現代パラレル蓮キョ、お届けいたします。
お楽しみ頂けたら幸いです♡
前話こちらです↓ ※色が違うのはキョコside
レース・ローズ【1 ・2 ・3 ・4 ・5 ・6 ・7 ・8 ・9 ・10 ・11 ・12 ・13 ・14 ・15 ・16 ・17 ・18 ・19 ・20 ・21 ・22】
■ レース・ローズ ◇23 ■
でも、最初はいつもと同じだったのだ。
いや、いつもって言えるほど長い付き合いではないけれど。
ただ、後から思い出したら確かにこの時のあの子は少し違っていたかも知れなくて、いつもよりほんの少し自分の事に饒舌気味だった気がする。
いや、いつもがどんな状態かを語れるほど彼女を知っている訳ではないけれど。
「 お邪魔します。よろしくお願いします 」
助手席ドアの前に立ち、俺に向かって丁寧に頭を下げた最上さんのそれを微笑ましく見つめる。
初めて待ち合わせた駅前でのやり取りが脳裏を過ぎり、不思議とこみ上げる懐かしさ。
どうしてかな。
君とは最近の付き合いのはずなのに。
「 確か金曜日の教室は大ぶりの布バックをメインにしたものだったっけ。だから君、今日はこんな大荷物なんだ 」
「 …っ…よく覚えていますね。そうなんです。今日は新しいバッグ制作のスタート日だったので荷物が多くて… 」
「 そう。頑張っているんだな 」
「 もちろん頑張っています!今度のバッグは少し凝ったものがいいって生徒さんからリクエストが来たんですよ!それで、刺繍をしてもらったり、レース編みをしてそれを飾りつけたりって感じにするので余計に荷物が多くなっちゃって… 」
「 へぇ。それって、この前のイベントでさわちゃんが買って行ったバッグみたいな? 」
「 そうですね。そんな感じ。刺繍初心者の方もいらっしゃるので、そういう生徒さんにはイニシャルとか簡単な花模様の刺繍がいいかなって感じで 」
運転しながら想像を巡らせ、つい自分の立場に置き換える。
一つの事に集中するのは嫌いではないが、俺に手芸は絶対ムリだと思った。
どれぐらい無理かと言うと、グリズリーに編み物をさせるぐらい無謀なことだ。
「 すごいな。俺には絶対にムリだ 」
「 はい?…っ…やだ、敦賀さんってば、やる気があったんですか?ふふふっ。ちなみに、刺繍やレース編みをするととにかく時間がかかってしまって数を作るのが難しいんですけど、でも冬のイベントにまたいくつか持って行きたいと思って、今デザインを考えている所なんです 」
「 ……そうなんだ。12月の? 」
「 はい! 」
そのあと少しの間が開いて、なぜか強い視線を感じた。
けれど最上さんが何も言って来ないから。
赤信号で停車したタイミングで最上さんに顔を向け、俺からなに?と話し掛けた。
「 なに?どうかした? 」
「 ……敦賀さん 」
「 うん 」
「 この前の仕入れ……どうなりました? 」
「 どう?……って、どう?君のアドバイス通りに、小さめで、インテリアに合わせやすそうなものを中心に選んでみたけど 」
「 違います!私が知りたいのはあの絵のことです 」
それだけでピンときた。
あの絵とは、まさしくあの絵のことだろう。
ひと目見るなり社さんが絶句した。
最上さんが態度を変えた。
レースのヴェールを身にまとった17世紀の少女の絵。
「 もちろん手に入れたよ。それが? 」
「 …っ…あの絵って、売るんですか? 」
「 なぜそんなことを聞く? 」
「 ………やめた方がいい…って思っているから 」
「 は? 」
「 やめた方が良いです、あの絵!!確かに素敵な絵だと思ったんです、私も。でもあの絵はやめた方がいい。返品とか出来るならそうしたほうが絶対いいと思うんです!敦賀さん、あの絵、いくらなんですか?販促会では値段がついていませんでしたけど、キャンセルとか出来るんですか?出来るなら今からでもしたほうが絶対…っ… 」
「 ちょっと待て!!なんだ、いきなり 」
早口でまくしたてられ、思わずハンドルから左手を放した。
俺のジェスチャーを正しく汲み、彼女が一旦、口をつぐむ。
「 ……いまその辺に停めるから。それまで待ってて 」
不機嫌ぶってそう言うと、はい、と返答した彼女から続いて唾を飲み込む音が聞こえた。
道沿いにファミレスを見つけて、その駐車場を拝借した。
「 …さて、どういうことかな? 」
「 だから、あの絵はやめた方がいいって、本当は今日、それをお伝えしたくてご連絡したんです、私 」
「 なぜ?そもそも君は絵に関して間違いなくド素人。君もそれを認めているよな?なのに何故そんな事を言う? 」
「 それは、あの絵が偽物だと思うから 」
