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前話こちらです↓ ※色が違うのはキョコside
レース・ローズ【1 ・2 ・3 ・4 ・5 ・6 ・7 ・8 ・9 ・10 ・11 ・12 ・13 ・14 ・15 ・16】
■ レース・ローズ ◇17 ■
その女性の登場はあまりにも突然だった。もしかしたら敦賀さんにとってもそれは予想外の出来事だったのかもしれない。
「 敦賀さん!!よかった、ここにいたんですね。もう探しまくっちゃいました! 」
声をかけられた瞬間に敦賀さんは笑顔を失くした。
そんな彼の様子に気づかなかったのか、その人は私たちに近づきながらなおも言葉を紡いだ。
「 本当に良かったです。携帯も通じませんでしたし、あなたに会えないままだったらどうしようかと思っていたんです 」
無表情の敦賀さんは彼女を見ようとはせず、それどころか身動きもせずに視線を私に固定している。
正直に言うとこの時の敦賀さんを私は少し怖いと思った。
もともと私は敦賀さんのようなイケメンが少々苦手だったのだ。
なぜかというと、どんなに心がけても自然と緊張してしまうから。一緒にいると気疲れするのが嫌だったのだ。イケメンは私にとって鑑賞対象でしかなかった。
だけど初めて言葉を交わしたあの日、私より先に緊張していたのは敦賀さんの方だった。
『 了解です。じゃあ献血の要領でテーブルに手を乗せちゃって、こちらに向かって手を伸ばして下さい 』
『 はい。……っ?! 』
『 ダメ!そのまま動かないで!すぐ終わりますから 』
慌てて手を引っ込めようとする彼の左腕をぎゅっと押さえた。そのとき気づいてしまったのだ。敦賀さんの腕が酷くこわばっていたことに。
もちろん初対面の私が針を持っていたのだからそうなってもおかしくない。だけど敦賀さんの緊張感に気づいた途端、私の心は和んだ。
『 ……あの、もしかして凄く緊張されています? 』
本音を言うとこのときちょっと嬉しかった。
私みたいなのを前に緊張してくれる人がいるなんて思ってもいなかったし、それが敦賀さんのような男性だったことがすごく嬉しかったのだ。
これ以降、敦賀さんとは何度も顔を合わせたけれど、このことがあったからなのか敦賀さんを前に私が緊張したことは一度もなかった。
……いえ。一度も無い、は少し言い過ぎだったかも。
お気に入りのあの福利厚生施設で、険しい目つきになった敦賀さんを前にしたときはさすがに緊張感が高まったから。
だけどそれはいっときの事だった。敦賀さんは努めて柔和な態度で接してくれたし、私の話もちゃんと聞いてくれた。
そのあと笑顔を見せてくれて、いろんな話をしてくれた。敦賀さんはいつも優しい。それが笑顔に出てると思う。
だから敦賀さんのそばにいても私は私のままでいられたのだ。
けれど本来の私は敦賀さんみたいに整った顔の人から真顔で見つめられたら、どうしてか責められているような気がして臆してしまう。
ましてやさっきまで朗らかに頬を緩めてくれていたのだ。急に表情をなくして冷めた視線で私を見つめてきたときはやっぱり息苦しさを覚えた。
だけど私は知っていた。敦賀さんがこんな表情になったのは自分のせいではないことを。
だから私は勇気を出してテーブル越しに前かがみになり、目線があったままの敦賀さんに近づいて抑え気味に話しかけた。
「 敦賀さん。あの、呼ばれていますよ? 」
「 ……ん……聞こえてる…… 」
そう答えてくれた敦賀さんはやっと私から顔を背け、感情を殺した顔つきのままその女性に視線を向けた。
「 よかった、やっぱり敦賀さんだったわ。お食事中にごめんなさい、私… 」
「 何か用? 」
「 もちろんです。今日、敦賀さんが参加なさる販促会にぜひ私もご一緒させていただきたいと思って… 」
「 君も?なぜ? 」
「 なぜって……。私、少しでも敦賀さんのお役に立ちたいと思って。敦賀さん、今度開催する期間限定ギャラリーで販売する絵画を仕入れる必要があるんですよね?少しでも高く売れるものをと思っているんじゃないですか?そう考えて私… 」
「 悪いけど、会場に入れるのはギャラリストだけなんだ。無関係の人は入れない 」
