レース・ローズ ◇8 | 有限実践組-skipbeat-

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 お楽しみ頂けたら幸いです♡


 前話こちらです⇒レース・ローズ【17】


■ レース・ローズ ◇8 ■





「 ところでこれ、変わったおにぎりだね? 」


「 ふふっ。それ、おにぎらずって言うんです。夏場はとにかくダメになりやすいからそういう風にしました 」


「 おにぎらず?…ってなに? 」


「 おにぎりって本当は手で握って形を作るでしょう?だけどこれは、ラップの上にご飯を平らに置いて、上に具を乗せてから更にご飯を乗せてラップでくるんで作ったものなんです。握らないで作るからおにぎらず 」


「 へえ~…知らなかった 」



 彼女が作って来てくれたお弁当を二人でつつき合いながら会話を続けた。

 根が素直なのだろうな、と容易に想像がつくほど最上さんは俺の質問に何でも答えを返してくれた。



「 それで、君が行っているカルチャーセンターってどこにあるの? 」


「 トローニーの近くにあるビルの中なんです。徒歩10分…もかからないかな 」


「 講師の仕事は週2回って聞いたけど、今日が水曜日で明日と明後日が忙しいってことだから金曜日が当日ってことだよね。あとは何曜日? 」


「 火曜日なんです 」


「 9月のイベントは?いつ? 」


「 予定では第三土曜日と次の日曜日だったんですけど、日曜日は落選してしまって土曜日だけになっちゃって…。一日でどれだけ売れるかな 」


「 9月の第三土曜日か。……ん?最上さん、それってどこで? 」


「 有明にある…… 」


「 !!やっぱり?あの大きなイベント会場だ。なるほど、分かった 」


「 敦賀さん 」


「 うん? 」


「 本当にすみません。せっかくお声がけ頂いたのに… 」



 謝られてしまったけれど、俺自身はそれを受け入れたつもりはなかった。

 ただそのこと自体はいまは黙っておこうと思った。



「 ……うん、まぁ、人には色々な事情があるから 」


「 ところで、敦賀さんがギャラリストになったのっていつ頃なんですか?…って聞いてもいいですか? 」


「 構わないよ。俺は2年前。今年3年目なんだ 」


「 そうなんですか。その前は何をしていらしたんですか? 」


「 ……気になる? 」


「 ちょっとだけ。同じ自由業の先輩としてお話を伺いたいなって。自由業ってことは敦賀さんもお一人でお仕事しているってことですよね?それで敦賀さん、私より年上ですよね? 」


「 うん。俺たぶん君より4歳ぐらい上だと思う。今年27になった 」


「 あ、じゃあそうです。私いま23です 」


「 …ね、やっぱりそうだった 」



 そう言ってから少し間を置こうとわざと大きな唐揚げを頬張った。

 醤油の後にきいてきたピリ辛の刺激が口内で新鮮に拡がる。


 本当のことを話そうか、それとも誤魔化してしまおうか。そんな事を考えていた。



 自分の中でズキズキ疼くコンプレックスを飲み込むように、和柄の紙コップに注がれた麦茶を一気に飲み干した。



「 お口に合いますか? 」


「 ……うん、美味しいよ 」




 都内で一番画廊が集中している地域がどこなのかを知っているだろうか。

 それは最も地価が高い銀座だと言われていた。



 絵画が好きで、画廊巡りをしている人、というのがこの世にはいるけれど、たとえば自分が銀座の、とにかく画廊がたくさん固まっている一角に店を構えることが出来たとしたら、フリーの客がふらりと来店してくれて思わぬ売り上げが見込めたりする。



 けれど現実はそんなに甘いものじゃない。

 銀座に店を構えようとすれば家賃だけでも相当額になってしまう。



 ギャラリストになる前、それなりに金を用意して来たつもりでいたけれど、二年間の家賃に食いつぶされて終わりたくはなかったから、敢えて店を構えなかった。



 一年前、無理を承知で訪れた会社のロビーで、たまたまそこに現れた高園寺グループのお嬢さんに気に入られた。

 それが元となってある程度の利益を得ることは出来たけれど、それでもやはり念願の銀座で、月額家賃を年間通して支払えるほどの額には到底至らなかった。



 だから銀座は諦めようと思った。そこ以外にも画廊がまとまった地域はある。

 先日、出逢えたあの物件。そこに何としても入りたい。



 10月の期間限定ギャラリーで少しでも多くの利益を叩き出し、ギャラリストとして本格的なスタート地点に立ちたかった。

 それが今の自分の目標なのだ。



 ギャラリスト以外の仕事なんて、俺には絶対できないから。



「 最上さんは凄いよな…… 」


「 え? 」


「 君、さっき言っていただろ。もし手芸で食べていけなくなったら再就職すればいいのかも…って。高卒だからかなり厳しいかもって君は言ったけど、そんな事ないと俺は思う。

