レース・ローズ ◇32 | 有限実践組-skipbeat-

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 前話こちらです↓ ※色が違うのはキョコside

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■ レース・ローズ ◇32 ■





 それからの一週間は毎日がバタバタしていた。

 出品する絵は現代アートに絞り、俺は毎日のように契約アーティストたちの元に赴いていた。結果、30枚ほどを確保することが出来たのが日曜日。


 社さんの所に搬入できたのは翌月曜日で、倉庫には時間を合わせて来てくれたのだろうオークショニアの松島さんという人の姿もあって、おかげで俺は手短ながら初挨拶を交わすことも出来ていた。



「 初めまして。社くんの友人でもあり、オークショニアでもある松島です。今回はよろしくお願いします 」


「 ギャラリストの敦賀です。お忙しい中ご協力いただけて助かります。こちらこそよろしくお願いします 」


「 それで、社くんから聞き及んでいると思うけどパーティまでの時間が極端に短いってことと、主催者が高園寺絵梨花さんだという話を社くんから聞いたこともあって、こちらから会場等について先に絵梨花さんと話をさせてもらったんだ。挨拶前の無礼を申し訳ない 」


「 いえ、かえって助かりました。顔見知りなら尚のこと話が早いでしょうし 」


「 そう言っていただけると有難いです。絵梨花さんは何度か俺のオークションに参加してくれたことがある方でしてね。それで、これも何かの縁と思って今回の話を引き受けることにしたんですよ 」


「 急な話なのに本当にありがとうございます 」


「 いえいえ、こちらこそ。会場はウチと提携しているホテルでやらせていただくことになりました。普通、オークションというとお客様にはご着席頂いて・・・というのが一般的なのですが、今回は競っていただくのが目的ではないとのことで、ご歓談頂きながらという会場形式になります 」


「 つまり、飲食しながらということですね 」


「 その通りです。とはいえ、お預かりする絵画は決して汚れないように万全を尽くします。会場には舞台を設置してもらう予定でしてね、その辺はどうぞ安心してお任せください。詳しい場所や日時はこちらでご確認ください 」


「 頂戴いたします 」



 差し出された紙を手に取ると、それは招待状だった。

 内容を見る限り、高園寺絵梨花が友人に向けて発送するものに相違ないと思われた。

 そこには簡単な挨拶文とともにパーティの日時と場所が明記されていた。


 松島さんによると、招待状は30通余りを既に発送済みとのことだった。



「 蓮。今日お前が持って来た絵と額縁のセットはこっちでやっておくからな。任せておけ 」


「 すみません、社さん。よろしくお願いします。あ、そうだ。これがアーティストたちの概要と販売希望価格です 」


「 ああ、預かっておく。ところで、当日はキョーコちゃんを連れて行くんだろ。お前はどう行動するつもりだ? 」


「 当日は少し早めに最上さんを迎えに行って、それからこちらに来て絵を車に積んでから会場へ・・・という感じですかね 」


「 言うと思った。先にこっちに来いよ。なるべく早めにな 」


「 え? 」


「 それでお前のバンはこっちに置いていけ。俺たちがそれに乗っていくから、お前は松島さんのスポーツカーで女神を迎えに行けばいい 」


「 は?なに勝手なこと言ってんですか 」


「 大丈夫ですよ、敦賀くん。こちらはそれで了承済みですから。彼女を連れて初オークションなんてずいぶん手練れなデートコースですよね。そうと聞いたらオークショニアとして気合いが入ります 」


「 いえ、まだ彼女じゃ・・・ 」



 とか言いながら。

 俺はすっかりその気になってしまった。

 迎えに行くのが先か後かという問題以前に俺は、荷物を積んだバンで彼女と会場入り・・・というのに少々カッコ悪さを覚えていたのだ。


 好きだと意識してしまった子だからこそ、少しでもカッコつけたいという気持ちが芽生えていた。


 松島さんの車がどんなスポーツカーなのかは知らないけれど、どんな車だとしてもバンよりは恰好が付くと思った。

 それならパーティが終わったあと、彼女を送りがてら例の話も出来るかも。



 あれから何度も足を運んだ不動産屋で、俺は目星をつけた物件の資料をいくつか貰って来ていた。

 それを最上さんにも見てもらうために。






「 ひゃああああっっ!!どうしたんですか、敦賀さん、この車?! 」



 パーティ当日。

 俺が乗って来た車を見た最上さんが黄色い声をあげた。

 それは決して嫌がっている声ではなかった。



「 社さんの友人が貸してくれたんだ。今日オークションの音頭を取ってくれる松島さんっていう人が 」


「 ひえぇぇ、そうなんですか、借り物。でもメチャクチャ敦賀さんに似合ってますよ!だって目立つぐらいカッコいい 」



 カッコいい?

