レース・ローズ ◇27 | 有限実践組-skipbeat-

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 前話こちらです↓ ※色が違うのはキョコside

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■ レース・ローズ ◇27 ■





 期間限定ギャラリー閉場後の片づけは、デパート側の担当者数名と一緒に社さんや最上さんも手伝ってくれて、おかげで1時間後にはデパートの社長さんに挨拶を済ませることまで出来ていた。


 穴をあけた壁の原状復帰はデパート側がするのだが、その費用に関しては俺が支払うことになっている。

 その請求書は後日送付されることになっていて、けれど事前に概算見積もりを貰っていたことでギャラリー自体の収支を把握することは出来ていて、つまりしつこいようだがイベント販促の売り上げは大成功といっていいものだった。



「 撤収も無事終わったところで飲みにいくかぁ。蓮の車で 」


「 はい、はい、お待たせしました。どうぞ乗ってください。最上さんは助手席にね 」


「 え、でもそうしたら社さんはどうするんですか? 」


「 大丈夫だよ、キョーコちゃん。俺は額縁と一緒に後ろで充分。道は分かるだろ、蓮 」


「 もちろんです 」



 最上さんが提案してくれたお疲れ様会をやる店は社さんが手配してくれていた。なんとそこは俺の家から徒歩数分。

 間違いなく、会場を引き払うのにどうしても車が必要だった俺のことを考え、飲酒運転にならないようにしてくれたんだなと思った。



 契約している駐車場に車を置いて、3人で店まで歩いて移動した。

 店に着いてさらに感動したのは、社さんが個室を予約していてくれたこと。


 案内された部屋に入ると俺の緊張が柔らかく解けた。


 自分では意識していなかったけれど、仕事をしている間はやはり気を使っているものなのだと理解が及んだ。



「 さて、どうする。最初はやっぱりビールにするか? 」


「 ええ、いいですよ 」


「 あの、それすみません。私、実は炭酸が苦手でして・・・ 」


「 え。最上さんってそうなの? 」


「 はい、すみません。そうなんです 」


「 そうか。キョーコちゃんがそうなら炭酸のない水割りか焼酎、または日本酒で乾杯にしようか 」


「 そうですね 」


「 ということで、どれがいいかな、キョーコちゃん 」


「 えぇぇ。お二人はお二人で飲みたいものを選んでください。私に合わせなくても大丈夫ですので 」


「 それこそお気遣いなく 」


「 でもぉぉぉ 」


「「 俺達どうせいつもちゃんぽんしちゃうから 」」


「 ひえぇぇぇ 」



 最上さんの好みに合わせて3人でウーロンハイを頼んだ。


 それがまたすごく新鮮に思えて更に肩から力が抜けた。



 ギャラリストとして酒の席に着く時はいつも大体ビールだから。

 飲み物が違うという、ただそれだけのことだけど、この場は完全にプライベートで良いのだと強く実感することができた。



「 では、新米ギャラリストのイベント販促成功を祝して 」


「「「 カンパーイ 」」」



 そこで、料理の注文を最上さんに一任。

 社さんとはいつも似たような物しか注文しないから。


 さらに新鮮な気分が味わえるかも、と期待してのことだった。・・・のだけど。



「 いつも頼む奴がきたな、蓮 」


「 クス。ええ、そうですね 」


「 ええぇぇぇ、そうなんですか。期待を裏切っちゃってすみません!!自分の好みじゃなくて、ひねって注文すれば良かった 」


「 なんで。そこは食の好みがお互い似てるんだねってことで落ち着けばいいんじゃないの、最上さん 」


「 そうそう。蓮の言う通り 」



 俺の言葉に納得してくれたのか、安堵してくれたのか。

 最上さんが俺を見て柔らかく微笑む。


 それを見てやっぱり可愛いな、とまた思った。


 いや、これはあくまでも一般的な意見としてだぞ。




「 なに?高園寺絵梨花が? 」


「 ええ。俺の言い値で構わないから売ってくれって。何度も何度も 」



 箸を進めてしばらくして販促会の話になって、すぐにこの件を吐露した。

 以降、しばらくの間は俺と社さんだけの会話になってしまった。



「 それで、もしかしたら彼女があの絵を流した本人かもって。正直、本当にあまりにしつこいので、ちょっと疑っているんです 」


「 ・・・いや、でも、いくら何でもそれは飛躍しすぎだろう、蓮 」


「 そうでしょうか。でも社さんがそう言ったんですよ 」


「 言ったよ。確かに俺、そういう風に言ったけど。でも考えてもみろよ。ギャラリストオンリーの販促会場に一般人が持ち込んだ絵画を陳列させるってところにもう無理があるだろ。そもそも関係者以外入れない場所なんだから 」


