レース・ローズ ◇14 | 有限実践組-skipbeat-

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 前話こちらです↓

 レース・ローズ【1 10 11 12 13】  


■ レース・ローズ ◇14 ■





 その台風たちがやって来たのは11時を少し過ぎてからだった。


 列をなしていたお客さんを二人でさばきながら都度補充をしていたつもりだったが追いつかず、最初に展示していた2箱分がほぼ売り切れ、お客さんが切れたタイミングでスカスカとなってしまったスペースに2箱分を追加補充。

 それをし終えて一息つこうと、スペースに用意されていたパイプ椅子にそれぞれ腰を下ろした。


「 敦賀さん。良いペースで販売出来ている気がします! 」


「 そう。それは良かった 」


 笑顔でそう話してくれた最上さんと向かい合っていた時のこと。



「 あったわ、ここじゃない、京子ファクトリー。ほら見て、あのバッグ。先生が作ったものっぽい雰囲気。絶対そうよぉ 」


「 ほんとだわ。もうこの会場、広すぎて遭難するかと思っちゃった 」


「 やぁだ。いざとなったら叫んじゃえばいいのよ。京子ファクトリーってどこですかーって。そしたら親切な人が教えてくれたわよ 」


「 そうそう。それが最終手段。間違いないわ、それなら 」



 あはははは…と笑い声が聞こえて俺達は再び腰を上げた。

 会話内容から京子ファクトリーのファンの人達だろうと思った。


 しかし目に飛び込んできたのは華やかなマダムと思しき集団で、顔にこそ出さなかったが、どういうことだ?と俺は秘かに思っていた。



「 あれ?上尾さん、飯塚さん、伊達さん、良子さん、本郷さんじゃないですか。わざわざここまでいらして下さったんですか? 」


「 もちろんで……あらセンセ!!なにその恰好!!可愛いわ。いつもと全然違うじゃないの! 」


「 やだ、本当よ。可愛いわ、先生 」


「 まぁ、年頃のお嬢さんって感じよー 」



 そう。実は今日の最上さん、普段と少し違う雰囲気だった。


 そのことは朝、顔を合わせた時に気付いていたけど、俺自身が普段の彼女はこうだ…と言えるほど付き合いがある訳でもないし、それを口にしたらセクハラになるかも知れないと考え、敢えて無反応を決め込んでいた。



 夏が過ぎて少し気温が落ち着いてきたからだろうか。

 いままでパンツルックしか見たことが無かったけれど、今日の彼女はハイウエストでタイトなロングスカートを着用していた。


 VネックのTシャツの裾がインウエストになっていて、スタイルの良さが強調されている。



 迎えに行った時はカーディガンを羽織っていたけど、時間が進むにつれて会場内は熱気で包まれ、いまの彼女は七分袖から細い腕を晒していた。


 頭にちょこんと乗ったベレー帽も可愛くて、全体的に明るい色の茶系で統一されている。



 スペースの雰囲気を意識したコーディネートにしたのかな、と、設営の説明を聞いたときに俺はそう思っていた。



「 しかも先生、イベントに彼氏同伴?それでそんな可愛い恰好をしているのね♡ いや~ん、いつもと違って素敵よ~ 」


「 ちょっと、ちょっと。それにしても先生の彼氏、ずいぶんイイ男じゃない?背ぇ高いわねー。あなた、身長いくつ? 」


「 え…190cmで… 」


「 190cm?!ビックリね。でもいいじゃない、男のひとーって感じで。ね、先生 」


「 あうっ… 」


「 それにしてもー。付き合っている人はいませんとか言っていた癖にそれは嘘だったのね。でもいいわ。気持ち分かるから許しちゃう。こんな素敵な彼氏じゃ言いたくないわよねー♪

 でも心配しなくていいわよ、先生。誰も奪い愛したりしないから 」


「 あはは、何言ってるのよ、そこは察してあげましょうよ。だって先生、23才で微妙なお年ごろじゃないの! 」


「 そうよ、しかもこんなイケメンよ?たとえイベントでもデートに見立ててこぉんなオシャレを… 」


「「「「 しちゃうわよねー♡ 」」」」


「 こんな所で茶化さないで下さい!恥ずかしいじゃないですか 」


「 あら、茶化してないわよ、先生。私たちは応援してるの! 」


「 そうですよー。だって先生が先生をやめちゃったら私たちの楽しみが無くなっちゃうじゃないのー 」


「 そうそう。老化防止を兼ねて楽しくお教室に通っているんですから。…あら、これ可愛いバッグね。娘の誕生日がもうすぐだから買ってあげようかしら 」


「 私も娘たちに買ってあげようと思って来たのよ。なにがイイかしらー 」



 聞いて察した。

 明らかに最上さんより年上だと思しきマダムたちは、最上さんが講師を務めているカルチャースクールの生徒さんたちだったのだ。


 この手芸イベントに最上さんが販売出店することを聞き、仲の良い受講生たちで応援がてら遊びに行こうということになって、今日、足を運んでくれたらしい。



「 ありがとうございました 」


「 こちらこそ。良かった、良い買い物ができたわ 」


「 先生、今度のお教室では恋バナも聞かせて頂戴ねー 」


「 嫌ですよ。どうせからかうだけでしょう? 」


「 あら、照れちゃって 」


「 またねー 」


「 先生、遅くなっちゃったー 」


「 あら、あなたもいらしたの? 」


「 あら、あなたも? 」



 その人たちが去ったあとも受講生の来客はとどまらず。

 家族や友人を連れて遊びに来てくれる人の波が続いた。


 最上さん曰く、ほとんどの生徒さん達が来てくれたらしく、つまりは最上さんの教室に通っているほぼ全員に俺の存在が周知されたことに。



「 すみません。男性目線アドバイス、頂けるって聞いたんですけど 」


「 ……俺で良ければ 」


「 お願いします!今度デートするのに持って行きたいんですけど…… 」



 一度買い物に来てくれて、再び京子ファクトリーに来てくれた女の子達が俺にアドバイスを求めながら買い物して行くのを見て、受講生の女性達も面白半分で俺に意見を求めながら一人が一つ以上のものを買い求めていってくれた。



