その腕の中で眠りたい ◇4 | 有限実践組-skipbeat-

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こちらは蓮キョ中心、スキビの二次創作ブログです。


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 いつもありがとうございます、一葉です。

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 いつも一話が長くてすみません。(。-人-。) 今回も長いです。読む分にはそれほど感じないかもですが。



 前話こちら↓

 【13】



■ その腕の中で眠りたい ◇4 ■





 それから蓮はなんとなく、周囲を気にするようになった。



 例えばカフェでキョーコとお茶をして、彼女がお手洗いに立った際。

 あるいは訪れたレンタルドレス専門店で、キョーコがドレスを試着中。蓮の意識は自然と外を向いていた。


 けれど……



「 お待たせしました!敦賀さんは?行かなくても平気?お手洗い 」


「 俺はまだ平気。行こうか 」


「 うん。……ねぇ、どうかしたの? 」


「 なんで?なんでもないよ。行こう 」


「 うん 」





 ――――――― あれから全然姿を見ないな・・・・・




 やはり気のせいだったのだろうか。

 2日続けて同一人物を見た気がしていたけれど。



 意識をしてからその人影を見るときは無く、やはり気の昂ぶりが見せた幻だったのだろうかと蓮は考えるようになっていた。


 平穏な時間が積み重なるほどその思いは強まってゆき、3日も過ぎると警戒心は完全に溶けて消えていた。



「 まぁ、素敵です!!スタイルが良くて程よく筋肉がついていらっしゃるから何を着てもお似合いになって本当に羨ましいです!彼氏さん、見てください、ご自分の彼女を!! 」


「 ……どう?ですか、敦賀さん 」


「 うん、いい。本当に似合っているよ、何を着ても。Aラインもプリンセスラインもマーメイドラインも、スレンダーラインもエンパイアラインもとにかく全部が似合ってる 」


「 …っ!!褒め過ぎです!! 」


「 そう? 」


「 いいえ、褒め過ぎじゃないですよ。だって本当にお似合いですもの!そうするとやっぱりご自分が着たいタイプのドレスを選ぶのがお勧めなのですけど、どうしましょうか? 」


「 ……でも、膝下が出ているマーメイドラインってないんですよね。しかも出来ればエンパイアラインと混同しているドレスっていうのがいいんですけど 」


「 はい、残念ながらご用意がないです。そういう特殊なデザインですとオーダーメイドになってしまうので恐らくどのレンタル店に行っても無いと思いますよ 」


「 ……そうですか 」


「 あの、お式までもう3週間しかないのですよね。だったらいま予約していただくのがお勧めです。いまご試着頂いているドレスならフリーですからお式にお届けできますが、いかがでしょうか? 」



 店員はキョーコが試着中のエレガントなマーメイドラインを勧めたが、しかしキョーコは妥協したくないのだろう。彼女は顔を曇らせ首を横に振った。



「 ごめんなさい。確かに素敵だとは思うのですけど、もう少し色々見てから決めようと思います 」


「 そうですか。でもその間に予約が入ってしまったら着られなくなってしまいますよ? 」


「 はい、分かっています。その時は縁が無かったのだと思って諦めます 」



 キョーコの返答は潔かった。

 店によってはしつこいぐらい熱心に営業をかけてくる所もあったが、今日の店員はそんな素振りを一切見せず、終始にこやかな笑顔をたたえていた。


 試着のドレスを脱ぐために踵を返したキョーコが試着室へ向かうと、そのあとに店員も続いた。



「 そうですよね。一生に一度のことですもの。自分が納得できるドレスを選ぶのが一番いいですわ。でも正直に言うとちょっと勿体ないなって気がしますけど 」


「 すみません、わがままで 」


「 いえ、そうじゃないんですよ。このお仕事をしていると色々な花嫁さんに出会います。大抵の方はドレスを試着しているうちにあれもいい、これもいいって目移りしちゃうんでしょうね。どのドレスにしようか決められなくなっちゃうことが多いんです。逆に、自分が着たいドレスがあっても壊滅的に似合わない花嫁さんもいらっしゃって、そういう場合でもどちらにしようかで悩まれる。

 ミス・キョーコの場合はそのどちらでもなくて、こんなに何を着てもお似合いになるのに、やっぱり悩まれるのが不思議だなって。つまり、それだけ結婚式って特別なんだって、いつも思うんです。だから、我が儘なんかじゃないですよ 」


「 ありがとうございます。そうですよね。結婚式って本当に特別なのかも。でも、ドレスに関してはね。私もこんなこだわりを持つつもりは無かったんですよ。むしろ別の事で悩んでいましたから… 」