「 偽物?これは驚いた。ドがいくつも付くド素人の君がまさか贋作を指摘するとは。…ってことはあれかな?君はあれが誰を模写して描かれたものなのか、見当がついているってことなのかな? 」
「 そんなの知らないです。そんな事は判らない。でも敦賀さん、あの絵は間違いなく… 」
「 話にならない!何も知らないくせに憶測で物を言うな!俺は真剣にギャラリストの仕事と向き合っているんだ。君みたいなド素人に何が判る!?そんなこと言われたくないよ 」
「 ……っ…!! 」
正直、イラっとした。
まさかこんな事を言われるなんて思ってもいなかったし、最上さんがそんなことを言う子だと知った事にも腹を立てた。
だって俺は信じていたんだ。
立場は確かに違うけど、俺と彼女は同士だって。なのに・・・・。
「 …っ…ごめ…なさ……でも本当に… 」
謝罪の言葉は消え入りそうな声だった。
しゅんと俯いた彼女の瞳が、周囲の明かりに照らされて潤んでいるのが微かに見える。
確かに、多少きつく言葉を放ったかもしれない。
それが分かっていても
自分から謝罪をする気分になどなれなかった。
――――――― レンブラント・ファン・レイン。
彼は17世紀のオランダで活躍した最高の画家であり、近代油絵技巧の完成者である。
秀出した写実的手法で非常に優れた肖像画を描いたことで知られていて、とりわけ集団肖像画においては人々の様々な表情を綿密に描き分けたことで彼はすぐさま成功を収めた。
当時、イタリアやフランドルの画家たちの作品ほど、彼の絵画は対象を理想化して描いていなかったのだ。それが評価された形だった。
作品名を上げればきりが無いけど、その中でも特に有名なのは、「テュルプ博士の解剖講義」、「コック隊長の射撃隊」(※「夜警」が正式名)などだろうか。
レンブラントは明暗や色彩の対象を強調し、効果を上げる手法で多くの作品を描いた。
特に暗闇に鋭く差し込むような光線が一点、ないし複数点に当てられる描き方が特徴だ。
彼は金銭的な苦境を何度も経験したのち、公的な生活から引退。けれど画家である一方でレンブラントは版画家としても有能だった。
大きな工房を構え、様々な技法や紙やインクを試し、一旦彫った銅板にも修正を加えたため、レンブラントの版画の多くは他に類のないものとなっている。
その工房では助手たちが彼と同じスタイルで絵を描いていた。
そのことから彼の死後、多くの作品が誤って彼の作品とされた。
それが、レンブラントに贋作が多いとされる理由だった。
過去のギャラリストたちでさえ容易に見分けられなかっただろうそれを、ド素人の彼女が見分けるなんてあってたまるか。
そんな思いが強かった。
無言の時間の長さに深くため息を吐き出し、俺は静かにハンドルを握りしめた。
「 ……他に言うことがないなら出発する。いいね? 」
「 …っ…ダメ!!です、敦賀さん、待って!! 」
「 時間の無駄だよ。こんなくだらないことを言っている間に少しでも早く自宅に帰って手を動かした方がきっと君のためになる 」
「 違う!いまは私のことより敦賀さんの方が大事です!説明…しますから!!だから私の家に来てください。その方が納得してもらえると思う 」
「 ……君の家に?それはいまの所の俺の目的地だけどね。けど、なんで? 」
「 ちゃんと解って欲しいんです!私の家にそれを解説している本があります。あれこれ私が言うよりそれを見てもらった方がきっと説得力があると思うんです。だから… 」
「 くだらない。絵画に関する本なんて今さら…っ… 」
「 違います!敦賀さんに見て欲しいのは手芸の本です 」
「 ……正気か?手芸の本を見て一体なにが判ると… 」
「 見てもらえれば分かります!あの絵が偽物だってきっと理解してもらえると思う!1時間でデパートに戻ることは出来なくなっちゃうかもですけど… 」
「 別にそんなのは構わないけど。・・・っていうか、それを見て俺が納得できなかったらどう謝罪をしてくれる気なのかな 」
「 そのときは・・・・敦賀さんが決めてください 」
「 そう。分かった 」
少しまだ腹立たしさはあったけれど、無理やり自分を納得させた。
だったらいいかと思った。
これを機に、君をこっちの世界に引き込んでやる。
目に涙をためながらも自信満々に言い切った最上さんのそれを、俺はまったく信じてなどいなかった。
だって誰が予想する?
まさかそんな風に贋作を見分ける方法があるなんて
常識外だと思った。
⇒レース・ローズ◇24 に続く
流れからお察し。次はキョーコちゃんsideの予定です。
…っていうか、実は予定していた内容が全部入りませんでした(笑)
⇒The Lace Rose◇23・拍手
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