺というギャラリストがいたことは忘れてください。どうか、どうか忘れてください。どうぞよろしくお願いします。




「 よっぽど深い傷を負ったのだろう。何度も頭を下げながら涙をこぼす社くんを見ていたら、心の底から心配になってね。そんな状態の彼を帰すわけにはいかないと何度も彼を引き止めた。そしたらこう言ったんだ。大丈夫、俺は大丈夫です。なぜなら、この先自分が何をやるかはもう決めていますから・・・ってな 」



 まさか警察官になるとは思ってもいなかったが、元気になったのなら本当に良かった。あのときの彼は本当に酷かったから。


 そう言って、椹さんは感慨深そうに目を細め、社さんが去って行ったあとの道路をいつまでも見送っていた。



 その後、社さんは俺にだけもう一度連絡をくれた。

 オークションにかけられた絵画の売上金を俺に手渡すためだった。


 その時に教えてもらったことがある。

 潜入捜査の間、どうやら俺と社さんの会話は捜査員に全て聞かれていたらしいのだが、警察署内部では俺の恋愛模様を応援する声があったらしい。


 あのパーティでクローク受付にいたホテルサイドの女性は実は捜査員の一人だったらしく、俺と最上さんが一緒にいるのを見て頭の中でだいぶはしゃいでいたというし、松島さんが俺に頑張れと言ったのも本気の応援だったという。


 曰く、そういう楽しみでもないと潜入捜査など続けていられないのだそうだ。



 ガゼボでの俺たちの会話を、到着する前の社さんがやけに詳しく知っていたのも、そもそもテラスには盗聴器とカメラが仕掛けられていたからだとか。

 いや、仕掛けられていたというと聞こえが悪いか。

 要は防犯のためにホテル側がカメラを設置していて、警察が今回それを利用したらしいから。




 最上さんとの同居はひと月後に開始した。


 彼女が作ったカバン型のキーホルダーの先についているのは、双子の名にふさわしくお揃いの家の鍵。

 だけど何もかもがお揃いだとどちらの鍵か判らなくなってしまうから・・・と、俺のキーホルダーの裏に刺繍されていたKの字を彼女がRにしてくれた。



「 敦賀さん、私ちょっとだけ出かけてきますね 」


「 珍しいね。どこに行くの? 」


「 郵便局です。ネット注文してくださった方の発送手続きをしてきます。すぐ戻ってきますよ 」


「 分かった、気を付けて 」


「 はーい、行って来ます 」



 最上さんとの同居は快適だ。

 時々戸惑うハプニングもあるけれど、それもいい刺激になっているのかなと思う。


 そう言えば、契約前に偶然にも東向きの部屋に空きが出て、運よく俺たちはそちらに入居することが出来た。



 洋間7.5の窓のない部屋は俺が、洋間5.5のベランダ付きの部屋は最上さんが、そして洋間5.1を二人の寝室とした。

 寝室にはウォークインクローゼットが付いているせいで少しいびつな形をしているのだが、仕事柄俺の就寝の方が遅い傾向にあるため、入り口に近い方に何とか俺のベッドを置いて、ベランダ近くに最上さんのベッドを置いた。

 最上さんが寝る時は俺がいる・いないに関わらず必ずアコーディオンカーテンを閉めることとしている。



 講師の仕事が無い日の昼間の彼女は、広いリビングの窓際で作品制作に精を出す。

 俺の仕事が休みの日は、リビングに初めて置けたソファに腰かけ、最上さんが奏でるミシン協奏曲を聞きながら趣味の画集に目を通す。そんな日々だ。


 食事の支度はお互いに、と言っていたけど、一人分も二人分も同じだからと最上さんが殆ど作ってくれている。けど時々は俺もキッチンに立って、不器用ながらチャーハンやオムライスを作ることもあった。


