レース・ローズ ◇30 | 有限実践組-skipbeat-

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 現代パラレル蓮キョ、お届けいたします。

 少々長めです、すみません。


 前話こちらです↓ ※色が違うのはキョコside

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■ レース・ローズ ◇30 ■





 翌水曜日。

 改めてお礼に伺いますと言ったその言葉通り、俺は社さんから預かっていた額縁の返却も兼ねて社さんの勤務先事務所へと顔を出した。


 すっかりやる気が削がれていた俺に覇気はなく、それが目に余ったのだろう社さんが、ソファに腰を下ろした俺に向かって眉間に深い皺を刻んだ。



「 お前、そうやって力なく俯くな!! 」


「 ・・・っっ 」


「 なに、社くん、急に大声を出したりして 」


「 すみません、社長。でも言わせてください。

 蓮、そうやって俯くな。下を向いたら前に進めなくなる 」


「 っっっ 」


「 何人も見て来たんだよ、俺は。心を折られてギャラリストを廃業した人たちを沢山。でもお前はそれに負けるな。自分を信じて突き進め!そう出来ない者に明るい未来なんて来ない 」



 ・・・そんなこと、分かっています。

 そう思って自分は突き進んできたんだ、今まで。


 どんなにみっともなくても

 頑張って来たからこそ、今の自分があるのだ。


 そんなこと

 頭では分かっていた。



「 いいのか、お前。金持ちの家に生まれたってだけの娘に、そんな簡単に翻弄されて降参するつもりか。お前の情熱ってそんな程度のものだったのか 」


「 っっっ違いますよ!!もうこれしか道がないと思ったから、だから俺はギャラリストになったんだっっ 」


「 だったら突き進め。使えるものは何でも使え。綺麗ごとばかりで世の中を渡る事は出来ないんだ。とはいえ、泥にまみれろって言ってる訳じゃないからな。その辺は勘違いするなよな 」



 社さんに叱咤されて、そうだ、しっかりしなきゃと思った。


 ギャラリストとして初めて彼に挨拶したとき

 ずいぶん若いなと笑われた。


 そのとき俺は忠告を受けていた。


 年月を重ね、どんなに知識と経験を積んだ者でも、たった一回の判断ミスで廃業に追い込まれることは割とあるということを。

 ギャラリストは、アーティスト、額縁屋、同業者、不特定多数の客、の誰からもそっぽを向かれては商売として成り立たないということ。



 そして、年若い者ほど自分を信じぬくことが難しいのか、去り行くまでの期間があまりにも短いという事も。



 だからせいぜいガンバレと、俺は背中を後押しされていた。



 たぶん、今の俺の状態はきっと

 社さんからしたら、それ見たことかという感じで


 風前の灯火、風の前の塵、風の前の雲・・・という言葉がぴったり当てはまる風情なのかもしれない。




「 蓮。行けよ、祝賀パーティ。有難くもないご厚意かもしれないけど、せっかく開いてくれるって言ってるんだ 」


「 ・・・・いや、でも、俺 」


「 ん?社くん、それ、なんの話? 」


「 ギャラリスト敦賀蓮にベタ惚れしている金持ちのお嬢さんが、成功を収めた期間限定ギャラリーを祝してパーティを開きたいと申し出てくれたらしいんですよ。しかもそのパーティにたくさんお友達も呼んでくれるとか 」


「 えええっっ?!それ、祝賀パーティとは名ばかりの販促イベントみたいなもんじゃないか 」


「 ・・・と俺も思いましてね。それで行けって・・・ 」


「 敦賀くん、それは絶対行くべきだよ!額縁はもちろんウチで用意させてもらっていいんだよね?値段も納期も頑張らせてもらうから、ぜひぜひよろしく頼むよ! 」


「 あ、あの、すみません。俺、そのパーティにだけは・・・ 」


「 行け 」


「 社さん 」


「 お前が考えている事なんて大体察せる。そこで聞く。売られる絵と売られない絵。どちらが絵にとっての幸せだ? 」


「 そんなの・・・ 」


「 そうだ、 俺達に分かるはずもない。だったら日の目を見せてやれ。あとな、恐らくあれだろ。お前が気にしているのは、前にブチブチ文句を言っていたやつだろう。高園寺絵梨花にパートナー顔されたのが腹立ったとか何とか。その解決方法を教えてやる 」