「 あら 」


「 あの、着替えながらちょっと相談してもいいですか? 」


「 はい、なんでしょう? 」


「 実は…… 」



 キョーコが蓮と一緒に実家に行くのはもう明後日に迫っていた。ウエディングドレスはいざとなったらクーが用意してくれることになっているから、最悪それを着ればいいと考え、キョーコも焦ってはいなかった。


 悩みの種はむしろ手土産の方だ。

 義理の母親となるジュリエナへの手土産を何にすればいいのか、キョーコは決められないままでいた。


 蓮に相談しても要らないと言うばかりで解決策が全く見えない。だからいっそアメリカ人に聞いてしまえ、とキョーコは思ったのだ。



 それはたぶん正解だった。

 店員さんは有益な情報をキョーコに与えてくれた。



「 ミス・キョーコ。お名前から察するにあなたの母国は日本かしら?だとしたら日本酒という国を代表するお酒があるでしょう?それを持って行けばいいわ。アメリカではそういう場合、大抵お酒を手土産にするものだから 」


「 知らなかった。そうなんですね? 」


「 そう。ただね、彼氏さんの言い分も一理あるの。アメリカ人と付き合う上で大切なのは、物をあげることではなくて、自分の言葉で出会えた喜びを伝えたり、感謝の気持ちを伝えたり、本当に喜んでいる事が判る表情をすることなの。だからハグやキス、握手でちゃんとした挨拶をする。本当はそれだけでいい事なのよ 」


「 そうですよね。でも私はそれだけじゃ足りなくて… 」


「 うん、わかるわ。だって愛する人を生んでくれたお母さんに会えるなんて素敵なことだもの。お相手の方もきっとそう思ってくれているわ。だって自分が産んだ息子を愛してくれる女性と会えるなんて嬉しいことだもの。だからね、気負いすぎずに頑張って! 」


「 はい、ありがとうございます! 」


「 だとしたらあとはドレスだけなのね。あなたがピンと来るドレスに出会えることをお祈りします。でももし出会えなかったら、そのときはぜひまた当店へ!心よりお待ちしております 」



 レンタルドレス店の店員は最後まで笑顔のままだった。店を出た時のキョーコの気持ちは清々しい…のただ一言。


 その店員さんはアドバイスをくれただけではなく、世界中のお酒を扱っているリカー専門店の場所までキョーコに教えてくれていた。

 結局ドレスには出会えなかったけれど、来て良かったとキョーコは思った。



「 キョーコ。なんか嬉しいことでもあった? 」


「 あった!ね、敦賀さん。これからリカー専門店に行きましょう。このお店 」


 言いながらスマホ画面を蓮にかざした。



「 お酒?買うの? 」


「 買います。手土産の分と、今夜、味見する分を 」


「 ぷっ。味見… 」


「 何で笑うのよぉ。味が分からないのに渡せるわけないじゃない! 」


「 だね。キョーコのそういう所、ほんとうに好きだよ。じゃ、一緒につまみも買おうか 」



 お店はさほど遠くなくて、タクシーで30分ほどの場所だった。

 日本の大型店とは比較にならないほどメチャクチャ大きいその店は、もはや倉庫に近い大きさ。



 お酒は地域別に用意されているらしく、案内通りに足を向けた棚を見上げた二人はその品揃えに圧巻した。



「 うわ、すごいな 」


「 ほんと、びっくり! 」


「 …で、なにを買うかは決めてあるの? 」


「 ノンノン。そこはインスピレーションで! 」


「 ぷっ!! 」




「 おい、これカッコ良くないか?このラベル 」


「 お、いいな、それ。この跳ねた感じが面白い 」


「 だろ。よし、これにしようぜ 」


「 ああ。さてどんな味やら 」



 最近、日本文化は外国人にウケていて、特に漢字やひらがなはアート感覚でファッションに取り入れる人も多いらしいと聞く。


 そういえばLAに来てからそういうTシャツを着ている人を何人か見た気がするし、いま日本酒をラベルで選んでいった男性客も日本語Tシャツを着ていた。


 そもそもアルファベットでは1文字で意味がある言葉は自分を意味する「I」ぐらいしか存在しないけれど、漢字は1文字でも意味がある。だからそういう要素もウケている理由のひとつらしい。



