レース・ローズ ◇12 | 有限実践組-skipbeat-

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 前話こちらです↓

 レース・ローズ【11011】


■ レース・ローズ ◇12 ■





 こういうイベント会場での出会いなんてそれこそ一期一会。

 それを誰もが理解しているのか、こういう場所では人のタガが外れやすい。


 俺としてはこんな女だらけの中で見ず知らずの女性たちに囲まれたくはなかった。

 そんな事になるぐらいなら最上さんとそういう関係だと思われる方があとくされが無くて済む。


 でもよく考えたら自分勝手だったかな、とすぐに思い至った。



「 ……ごめん。君にとっては迷惑だったよな?あの二人とはまた会う機会があるんだろうし 」


「 確かにそうですけど、プライベートでの付き合いがある訳じゃないですから別に…。それに、敦賀さんみたいな人が彼氏とか、そういう風に勘違いされて嬉しいかもって感じですし 」


「 嘘だ。全然そういう顔付きじゃない 」


「 ……言った事は嘘じゃないですよ。特にいま付き合っている人もいませんから、迷惑とかそういう事は本当に無いんです 」



 うん。実はそう思っていた。最上さんに彼氏はいないんだろうなって。

 この前と今日、この子の家を2回見たけど、男の気配は感じなかった。



「 ただ、あとで何か言われるかなって思ったら、ちょっと気が重いかなーって 」


「 それ、俺とのことって事? 」


「 そうです。23才って世間では微妙な年ごろじゃないですか。どっちかって言うと本人にはその気がないのに周りがすぐその話題を持ち出すんですよね。

 愛華さんは特に好きみたいだから、もしかしたら敦賀さんにその手の話題で話しかけてきて却って迷惑かけちゃうかも… 」


「 その手の話題? 」


「 …っ…そっか。敦賀さんは男性だから、やっぱりちょっと違うのかな 」


「 なに?分かるように話して? 」


「 結婚ですよ。私、会社を辞める時に散々聞かれたんです。結婚するのかって。

 違います、手芸で頑張ってみようと思うんですって言ったら、男性の、特に年配の人ほど同じ事を言うんですよ。頑張れって応援してくれたあと、それでダメだったら結婚しちゃえばいいよーって。……ちょっと失礼じゃないですか?人の決心を 」


「 なるほど。君に結婚願望は無いんだ? 」


「 ない訳じゃないです。カッコいい人がいたらやっぱり目を引かれちゃうし、声を掛けられたら嬉しいって思っちゃうし、仲良さそうなリア充を見て羨ましいって思ったことだってあります。

 でも、手芸で頑張ろうって決心して5年勤めた会社を退職したんです。この世界に入ったのは確かに若気の至りだったかもしれないけど、でもたとえこの道がダメでも、結婚に逃げちゃえばいいなんて考えた事、私は一度だってないのに 」


「 だね。君、俺に言っていたし。ダメだったらまた就職しなきゃ、って 」


「 ……会社を辞めてから高校の時に仲が良かった子に誘われて、何度か合コンに参加しました。そのたびに相手の男の子からそれと似たような事を言われて、そんな風に思われるならもういいやって思って、しばらく一人で頑張ろうって決めたことを、あの二人には話していたから… 」