「 っっそうですけど、でも、高園寺という立場を利用したら出来ないこともないのかもって・・ 」


「 考えすぎ 」


「 でももしかしたら 」


「 考えすぎだよ 」



 社さんから二度釘を刺され、そうかもしれないという気がした。

 我ながら一点だけに考えを集中させ過ぎていたかもしれない。


 けれど。

 だとするなら彼女のゆずって攻撃はあまりにしつこ過ぎないだろうか。

 しかも態度が最悪だ。


 断っているのは俺なのに、ただそばにいただけの関係ない最上さんをあんな鋭い目でにらみつけるなんて。



「 なにため息ついてんだよ、色男 」


「 別に 」


「 あ、そ。しかしアレだな。高園寺絵梨花は本気でお前を振り向かせたくて必死ってことなんだな。まぁ、知ってたけど 」


「 どうしてそうなるんですか 」


「 だってそうだろ。非売品の絵をお前の言い値で譲ってくれなんて、そういう気持ちがなきゃ言えないと思うぞ。鑑定なんて金のかかる事はしなくていいって言ったんだろ 」


「 言った事は言いましたけど、話の流れからいうと払うのは彼女じゃない気がしますけどね 」


「 なんでだよ? 」


「 実は初日だけ同伴者がいたんです。その同伴者があの絵に興味を持ちましてね。それで譲ってくれって言い出したので 」


「 へぇ、同伴者。それってあれか。お金持ちのお友達ってやつか 」


「 どうでしょうね。珍しく異性でしたけど。年は俺とあまり変わらなそうな外見だったから、あるいは彼女の父親が別の意味で知り合わせた可能性もって所でしょうか 」


「 へぇ、なるほど。ちなみにどんな男?お前に似てる? 」


「 そうですね。性別だけはそっくりです。確か、名前は北条って言っていたかな 」


「 ・・・北条?それってどこかの財閥の御曹司とかか?いや、でも聞いたことないな 」


「 さあ。知りませんし、興味もありません 」



 そう答えて口をつぐみ、俺は豪快にウーロンハイを煽った。



 本当に興味なんて微塵もなかった。

 俺が心底気に入ったあの絵を見て、相当価値がありそうだなんて言うヤツに好感を持てるはずがない。



「 でも、ちょっと分かる気がします。私は・・・ 」



 そのとき、それまで黙っていた最上さんが控えめに口を開いた。


 いま彼女は何に理解を示したのか。

 それが分からなかった俺は、自分の右隣にいた最上さんに視線を移して、続く彼女の言葉を待った。



「 だってあの絵、本当に素敵ですもんね 」


「 ・・・っっ 」


「 しかも、絵だけでもじゅうぶん素敵だったのに、額に入れられて飾られているとまた全然違う雰囲気があって、正直に言うと私、会場であの絵を見たときにかなり衝撃が走っちゃったんです。欲しくなっちゃう気持ち、分かります 」


「 もが・・・ 」


「 そうなんだよ、キョーコちゃん、分かってくれる!?ちなみにあのアンティーク調の金色高級額縁を選んだのは俺だよ、俺。油彩画の筆致や立体感をリアルに実感してもらいたくて、前面ガラスカバーなしにしてみたんだ。ガラスが無いと邪魔な光の反射がなくなるからスッキリ鑑賞してもらえるからね 」