 最上さんはとにかく熱中しすぎる傾向があるから、そうなると水さえ満足に摂らなくなるのだ。だから時々俺がストップをかけているというワケ。


 彼女が食事を作ってくれる代わりに、俺がトイレや風呂の掃除をする。ちなみに床掃除は掃除ロボットにお任せである。



 家賃の引き落としは俺名義の通帳を一つ用意した。

 そこに引き落とし日に間に合うよう、互いに決めた額を入金する取り決めだ。

 食費などの生活費は毎月1~2万ずつ持ち寄り、共同財布に入れて共通管理している。


 社さんがいなくなってしまったことで、夜に飲み歩くことが無くなったというのもあるかもしれないが、正直自分でも驚くほど節約生活になっていた。



 引っ越ししたあと、少ししてから俺は母親にだけ居場所をメールで知らせた。心配かけるつもりはないから、という意味合いのつもりで。


 だから最上さんと一緒に暮らしている事は言わなかった。

 今後、気持ちが進んでそういう事になってから報告すればいい事だから。



 彼女との暮らしは穏やかだった。

 まるで以前からずっとこうして一緒にいるみたいに。


 次の日、仕事が無い時などは、時折二人でベランダ晩酌に興じた。

 寒さが深いほど夜空はキレイで、月の美しさが見事なのだ。


 ホットワインを味わいながら、二人で毛布にくるまる。こんな楽しみ方もありだなと思った。



 12月の初旬になると、翌週に控えた即売イベントの品を手掛けるのに最上さんのてんてこ舞いさが更にヒートアップしてしまった。

 俺の店に京子ファクトリーの品物を置くようになったことで、コンスタントに売り上げが出るのに反して、イベント用の品揃えが予定を押してしまったのだ。


 値札つけと箱詰めを俺が手伝っていたけれど、ここらで休憩が必要だろうと先に俺が腰を上げた。



「 最上さん、そろそろ休憩にしよう。俺、コンビニにでも行って弁当でも買って来るから 」


「 うぇーん、敦賀さん、ありがとうございます、助かります。私、出来れば半熟卵を乗せたハンバーグが食べたいですぅぅ 」


「 ・・・それ、近所にあるファミレス石ちゃんの?持ち帰り弁当で良い? 」


「 はい、それが食べたいぃぃぃ 」


「 ・・ぷ・・ 」



 あの日の彼女が甦る。

 かつてビックサイトで最上さんの視線を釘付けにした、目玉焼きを乗せたハンバーグが彼女の好物であることを彼女と暮らすようになってから知った。


 そういうところも可愛いな、と思う今日この頃の俺である。



「 了解、行って来るね 」


「 はい、お願いします! 」



 俺が戻るまで作業の手を止める気はないのだろうから、素早く帰って来なければ。


 靴を履いて玄関扉を開けると、まさにこの家のチャイムに手を掛けようとしていた女性と目が合った。

 いや、女性って言うか、なんでここにいるんだ・・。



「 ほら、やっぱり蓮がいるじゃないの! 」


「 な・・母さん?なんで・・・ 」


「 確かめに来たのよ!あなた、いま女の子と一緒に暮らしているんじゃないの?! 」


「 ちょっ・・・なんで・・・ 」


「 母さんは分かっているのよ。キョーコさんという人と一緒に暮らしているでしょう? 」



 はあ?なんだよ、何で知っているんだよ、宇宙人だったのか、もしかしたら。

 しかも父さんまで連れてきて。

 そんなことを確かめるためにわざわざアメリカから来たって言うのか。

 いや、そんなことより、最上さんのことを一体どこで知ったんだ。



「 敦賀さん?どうかしたんですか 」


「 あ、あー、あー、最上さん、ちょっとだけ待っ・・・ 」


「 ああ、ほら居るじゃない!そうじゃないかと思ったのよ。キョーコさん、お久しぶりぃ♡ 」



 言いながら両手を広げた母親が彼女を普通に手招きする。おびき寄せられた最上さんを母親が思いっきりハグした。



「 って、ええっ?なんでここにいるんですか、ジュリエナさんってば 」


「 確認しに来たの。だって日本から送られてきたキョーコさんの住所がメールの住所と同じだったんだもの 」


「 え。最上さん、まさか二人って知り合いだった? 」


「 はい、そうですよ。このまえ郵便局に行って発送した荷物って、ジュリエナさんの注文品だったんです。えっと、それで? 」




 嘘だろ。



 そこ、思いっきり盲点だった・・・・。






「 ・・・ということで、ジュリエナさんは私のブログを見てご注文下さる数少ない遠方のお客様なんですけど、まさか敦賀さんのお母様だったなんてビックリです 」



 弁当を買いに行く予定だったのを急遽変更し、4人でファミレス石ちゃんに移動した。

 しかも4人でお揃いの注文だ。


 半熟卵を乗せたハンバーグがテーブルに並べられると、最上さんは満面に笑みをたたえた。



「 初めてお会いしたのは3年前・・・だったかな。イベントにいらしてくださって出会ったんですよねー 」


「 ねー 」



 3年前?俺がギャラリストになった年だ。

 もしかしたら、俺の様子を見にわざわざ日本に来ていたのだろうか。

 それで偶然、最上さんと・・・?



