レース・ローズ ◇18 | 有限実践組-skipbeat-

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 前話こちらです↓ ※色が違うのはキョコside

 レース・ローズ【1 10 11 12 1314151617  


■ レース・ローズ ◇18 ■





「 わあぁぁぁ…… 」


 ギャラリストオンリーの会場に入った途端、最上さんは目を丸くしながら興味深そうに周囲を見渡した。



「 すごいっ!!こっちのイベントの方がハンドメイド即売会より規模が大きい!!びっくり 」


「 イベントって…。最上さん、違うから。そもそもこれ、イベントじゃないから 」


「 え?イベントじゃないんですか?だってギャラリストオンリーの販促会なんですよね? 」


「 販促会…っていう名目なんだけど、これって昔からある交換会なんだ 」


「 交換会ですか? 」


「 そう。ギャラリスト同士で絵画を行き来させるわけだから交換会。ただ、交換品が代金と絵画だから販促会という名目になっているんだけどね。

 ちなみにギャラリストが絵画を入手するにはいくつかの方法があって、まず一つ目は、作家から直接譲ってもらう 」


「 そうですね。うん、わかります 」


「 二つ目は、オークションに出品されているものを落札する 」


「 おおっ。なんだか遠い響きです 」


「 三つめは、アートフェアに足を運んで絵画を購入する 」


「 えぇぇ。それはお客さんの一人として買って来るってことですか? 」


「 そう。一般のお客さんに交じって普通の客としてね。…とはいえ、身分を隠すようなことはしないよ。アートフェアは美術商同士の売買の場でもあるから。そして四つ目がこの販促会 」


「 敦賀さん。美術商ってギャラリストの和名? 」


「 あ、違うんだ。あのね、美術品を扱う人の総称を美術商って言うんだ。ギャラリストっていうのは専門に扱う人間のことで、俺は絵画専門のギャラリスト。同じように彫刻だけを扱う人も呼び方はギャラリストなんだ。…で、その両方を扱う人のことをブローカーって言って、それら全部をひっくるめて美術商 」


「 へぇぇぇ?!そうなんですか。知らなかった、おもしろ~い 」


「 ふっ…面白い?俺から言わせれば君の方が面白いけど 」


「 私が?どこがですか? 」


「 いや、面白いよ。俺のお願いを初めから断るつもりだったって聞いたときは、絵画なんてこれっぽっちも興味ないんだろうなって思っていたけど、その割には君、俺の話を楽しそうに聞いてくれるし、今だってこうして耳を傾けてくれるし? 」


「 ……っ…正直に言うと、絵画自体には今もあんまり興味ないです 」


「 ぷっ。正直 」


「 すみません。でも、自分が知らない世界を覗けるのは面白いですよ。しかも今はその道のプロのナビゲーション付き!安心して堪能出来てお得感満載です 」


「 プロのナビゲーションって俺か 」


「 はい、もちろん 」


「 それでお得な気分になってもらえるならいいか。それより、取り敢えず歩こう。君の感覚で構わないから俺に色んなことを教えてくれる? 」


「 はい!でもその前に色々質問しちゃうかも 」


「 もちろん。なんでも聞いてください。俺はプロのナビゲーションですから 」


「 あはは。では遠慮なく 」



 そう言って会場を歩き始めてすぐに同業者から声を掛けられ、そのたびに俺たちは少々の足止めを食らった。

 おそらく10分と歩かないうちに20人ほどと軽く言葉を交わしたと思う。


 俺の隣でその様子を見ていた最上さんが、俺を見上げてほほ笑んだ。



「 敦賀さんって人気者なんですね 」


「 人気者?!違う、違う。俺が若造だからだよ。だから声を掛けてくれるんだ 」


「 若いから?へぇぇ~~。確かに会場を見回すと年上の人が圧倒的に多いですけど。でも私、ギャラリストって聞くともう敦賀さんの顔がポンって頭に浮かんできちゃいますよ 」


「 それは、君が初めて知り合ったギャラリストが俺だからだろ。けど一般的にはギャラリストっていうと中高年をイメージするのが普通だよ 」


「 ……え?ってことは、もしかしたら敦賀さんぐらいの年齢のギャラリストって珍しいんですか? 」


「 そうだね。少なくともこの会場で、俺と年が近くて独立しているギャラリストって居ないと思う。そもそも芸術品を見極める目を養うにはそれなりの年月が必要なんだ……って、やめよう!なんか自慢しているみたいで嫌だ 」


