だいぶ進んできました、現代パラレル蓮キョ、お届けいたします。
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レース・ローズ【1 ・2 ・3 ・4 ・5 ・6 ・7 ・8 ・9 ・10 ・11 ・12】
■ レース・ローズ ◇13 ■
けれどその説明をするに至らず。なぜならオープンになった会場にはすでに多くの人波が押し寄せていたから。
スペース内で最上さんと向き合っていた俺は、突然自分の名を呼ばれて驚いた。
「 うっそ?!なんで京子ファクトリーに敦賀さんがいるのぉぉぉ?! 」
「 …っ?! 」
「 あ、さわちゃん、いらっしゃい。今日も一番乗り、嬉しい。ありがとう! 」
「 そりゃあ、このために来ていますから!それより何なに?なに顔を背けてんの、敦賀さんでしょ?!ほら、やっぱり敦賀さんじゃん!! 」
面白いものを発見した、という笑顔でスペース前に最初に立った客は、手芸作家・京子のファンだという椹さんの一人娘。
娘椹の大きな笑い声にどういう顔で対応しようか悩みながらも、俺は何とか右手を持ち上げた。
「 どうも、奇遇だね 」
「 なになに?何が奇遇?やだ、ちょっと!お父さんから二人が店で何度か顔を合わせたって話は聞いていたけど、二人って付き合い始めたの?!えー、なんかそれ、メッチャ早くない??でもいい、やっぱり思うツボだったぁぁっ!
なによ、お父さん、ずるい。そんなこと一つも教えてくれなかったのに。今日帰ったら文句言ってやろ~っと♪ 」
ちょっと待ってくれ。
なんでそんなにハイテンション?
「 ……なんだぁ。彼女持ちだって 」
「 やっぱりかー。そりゃそうよね。即売スペースの売り子側にいるんだもん 」
俺達のやり取りをチラチラ見ながら話している声が聞こえる。
入場待ち列での件もあるからさすがに違う…とは言えないし。そもそもここで否定なんかしたら、結局異性に取り巻かれて最上さんに迷惑かけることになりそうな予感がした。
「 そうなんだー。敦賀氏って契約アーティストの娘はダメでも、京子さんならいいんだー♡ 」
「 …………それはそうだろ 」
「 ぷはっ!開き直った!!開き直っちゃったよ、この人! 」
「 ……頼むからちょっとだけ声を抑えてもらえる?さわちゃん 」
「 さわちゃん?!やだっ!敦賀氏まで私のこと、さわちゃん呼び?それって京子さんのが移っちゃったのぉ? 」
実は俺自身、この子には多少の恩義を感じている。
椹さんはよほど娘さんの感性に信頼をよせているに違いない。
彼が娘の言葉を信じて最上さんに仕事を依頼したのと同じ経緯を俺も歩んでいるのだ。
それまで契約していたギャラリストとは更新をせず、椹さんが俺と専属契約を結んでくれたのは、実は娘さんがそれを推奨してくれたからだった。
けれどそれとこれとは別問題。
「 冷やかしなら帰れ!! 」
「 やだ、冷やかしじゃないよぉ。私、お客さんだよ、ちゃんとお買い物に来たんだから!…て、京子さん、なに笑ってんの? 」
「 ふふふ。さわちゃんって案外、敦賀さんと仲良かったんだって思って。そんな風な敦賀さんを見たのって初めて 」
「 うふ♡ そうよね、付き合い始めだもんね。敦賀氏についてはこれからもっと色々な顔が見られると思うよん 」
「 君が俺の何を知ってるって言うんだ。いいから、冷やかしなら帰れ! 」
「 冷やかしじゃないってば!京子さん、いい? 」
「 うん、もちろん。何が欲しいの? 」
「 あのね、マチが付いた斜め掛けのバッグが欲しいの。デザイン刺繍がされたやつって今回あったりする? 」
「 あるけど、今回は2つしか作ってないの。刺繍は時間がかかっちゃうから。でもたまたまだけどそれ、斜め掛けバッグよ 」
