その腕の中で眠りたい ◇6 | 有限実践組-skipbeat-

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 前話こちら↓

 【15】



■ その腕の中で眠りたい ◇6 ■





 後悔先に立たず



 日本にこんなことわざがあると知ったとき、蓮はこう思った。




 やらずに立つ後悔より、やって立つ後悔の方が遥かにマシだ。




 あれはまだ日本に来て間もない頃だった。

 だから余計そう思えたのかもしれない。





 ――――――― 無名のお前が道を切り拓き、どこまで登りつめられるか。それはお前の実力次第。

 どうだ、やってみるか ―――――――




 迷わず取った行動はYes



 やらずに道が拓けるか

 いつか必ず勝ってやる



 その時の久遠の心には闘志が漲っていた。




 日本に来て、日本人として馴染むために必死に日本語を勉強する傍らで、なのに蓮は覚えた日本語をよく英語に直して考えた。

 いま思えばそれは、心のどこかで両親を懐かしむ感があったのかも。



 後悔先に立たずを英語にするのなら

 It's too late to be apologizeだな、と蓮は考えた。


 嘆いても遅い、後悔するには遅すぎる、という意味だ。



 皮肉なことに、それがいまの蓮の状態だった。なぜこんなことになったのか。




 さっきまでキョーコは自分の隣で

 何の憂いもなく微笑んでいたはずなのに


 いまは運ばれた面会謝絶の病室のベッドで、たくさんの機械に繋がれて横たわっている。




 薄い呼吸を繰り返しながら

 キョーコは固く両目を閉ざしていた。




 It's too late to be apologize.

 頭の中で何度も何度も繰り返す。



 嘆いても遅い。後悔するには遅すぎる。


 心に鋭く突き刺さる。




 冷えたベッドの傍らに立つくした蓮は、震える両手を握りしめながら目に涙を浮かべた。




「 You should've known better. 」


 皮肉を込め、己に向けて呟いた。



 お前はもっと思慮深くあるべきだったのに、と・・・・・。









 ――――――― 数時間前。

 初心者向けバンジー場、受付前にて。



「 着いた!本当にちかーい 」


 バスの窓から外を見たキョーコが笑顔を浮かべた。


 100メートルのバンジー場から隣のバンジー場までは無料のシャトルバスが出ていて、二人はおよそ5分とかからず到着した大地を踏んだ。



「 わぁ、本当に規模が小さいのね。ね、コーン!! 」


「 確かに。こっちは受付とバンジー場が門で区切られていないんだな 」



 バスを降りた目の前には先ほどと同じロッジタイプの受付がある。

 こちらもそれなりに盛況だったが、さっきと比較すれば雲泥の差だ。


 受付横には同じ様にバンジーのやり方が記載された看板が立っていて、手順に大きな違いはないようだった。


 けれど全く同じという訳でもない。



 まず高さだ。

 初心者向けというだけあって、こちらのバンジーは先ほどの6分の1。およそ60フィートしかないと書かれていた。しかもこちらには事前にその高さを確認できるよう、見晴らし台が設置されているとある。


 門が無いのはそのためなのだと思われた。



「 コーン、60フィートってどのぐらい? 」


「 約18メートルってところかな 」


「 それってどのぐらいだろ? 」


「 ……前に、お台場に立った機動戦士がそのぐらいの背丈だった気がするけど 」


「 ぷっ!やだ、なんでそんなこと知ってるの?まさかファンだったとか?! 」


「 違うよ!番宣で出演したテレビとかイベントとかに行くたびに、昔流行ったアニメのキャラクターなんですけどご存知ですか?…って、色んな所で聞かれたから印象に残っていたんだ 」


「 なぁんだ、そっか 」


「 キョーコ、見晴らし台に行ってみる? 」


「 行く!! 」



 受付を通り過ぎた二人は、まるで宮殿のテラスの如く崖上にはみ出している見晴らし台に向かった。

 どうやら一本たがえた隣の道はバンジー台につながっているようで、そちらには係員が何人か立っている。


 見晴らし台から見る限り、バンジー台はこちらよりもっと張り切った形で崖上にせり出していた。

 その様がまるで水泳の高飛び込みスタート台のように見える。


 しかし足元の面積はだいぶ違っていたし、そもそもバンジー台は鉄骨製の橋が途中で切られたような形なので、あくまでもそう見えるというだけのことだった。



 キョーコが見晴らし台から真下を覗き込んだ。

 手すりの高さは通常ベランダに設置されているそれより少し高めな感じで、だから覗き込めない訳ではない。


 下には川が流れていて、一艘の船が浮かんでいた。



「 ・・・ねぇ、私、思うんだけど 」


「 ん? 」


「 この高さって、もしかしたら以前プッツン切れた兄さんが村雨さんと一緒にランデブーした時の高さだったりする? 」


「 しないし!あの時はこれよりもうちょっと低かったよ…っていうか、なんでそういう事を平気な顔で聞くのかな 」


「 くす。それはもう大丈夫だって知っているからよ!そっか、ちょっと低かっただけなのねー。じゃ、私にも出来るわね、バンジー。あのとき兄さんは命綱なしで着地したけど、私には安全ゴムがあるんだから楽勝よね 」


「 スカートなのに? 」


「 あら。下にスパッツを履いているんだから平気よ 」



 ウエディングドレスの試着がしやすいよう、今日のキョーコは脱ぎ気が簡単な服装だったのである。



 やるのだろうなと思っていたけどやっぱりやるのか、と考えながら、ここで見守っているからと蓮がキョーコに告げると、キョーコは右肩を上げて小首を傾げ、わかったわ、と微笑んだ。


