レース・ローズ ◇26 | 有限実践組-skipbeat-

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 前話こちらです↓ ※色が違うのはキョコside

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■ レース・ローズ ◇26 ■





 一週間のプレオープンと、二週間の一般販売。

 計三週間の売り上げは上々で、イベント販促は大成功と言っていいものだった。




 最上さんのところの生徒さんも大勢足を運んでくれて、インテリアに合わせて自分で額縁を選択できるというのがとにかく好評で、しかも最上さんの読みたて通り、社さんの言葉通り、比較的小さめのものが良く売れた。


 中でも映画監督をされているというご主人と一緒に来てくださった緒方さんという人は、今度撮る予定だという映画の中で使いたいとかなり多くの絵を求めてくれて、しかもクレジットには俺の名前も入れますよと言ってくれたのだが、貸出ではなく販売だということで、その言葉だけで充分ですとそれに関しては頭を下げて断った。


 ただ、本当にありがたいと思った。



「 敦賀さん、お疲れ様です! 」


「 最上さん、も、お疲れ様 」



 プレオープン初日の朝、わざわざこちらに足を運んでくれた最上さんが、期間限定ギャラリーの最終日にお疲れ様会をしませんかと言ってくれた。

 たぶん、あの絵の件で俺がかなり落ち込んでいたからだと思う。


 その案に最初に賛同したのは、たまたま搬入に来ていた社さんで、結果として最終日撤収後に3人で飲もうということになった。


 その約束を果たすために、イベント終了一時間前に最上さんが来てくれた。



「 わざわざごめんね、ありがとう 」


「 いいえー。お迎えぐらいなんてことないですよ。結局のところ私はなんのお役にも立てませんでしたしね。だからこのぐらいは 」


「 なに言ってんの、すごく有難かったよ。君の所の生徒さんが大勢足を運んでくれて、絵を買って行ってくれたんだ。それで俺としては何度もありがとうと感謝の気持ちを伝えたい気分なんだけど、あんまりしつこくお礼をして気を遣わせたら悪いからね。だからあとで俺がお礼を言っていたって生徒さんたちに言っておいて? 」


「 そうなんですね。生徒さんたち、私のイベントだけじゃなくて敦賀さんの所でも。はい、分かりました、了解です!絶対、ちゃんと伝えておきますね 」


「 ありがとう。でもあんまりしつこく言ったらダメだよ?何度も言ったらもっと買えって強要しているみたいになっちゃうだろ? 」


「 ぷっ、確かに。ではさりげなく、スマートに 」


「 そうそう。また何かあったらときはよろしくお願いしますってね 」


「 うふふふ。言ってること、メチャクチャですよ、敦賀さん。それも本当に言っていいんですか? 」


「 冗談だよ、ごめん。それは言わないでおいて。心の中では思っているけどね 」


「 ふふふふふっっっ 」



 そう言えばイベント期間中、特にこれといった混乱はなかった。その点はさすがLMEデパートだというところだろうか。

 ただ、一つだけ気がかりなことは起きていた。


 たった一つだけ。




「 今日が最終日ですね、敦賀さん。大変お疲れさまでした 」


「 っっっ 」



 最上さんと話しているのに横から声を掛けられ、俺は身構えながら振り向いた。その声の持ち主が高園寺絵梨花だということはすぐにわかった。

 なぜなら彼女はこのイベントで一番足しげく通ってくれた顧客だったから。



 俺が身構えた理由は、先日とは違う危惧があったからだ。




 イベント開催に当たり、社さんの勧めもあって俺は自分が心惹かれた17世紀の贋作絵画を非売品展示することにして、その絵に自分でタイトルをつけた。



「 おや、これは何とも言えず良い絵だねぇ。思わず目が惹きつけられる 」



 一週間のプレオープンの間で最初にその絵を褒めてくれた初老の男性は、怪しい雰囲気など微塵もなく非売品の札を見ると、売りたくない気持ちも分かる、と呟いてからレース・ローズの前を通り過ぎた。


 次にその絵に目を止めてくれたのは妙齢の女性たちで、どうやらそのご婦人たちは海外で生活していたことがあるらしく、どこかノスタルジアに似た気持ちを覚えたのか、若かった頃が懐かしいわと何度も繰り返しながらやがて絵の前を通り過ぎていった。



 有難いことに

 俺が心を惹かれた様に、やはりこの絵に目を止めてくれる人は何人もいたけれど、社さんが案じたようなことは全く起こらず。

 多くの人は非売品の札を見ると誰もがレース・ローズの前を通り過ぎた。


 プレオープンの最終日にその二人がやって来るまでは。



「 敦賀さん、お願いします 」


「 あ、はい 」



 LMEデパートの社長秘書に声を掛けられ、控室を後にした。

 特に上得意様がいらしたときには俺が対応することになっていた。

 会場に戻った俺は、俺を待っていた人物たちを目にした途端に思わず眉を顰めた。



「 こんにちは、敦賀さん。遅くなっちゃいましたけどお祝いに駆け付けました。プレオープンおめでとうございます 」



 彼女の家が資産家であることは知っていた。けれどまさかLMEデパートの顧客だったとは思いもしなかった。

 高園寺グループにはデパート関連もあったはずなのだ。



 高園寺さんは一人での来店ではなかった。

 彼女は、高そうなスーツをしっくりと着こなしたビジネスマン風の背の高い男性を伴っていた。



「 ・・・高園寺さん 」


「 LMEデパートの社長様から直々に招待状を頂いたんです。それで、少しでも敦賀さんの助けになればと考えて今日はお友達も連れて来たんですよ。こちらは北条さんです。私たち、良い絵があったら迷わず購入するつもりですのでよろしくお願いしますね 」