 ラベルの文字デザインだけで日本酒を選んでいく姿はあちこちで見受けられた。

 品揃えも豊かで、もしかしたら日本の酒造問屋より凄いぐらいかもしれない。


 キョーコが見知ったものより見知らぬ品の方が圧倒的に多かったが、キョーコもまた、ラベルを見てお酒を選んだ。もちろん言葉の意味を考えて。



 キョーコが手にしたのは、夢と幻の物語と、鳳凰美田という名の日本酒だった。



「 コーン、決めた。これとこれ!2本ずつでいいと思う? 」



 ロスに来て既に5日目。キョーコもだいぶ空気に慣れたのか、蓮を呼ぶ際、コーンになったり敦賀さんになったり色々だった。



「 手土産に一升瓶を4本も?さすがにそれは重いだろう。さらに味見の分も買うんだろ? 」


「 …そうだけど。それは小さいのを買うわよ?それに、お父さんならこれぐらい片手で飲んじゃうでしょ? 」


「 確かにそうだけど。いいよ、あの人の胃袋の事は気にしないで 」


「 そう?じゃあ4本は諦めて2本にする 」


「 そうして 」



 蓮と二人で試飲する分は750mlのものにして、手土産で渡す一升瓶を1本ずつ購入するため会計に持ち込むと、店主だろうか、レジに立っていた年配の男性がキョーコと酒を見比べて目元に豊かな皺を刻んだ。



「 やあ、いらっしゃい。日本酒、好きなのかい?それともこっちの大柄な彼が飲むのかな? 」


「 いえ、私も飲みますよ。でもこっちの大瓶はあさって彼のご両親に会うとき手土産で渡す分なんです 」


「 ほお、手土産。それはいいね。きっと喜んでくれるよ 」


「 はい、そうなら嬉しいです。結婚のご挨拶に渡すものなので包んでいただけますか? 」


「 ほぉ、結婚!!それはおめでとう。いいよ、包むよ!! 」



 お会計が済むと男性は手際よくお酒を包んでくれた。


 割れないように箱に入れ、クッション材を詰められるだけ詰めたあと、プレゼント大国に相応しいラッピングを施し、さらに大きなリボンまであしらう。



 小さい瓶はそのままのサイズに見合うビニール袋に入れてキョーコに渡してくれて、箱詰めした一升瓶たちは大きな紙袋に入れて直接蓮に手渡した。



「 はい、重い方は彼氏が持って。こんな可愛い彼女と結婚なんて、幸せだね、君! 」


「 ええ、ほんとうにそう思っています 」


「 はははー。いいね、結婚か。見たところ二人とも東洋人みたいだけど、こんなのを知っているかい?結婚とか就職とか、一生を左右する人生の節目の前には意図的に怖い事や苦手なことにチャレンジしておくといいんだよ 」


「 えー、そうなんですか 」


「 そう。先に怖い思いをしておけば、そのあとの結婚や就職で運が落ちるのを防げるっていう、まぁ、一種のおまじないみたいなものだけどね。結構有効だから試すといいよ。

 ちなみにおじさんが今の奥さんと結婚する時はロデオをしたんだ。ちょっとケガをしたけどね。おかげで結婚生活は安泰さ。でも今はロデオが出来るところなんて少ないからねぇ、今ならバンジーがお勧めかな 」


「「 バンジー?出来るところがあるんですか? 」」


「 あるよー。ロサンゼルスには両手で収まらないぐらいバンジー場が色々あるんだ。このちょっと先にもあるよ。興味あるかい? 」


「 敦賀さん、私、行ってみたい!! 」


「 言うと思った。いや、行くのは良いと思うけど… 」


「 いやー、おじさんがお勧めしておいて言うのもなんだけど、かなり高い所から飛び降りるやつだから結構覚悟が必要だと思うよ。おじさんだったらやりたくないねー。けど若者は結構チャレンジしているし、やらなくても見に行く価値はあると思うから行ってみたらどうだい?話題にできるし 」


「 ですって!行ってみましょうよ! 」


「 まったく、君は何にでも興味を持つんだから。いいよ、わかった 」



 言いながらキョーコの肩を自然に抱き、浮かべた蓮の表情はとても優しいものだった。




 もちろん、気づいてなどいなかったのだ。


 そんな二人の様子を遠くから見ていた者がいたことなど。






 ⇒◇5 に続く


アメリカのリカー市場とかラッピングとかぜんぶ想像です。日本酒もずいぶん輸出されるようになったようですが、実際にどれほど出荷されているのか、銘柄がどうとか一切調べていませんのでその辺はご容赦くださいね。



⇒その腕の中で眠りたい◇4・拍手

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