「 あ、そうだったんですね?ガラスが無かったんだ。そう言われればそうだったかも。すみません、そこは全然気づいていませんでした 」


「 いいの、いいの。それでいいんだよ。前にも俺、言ったでしょ。額縁はあくまでも絵を引き立たせるための物だって。気づかなくて当然だよ 」


「 そうでしたね。確かに社さん、前にそう仰っていました 」


「 そうそう。超いい絵になっていたでしょー? 」


「 はい、すっごく良い絵になっていました! 」



 そんな風に明るく笑い合う二人を見て、自然と気持ちが和んだ。


 知らず慰められてしまった気分。


 最上さんは絵画のことは何も知らない素人だけど、やっぱりこの子は信頼できるよなって、そう思った。




 数百年の時を経て、いま有名になっている画家たちの大半は、その画業が認められるまでに長い苦闘の刻を歩んだ。

 そんな夫を持った妻のほとんどは、夫より先に亡くなっている。そういうケースが圧倒的に多かった。


 画家の妻、という立場はもしかしたら当時、相当の心労があったのかもしれない。



 画家とモデルが恋に落ちる、なんていうのは本当によくあるパターンだったらしい。

 だとするなら画家たちにとって恋愛こそが自らの生を確認するための彷徨だったのかもしれない。そしてそれ自体が自らの芸術を深めてゆくための神聖なる営みだったのかも。


 だからこそ画家は魂を焦がし続け、愛しい人を輝かしくキャンパスに描き出すことが出来たのだろう。生命を吹き込むことが出来たのだろう。


 そんな画家たちの伴侶として、ほとんど語られる事のなかった妻たちは、けれどいま、画家が残した作品の中で静かに息づいている。



 レース・ローズと名付けたあの絵にも

 そんな歴史があるのかな。


 自分をここまで惹きつけている理由を

 俺はそんな風に考えていた。




「 Love is the greatest refreshment in life 」


「 え?いまなんて言ったんですか、敦賀さん 」


「 ん、別に。気にしないで、ひとり言だから 」



 自分の意志で声にしたくせに、なんとなく最上さんには伝えにくくて、わざと濁してそう言った。


 しかしどうやら社さんにはちゃんと聞こえていたらしい。


 社さんは頬杖をつきながら俺を見て、意を得たり・・・と言いたげな視線でニヤリと笑った。



「 それ、ピカソの言葉だな 」


「 ・・・っっ 」



 だから。何で知ってるんだよ、額縁屋のくせに。

 そういうのって絶対、仕事上の副産物的な知識じゃないだろう。

 なんだかんだ言ったって社さんはそういう知識が妙に半端ないのだ。



「 いいんじゃないの、蓮。Gravitation cannnot be responsible for people fallling in love 」


「 いえ、別に俺は・・・ 」


「 え?え?それは何て言ったんですか? 」


「 んー?ふふふ、判らない人は分からなくてよろしい 」


「 えー、知りたいー 」


「 あ。・・・という所で俺は退散しようかな。明日も仕事あるしぃ。ちょうど迎えが来たみたいだから 」


「 迎え? 」



 いま急に振動を始めたばかりの携帯画面を社さんが俺たちに見せてくれた。

 画面表示は会社社長となっていて、どうやら発信してきたのは社さんが勤めている額縁屋の社長さんらしかった。



「 社長が社員を迎えに来てくれるんですか。すごい親切な会社ですね 」


「 それぐらいしてもいいだろ。たった3人しかいない会社の従業員なんだし、お前も頑張っただろうけど俺だって功労者だし 」


「 確かに。期間中、大変お世話になりました。後日ギャラリストとして改めてお礼に伺いますと社長さんにお伝えください 」


「 ああ、伝えておく。お前の車に積んでもらった残りの額縁はそのとき引き取らせてもらうから。それと、ありがとうな、蓮。おかげでだいぶ助かったわ 」


「 こちらこそ 」


「 そういうことで、ここまでの飲み代は俺が払っておきます。けど以降の注文分は自分たちで払えよ 」


「 え、ありがとうございます 」


「 は?社さん、ダメですよ!お疲れ様会は私が言い出したことなので私が払います 」


「 いやいや、いいからキョーコちゃん。ここはお兄さんに任せなさい。そのかわり、以降の追加は自分たちでね 」


「 でもでもっ 」


「 いいから。年下なら年下らしく、年配者のいう事を聞きなさい。それもまた社会勉強、大人の付き合い 」


「 ・・・はい、ご馳走様でした 」


「 うん、よしよし。じゃ、またな蓮 」


「 お疲れ様でした 」



 このあと、社さんが退席してしまったことで何となく会話が続かなくなり、気づいたら入店から2時間以上が経過していた事から、出ようというムードになった。

 それで注文したものを二人で全て平らげ、お疲れ様会はお開きとなった。



 10月半ばとはいえ、夜の風はすっかり冷たくなっている。

 そんな中、彼女が歩いて帰ろうとしたので慌てて最上さんを引き止めた。


 酔いが醒めてから送っていくから、と言って。






 ⇒レース・ローズ◇28 に続く


入れようと思っていた内容が全部入らなくて、こんな所で切る羽目になりましたwフッ



The Lace Rose◇27・拍手

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