 阿吽の呼吸で蓮が右手をキョーコに差し出した。キョーコの荷物を預かろうとしたのだ。そのタイミングで予想外のことが起こった。


 マイクを持った男性が蓮にマイクを向けて来た。



「 君!!!敦賀蓮じゃないか?日本で俳優をしているクー・ヒズリの息子だろう?! 」


「「 え?? 」」


「 すごい偶然だな。いや、ラッキー!!僕らは今日、偶然バンジーの取材に来ていたんだけど、ちょっと!ちょっとだけでいいからインタビューをさせてもらえるかな? 」


「 取材って、隣だったんじゃ… 」


「 うん、ビックバンジーはさっき終わったんだ。そのついでにって気まぐれにこっちにも足を運んだんだけど。いや、本当にラッキーだ!! 」



 どうやら100メートルの方はビックバンジーという名称があるらしい。

 蓮は似非スマイルを浮かべた。



「 なぜ俺のことを? 」


「 知ってるさ!!僕はね、クー・ヒズリの大ファンなんだ!!だから楽しみにしていたんだぜ!! 」


「 …なにを 」


「 なんだ、とぼけちゃって。君の結婚式をだよ!僕はフリーのアナウンサーなんだけど、クーとはそれなりに長い付き合いでね。その彼が言っていた。自分の息子がもうすぐ花嫁を連れてロサンゼルスに戻ってくるって。最初に聞いたのはひと月ぐらい前だったかな。それから会うたびにその話を聞かされて、すっかり僕も親気分さ。ともかく、まずは結婚おめでとう!! 」



 アナウンサーが声高らかに右手を掲げると、途端に周囲からもおめでとうの声があがった。

 恐らく結婚というワードに反応したのだろう。おめでとうの声はまるで輪唱するように広がった。



「 …っっ……oh my gosh 」


「 そうか、嬉しいか!君がここに来たのはあれだろう?結婚前にバンジーをやって厄払いをしようってことだろう。そうだろ、当たりか?それで??君の花嫁はどこにいるんだ?! 」



 このとき既にキョーコは蓮から離れていた。


 さっき自分が持っていた荷物を蓮に預けようとしたけれど、マイクを持った人が蓮に近づいてきたので逆に蓮から荷物を受け取り、キョーコはそっと離れたのだ。



 日本の俳優・敦賀蓮が、ハリウッド映画史上最高のアクションスターという称号を持つ俳優・クー・ヒズリの息子であることはとっくに公表されている。


 なのになぜこの地で一度も騒がれないのだろう。

 キョーコにしてみればそれが不思議だと思っていた。



 少し離れたところから蓮を見つめ、嬉しそうに笑みを浮かべたキョーコは再び欄干越しに川を見下ろした。次いでバンジー台に視線を移す。



「 うん、出来そう。厄払い、絶対やっておきたい! 」


 そのときだった。


「 京子さん 」


 後ろから呼びかけられた気がして背後に視線を弾いたキョーコは、刹那に戸惑いを浮かべた。


 浮かべて、でもすぐに笑顔を作った。



 もしかしたらそれは防衛本能の一種だったのかもしれない。

 この女に怯んではいけない、という、防御反応だったのかも。



 笑顔を作ったキョーコの耳に、自分を呼ぶ蓮の声が届いた。



 事実、蓮はキョーコを呼んでいた。

 花嫁を紹介しろと言うフリーアナウンサーの押しに負けたのだ。



 キョーコの姿はすぐそこに見つけられた。

 歩けばほんの4~5歩の距離。



 そのわずかな距離の間に、線の細さから女性だと判る後姿が蓮の視界に入った。


 キョーコの前に立っている

 黒髪で、腰まで届くかも…という長さの女性だ。



 誰だ?と思った後、もしかしたらキョーコのことを知っているファンが声を掛けたのかもしれないと考えた。

 ロサンゼルスは古くから労働者としてアジア系移民を受け入れてきたという歴史があり、またもともとはメキシコ領だったこともあって、全人口の46.5%はヒスパニック、もしくはラテン系なのだ。


 従ってこの街で黒髪の女性は珍しくも何ともなかった。


 ところが、キョーコの笑顔は知り合いに向けるそれだった。

 それでもしかしたら琴南さんかも…と蓮はすぐ考えを改めたのだが、そんな事はあり得なかった。



 彼女は結婚式当日の時間を確保するため、いま休みを取らずに仕事を頑張っているはずなのだ。


 途端に蓮は壮絶な寒気を覚えた。



「 キョーコ!! 」



 やはりあれは見間違いなどではなかったのだ。

 焦ってもう一度キョーコを呼ぶ。


 本当はそばに寄りたかったが、取材クルーの一団が障害となって近づくことが出来なかった。それでも蓮は一歩を歩み、キョーコに手を伸ばした。



 様子を変えた蓮の視線を追いかけ、アナウンサーが同じ方向に顔を向けた。そのとき目に入った光景を、蓮とともにこのアナウンサーも忘れられないと思った。


 黒髪の女性がキョーコに向かい、丁寧にお辞儀をした。

 後から考えたら恐らくこのとき、彼女はキョーコの足を持ったのだ。


 キョーコの体は欄干に背中を押し付けられ、そのままふわりと宙に浮いた。

 それはまるでマジックショーを見ているかのようだった。


 持ち上げられたキョーコの片手には蓮から引き取った紙袋。当然もう片手には今夜の味見用にと買ったビニール袋が握られていた。


 なおもキョーコの体が持ち上がる。

 そうなるまで恐らく数秒だったに違いない。



 あっという間にキョーコは欄干を乗り越え、背中越しに飛び立った。


 その背に

 翼など持っていなかったのに。






 ⇒◇7 に続く


スキビ原作史上、こんな事が出来るのはたった一人だけですよ。衝撃。



⇒その腕の中で眠りたい◇6・拍手

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