 自然と自分の気持ちが和んだ。

 最上さんが抱いた憤りが俺には判る。


 理由は少し違うけど、俺が女性を遠ざけたいと思っているのも同じだ。


 自分が思う様に仕事が出来なくなるのが俺はイヤなのだ。

 自分が頑張ろうとしている世界を否定されたくない。


 ましてや俺達はいま、懸命に自分を奮い立たせて頑張っている最中なのだ。



「 最上さん。それ、すごく判る。いいよ、分かった。

 もし話しかけられてその手をことを聞かれても、適当に流しておくことにするから。だから君もそうすればいい。俺の事は心配しなくていいから 」



 目指す世界はこんなにも違うのに、最上さんとは共通項が多くてとにかく信じられないほど気持ちが分かる。



 真剣なんだ。

 俺達は真剣なんだよ。


 この想いがいつか、世間の評価に繋がってくれることを俺達は夢見ているのだ。



「 …ほんとに? 」


「 本当だよ。元はと言えば俺がお願いしちゃったんだしね。…で、君の本気を感じた所で本格的に手を動かそう。開場時間まであとどのくらい? 」


「 一時間切ってますけど…でもまぁ、どう展示するかは決めてあるので、焦らなくても平気ですよ 」


「 でも2日分あるんだろう?段ボール6箱分の展示はさすがに無理だろう 」


「 あはは。もちろんそうですね。でもこの一箱は飾りつけなんです。実際に販売する品物は5箱分。売れたら都度補充していく方法を取ります。…で、最初の飾りつけはこれ!季節先取りで秋を呼び込むテーブルクロス!! 」


「 貸して、俺がやる。……ん?最上さん、これってもしかしたら手作り? 」


「 もしかしなくても手作りですよ。私、手芸作家ですから♪

 あ、敦賀さん、違います。ポケットがある方を手前にして下さい 」


「 え?でもこのポケットに商品を入れて販売するんじゃないの? 」


「 違います。これは販売した商品の値札を入れておくためのポケットなんですよ 」


「 値札…ってこれ? 」


「 はい。私はひも付きの荷札を値札として商品に付けているんですけど… 」


「 うん?これ、商品名と一緒に単価が2行書いてあるけど? 」


「 それ、わざとです。上に書いてある単価だけを残して、下の商品名と単価の部分を切ってから手渡すんです。そうするとこれが幾らの商品だったのか、あとでも確認してもらえるかなって思って。…で、千切った値札をこのポケットに入れておいて、イベント終了後に何がどれだけ売れたのかをチェックするんです 」


「 つまり、売り上げを確認しながら盗難被害の有無も確認できるってことか 」


「 わ、鋭い!実はこれを導入したきっかけがそれでした。さすがプロですね、敦賀さん。じゃ、設置していきますね。スタンドを立てて、持ち手が長いカバンはスタンドに掛けて、こっちには棚を作ってポーチやミニバッグ、バッグinバッグを置いていって… 」



 手際よく商品を配置していく最上さんの傍らで、俺も指示通りに商品を置いていきながら色々な質問を彼女に投げた。


 販売したものはホームセンターで購入して来た紙袋に入れて渡す、とか。

 その用意した大小の紙袋には、ものを作るには至らないサイズになってしまった端切れ布を貼り付けてオリジナリティを出したんだ、とか。


 高校生の時から参加しているだけあって、彼女の手際は見事なもの。

 あっという間に展示された京子ファクトリーのスペースは、彼女が宣言した通り、秋をイメージできる彩に満ち溢れた。



「 …不思議だな。一つ一つはそんなでもないのに、全体的に見ると秋っぽい。なんでだ? 」


「 色ですよ 」


「 色? 」


「 はい。特に日本は四季の移ろいがあるから、日本人は色で季節を敏感に感じ取るんです。デパートとかに行くととても参考になるんですよ 」


「 なるほど、色…… 」


「 深みがあって落ち着きのある配色とか、茶色系やベージュ系をメインにすると秋のカラーになるんです。柔らかいブラウンとか、オレンジ系のウォームカラーとかもそうですね。

 統一感があるスペースは人目を引きやすいし、シーズン感を出すと流行に敏感な人の気も引けます。とにかく人が来てくれなきゃ買ってもらう事も出来ませんからね 」


「 …すごいな 」



 最上さんが持つセンスが凄い、と思う。

 それを理解してやっている所がまたすごい。


 会場を見回してみると、彼女のようにテーマがあると思われるスペースはあちこちに存在している。けれど最上さんのように季節感を意識している様には見えなかった。どちらかというと個性重視という所か。