 そんなこと言ってもらえたら素直に嬉しくなっちゃうじゃないか。



「 でも、その松島さんって人はどうするのでしょう 」


「 大丈夫。社さんと二人で俺のバンに乗って絵と一緒に会場入りしてくれるから。そもそも俺は数を揃えるだけで、当日はいてもいなくてもどっちでも・・ってぐらいの存在だからね。むしろその方が妥当だろうってことで 」


「 そんなことは、ないでしょうけど 」


「 あるんだよ、最上さん。ところで、ワンピースが見えない 」


「 当たり前じゃないですか。いま10月下旬の夜7時ですよ。ワンピース一枚だけじゃ寒いです 」


「 だよな、着るよな、コートぐらい。じゃ、しょうがない。ご対面は会場までのお楽しみってことにしておくか。所でそのバッグ、可愛いね。まるでブーケみたい 」


「 本当ですか?実はそれを意識して作ったんです。まるで花束みたいなバッグがいいなって。それで円形バッグを作って、それから片面に布で作ったお花を縫い込んでみたんです。そう見えたのなら成功ってことね!嬉しい 」


「 どうぞ、最上さん、助手席に 」


「 はい!うふふ・・・。なんだかお嬢様になった気分 」


「 そう?俺は君のナイトになった気分だよ。いいかな、乗った?今宵は俺が存分に君を楽しませてあげるからね。楽しみにしてて 」


「 あはははは。やめてくださいよ、敦賀さん。本当にそんな気分になっちゃうじゃないですか 」



 なっていいよ・・・とはさすがに口に出来なかった。

 下手に悪乗りしすぎて引かれてしまうのは避けたい。



 目的地までは40分前後で到着する予定だった。その間、俺達の話題は主にレースについてのことになった。



「 敦賀さん。改めて、ありがとうございました 」


「 うん? 」


「 敦賀さんが用意してくださったこの服、もしかしたらそれなりに値が張るものだったんじゃないですか? 」


「 どうしてそう思う? 」


「 だって、色んな技術が使われているから 」


「 技術?それってもしかしたらレースのって意味? 」


「 そうです。このワンピース、全体的にはテネリーフレースで編まれているんです。テネリーフというのは糸を放射状、または平行に渡してからその糸をかがったり結んだり織ったりして作ったレースのことで、主にストールやベストなどで見られる編み方です。だから、こんな風にワンピースになっているのって珍しい部類だと思います 」


「 ・・・そうなんだ 」


「 しかも襟になっているのは針を使ってかがりながら作るニードルポイントレース。肘から下は糸を結んで作るマクラメレース、スカートの裾はかぎ針編みのクロッシェレースって、それらが分かった時には息が止まりそうになっちゃいました。だって、何の違和感もなく一体化しているんだもの 」


「 それってそんなにすごいの? 」


「 スゴイ、と思います。もしかしたらまだ私が気づけない何かがあるかもですけど、クリスチャンなんとかとか、ハナエなんとかとか、そういう名だたるデザイナーさんたちがファッションポイントとしてレースを取り入れた服をいくつか見たことがあるんですけど、それはあくまでも服の一部としてですよ。こんな風にレースだけで仕上げた服というのも確かにあった気はしますけど、でもこんなに幾つものレースを使って、というのは無い気がします。少なくとも私は初めて見ました 」


「 へー・・・ 」



 なるほど。

 そうすると40万という値段はむしろ妥当という訳か。とすると・・・



「 今更だけど、レースってかぎ針だけで編むばかりじゃないんだな。かがったり結んだり織ったりもするものなんだ 」


「 そうですね。レースの起源は原始時代ですから。古代人が鳥獣や魚を獲るために繊維やつるや樹皮を使って網や縄を作ったことが最初だって言われているんですよ 」


「 そうだよな。よく考えたらかぎ針が無い時代にもレースらしきものはあったんだ。そう考えると、人間の知恵って凄いよな 」


「 本当ですね。ところで話変わりますけど、オークションって私、初めてなんです!別に自分が落札するわけでもないのに、なんか会場に近くなってくるほどドキドキしてきちゃいます 」


「 俺も初めてだよ、最上さん。オークションに出品するのは 」


「 ってことは、参加した事はあるって事じゃないですか! 」


「 そりゃ当然。前に話しただろ。ギャラリストが絵を手に入れる二つ目の方法は・・・ 」


「 オークションに出品されている物を落札する! 」


「 そう。よく覚えていたね 」


「 だから言ったじゃないですか。一番遠い響きだって 」


「 ぷっ 」



 二人きりの車内で和気あいあいと笑い合った。


 現地までの40分なんてあっという間で

 大きなホテルの敷地内に建てられているイベントホール入り口に到着すると、そこで一旦車を止めた。

 運転席を優雅に降り、俺に向かって頭を下げてきたトーキングダウンに当たり前顔でキーを手渡す。


 この時、俺はかなりカッコつけたい気分になっていた。



 俺に倣って車を降りてきた最上さんに近づいて声を掛け、曲げた左ひじを彼女の前に差し出した。すると最上さんは一瞬で顔を真っ赤に染めた。



「 最上さん、行こうか 」


「 はい 」


「 では僭越ながら俺が君のエスコートをさせていただきます。手はこちらにどうぞ 」


「 うええっ?!いえ、いいですよ、そんなっ 」


「 君は今日、俺のなんだっけ? 」


「 あうっ、そうでした 」


「 ということで、どうぞ? 」


「 はい・・・って、もうそんな笑顔で・・・。あの、すみません、お邪魔します! 」



 俺の左腕に控えめに絡んできた小さな温もりに俺は笑みをこぼした。



 高園寺絵梨花をはじめとする、エスコートされるのに慣れているお嬢様たちは、当たり前の様に図々しく手を浮かせてくるけれど、そのたびに俺はそれを遮るように、今まで頭を下げたり、手を上げたり、肘を張った状態で胸ポケットに手を突っ込んだりして回避してきたけれど。