「 もちろん知っています。でも確かこの販促会って…… 」
「 用事がそれだけならもういい? 」
「 え? 」
「 高園寺さん。俺いまプライベートなんだ。見てわからない?いま俺、彼女と一緒なんだよ 」
「 …っ…! 」
「 確かに俺は以前君の世話になった。そのことには感謝している。でも俺にとって君はお客様の一人であって、それ以外の何者でもないから 」
「 どうしてですか、敦賀さん。今度の期間限定ギャラリーだって私に言ってくれたらいくらだって場所を提供できたんですよ。まだあなたに紹介していない知り合いだってたくさんいるし、その人たちが好む絵画だって知っています。大きく利益を上げたいなら私の手を取ったほうが絶対あなたのためになるのに!! 」
「 なにが自分のためになるかは俺自身で考える。誰の指図も受けない 」
「 出資は?出資はどうですか?!敦賀さんはギャラリーが欲しいから、だから色々な物件をいま見て回っているんでしょう?だったら私と共同経営しましょうよ!もしそうなっても私は一切口を挟みませんから。それだったら… 」
ここで敦賀さんはとても深いため息を吐いた。
「 君のお父上は立派な企業家だと俺は思っているけど、もしかしたら娘さんにはそういう教育をなされていないのかな 」
「 なに…… 」
「 そもそもね、俺のような不特定多数のお客様を相手にする商売の場合、仕事上で知り合った相手を街中で見かけても基本的には声をかけない。
挨拶をすることがもしあるとすれば、それはよほど親しい間柄になっているか、もしくは相手が一人の時に限られる。今の俺のように同伴者がいる場合には声をかけないのがマナーなんだ。
もし俺が誰かと手を組むことがあるとしたら、その時はそういう事を知っている人を俺は選ぶ 」
「 ……っ!!いいんですか、敦賀さん、そんなこと言って。あとできっと後悔しますよ 」
「 前にも言ったけど君の申し出を受ける気はない。……もういい?忘れているかもしれないけど俺いまプライベートなんだ 」
敦賀さんの表情は終始厳しいものだった。
高園寺さんと呼ばれた女性はそれによく耐えられたと思う。
「 ……わかりました。今日は失礼します 」
長い髪をなびかせ、踵を返して遠ざかってゆくその女性の後姿を私はなんとなく見つめていた。
ごめん、と謝罪の言葉が聞こえて敦賀さんに視線を戻すと、彼の顔には表情が戻っていた。
「 ごめん、最上さん。居心地悪かったよな 」
「 あ、はは。……びっくりはしましたけど、大丈夫でしたよ。それより、いいんですか?お客様だったんでしょう? 」
「 いいんだ。俺にとってはありがたい客ではなかったし 」
「 そ、なんですか…… 」
「 うん。それより、君は特別だから! 」
「 ……え? 」
「 君は違うから疑わないで欲しい 」
「 え?え? 」
「 君はギャラリストではないけど、俺と一緒なら君は会場に入れるんだ。だから… 」
「 あ……ああ、なんだ、そのこと。はい、分かりました…っていうか、心配していませんでしたけどね 」
「 そう?だったらいいけど……。でもごめんね 」
「 なんで謝るんですか。それより早く食べちゃいましょう!敦賀さんのお仕事はこれからなんですから 」
「 うん、ありがとう 」
すっかり冷めてしまったハンバーグを口に運びながら、私はさっきの高園寺さんのことを思い出していた。
……あの人が持っていたの、先日発売になったばかりの超有名な高級ブランドの新作バッグだった。
私の記憶が正しければ、たしか5~60万ぐらいしたはず。
かたや自分は手作りのバッグで、材料費だけなら五千円前後というところ。
比較しても意味のないことだと分かっていながら、改めて自分は庶民だな…と思った。
⇒レース・ローズ◇18 に続く
あくまでも私の中のことで恐縮ですが、高園寺絵梨花さんはお嬢様…というより、成り上がりの一人娘というイメージ。
原作5巻での彼女のセリフを見ても、マリアちゃんのような言葉遣いは一つもなく、いわゆる高貴さが感じられないそのままの彼女で採用しております。
⇒The Lace Rose◇17・拍手
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