「 そんなことないのに 」


「 いいんだよ、俺の話は。それよりもほら、絵を見て色々俺に教えて 」


「 その前に、さっき話が途中でしたよね?それでこの販促会って? 」


「 あ、そっか。ごめん 」



 ところで昼食時、俺はこの会場に入れるのはギャラリストだけに限られると高園寺さんに言ったけれど、そもそもギャラリストには資格取得の必要がなく、従って身分を証明するものが何もない。


 そんな状況でどうやって会場側がギャラリストの有無を見分けているのかというと、答えは簡単なのだ。この販促会に参加できるのは、正確にはギャラリストではなく、美術商の協同組合に加盟している者なのだ。



 さっき最上さんに説明したように、美術商が絵画を入手する方法は大きく4つある。

 中でもこの交換会は、自分のように経験が浅いギャラリストにとっては非常にありがたいシステムを持っていた。



 それは、美術商に対する金融機能があること。



 この販促会は、美術商同士が集まり、美術品を競りにかけて売買する『交換会』と呼ばれている。イメージとしては魚市場や青果市場など、同業者同士の市場に相当していると考えればいいと思う。


 通常、売買が成立すると、売主と買主の間で金品の受け渡しが発生する。

 もちろんこの販促会でもそうなるが、この会場内で売買が成立した場合、売主の美術商には即座に代金が支払われるが、買った美術商は数か月先まで支払いを延ばすことが出来るのだ。


 実は協同組合のメンバーに承認された者は、出資金を支払うとともに交換会での連帯保証人となる仕組みになっていて、買主が支払いを先延ばしにする間の建て替えは、会員の出資金で賄われていた。

 この形態は日本独自のものだと言われている。



 オークションとは異なり、公開の場で値段が決まる訳ではないため、時に閉鎖性が指摘されることもあるが、経営体質が不安定で、なにより銀行融資が受けられない美術商が相互に助け合うことを目的としていることから、多くの美術商がこの組合に長く加盟していた。



 歩きながら俺の話に耳を傾けていた最上さんは、俺の真正面に立ち、両手の平を胸の前で景気よく弾かせた。



「 …へぇ、すごい!すごいシステムがあるんですね! 」


「 君の知らない世界だろう? 」


「 はい、想像したことすらない世界です 」



 加盟金は決して安くはなかった。けれど加盟して良かったと思っている。


 システム自体の魅力に加え、同業者の知り合いが増えることで美術界の動向情報も得られるし、何より廃業する人から顧客や作家を紹介してもらえるのはとてもありがたいと思った。



「 ……いいなぁ。そうなんですね、ギャラリストって…。ハンドメイドの世界にもそういうのがあったらいいのに。金具を安く譲ってもらえるとか、生地にオリジナリティを出せるとか… 」


「 そうだね。そういえばそういうの、ハンドメイドでは無いか 」


「 無いですよ。いいな、敦賀さん。敦賀さんのお仕事は一人のようで、でも本当はたくさんの仲間がいるんですね 」


「 いや、個人事業主であることに変わりはないよ。ただ同じ立場の人間が少なからずいるってだけで…。それより最上さん。理解してもらえた所でそろそろ本腰を入れて… 」


「 蓮!!! 」


 絵を見ようか…と促そうとしたのに、またどこかから声が掛かった。


 正直、内心はうんざりしていたけど無視することも出来なかった。



 なぜならこの業界で俺を蓮と呼ぶのはあの人しかいないから。



 振り向くと案の定、そこには社さんがいた。






 ⇒レース・ローズ◇19 に続く


社さんが登場してくれてやっと主要人物が出揃いました。おっそ……。


ちなみにですが、お話を聞かせてくれた近所の画廊さん。さすがに協同組合の参加費用までは教えてくれませんでした。なので蓮くんが「安くなかった」って言っているのは一葉の想像です。


看板継いでくれるなら教えるよって言われて、「じゃ結構です」と即答して笑われてしまった(笑)

でも冗談だって分かっていても首を縦にはふれないですよねー。それに、知らなくてもお話書くのに支障ないしー。あはは。



⇒The Lace Rose◇18・拍手

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