 おかげで京子ファクトリーの作品は飛ぶように売れてゆき、結果、最上さんは参加イベント史上初。お昼が少し過ぎた時点で全商品が完売するという僥倖にありついた。



「 有難うございました!京子ファクトリー、完売です!本当にありがとうございました!! 」



 目に涙を滲ませながら繰り返しお辞儀をし、最後のお客さんを見送った最上さんと何度も笑顔でハイタッチ。

 彼女は本当に嬉しそうだった。



「 最上さん、完売おめでとう。良かったね 」


「 敦賀さん、ありがとうございました!!敦賀さんがスペースに居て下さったおかげです! 」


「 いや、俺はただ手伝っただけだから… 」


「 それが重要でした!敦賀さんを見て足を運んでくれたお客さんがたくさんいましたし、しかもハートを鷲掴みにする男性目線アドバイスは百発百中!本当にありがとうございました!! 」


「 いやいや、違うだろ。完売になったのは君が今まで頑張って来たことが世間に通じた証拠だと思うよ。

 大丈夫。君はこれからも充分プロとしてやっていけるよ 」


「 はい!そういう評価を頂けると嬉しいです。みなさんにもあとでいっぱいお礼を言わなきゃ。

 敦賀さん。ここを片付けたら一緒にお昼に行きませんか?私、ご馳走しますから! 」


「 ……っ……ありがとう。有難くご馳走になる 」



 お礼のランチは彼女の都合が良い時で。確かに俺はそう言った。

 出来れば後日が良かったけれど、こうなってしまったからしょうがない。



 それに、丁度いいと言えばちょうどいいのだ。そのとき、キーホルダーの話をしようと思った。

 恐らく椹さんの娘さんに渡すはずだったのだろうこれを拾ったのが自分だということを。



 スペースに設置していたスタンドや棚を片付け、それらを最上さんが元の箱に戻していく。

 カラになった段ボールを畳んでいると、途中で手を止めた最上さんが小首を傾げて下から俺の顔を覗き込んだ。



「 ……敦賀さん 」


「 うん? 」


「 違いますよ? 」


「 え、なにが?ごめん、俺なにか間違ってた? 」


「 そうじゃなくて…。ここに連れて来て下さったお礼のランチはあくまでも後日で、今日のは完売御礼ですので… 」



 見透かされた気がして思わず苦笑を浮かべる。

 いつもとは違う格好の最上さんは何だか少し大人びて見えた。



「 …っ…敦賀さん。どうして作業をしながらじっとこっちを見ているんですか 」


「 見ていたいから。生徒さん達も言っていたけど、今日の君はいつにも増して可愛いなって思って 」


「 いやあぁぁっ!!今まで何も言わなかったのに突然そんな笑顔で褒めないで下さい!照れちゃうじゃないですか! 」


「 ……くす。本当に照れてる。何も言わなかっただけで本当は朝会った時にそう思っていたんだ。

 今日の君、4歳年下のはずなのに2つ差が縮まったみたいに見える。大人っぽくてドキッとしたよ 」


「 え?それっていつもは子供っぽく見えているってことですか?…っていうか、23歳が25歳に見えるってこと?どっちにしろ嬉しくないです 」


「 あ?そうか、ごめん。でも俺が言ったのは悪い意味じゃないよ?えっと…どう言えばいいかな… 」


「 別にいいですけど…… 」


「 それ、いいって顔じゃないだろ…。

 でも、生徒さん達も驚いていたってことは、今日は特別な格好をしているってことだよな?どうして今日はそれ?…って、聞いていい? 」


「 ……逆に言うと、イベントでしか会ったことがない人はこれが私っていうイメージが付いていると思います。きっかけは寝不足顔を隠すためだったんです。仕事をしていた頃は睡眠時間を削って手芸をしていたので。

 しっかりお化粧をするからそれに見合うような恰好をしなくちゃって思って、通勤服を着てイベントに参加したら案外評判が良くて…。

 でもよく考えたらそうですよね。デパートのコスメフロアとかブティックに居るのはキレイな売り子さんじゃないですか。それに気付いてからイベントの時は意識して女子力高めを目指しているんです。……でも、そんなにギャップ凄いですか? 」


「 凄い…っていう表現が適当かどうかは判らないけど、俺はそういうの魅力的で良いと思うよ。色々な顔を見せて画家を虜にするモデルみたいで 」


「 ふふっ。敦賀さん、その言い方ってまるでギャラリストみたい 」


「 まるでってなんだ。俺はギャラリストだよ。君いまわざとそう言っただろう? 」


「 あはは。わかっちゃいました? 」



 話しながら片づけを済ませたスペース内で顔を見合わせて笑い合うと、周りの人達もそれにつられたのかクスクス笑い出した声が聞こえた。






 ⇒レース・ローズ◇15 に続く


上尾さん、飯塚さん、伊達さん、良子さん、本郷さん。

原作に出て来た人名を適当にピックアップしてみました(笑)



⇒The Lace Rose◇14・拍手

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