そう言って最上さんはテーブル下の箱からそれを出して来た。
「 これとこれの2種類。さわちゃんなら薄茶色の方が好みかな? 」
「 うきゃあぁ~、これ可愛い!お花畑に犬?うっそぉぉぉ~。しかも紐の長さもちゃんと調節できるんだ。すごい、良い~~ 」
「 刺繍はフラップ部分にしたけど、刺繍にこだわらないならフラップの無いマグネットホックタイプもあるのよ。見てみる? 」
「 見る!! 」
「 こっちは赤系ね。ショルダーとして作ってあるけど、斜め掛けも出来るかなって 」
「 こっちの方がマチが広めなんだー 」
「 そう。刺繍の方はバッグ部分が膨らんじゃうとフラップが閉められなくなっちゃうからスリムにしてあるの。でもどっちのバッグにもキーホルダーを下げるためのフックを付けているし、そんなに使い勝手に差はないと思う。チェーン付きの定期入れをフックに付けて側面のポケットに入れておけば出し入れも簡単に出来るし、安心して持ち歩けるのよ 」
「 うう~ん!!なにこれ、どっちもいいぃぃぃ!!値段は? 」
「 刺繍の方が1万5千円。マグネットホルダーの方が1万2千円。ごめんね、高くて 」
「 ううん、高いけど高くないよ!だって京子さんが作ったのって絶対に縫い目がほつれたりしないもん 」
「 ほんと?工業用のミシンを使っているからかな。その辺はね、しっかりしていると思う 」
「 でしょ。それに京子さんって色違いはあるけどそっくり同じものを作ったりしないから、世界にこれ一つだけっていうのがいいの!
ああ、でも悩むぅ~。このデザイン刺繍、絶対いいよぉ。どうしよう。今度、男女数人で映画に行くのに使いたいんだけど~ 」
「 そうなのね。必要最小限の持ち物なら刺繍タイプの方がスマートかなって感じだけど。あとね、手提げでもいいならダブルファスナーで可愛いのがあるのよ。コンパクトなのに容量を多くしてあるの 」
「 えー?それも見せてぇ 」
「 ひとつはそこに置いてあるけど、こっちのは色違い。ダブルファスナーとは別に側面にもポケットを付けたタイプ 」
「 これはボストンタイプのカバンなんだ。左右開きのファスナーだから中を見られる心配がなくてしかも大きく口が開く!さらにギャザー加工されたレース付きのポケットが可愛い。なにこれ、女の子っぽーい。やばい、見れば見るほどどれも可愛い! 」
「 ね。こういうフェミニンなのも可愛いでしょ 」
二人のやり取りを少し遠目から見ていた女の子達が、だんだんとスペースに近づいてくる。
さわちゃんが色々手に取って検討しているからだろう。同じように商品を手に取ってくれる子も増えていた。
もちろん初めてのお客さんだけじゃない。ここが京子ファクトリーだと知っていて来てくれている子もいた。
その一人が値札にポーチと書いてある一つを俺に差し出した。
「 すみません。聞いてもいいですか? 」
「 あ、ごめん。商品説明は俺、出来ないんだ 」
「 商品説明じゃなくて男性目線のアドバイスをお願いします。こっちとこっち、どっちが可愛いって思いますか? 」
「 ええ~?……そうだなぁ。君にはこっちが似合うと思う。スカートの色と似てるよね 」
「 …っ!!じゃ、こっちにします。お会計お願いします!! 」
「 はい、ありがとう。でも俺の意見で決めちゃっていいの? 」
「 大丈夫です!!京子ファクトリーの商品、いつも愛用しているので!!この値札の金額で良いんですよね?これでお願いします 」
レクチャーされた通りに値札を切り、小さな紙袋に入れて手渡す。
「 はい、これおつり。有難うございました。もし良ければまた後で来て?今日はまだ色んなものを用意してあるから、時間をおいて来てくれたら違うものが並んでいると思うから 」
