現代パラレル蓮キョ、お届けいたします。
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前話こちらです↓ ※色が違うのはキョコside
レース・ローズ【1 ・2 ・3 ・4 ・5 ・6 ・7 ・8 ・9 ・10 ・11 ・12 ・13 ・14 ・15 ・16 ・17 ・18 ・19 ・20 ・21】
■ レース・ローズ ◇22 ■
「 最上さん、こっちだよ!! 」
LMEデパート従業員専用出入口付近に佇んでいた俺は、彼女を見つけて声を張り上げた。
本日は金曜日。現在時刻は夕方6時少し前。
荷物の多さから察するに、最上さんはカルチャーセンターでの講師の仕事を終えたあと、直行でここに来てくれたらしかった。
「 お待たせしてすみませんでした。それで、お待たせしたのになんですけど、敦賀さん、こんな所にいらっしゃって平気なんですか? 」
「 うん。会場は主にデパート側で設置してくれているから 」
「 …っ……あ、やっぱり…… 」
「 うん? 」
「 いいえ、何でもないんです 」
「 それで?チラシが欲しいってことだったっけ? 」
「 はい、そうなんです。実は、火曜日と今日、カルチャーセンターの教室で予想通りの恋バナになりまして…。もう一度敦賀さんの顔が見たいわーなんて話になったものですから、私としては敦賀さんの宣伝になればいいと考えた上で… 」
チラシで良ければありますよ…と、会話の流れで最上さんは、先日俺がぐしゃぐしゃにしたチラシを生徒さんに見せたらしい。
そしたら…。
「 どうしてこんなにぐしゃぐしゃなのって叱られまして(笑) 」
「 それで、綺麗なチラシを持ってきてって話になったんだ? 」
「 はい、そうなんです。…で、どうせもらって来るなら少し多めにねって言われたんです。どうやら生徒さんたち、お友達にも配ろうとしているみたいで、もしかしたらギャラリー期間中にうちの生徒さんたちがお邪魔することになるかも。それで、多めに頂けたらと思うのですけど、大丈夫でしょうか? 」
「 それは、それは…。最上先生のイベントに続いて彼氏の布教活動にまでご尽力下さりありがとうございます…って、生徒さんたちに伝えておいて 」
「 あはははは。そんなこと言ったら本当に敦賀さん、私の彼氏になっちゃいますよ 」
「 ……チラシはイベント会場に置いてあるんだ。まだ設営中なんだけど、ごめん、取りに来てもらえる? 」
「 はい! 」
「 ありがとう。こっちから入って 」
再び、はい…と笑顔を向けてくれた彼女を導いた。
最上さんは先日のイベントより少しラフな格好をしていて、たぶんこれが普段の彼女なのだろうと思った。
「 もう間もなく敦賀さんの正念場がやってくるんですね。敦賀さん、2週間、頑張ってくださいね! 」
「 ありがとう。全力を尽くす 」
「 絵は?もう飾ってあるんですか? 」
「 まだだよ。前日の夜に搬入して展示することになると思う。あとは売れ具合いを見て都度補充していく形を取るんだ 」
期間限定ギャラリーの運営についてはこれと言った決まりはなく、つまりギャラリストによって対応は異なる。
しかし基本的な流れは同じだろう。
今回、俺はデパートの催事場を使うことから、販売に至った作品はその場で手渡しを原則とし、スペースの無駄を省くことに決めていた。
作品売却マージンは作家にスペースを貸すだけなら手数料は無しが基本。しかし積極的に売る場合は5割を取る場合もある。
…が、通常なら2割程度がセオリーだ。
絵画の展示方法としてはワイヤー吊りが基本だが、そうするには壁に釘を打つ必要があるため、大抵の貸店舗オーナーは表情を苦める。
けれどこの期間限定ギャラリーが成功したあと貸店舗契約を結ぶ予定のオーナーさんもLMEデパートも、それを難なく受け入れてくれていた。
もちろん、契約解除の時には原状復帰をするのだが。
本当に、最上さんと会ってからついているよな、と改めて思った。
「 ここだよ、会場になるのは 」
「 わぁ、もうだいたい出来上がっているんですね 」
「 そう。一般開場は来週から2週間なんだけど、実はありがたいことにその前の一週間をプレオープンとすることになっていてね、特別にLMEデパートの上得意様だけが入場できることになっているんだ。だから搬入は今夜ってこと 」
「 そうなんですか。だから高級志向設置なんですね。そうよね、LMEデパートだものね。あ、チラシ!敦賀さん、このぐらい持って行っても平気ですか? 」
「 最上さん、見ただけで高級志向設置って、どうして分かる? 」
「 それは、ところどころに置いてある置物で?だって壺とか陶器とか飾り台とか、明らかに高級そうじゃないですか。…ってことは、お邪魔する日は荷物を置いて来なくちゃまず無理ね。人でごった返していたら意図せず荷物をひっかけちゃいそうで怖いもの 」
「 …っ!! 」
言われて初めてそうかも…と思った。
買い物客をターゲットにするってことは、つまり荷物を持っている可能性があるということだ。