 最上さんが一番いい、と俺が思うのは、顔見知りのえこひいきってやつだろうか。



「 敦賀さん、ごめんなさい。写真を撮るのでスペースの外に出てもらっても良いですか? 」


「 写真を撮るの?ひょっとしたらいつも撮ってる? 」


「 これをやり始めたのは去年からです。ブログに載せるために撮っています 」


「 ブログなんてやってるんだ? 」


「 はい。手芸品は季節感を意識して作っているからシーズンを外れてしまうと売れ残ってしまうんです。それで通販をやり始めたんですけど、ブログは通販を利用して下さる方に向けて立ち上げたものだからそれほど頻繁には更新してなくて…。

 でも遠方の方とか、いつも利用して下さる方もいて、正直助かっています 」


「 そうなんだ。そう言えばネット販売のことも聞いていたな。

 そうだ、最上さん、スペースの中に立ちな。せっかくだから俺が君込みで撮ってあげるよ 」


「 いいえっ!お断りします。顔出しなんて冗談じゃない!! 」


「 あ、顔出しNGなんだ。そうだよな。俺だって嫌だと思うんだ。所で話し変わるけど、今日の売り上げ目標とかってあるの? 」


「 あります!ズバリ、16万3千円です!! 」


「 なにその具体的な数字… 」


「 家賃の一ヶ月分です。ちなみに2日間参加できる場合の一日の売り上げ目標は8万1500円です。達成したことは一度もありませんけどね 」


「 なるほど。家賃一ヶ月分か。分かり易くていいな。…そうなんだ。あそこの家、16万なんだ。俺んちとあんまり変わらないんだな。そりゃそうか。同じ1DKだもんな 」


「 そうなんですか?敦賀さんちはちなみに… 」


「 ウチは17万2千円 」


「 あ、それ!共益費が2千円ってことですよね? 」


「 そう。君んちの方が千円高いね 」


「 本当です。でも17万は無理だからいいです、許します 」


「 ふっ。許すってなんだ 」


「 だって、一万円って大きいですよ! 」



 そんなことを言っている間に一時間が過ぎ去った。

 即売会の開催を知らせるアナウンスが入った途端に最上さんは慌てて俺の背中を押したけど、俺の方はそもそも出て行くつもりがなかった。



「 敦賀さん、なにのんびりしているんですか!焦らないと!!このままだと暫くここから出ていけなくなっちゃいますよ?! 」


「 いいよ。そのつもりで付いてきたんだし 」


「 ええぇっ? 」


「 言っただろ。どこか抜けている君が心配だって。それに、君一人なんだろ。お昼とかトイレ休憩とか、いつもどうしてたの? 」


「 …スペース全体に布をかけて、只今休憩中の札を出して… 」


「 そう。たぶん、過去にあった盗難ってその時だろ?俺がいた方が絶対いいよ。

 売上目標16万3千円に俺がどれだけ貢献できるかは分からないけど、ひと通り君からレクチャーを受けたし、手伝いぐらい出来ると思う 」


「 やだ!そんな恩、買いたくないです!! 」


「 なんで。買った方が君の為になると思うけど?そもそもこれ、もし売れ残ったらどうやって持ち帰るつもり?君、それも考えていなかっただろう? 」


「 …それは…宅配便で… 」


「 シワが付くし、余計な出費をしたくないんだろ。帰りもちゃんと俺の車に乗せて行ってあげるから 」


「 待ってください。じゃあ敦賀さんはご自分のお仕事をどうするつもりなんですか?だって今日、買い付けをするって… 」


「 それなんだけど…… 」



 最上さんのイベント情報をチェックしたとき、この即売会よりギャラリストの販促会の方が終了時間が遅いこともチェック済み。


 だから俺は始めから、この子を巻き込むつもりだった。






 ⇒レース・ローズ◇13 に続く


そうです。そのつもりだったのです。

そして一葉は二人を恋の渦に巻き込む気(笑)



⇒The Lace Rose◇12・拍手

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