「 はい♡ ひと通り回ってからまた来てみます! 」
「 私も見たいです、いいですか?ここ京子ファクトリーですよね? 」
「 はい、どうぞ 」
「 あたしも、見たい~!男性目線アドバイス、あたしも欲しい! 」
このやり取りをきっかけに一気に客が押し寄せた。
正直びっくりしたけど、最上さんは意外と冷静で手慣れていた。
「 ごめんなさい、割り込まないで順番にお願いします。ゆっくり選んで欲しいから4~5人ぐらいづつで…。あとは申し訳ないけど並んでもらっていいですか? 」
「 あ…… 」
こういう所が日本人の良い所だな、と思う。
誰もそれらしい返事はしなかったけれど、女の子達は自然と2列になって最上さんの言葉通り順番に並んでくれた。
どうやらこういうイベントでは2列になるのがそもそも暗黙の了解らしいけど、そんな事など知らない俺は少々の感動を覚えていた。
「 あぁ、もう決められないよぉ。ねぇ、敦賀氏はどっちが好き?どれが可愛い? 」
「 いきなり俺に意見を求める?だいたい俺の好みを聞いてもしょうがないだろ 」
「 いいじゃん、さっきの人にはアドバイスしていたでしょ。私にもアドバイスぅ!男性意見としてお願い!ねぇ、どっち? 」
「 ……刺繍のやつは女の子っぽくていいかなと思うけど。そのフリルのついた手提げも俺は嫌いじゃない 」
「 そう?よし、決めた!刺繍のやつとダブルファスナーの手提げを買う!! 」
「 いいのか、それで 」
「 いいのっ!京子さん、これお願い!! 」
「 いつも本当にありがとう。刺繍付き斜め掛けバッグが1万5千円と、ダブルファスナーの手提げが4千円だから、合計1万9千円です 」
そのセリフで本当に上得意様なんだな、と思った。
意を決したさわちゃんが財布を取り出す。その財布にキーホルダー型のミニチュアバッグが付いていることにすぐ気付いて、視線が一気に釘付けになった。
「 ……さわちゃん。その財布に付けているキーホルダーって… 」
「 お?気付いちゃった?さすが彼氏(笑)
これね、少し前に京子さんに貰ったんだ♡ トローニーの仕事を紹介したお礼にって。非売品で超お気に入りなのっ。ね、京子さん! 」
「 うん、ごめんね。本当は他のをあげる予定だったのに失くしちゃって 」
「 そんなの気にしなくていいよー。だってコレお気に入りだもん♪
ありがと、京子さん。またあとで来るねー!! 」
「 はーい。ありがとうございました 」
後ろがつかえているから気を使ったのだろう。
椹さんの娘さんは支払いを済ませると手早く荷物を受け取り、あっという間に去って行った。
「 すみません。あたしたち二人で来ているんですけど、二人で一緒に見ても良いですか? 」
「 どうぞ。隣のスペースの方の迷惑にならない様にお願いしますね 」
「 はーい。やった!いいって 」
「 良かったね。それで、さっきあの子が買って行った刺繍のバッグって、あと一個あるんですよね? 」
「 ありますけど、それは色違いですけど、いいですか? 」
「 良いです。見せて下さい 」
「 ありがとうございます。ちょっと待っててくださいね 」
呼び水になってくれたさわちゃんが去ったあとも、男性目線のアドバイスをあちこちから求められ、都度、俺はそれに応じざるを得なかった。
それでも徐々に慣れてきたこともあって心持ちは落ち着いていた。
…が、間もなく強力な台風たちの出現に見舞われ、信じられないほどてんてこ舞いなことになる。
⇒レース・ローズ◇14 に続く
原作では椹さんの娘の名前が判らないので、さわちゃん以外で呼べなくってツライです(笑)
⇒The Lace Rose◇13・拍手
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