上得意客に限ってはそうじゃないだろうけれど。
「 敦賀さん、このチラシ、いいですか? 」
「 だとしたら… 」
「 はい? 」
「 もし今の君だったら、どんな風だったら入ってみようって気分になる? 」
「 え?……そうですね。……えっと、気さくな感じなら? 」
「 気さく…って?もっと具体的に何かない? 」
「 具体的に、ですか。えーっとですね、例えば、大きな壺や立派な花瓶の代わりにビッグなぬいぐるみが置いてあったらいいかなって。あっ、思いついた!それで、その子が絵の説明文を持っていたら微笑ましくていいと思います。絶対覗き込んで読んじゃいますよ。ほら、先日敦賀さんが私に教えてくれたのみたいなのとか 」
「 なに?具体的に 」
「 だから、版画技法のこととか、現代アートについてとか。あと、作家さんについてとか? 」
なんだ、それ。
すごくいいアイディアかもしれない。
「 わぉ、我ながらグッドアイデアかも。だってほら。敦賀さんのお仕事は、絵画をより多くの人に親しまれるようにすること…でしょう? 」
「 …そう。まさしくその通り 」
このとき、俺は本当にびっくりしていた。
この業界にいる誰も、そんな展示など思いつかない。
きっと彼女が素人だから・・・・・。
絵画について最上さんはとにかく真っ白な状態だから、だからこそ生まれる自由な発想ってやつなのだろう。
いいよな、本当に羨ましい。
この子の才能は眩しすぎる。
「 ……ありがとう。参考にする 」
「 えっ?!あ、いえ、参考にしなくていいです!今のは私のつぶやきですから 」
「 うん、つぶやきね。確かに聞こえた 」
「 やだ、ダメですよ、敦賀さん、本当に!!だってデパートさんは成功するために催事場を作ってくれているはずなんですから。そのデパートさんの意向に従った方が絶対にいいですからね!! 」
だよな。
催事場を提供してくれている以上、デパート側だって成功して欲しいと願っているはずだ。
俺だって
失敗など絶対に出来ない。
「 最上さん。チラシはこの辺のひと塊を持って行っていいよ 」
「 え…これ全部ですか? 」
「 ぷっ!全部じゃなくて、上帯でまとまっているひと塊だよ。千枚一束だと思った 」
「 多いですよ!! 」
「 あ、そうか。一束4キロじゃさすがにちょっと重いよな。じゃあ車で家まで送ってあげるよ。荷物もあるからその方がいいだろ 」
「 じゃなくて!!敦賀さんってば私の生徒さんが何人いると思っているんですか?たとえば1人が5人に配ってくれたとしても200枚もあれば余っちゃうんです 」
「 そっか、分かった。じゃ適当に持って行けばいいよ。でもどっちにしろ家までは送ってあげる。ちょっと待ってて 」
そう言って最上さんから少し離れ、催事場の奥に向かった。
期間限定ギャラリーの設営に尽力を尽くしてくれている人の中には、LMEの偉い人が含まれていて、ド派手なピンクつなぎに身を包んでいるローリィ宝田社長に声を掛けた。
社長は俺の提案を聞いて目を丸くしていたけど、やがて口元をニヤリと歪めると了解の意を返してくれた。
「 お待たせ、最上さん。送ってく 」
「 え?え?会場設営は?まだ皆さん働いていらっしゃるのに敦賀さんはいいんですか? 」
「 平気。君を送ったらまた戻ってくるから大丈夫。道路状況にもよるだろうけど1時間後には戻ってこられる。いまその了解をもらったから 」
「 ……私、自分で帰れるのに 」
「 いえいえ、それこそお気遣いなく。200枚とはいえチラシを無償で配布していただける上に、受け取ってくださった方たちがお友達と一緒に会場に足を運んでくれるかも、と聞いたらお礼をしない訳にはいきませんから 」
「 そうなる保証なんてどこにも無いのに。本当に良いんですか? 」
「 もちろんですとも。行こう、その荷物は俺が持つよ 」
「 あっ、いいですよ、敦賀さん!敦賀さんってば!! 」
「 ほらほら、早くしないとまた置いて行っちゃうよ? 」
「 送ってくれるって言ったのに?! 」
「 くす。だから早くって 」
このときの俺たちはお互い笑い合っていた。
それはまるで気心知れた友人同士みたいに。
あるいは付き合い始めの恋人みたいに。
けれど、状況は一変する。
このあと俺たちはひどく気まずい雰囲気を味わうことになる。
二人きりの車内で。
⇒レース・ローズ◇23 に続く
私の偏見かもしれませんけど、アートギャラリーって敷居が高い気がしません?もっと気さくな展示にすればいいのにっていつも思う。
私の思考はいつもこうです↓
なんだかとても高級チック⇒ってことは絵画自体の単価も高そう⇒入場した途端に人がついてしつこく営業されそう⇒入らないで素通り。
こういうイベントに足を運んだ経験って、実は人生で一度きりしかありません。しかも友人に連れられて行った奴ですよ(笑)
⇒The Lace Rose◇22・拍手
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