「 それは、ありがとうございます 」



 笑顔を浮かべてギャラリストらしく頭を下げた。

 けれど腹の中ではお前に絵画の何が分かるんだと悪態をついていた。



 絵画は画布に描かれただけの表面上のものだけど、そこでは命が躍動している。

 それは、画家が自らの愛情を画布に描いているからこそだと俺は思っていた。

 いわば美術史とは、画家たちの恋愛史の変奏なのだ。



 そんな画家たちが絵に託しただろうモデルへの愛。

 俺はその情熱にずっとずっと憧れを抱いていた。




「 あ・・・っと。これは・・・ 」



 高園寺絵梨花から北条だと紹介された男性が、レース・ローズに目を止めた。

 同伴者の動きに合わせて彼女もまた足を止めた。



「 これは、ずいぶん古そうな絵だなぁ 」


「 本当ですね、北条さん。敦賀さん、これっていつぐらいの絵なんですか? 」


「 すみません。実は鑑定していませんので何ともお答えできないんです 」


「 あら。だから非売品なんですね。それにしても素敵な絵。北条さんもそう思いません? 」


「 だいぶそう思っているよ。かなりの年季を感じるし、この絵は相当価値がありそうな気がする 」


「 っっっ 」



 価値、と言った彼の言葉に嫌気を覚えた。さすがに期待を裏切らない。類は友を呼ぶとは正にこのこと。



「 敦賀さん。非売品なのは未鑑定だからですよね 」


「 そうですね 」


「 ということは、鑑定したら販売するって事ですか? 」


「 どうかな。今の時点ではまだ何とも 」


「 ですって、北条さん。これってチャンスですよね。だって現時点ではまだ誰かに譲る予定はないってことですもの 」



 そう言って高園寺絵梨花は同伴者と顔を見合わせ、お金持ちのお嬢様らしく微笑んだ。北条と呼ばれた男は彼女の意見に同意した。



「 そうだね、絵梨花さん 」


「 敦賀さん!この絵、北条さんに譲ってくださいませんか?お値段は敦賀さんの言い値で構いませんから 」


「 え?いや、販売は出来ない。さっきも言ったように鑑定していないし、申し訳ないけどそもそも鑑定するつもりもない絵だから 」


「 そうなんですか。でも、ギャラリストって絵を販売するものでしょう?だったら売った方が良くないかしら。鑑定したらお金と時間がかかってしまいますから鑑定に二の足を踏む気持ちも私たちは分かります。だからそのまま譲っていただければ充分です。敦賀さんの言い値で構いませんから 」


「 いや、流石にそういう訳には・・・ 」



 このとき俺は信じられない気持ちでいた。

 まさかという思いが先に立つ。



 まさか、まさか。いくら何でもまさかだろう。

 だってこの子、高園寺のお嬢さんだぞ。いくら何でも立場ぐらい分かるだろう。


 なのにまさか、そんなことを言って来るなんて。

 ここで食い下がって来るなんて。




『 非売品だと書いてあるのに売ってくれっていうヤツがいたら、そいつは要注意人物だ。断っても食い下がって来たならなお疑える 』




 社さんの言葉が甦った。

 まさかという思いは簡単には払拭できなかった。



 あり得ないことも無いかもしれない。そんな風に思えたから。



 もしこの二人が本当にそうだとしたら。

 先日の一件について酷く頷ける気がした。



 高園寺絵梨花は突然販促会場に押しかけてきて、俺と一緒に会場に入りたいと言い出した。

 そのそもそもの目的が、この絵を見つけることだったとしたら。

 俺のことを陥れて、俺を手に入れようとしたのでは?



 本来の予定とは異なってしまったが、偶然にも俺がこの絵を手に入れたことを知って、LMEの社長に声をかけて、わざわざ来店したのでは。

 そんな憶測が脳裏をよぎった。



「 敦賀さん。ここで迷う必要ってあります?敦賀さんの言い値で構わないんですよ? 」



 以降彼女はこのイベントに一番足しげく通い、レース・ローズの無心に励んだ。






 ⇒レース・ローズ◇27 に続く


そう言えばこの連載、止まっちゃっているんだよね・・とふと思い出して25話を見返したら、一年前の日付になっていてちょっとびっくりしてしまいました。月日が経つのって本当に早いですよね。

このお話はあとひと山で完結に至れるので、なるべく早く続きをお届けしたいと思います。



⇒The Lace Rose◇26・拍手

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