レース・ローズ ◇5 | 有限実践組-skipbeat-

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 まだまだ序盤の現代パラレル蓮キョ、お届けいたします。

 お楽しみ頂けたら幸いです♡


 前話こちらです⇒レース・ローズ【14】


■ レース・ローズ ◇5 ■





 自由業であるギャラリストは特別な資格を有する必要がなく、誰でも始めることが出来る職業である。

 しかしながら、だからといって美術作品に関する知識が無くても出来る…というお気楽な商売では決してなかった。


 たとえギャラリーを持てたとしても、アーティストが手掛けた作品の良し悪しが判断できなければそもそも主軸がブレてしまう。その程度のギャラリーでは商売として成り立たないのだ。



 良し悪し…という表現をしたが、それは正しい言い方ではないかも知れない。

 なぜなら一つの作品を見たとき誰もがそれを良いと感じるとは限らないし、逆に誰もが悪いと判断するとも限らないからだ。



 興味深い、心惹かれる、この作品は素晴らしい。


 そう思える判断基準は個人が獲得して来た美意識によるものが大きく影響を及ぼす。そしてその根底となるものは多くの作品鑑賞をすることで培われるものなのだ。


 そのため大半のギャラリストは他の美術商のもとで数多の芸術作品に触れたのちに独立開業の道を歩む。従って知り合う同業者は自分よりずいぶん年上の人達ばかりだった。



 幸か不幸か物心がついた頃には既に自分の身近に芸術があった俺は、それらに触れあいながら相応の知識を身につけつつ成長してゆき、現在に至るまで芸術に対する審美眼を培うことが出来ていた。


 けれどまさか自分がギャラリストになるとは夢にも思っていなかった。

 なぜなら子供の頃の自分の夢は、今とは違う場所にあったから。




「 俺、10月に期間限定でアートギャラリーを開催するつもりでいるんだ。場所はもうすぐ決める予定。その会場の演出を君にしてもらいたいと思ったんだ 」


「 ええっ!?私に、ですか? いえいえ、そんなの無理です! 」


「 そう言わないで俺の話を……っ……あっ!! 」



 そこまで口にしたところで自分の携帯が振動した。

 次の行動予定時間が迫ったことを知らせるそれだった。



「 ああ、くそ……っ……。ごめん、俺から話し出したことなのに、俺もう行かないといけなかった 」


「 あ、そうですか。じゃあ、はい、どうぞ行ってください 」


「 …じゃなくて!そんなあからさまに助かったって顔をされると傷つく。最上さん、俺に時間をくれないかな?俺の話をちゃんと聞いて欲しいんだ 」


「 でも、でも私はただの手芸作家ですよ?ギャラリー会場の演出なんてとても無理です 」


「 違う!無理だって決めつけないで。とにかく話を聞いて欲しい。その上で判断して欲しいんだ。これ、俺の名刺!ごめん。俺の方から電話をすべきところだと思うけど、ビジネスとはいえ初対面の異性から連絡先を強引に聞き出すのはマナーに反すると思うからこれを渡しておく! 」


「 ……はい 」


「 今夜9時過ぎなら何時でも構わないから、そこの携帯ナンバーに電話して?かかってしまった通話料は俺があとで払うから。ごめん!慌ただしいけど俺、これで失礼するね 」


