お久しぶりです!お待ちくださっていたお嬢様がどれほどいらっしゃるのか…。
現代パラレル蓮キョ、お届けいたします。
お楽しみ頂けたら幸いです♡
前話こちらです↓ ※色が違うのはキョコside
レース・ローズ【1 ・2 ・3 ・4 ・5 ・6 ・7 ・8 ・9 ・10 ・11 ・12 ・13 ・14 ・15 ・16 ・17 ・18 ・19】
■ レース・ローズ ◇20 ■
このあと最上さんと二人きりになって、ようやく俺たちは落ち着いて会場を歩けた。
「 では気を取り直して!私がいいと思う絵を敦賀さんにお伝えすればいいんですよね?! 」
「 そう。どうぞよろしくお願いします 」
「 やだ!そんな風に頭を下げないでください。緊張しちゃうじゃないですか 」
「 その必要はないよ。君がいいと思うそのままを俺に教えてくれたらいいだけだからね 」
「 分かってます。でも緊張しちゃうんです~。あ、早速。これとか結構好きです。大きさも手ごろですし、値段も無理ないかなって。玄関に飾ったら華やかになっていい気がします 」
「 なるほど。他には? 」
「 …こっちとか?も、いいかなって……思うかも?それか、あっちとか? 」
「 ちょっと待って。なんで疑問形? 」
「 だって、私の一言が敦賀さんの仕入れを左右しちゃうかもしれないんですよねっ?!そんなの責任持てなくて怖すぎなんだもの 」
「 いやいや、それは気にしないでいいよ。俺だって君の言葉を全面的に鵜呑みにするつもりはないから。あくまでも参考にしたいだけ 」
「 ……本当ですね? 」
「 本当だよ、大丈夫。俺もそこまで危ない橋を渡る気はない(笑) 」
「 むぅ。だったら良かった…って、言えば良いのかしら。それはそれで複雑 」
「 ぷっ!どっちだよ 」
「 だって… 」
これは前から感じていたことだけど、最上さんとの会話は色んな意味で面白い。
感情表現が素直だし、変に意固地になったりすることもないし、妙にプライドが高いとかそういう所も一切ないから、居心地よくそばにいられるのだろうな、と思う。
だからこそ改めてこう思った。
いま自分の目の前にいるのが最上さんで良かったと。
そもそも俺はどんなに金を積まれても高園寺絵梨花と絵を見るなんて嫌なんだ。
なぜならあの子は……
「 敦賀さん 」
「 …っ…あ、うん、なに? 」
「 この、ジクレーとかリトグラフって何ですか? 」
「 それは印刷技法のことだよ。版画の種類のことなんだ 」
「 版画?これ版画なんですか?でも版画って木の板の表面を彫刻刀で掘ったりするやつのことですよね? 」
「 それは木版画。……こういう版画にはいくつか種類があってね、例えばシルクスクリーンはその名の板を使って8~35版くらいで重ね刷りをするんだ。リトグラフは金属板を使ったもの。
で、ジクレーはね、デジタル・リトグラフと言われていて、最新のコンピュータ技術を用いた版画技法なんだ 」
「 ええー?絵画なのにコンピュータですか?!そう聞くと現代アートって感じがするかも 」
「 そう? 」
「 すごい!敦賀さんといると自分の知らない世界が一気に広がって本当に面白いです 」
「 …それは、お互い様かな 」
「 ふーん、版画技法なんだー 」
言いながら最上さんは近くにあったジクレーとリトグラフ作品を交互に見つめた。
「 …なんか、違いが分かんない 」
「 あははは。そんなもんだよ。ジクレーは高機能のインクジェットプリンタで印刷されたものと思えばいい。使われるのが特殊なインクでね、約200年の耐光性、つまり200年退色しないという実験報告があるものなんだ 」
「 すごい、200年ですか?! 」
「 そう。すごい? 」
「 すごいです!!!だって200年ですよ?そんなの一生もの以上じゃないですか。孫の代でも綺麗なまま 」
「 ふっ。俺は君の表現の方が面白いよ 」
「 私はいたって普通です。……でね、敦賀さん 」
「 うん? 」
「 もう一つ伺いたいんですけど。どうしてあっちとこっちでブースが区切られているんですか?同じ絵画みたいなのに 」
言われて最上さんが指さす方向に視線を向けた。
彼女が疑問に思うのも無理はない。
最上さんが言った通り、会場は入り口側とそうじゃない側がおよそ半々の面積で区切られていた。双方のエリアは容易に行き来がしにくいよう、間に柵のようなパーテーションが置かれている。
これは何かというと、流通経路の差だった。
ギャラリストがアーティストから絵画を引き取り販売することを一次流通と呼ぶのに対し、一旦人手に渡ったものを再販することを二次流通と呼ぶのを知っているだろうか。
これは一か月前に制作したばかりの現存作家の作品であれ、物故作家や古美術品であれ同じで、一度作家から人の手に渡ったものを再び流通させる場合は全てセカンダリーマーケットに類する。
そして二次流通を手掛けるには、都道府県の公安委員会から古物商の許可を受けていなければ出来ないのだ。
つまり、許可証を持たないギャラリストは向こう側に行けないのである。
「 知らなかった!こっち側が一次流通の絵画で、あっち側は二次流通になるんですね。そんな分類があることを初めて知りました 」
「 だよな。でも二次流通って意外と身近な所にいっぱいあるんだ。例えば古本屋とか古着屋とか、CDやゲームの中古とかもね 」
「 え?あれもそうなんですか?! 」
「 そうだよ。興味があるなら今度見てみるといいよ。お店のどこかに古物商の許可証が貼ってあるはずだから 」
「 そうなんだー。本当に敦賀さんといると色々知らないことを知れて面白いです。それで?敦賀さんはあっち側には行けないんですか?でも前に古美術をやりたいって言ってましたよね? 」
「 すごい、よく覚えていたね。もちろん俺も許可をもらっているよ。けど、あっちのブースは明日巡ろうと思っていたんだ 」
俺がそう言うと最上さんは目に見えて肩を落とした。
それでつい言ってしまった。
素人が二次流通を見てもしょうがないって、心のどこかで思っている癖に。
「 そっか。そうですよね。二次流通の方が取り扱いが難しそうですものね 」
「 ……行ってみたい?最上さん 」
「 え? 」
「 行きたいならいいよ? 」
「 いいんですか?だったら行ってみたいです!! 」
途端に彼女が元気になる。
なんて分かりやすいんだろう。
でもそういう所も可愛いと思った。
いや、違うぞ?
