いつもありがとうございます、一葉です。
弊宅閲覧者数・延べ50万人様を記念して、つねごろ様からお与かりした記念リクエストの続きをお届け致します。
前話こちら↓
■ その腕の中で眠りたい ◇5 ■
ロサンゼルスはカリフォルニア州の南部に位置し、西側は太平洋に面した広大な平地にある。この街には大きな河川は流れておらず、コロラド川などから水路を引っ張ってきていた。
このカリフォルニア州の東部をほぼ南北に走っている山脈があった。名を、シエラネバダ山脈。
スペイン語で「雪に覆われた山脈」という意味を持つこの連山は、新期褶曲山だと言われている。
褶曲とは、地殻に働く力によって地層が波状に押し上げられることを言う。つまり簡単に説明をすると、この山脈は平らな地層が横から押されて皺を作り、それが山や谷となって出来たものだということ。
そんな生い立ちに相応しく、山の東斜面には険しい箇所が多く、また場所によっては急な崖に挟まれた深い谷を為している箇所もあった。
ロサンゼルスのあちこちに設置されているバンジー場は、そういう地形を利用して作られたようだった。
その一つであるバンジー場に到着した二人が最も驚いたのは、集まっていた人の多さだったかもしれない。
リカー店員の言葉通り、そこは若者たちの熱気で溢れていた。
「 うわぁぁあ、すごい人 」
「 信じられない。予想外の混雑ぶりだ 」
蓮が一望したところ、バンジー場は迂闊に人が近づけぬよう、背の高い門で区切られていた。
門の両端にはロッジタイプの小さな建物に受付があり、巣に帰るアリのごとくそこに人波が集中している。
キョーコが蓮の肘あたりの服を控えめに引っ張ったことで二人は顔を見合わせた。
あっちに行ってみましょうと誘うキョーコの笑顔に案内され、蓮はキョーコの後に続いた。
受付横に設置されている大きな看板には、バンジーのやり方が明記されている。看板を見上げたキョーコに続いて蓮も視線を上向け、そして思い切り目を剥いた。
「 嘘だろ、橋から下まで330フィート?! 」
「 へ。敦賀さん、それって凄いの?どのぐらいの高さってこと? 」
「 ざっと100メートル! 」
「 えぇぇっ?! 」
キョーコもさすがに驚いた。
100メートルがどれぐらいの高さであるのか明確な比喩表現など出てこなかったが、ものすごく高いということぐらいは判断出来る。
正直あまりに驚いて、口がぱっくりと開いてしまった。
「 確か、赤坂のセンタービルがそのぐらいの高さだった気がする。つまりこれは20階建てのビルの屋上から飛び降りるのと同じってことだ。……キョーコ。さすがの君でもまさかやるとか言い出さないよな? 」
「 う……20階ビルの屋上とか言われたらさすがに怖くて出来ないかも 」
「 良かった。それを聞いて安心したよ 」
キョーコの一言で蓮は胸を撫でおろした。…が、キョーコのようにこの場で思いとどまる人間は一体どれほどいるのだろう。それを疑えるほどこの地にはみなぎる活気があった。
キョーコと蓮が看板前で佇んでいる間にも、受付を済ませて門をくぐる人の列は後を絶たない。
その看板によると、手順としてはまず受付で誓約書にサインをし、料金を支払うらしい。
そして門をくぐり、係員の指示に従って両足を通すタイプのハーネスとヘルメットを装着。
その際、スカートの人は無料でズボンを貸してくれるらしいが、そもそもバンジー目当てに来ている以上、スカートの女性などはいないようだった。
ちなみにサンダル履きの人は1足1$(約100円)で靴と靴下を借りられるとある。その他にも、眼鏡の人は事前に外し、荷物はロッカーに預けてください、とあった。
バンジーの列に並び、順番が来たらハーネスに安全ゴムがつながれる。あとは係員の指示に合わせてジャンプをすればいいらしい。
ゴムの伸縮が終わったら川に着水をするので、そうなってから真下の川で待機している船上の係員に手伝ってもらい、ゴムとハーネスを外して終了…と、一連の流れが看板で説明されていた。
その後、無料バスでスタート地点のここまで戻り、受付で手続きを済ませると、ジャンプ終了証明書を受け取ることが出来るとあった。
余談だが、看板にはこんな注釈も添えられていた。
川ジャンプは木々に囲まれた場所から華麗に飛び立ち、エメラルドグリーンの川面や目の端に映る森や山の景色を楽しめます。もしかしたらその光景は異次元世界に見えるかも。