 相手が最上さんならいくらでも、自分の腕を差し出せると思った。



 屋内に入ってクロークに向かい、最上さんのコートを預かってもらった。


 ワンピース姿になった最上さんは、俺が想像した通り

 さわちゃんが想像した通り

 とても可愛くなっていた。



 やっぱりすごく似合ってる。



「 着て来てくれて嬉しいよ。とても君に似合ってる 」


「 私こそ嬉しいです。こんな素敵な服に袖を通せるなんて 」


「 ではもう一度。手をこちらにどうぞ 」


「 はいっ、お邪魔します 」


「 お邪魔じゃないよ、大歓迎だよ 」



 受付を済ませ、案内されるままに大きく開かれた扉に向かった。

 会場に足を踏み入れてすぐ、ホストとして客人を迎えていたのだろう高園寺絵梨花が俺たちに気付いた。同時に浮かべていた笑顔を一瞬で固め、そしてすぐに解いた。



「 敦賀さん、お待ちしておりました。今日の主役は敦賀さんですから、こちらへお願いします 」


「 お断りします。俺は主催者ではありませんから。それに、お伝えしていたように今日はパートナーと一緒なのでなるべく彼女のそばにいたいので 」


「 パートナーって・・・。同伴者って、社さんのことかと・・・ 」


「 もちろん社さんも来ています。それで事前にお願いしていたように、俺からの挨拶は絵画の紹介が一通り終わったあと、ということで大丈夫ですよね? 」


「 それは・・・はい 」


「 では。その時まで俺たちは自由に楽しませてもらいます。行こうか、最上さん。あっちでwelcomeドリンクを貰って来よう 」


「 はい。でも、良いんですか、敦賀さん。あの人、すっごい目でこっちを睨んでいますよ? 」


「 いいよ、別に。少なくとも俺の目的はあの子と仲良くすることじゃないんだから 」



 入場してから15分ほどで会場の雰囲気が変わった。

 扉が閉じられ、ひな壇に松島さんが現れる。


 彼が大きく一礼したとき、あれ、と思った。何かを思い出した気がした。


 でもそれが何だったのかは、思い出すことが出来なかった。



「 今宵お集りの皆様、ようこそ。私はオークショニアの松島と申します。さて、今夜はパーティの主催者である高園寺絵梨花さまのご依頼により、皆様に素敵な絵画の数々をご紹介させていただくことになりました。気に入った絵があれば何回でもお声がけ頂き、思う存分お小遣いを使い果たしていただければと思います。それでは始めさせていただきます 」



 会場のあちこちから小さな笑いが起こり、さすがに手慣れているなと思った。

 高園寺絵梨花と知り合いだったぐらいだから、この会場内にも彼のことを知っている人が他にもいるのかもしれない。



「 敦賀さん。受付でもらったこの黒い表紙のパンフレットが出品一覧ってことですよね? 」


「 そうだよ 」


「 絵は敦賀さんが選んだんですよね? 」


「 そうだよ 」


「 やっぱりそうなんですね。正直に言うとちょっと意外でした。てっきりジクレーとかリトグラフとかの現代アートがメインなのかなって予想していたから 」


「 え? 」


「 油絵で揃えたのは古美術をやりたいと思っているからですか?それとも会場の人たちの好みをリサーチした上での選抜とか?あるいは主催者側のリクエストとか? 」



 刹那、背筋で異様な寒気を覚えて

 俺は半ばひったくるように最上さんの手からパンフレットを引き抜いた。



「 ちょっとそれ見せて?! 」


「 え、きゃっ?! 」



 そのとき会場全体がワントーン暗くなり、代わりに壇上にスポットライトが当たった。オークションが始まったのだ。


 運ばれてきた絵画がテーブルに置かれ、信じられない思いで俺は目を見開いた。



 そんな絵画、俺は知らない。



 オークショニアが薄暗くなった会場を見回した。彼は自信満々に口を開いた。



「 この絵に関して詳細を語る必要はないでしょう。では最初のこちら、湖畔のさざなみです。スタートは100万から 」


「 ・・・っっっ?! 」



 何が起きているのか分からなかった。



 ただ、自分の額から汗が流れ落ちるのを感じていた。


 その実感だけがいま自分の目の前で起こっているこれが、決して夢ではないことを告げていた。






 ⇒レース・ローズ◇33 に続く


トーキングダウンって駐車場係って意味なんですってw

今回、初めて知りました。



⇒The Lace Rose◇32・拍手

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