 社会人として働いていたことがあるなら雇用のチャンスはきっとあるよ。少なくとも俺よりずっと高い確率だと思う 」


「 ……? 」


「 俺、働いた事ないんだ 」


「 え? 」


「 社会人として世の中で働いたことが無い。

 俺、大学を出たあとは父の職場で働いていたんだ。職場…って言っても一般的な会社じゃないし、内容自体がかなり特殊。…っていうより、俺がやっていたアレを働いていたって断言していいのかどうかすら怪しいよ 」



 子供の頃の自分の夢は、今とは違う場所にあった。

 ギャラリストになるなんて考えたこともなかったけど、こうなった今、俺はこの世界で生き抜く努力をするより他に道は無いのだ。



 中堅組に入ってもおかしくない年齢の自分を社会人一年生として受け入れる会社があるとは思えないし、そもそも自分自身、芸術の世界から離れて会社勤めをするなんて、そんな自分はイヤだった。




「 え・え・ええぇぇぇ~~~~~????!!じゃ、敦賀さんってばいきなりギャラリスト就職したってことですか?うわぁぁぁっ、すごいです! 」


「 ……え? 」


「 凄いですよ、敦賀さん!!だって、芸術家を相手にするお仕事なんてそれだけでも特殊で凄いと思うのに、さらに絵画を販売したり、若い芸術家さんを育てたりするお仕事の3年目ってことでしょう?凄いです!!敦賀さんには商才と人望があるんですね!すごい…羨ましいです 」


「 ……っ… 」



 羨ましい?


 彼女があんまりキラキラした笑顔で俺を褒めたたえてくれるから、ジワリと涙が滲みそうになった。


 今まで歩んできた自分の軌跡を褒めてくれた人はいなかったから。



「 そんな褒めないでくれる?俺からすれば君の方が凄い人なんだから 」



 自分の手で世界を生み出せる彼女が羨ましい。俺には出来ないことだった。

 それだけじゃない。最上さんは空間演出能力まで持っているのだ。羨ましい以外の言葉が出ない。



「 私のなんて子供の頃からやって来たことだから全然凄くないですってば。

 敦賀さん。私、絵とか疎いから全然わからないんですけど、どういうのが良い絵なんですか?敦賀さんはどうやって見分けているんですか? 」


「 それ、難しい質問だな。同じギャラリストでも同じ反応をするとは限らないからね 」


「 そうなんですか? 」


「 そうだよ。それこそ芸術は好みで左右されるんだ。分かり易く言うと、たとえば油彩画、アクリル画、水彩画で描かれた同じ景色があったとするだろ。そのどれが好きかは見る人によって異なる。ギャラリストも同じなんだ。油彩が好きなギャラリストも居れば、それは好みじゃないってギャラリストもいる 」


「 ……なるほど、判る気がします。同じ形のポーチでも、花柄よりチェック柄の方が好きって言う人がいますからね 」


「 ぷふっ。そうそう、それ。そういうこと 」


「 えー…じゃあ世界的に有名な絵画っていうのは本当にすごいってことなんですねー 」


「 うん?どういうこと? 」


「 ほら、レオナルド・ダ・ヴィンチが描いたモナリザってあるじゃないですか。あれなんて誰が見てもモナリザは世界一の美しさって言うでしょう?それって凄いことですよね 」


「 ああ、うん。先入観と有名税のなせる業だね、それは。

 最上さん。モナリザについて面白い話をしてあげようか 」


「 え?なんですか? 」


「 世界一の美しさだと言われているモナリザへの称賛は、モデルに対してじゃないんだ 」


「 うそ?! 」


「 ホントだよ。あの絵はね、レオナルドがスフマートっていうボカシの技術を生み出して描いたもので、当時としては驚愕すべき技法だった 」


「 ボカシの技術? 」


「 そう。彼はフィレンツェ派の画家だったんだけど、レオナルドは自然のものに輪郭などない、と考えてその技法を生み出した。フィレンツェ派っていうのはね、もともとデッサン重視だった。だから輪郭線のない絵画は極めて革新的だったんだ 」


「 ええええ~?? 」


「 世界一の美しさ、という言葉はその技法を褒め称えたものだった。けれど絵に対して知識のない誰かが耳にすれば、それはモデルに対する称賛にしか聞こえなかったんだと思う。

 レオナルドが生み出した革新的技法で描かれた絵画モナリザが有名になればなるほど、その勘違いもまた広まって行ったんだろうね 」


「 すごい!知らなかったです。面白いです 」


「 そう?勘違いされている絵画なんて他にもまだ色々あるよ 」


「 それ、聞きたいです。教えてください 」


「 いいよ、あのね…… 」



 手伝えない…なんて即刻断られてしまったから、きっとこの子は絵画に興味が無いのだろう、と思っていた。

 だけど最上さんは楽しそうに俺の話に耳を傾けてくれた。



 それがとても嬉しくて、弁当が食べ終わってからも俺達はしばらく二人で話をしていた。






 ⇒レース・ローズ◇9 に続く


このお話ではまだ8月なんですよ…。次は9月に突入しているハズ。



⇒The Lace Rose◇8・拍手

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