現代パラレル蓮キョ、お届けいたします。
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前話こちらです⇒レース・ローズ【1 ・2 ・3 ・4 ・5 ・6 ・7 ・8 ・9】
■ レース・ローズ ◇10 ■
以降、毎週のようにトローニーで最上さんと顔を合わせた。……と言いたい所だけど、実際に会うことが出来たのは翌週の一回のみだった。
俺がそれに甘んじたのは、次の約束が出来たから。
そして俺は、彼女が最優先だと言っていたイベントの一つである、9月第三土曜日の朝。最上さん宅のチャイムを躊躇なく鳴らした。
『 はい、どちら様ですか? 』
「 最上さん、おはよう 」
『 っっっ…敦賀さん?!嘘でしょ、約束より30分早いですよ!! 』
「 うん、ごめんね。遅れるよりは早い方が良いかと思って早めに出てきちゃったんだ 」
『 ああぁぁぁ~~~っ!! 』
ドアフォン越しに聞こえた最上さんの叫びがおかしくて、クスクス笑いながら右手の甲で口元を押さえた。最上さんは恐る恐る…という感じでドアを開けてくれた。
「 おはようございます… 」
「 …っ…おはよ。ごめんね、約束より早くて 」
「 う…。取り敢えず、上がって待っていて下さい… 」
「 うん、ありがとう。お邪魔します 」
促されて玄関に足を踏み入れると既に何個もの段ボールが近くに積み上げられていた。それらすべてがここひと月の間に制作された、ということだろう。
以前見た時と比べて部屋の中はだいぶすっきりとしていた。
どうぞ…と言われたけど、俺は靴を脱ごうとはしなかった。
「 最上さん。荷物はこれで全部?この段ボール 」
「 はい、そうです 」
「 そう。じゃあ俺、君が支度している間にコレ、車に運んじゃうから玄関のカギは閉めないでもらえる? 」
「 え?敦賀さん、それ私もやりますよ! 」
「 平気だよ。約束より30分も前に着いちゃって時間に余裕あるんだし。なにより体力は取っておきな。君はイベントの時に頑張ればいいよ 」
「 え~ん。すみません、本当にありがとうございます! 」
「 どういたしまして。これ、順番とか、重ね禁止とかある? 」
「 いえ、大丈夫です 」
「 OK。運ぶね 」
どうしてこうなったか…なんて、敢えて説明しなくても分かるだろう。
最上さんと昼食を食べる約束をした火曜日にこの約束を取り付けた。
仕事の後だったからその日の最上さんもやっぱり少し荷物が多くて、慌てた様子で彼女は俺の前に現れた。
「 ふわぁぁぁっ、ごめんなさい、敦賀さん、お待たせしました!少し遅くなってしまいました!……っ……っ… 」
「 お疲れ様、最上さん。そんな息を切らして走って来なくても良かったのに 」
「 だって、時間に遅れそうだったから… 」
「 それ。そもそも講師の君が生徒さんより早く出て来るなんて出来る訳ないんだから、遅れて来るかもなって想定済みだったよ。……それにしても、今日もまたずいぶんな大荷物だね 」
「 ……っ…すみません。今日、生徒さんお二人が都合により欠席になっていて、ロッカーに預けて来ようかとも思ったんですけど約束の時間に遅れそうだったから。…あ、でも、もしかしたら私と一緒に歩くの、敦賀さん、恥ずかしいですよね?私、今から駅のロッカーに荷物を預けて来ますので少しお待ちいただけますか!? 」
「 最上さん!ちょっと待って、ごめん、そういう風に聞こえたならごめん。いいよ、そんなの。
それは君の大切な仕事道具だろ。ロッカーになんていいって。一生懸命で良いなって、そう思っただけだよ、俺は。
……貸して。俺が持つ 」
「 あっ、でも… 」
「 俺には持たれたくない? 」
「 違います。そんなことは… 」
「 じゃあ持つよ。行こう 」
「 はい、ありがとうございます 」
「 椹さん、ごちそうさまでした。じゃあまた 」
「 おー。お疲れさん。いいな、ランチデートか。最上さん、旨いのおごって貰えよ 」
「 …っ!!すみません、何も注文せずに… 」
「 いいって、いいって。今度また来てくれりゃいいから 」
そこから向かったのは創作料理が美味しいと評判の店。
二人で落ち着いて話をしたかったから、敢えて個室を選んで予約していた。
席に着いてふぅ、と人心地を付いた彼女のそれが、なんだか俺に気を許してくれているみたいで嬉しかった。
「 君ってきっとイベントの時もそんな感じなんだろうな 」