それでも前堕ちが怖い場合や、ありきたりなジャンプに飽きた人は、背中から…という手もありますよ、と。
余計なお世話だと蓮は思った。
「 気が済んだだろ、キョーコ。帰ろう 」
「 …うん、残念。ちょっと興味あったのに 」
とはいえ、さすがに100メートルの高さでは初心者向けとは言い難い。
キョーコとしても諦めざるを得なかった。
効果があるおまじないなら是非したいと思ったのだが。
その時だった。
「 いやよ、私はやりたくない!! 」
人波の一角からとつぜん金切り声が上がった。
「 なんでだよ、みんなでやろうって言ったじゃん 」
「 やりたい人だけやればいいじゃない。私は嫌!! 」
大学生くらいのグループだろうか。4~5人の男女が受付近くでたむろしている。
仲の良い仲間同士といった所かも知れないが、少なくとも今は言い争いをしていた。
見ると2人の男性は俄然やる気のようだが、女性3人のうちの一人が否を訴えていた。
「 ねえ、そんな大声を出さないで。注目されているじゃない。それに、やりたくない人はやらなくてもいいんじゃないの? 」
「 けどコイツがやりたいって言い出したんだぜ!なのにここにきてやりたくねぇとか、どういうことだよ 」
「 言ったわよ!言ったけど私がやりたいって言ったのはここじゃない!この隣の、初心者向けのバンジーの方よ!何度もそう言っているでしょ 」
「 いいじゃねーか、それは。飛び降りちまえば同じなんだよ。大は小を兼ねるって言うだろうが 」
話を聞くつもりなど無かったが、聞こえてきたそれにキョーコは呆れてしまった。
なんて無茶苦茶な理論だろう。
こういうヤツにはつい言ってやりたくなる。いくら水が飲みたくても、浴槽に張った水をどうぞと出されてお前は飲もうと思うのか、と。
言い合いは少しの間続いた。
話を聞く限り、どうやら最初はその初心者向けに行くつもりだったらしいのだが、なにやら途中で男性たちの気が変わったようだ。
その理由はテレビの取材が入るという風の噂が届いたから、らしかった。
なるほど、目立とう精神というやつか。
…で、結局どうなったかというと、否を唱えていた彼女ともう一人の女性が仲間たちから離れることで決着した。
「 もういい!私だけそっちに行くから! 」
「 あっ、待ってよ。私もそっちに行く! 」
「 なんだよ。もう勝手にしろ!! 」
「「 勝手にするわよ! 」」
彼女たちが去っていくのを見届けてから、キョーコは蓮を見上げた。
「 敦賀さん。隣に初心者向けがあるんですって 」
「 ・・まさか、行くつもり? 」
「 行くだけ行ってみても良くない?ね、いいでしょ?せっかくここまで来たんだし 」
「 ……っ…まったく 」
どうせ逆らえないと知っている。
そして周囲の目が無いからこそ少しの羽目を外したい、とキョーコが考えていることも蓮はちゃんと理解していた。
休暇はたったひと月しかなく、その間にしか出来ないことをせめて彼女にさせてあげたい。
明後日にはもう実家に行かねばならないし、そうなったらきっと思うように身動き出来ないだろうから。
「 いいよ、行こう 」
「 やった!コーン、大好き♡ 」
「 こういう時だけ言われてもな 」
「 どうしてよ。普段も思っているわよ? 」
「 はい、はい 」
返事半ばで蓮はキョーコの肩を抱き、彼女たちが去っていった方向へ導いた。
別にいい。これがキョーコのためになるのなら。
これをすることで日頃抱えているだろう目に見えないストレスから、少しでもキョーコが解放されるというのなら。
あくまでも蓮はキョーコのことを想っていた。
だからこそ、そうなると知っていたら行こうと促すはずがなかった。
これが地獄へ辿る一本道だと、蓮が知っていたのなら。
⇒◇6 に続く
LAのバンジー場については一葉の捏造です。実際にバンジー場があることまでは判っているのですが、それが空港近辺からどれほど離れているのか、場所はどこかなどの詳細は一切不明です。
ただ、探し当てたのが実際にバンジーをしている映像だったことから、それを参考に致しました。ご了承ください。
⇒その腕の中で眠りたい◇5・拍手
Please do not redistribute without my permission.無断転載禁止
◇有限実践組・主要リンク◇