「 キョーコのスペースには世界観があって、思わず引き込まれてしまったのヨ。才能アリって思ったわ 」


「 ほぉ、そうなのか。ジュリが認めたとなると相当すごいな 」


「 だろうね。彼女の才能は俺でもすぐに分かったぐらいだから 」


「 そんな。皆さんで私のことを持ち上げたりしないでください!背中がむず痒くなっちゃうじゃないですか 」


「 言ったことなかったけど、最上さん。俺の母親、ビデオインスタレーションなんだ 」


「 ビデオインスタ・・・?って、なんですか、それ 」


「 一言で言うと空間美術家ってところかな。美術館や展覧会などの演出や、企業のイベントを演出したりする人なんだ 」


「 ひえぇぇぇ、そんなお仕事もあるんですね 」


「 あるのよ、キョーコ。この私の目があなたの才能を見抜いたの。私はあなたが作る世界観が好きで、あなたが手掛けたバッグも大好きヨ 」


「 ありがとうございます 」



 最上さんはハンバーグを食べる手を止めて、控えめに微笑んだ。



 それにしても知らなかったな、そんな縁があったなんて。


 もし俺がこのキーホルダーを拾わなかったとしても

 もし最上さんを探し当てることが出来なかったとしても


 いつか俺は最上さんとは、もしかしたら出会うことが出来ていたのかもしれない。



「 あら、蓮。なにそのキーホルダー、可愛いわね 」


「 あ、うん。最上さんが作ったものなんだ 」


「 そうなのね、ちょっと見せて。あら、これ、あなたに渡した私のバッグにそっくりね 」


「 だろ。俺も見たときそう思った 」



 給料だけを道連れに家を出たあの日、母は黙って俺の旅立ちを見送った。


 空港で母が押し付けて来たバッグには、俺が日常使っていた身の回り品と、あなたを信じているという走り書き、それから家族で撮った写真が入っていた。


 あのとき母から受け取ったバッグは、今でも俺が持っているけれど。


 あの日の決意を容易に思い出させてくれるこのキーホルダーが欲しい、と俺に思わせた。



 ふと父の視線が刺さって顔を横に反らした。

 無言で俺を見つめる父の目が、あの日の言葉を思い出させる。




 ・・・・・蓮、どうしてお前は・・・



 俺に旅立ちを決意させたのは父のその口癖だった。


 彼の子であるのに、俺は父の才能を一切受け継げなかったダメな息子なのだ。



 それをもう吹っ切ってしまった・・・と言ったら

 父は悲しむのだろうか。それとも怒りを覚えるのだろうか。



 答えは、そのどちらでもなかった。



「 蓮 」


「 え 」


「 ギャラリストになったんだろう。どうだ、仕事は 」


「 うん。今はまだ何とかって感じだけど、でも物凄い手ごたえは感じてる。俺、ある人と約束をしたんだ。だから、いつかこの業界に敦賀蓮ありって言われるようになってみせる 」


「 そうか 」



 呟いた父は酷く安堵した表情を浮かべた。

 それが本当に意外だった。


 のちに母から教えられた。


 父の口癖だった、どうしてお前は・・・というのは、ダメ出しの意味ではなかったことを。



『 どうしてお前はそうなんだ 』


 俺の息子であることに縛られなくていいのに。

 もっと自分だけを見つめればいいのに。

 要らぬことに拘り続けているうちは、己の内にある本当の才能に気付くことは出来ないのに。



「 はー、お腹いっぱい 」


 最上さんが満足そうに呟いた。するとウキウキしながら頬杖をついた俺の母親が、俺達を交互に見比べてにっこりと微笑んだ。



「 ところで、二人は結婚を前提として付き合っているのよね? 」


「「 今はまだそこまで進んでません 」」



 最上さんと声が揃うと、両親はふふッと笑った。



「 今はまだ、だそうだ 」


「 もう結婚するも同然ね 」



 うむ、と父親が頷き

 キョーコさんなら大歓迎よ!という母の言葉が、隅々まで晴れ渡った冬の空に吸い込まれた。




 ちなみに。

 俺たちが店を出ようとしても、二人は腰を上げようとしなかった。


 最上さんにはもう少しゆっくりしようと思うの、なんて言っていたけど


 俺達が店を出た後、きっと二人は全メニューを制覇したに違いない。






     E N D


すぐ完結に至れるはず、という予想で連載したのに、ふたを開ければ3年の年月・・・。だからこそ完結できて本当に良かったと思います。

お付き合いいただき、心から感謝です。



⇒The Lace Rose◇おまけ・拍手

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