「 えへへ。分かりますか。でも布製品はそれほど重たくないですからね。ただ嵩張るだけなので持ち歩くだけなら大したことないんですよ 」
頬杖をついた笑顔のまま、そんなことないだろう…と頭の中でツッコんだ。
俺の脳裏にいつぞやの彼女が甦る。
交差点ですれ違ったあの日、この子は両腕に大きな布袋を幾つも提げ、それだけじゃなく段ボールも抱えていたから前も見えなくなっていたはずなのだ。そのせいで俺とぶつかった。
たとえ重くはなくとも、大したことない…はずが無いはず。
「 でも、今回は宅配便を使う予定でいます 」
「 宅配便?荷物を会場に発送するってこと? 」
「 はい。本音を言うと、出来る事なら使いたくなかったんですけどね 」
「 なんで? 」
「 布小物はシワが付くと見栄えが悪くなってしまうんです。だから仕上げの時に必ずアイロンをかけています。でも今回のイベントは一日しか参加できないので、予定していた2日分の販売品を持って行こうと思って…。それで致し方なく宅配便を使うことにしたんですけど、ただでさえ点数が多いから、発送費用を抑えるためにはシワが付くのを覚悟の上で段ボールに詰め込まないと… 」
「 なるほど、そんな事情があるんだ 」
「 それだけじゃないです。荷物を発送しても必ず会場に着いているとは限らないのがまた嫌で… 」
「 え? 」
「 実は過去に一度、違う配送便トラックに間違えて乗せられてしまったことがあったんです。結局、販売できなかったことがあったから、それから自分で持って行くようになったんです。でも今回はしょうがないですからね。
もちろん、単価の高いものは自分で持って行くつもりですけど 」
この話をしている間中、俺はナイスだと思っていた。
もちろんそういう風になってくれればいい…と見越していたのだが、見事なまでに彼女は俺の思惑に答えてくれたのだ。
少しでも最上さんと親しくなりたい。
自分が目指す仕事のために彼女の才能を欲している俺としては、もちろんこれを言い出さないはずがなかった。
「 そういうことなら、最上さん。その日、俺が車を出してあげるよ 」
「 へ? 」
「 実はその日、俺もそのイベント会場に用があるんだ 」
「 え? 」
「 本当に偶然なんだけどね。その日だけじゃなくて正確には土日なんだけど、ギャラリストだけが参加できる販促会があるんだ。そこで10月の期間限定ギャラリーで販売する絵画を数点仕入れるつもりでいてね。契約アーティストたちのだけでは数が不足しているから 」
「 そうなんですか 」
「 そう。購入した大切な絵画を宅配便で発送して、もし傷が付いたら後悔してもしきれないだろ。だから自分の車で持ち帰るんだ。当然、行きの車内はカラ。だから君の荷物ぐらい軽く載せていけるよ 」
「 …でも、そんな… 」
「 遠慮しなくてもいいよ。お礼は……そうだな。来月の俺のギャラリーへの協力…でどう? 」
「 あー、やっぱりそういう…。じゃ、いいです。お断りします 」
「 くっ。言うと思った。即答なのがむしろ清々しいな。
嘘ウソ、冗談だよ。でも車で会場まで行くのはホント。お礼はね、君の都合が良い時に俺にお昼をおごって。今日は俺が出す約束だから今度 」
「 ……ランチで良いんですか?しかも私の都合が良い時で? 」
「 うん、いいよ、それで。どうする? 」
「 お願いします!!助かります! 」
「 了解。君の家まで迎えに行くから 」
「 敦賀さん。私、来週から火曜日もトローニーに行かずに教室が終わったら直帰します! 」
「 え? 」
「 こうなったらなるべく多く、一つでも多くの物を作りたいから。
敦賀さん、本当にありがとうございます!私、頑張りますので!! 」
「 ……うん、頑張って 」
俺としては毎週トローニーに行くつもりでいたんだけど、こういう流れになってしまって残念ながら彼女と会えたのはこの日だけになってしまった。
けれどその分、俺も頑張った。
その甲斐あって、期間限定ギャラリーを行う場所の契約は無事、完了していた。
⇒レース・ローズ◇11 に続く
違う配送便うんぬんは私の経験談です(笑)
ちなみにギャラリストだけの販促会というのは実在しています。
しかし原作並みの遅々とした進みだことぉ。
⇒The Lace Rose◇10・拍手
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