「 ……っ… 」



 俺の名刺に視線を落とした彼女の返事を待たずに俺は席から離れた。

 カウンターに近づいて椹さんに顔を向ける。



「 椹さん、ごちそうさまでした。俺、今日はこれで失礼します 」


「 おお、お疲れさん。これからどこ行くんだ? 」


「 ギャラリーの候補物件をこれから見回る予定なんです。椹さん、彼女の分のコーヒー代と俺の分、ツケておいてください。後で俺が必ず支払いますから 」


「 ……ふふん。そりゃ構わんが、さっそく目を付けたのか? 」


「 なに言っているんですか。それを見越して彼女を俺に紹介してくれたんでしょう? 」


「 ははは。勘ぐり過ぎだ。ツケの件、了解。頑張って来いよ 」


「 ありがとうございます。良い物件に巡り合えるよう、祈っていて下さい 」



 椹さんに一礼してからなんとなく、俺は最上さんへと視線を戻した。


 彼女は俺の名刺を手にしたまま、そこから俺を見つめている。それに気付いて表情を和らげた俺は、自分の左手を彼女に見せびらかす様に持ち上げた。



「 最上さん 」


「 はいっ?! 」


「 ボタン、本当に助かったよ。じゃ、俺、今夜、君からの電話を待っているから 」


「 ……っっ!! 」



 恥ずかしそうに肩を縮めて店内を見回した最上さんに手を振り、俺はカフェ・トローニーを後にした。






 最上さんから電話を貰えたのはもちろんその夜のこと。時間は10時53分だった。

 どうやら制作作業に夢中になり、こんな時間になってしまったらしかった。


 9時少し前から今か、今か、と悶々としながら待ち構えていた俺は、けれど通話を繋げた途端に聞こえて来たその声に一瞬で気持ちが凪いでしまった。反して彼女はひどく恐縮していた。



「 ごっ…ごめんなさい、こんな時間に!!5回コールでダメだったら切ろうと思って一応かけさせていただいたんですけど……寝ていませんでした? 」


「 いや、君からの電話をじっと待っていたから起きていたよ。それに、言っただろ?9時過ぎなら何時でも構わないって。だから、たとえ寝ていたとしても君からだって気付いてすぐ電話に出たと思う 」


「 ……っ!!あの!それで、お話って… 」


「 あ、うん。それなんだけど…… 」



 何を話そうか、どう説明しようか。

 待っている間に色々な考えを巡らせたけれど、ちょうど10時を過ぎた頃に一つの案が浮かんでいた。



「 もうこんな時間だし、やっぱり会って説明したいと思うんだ。電話だと伝わりにくいことがきっとあるし、そういう行き違いがないようにしたい。その上で検討して欲しいんだ。それで、君の都合が良ければ、だけど、明日、会ってもらえないかな?急で申し訳ないけど 」


「 明日…ですか?明日…… 」


「 あ!もちろん都合が悪いなら明後日でもしあさってでも構わないんだ。君の都合のいい日で 」


「 はい、そうするとやっぱり明日ってことになりそうです。実は私、カルチャーセンターで週2回教室を開いていて、その前日と当日は色々忙しいので明後日、しあさっては時間を取れないんです。だから… 」


「 すごい!君って生徒さんまで持っているんだ?すごいな!! 」


「 いえ、そういうの、褒めないで下さい。私はただ自分が出来ることを人に教えているだけですから 」


「 なんでそこで謙遜する?そんな必要ないよ。そうか。疑っていた訳じゃないけど、君は本当にプロの手芸作家さんなんだね 」


「 はい、そこは本当にプロの手芸作家なんですよ(笑) 」



 二人で意味なく笑い合って、翌日彼女と会う約束を取り付けた。



 何時がいいかと尋ねると午前中がいいと言われ、それならお昼ご飯をおごって彼女を懐柔してしまおう作戦をすんなり発動できる、と思った。



「 時間は10時30分ね。俺、車で行こうかな。待ち合わせはどこにしようか。君の家から近い駅とか? 」


「 あの、それなんですけど…… 」


「 うん?どこがいいとか、希望ある? 」


「 はい、あります! 」



 彼女が指定して来たのは近くに有名なホテルが幾つかある駅だった。

 一年前、紹介されたコレクターとの商談をそこでしたことを思い出す。


 たしかどこのホテルにも星が付いたレストランが入っていたような気がした。



「 OK。それでいいよ 」



 それに気付いた途端に思考が冷静になった。


 つまり、そういうつもりだってことだろう。

 だったらその方が話しやすい。そして話もまとめやすいだろうと思った。



 うんと高いものをご馳走して、首を縦に振ってくれるならそれで良し…と考えよう。


 自分にとって大切なのは、アートギャラリーが成功することであって、そのために彼女の演出センスが自分には必要なのだから。



「 良かった!ありがとうございます 」


「 こちらこそ。忙しいプロの手芸作家さんなのに、俺なんかのために時間を割いてもらうことになって申し訳ないね 」



 多少、皮肉めいたセリフが出たのは俺の中の醜い感情がそうさせたのだと思う。

 彼女がどういう意図でその場所を指定したのかは当日。彼女と顔を合わせて割とすぐ知ることになる。






 ⇒レース・ローズ◇6 に続く


おかしい、全然進んでいない(笑)



⇒The Lace Rose◇5・拍手

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