可愛いっていうのはあくまでも一般論の可愛いであって、俺自身が彼女を好きとか、好みだとか、そういう意味では決してなくだぞ?
「 いいよ、行こう 」
「 わぁ、すごい!明らかにこっち側は私の知らない世界です。・・・ねぇ、敦賀さん。あれ、知っていますか。お宝鑑定っていう番組! 」
「 …知ってるけど、それが? 」
「 あれってロマンがあると思いませんか?何年も前に手に入れた壺とかお皿とか、プロの鑑定人に調べてもらって、結果すごい値段の物だって判定されたりするの!!あんなことがここでもあったらスゴイですよね。敦賀さん、一気に有名になっちゃうかも!! 」
その無邪気な様子に苦笑を浮かべる。
ここに居る全員がプロのギャラリストだって、忘れているのだろうか、彼女は。
「 そんなことがあったら別の意味で凄いよ 」
「 別の意味? 」
「 そう。そもそもどんな目利きの鋭いギャラリストがいたとしても、その名前が後世に残ったためしはないんだ。君だって知らないだろ。
ゴッホやモネ、ダヴィンチの名は知っていても、その絵を流通させた人物の名前なんて一人も 」
「 あ・・・・・ 」
「 そう。ギャラリストは影の人間。でも俺はそれでいいと思ってる。
いつかね、自分が選び、魅力を伝えてきたアーティストたちがゴーギャンやフェルメールのように有名になって世界的に評価をされる日が来るかもしれない。そんな日が訪れることを想像するだけでワクワクできるから 」
「 ギャラリストさんは、絵画をより多くの人に親しまれるようにする一方で、そのアーティストさんたちを育てる役割を担っている、でしたっけ 」
「 お、エライ。よく覚えていたね 」
「 クス。敦賀さんは本当に絵画がお好きなんですね 」
「 まぁね。好きじゃなきゃこの仕事はやっていけないよ。……もっとも、好きだけじゃやっていけないのもこの仕事だけど 」
「 え? 」
俺の真顔を受け、さっきまで笑顔だった最上さんが眉をひそめて俺を見上げた。
それを見て、しまった、と思った。
「 いや、何でもないよ。所で俺、君の夢物語に同調するつもりはないんだけどね、古い絵画を2~3点買うつもりでいるんだ。何かいいのがあったら教えて? 」
「 はい、分かりました!! 」
気持ちを察してくれたのだろうか。すぐ笑顔を浮かべてくれた彼女を見て内心でほっと溜息をつく。
どうかしてる。
彼女にこんな事を吐露しようとするなんて。
「 あ、敦賀さん、見てください、これ!!こっちに素敵な絵がありますよ 」
「 うん? 」
手招きする彼女に近づき、無造作に置かれたキャンパスを一枚一枚、手に取った。
それは確かに少し年季を感じる絵画たちだった。
作者名もなく、版画でもない手書きのそれ。
そのうちの一枚を目にした俺は、息を飲んで時間を止めた。
「 ……っ…!! 」
その一枚に酷く惹かれた。
絵は少女の肖像画だった。
いや、もしかしたらトロ―ニーだったのかも知れない、けど。
――――――― この絵がいい。この絵が欲しい……!!
こんなこと、初めてだった。
それはギャラリストとなって初めて受けた感銘だった。
⇒レース・ローズ◇21 に続く
このお話、どうして途中で執筆を中断したかと言えば、読者様の反応が良くなかったから。
それで連載再開にあたりチョー久しぶりだったので1話から読み返した結果、我ながら結構面白いなと思えました。
それでもまた執筆意欲を失くした時は、もう表連載をきっぱり辞めます。次は招待館に移動させて完結させます。
⇒The Lace Rose◇20・拍手
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