「 え? 」


「 パートナーを連れて行けばいいんだよ。それだけでことは済む 」


「 ・・・え? 」


「 キョーコちゃん。キョーコちゃんに同伴してもらえばいい。パーティ出席でのパートナー同伴は海外では一般的な礼儀だって、知ってるか?いくら主催者本人でも人前なら、社長令嬢っていう立場もあるしみっともない真似できないだろ。つまり、それで万事が丸く収まる 」


「 収まる・・・でしょうか 」


「 それで収めるんだよ。事情を話せばあの子はちゃんと分かってくれるだろうし、そもそもお前もキョーコちゃんなら良いって思えるだろうが。自分のパートナーがあの子ならって 」



 いや、だから本当に

 恐ろしいほどお見通しなんだよな。



 でも


 確かにそれなら・・・って思った。


 だけどさすがに自信がなかった。

 最上さんが、了解してくれるかどうかについては。



 この前、高園寺絵梨花から最上さんは物凄い顔で睨まれたばかりなのだ。

 そんなことをする女が主催するパーティに、付き合ってもいない俺のパートナーとして参加なんて、しようと思ってくれるだろうか。



「 ・・・ということだ。心が決まったら連絡してくれ、蓮 」


「 わかりました 」



 心が決まったら、というのはもちろんパーティに出席する意志のことだ。


 このとき、信じられないかも知れないけれど、俺の気持ちは行く方向に傾いていた。



 我ながらびっくりするぐらい不思議だ。でも確かに俺の気持ちは驚くほど前を向いていた。


 俺にとって最上さんが女神なら

 社さんは救いの神なのかもしれない。

 本当に、社さんにはずいぶん助けられて来たのだ。




 額縁屋を辞去したあと、俺はLMEデパートへと足を運んだ。お礼訪問のつもりだった。


 実はLMEデパートから早々に売上金の振り込みがあったのだ。

 穴をあけた壁の原状復帰費用の請求書は未着だが、それは追ってということになるのだろう。


 大抵のデパートの社長さんというと、店舗とは別に事務所をどこかに抱えているものだが、LMEデパートの社長さんは現場主義者らしく、社長室はデパートビル内に備えてあった。


 そこでまたしても俺は救いの神に出会う。



「 宝田社長。先日はお世話になりました。またこのたびは早々のご入金をありがとうございました 」


「 ああ、なんだ。そんなの礼を言われるほどのことじゃない。商売として当たり前のことだ 」


「 それでも有難いです。普通だったらひと月後、場合によってはふた月後ってこともあり得るので 」


「 だな。しかし金は回してなんぼだ、と俺は思っているからな 」



 そう言って弾んだウィンクを投げてきた社長のお茶目さに口元が緩んだ。



「 それで、原状復帰の請求書はいつ頃になりそうでしょうか?いまフロアを見て来たらもう工事が始まっていたみたいだったのですが 」


「 ああ。もともと催事場フロアは店内改装をするつもりだったのだ。次は今後のことを考えてあらゆる展示が出来るようにするつもりだ。今回のギャラリーイベントはずいぶん壁を傷めつけるものだったが、ま、手数料をがっぽりもらえたこともあって、ウチとしては君に請求する予定はない 」


「 え?いえ、でもそれでは話が・・・ 」


「 いいんだ。言っただろ。催事場フロアはもともと店内改装を予定していたのだ。それが少し遅れたっつーだけのことだ。それに、君はまだ若い。資金繰りだってまだ思うようにはいかんだろうし、商売をしていく上でこれからいくらでも挫折を味わうに違いない。そのとき、今回した俺の温情を思い出して踏ん張ってくれたらそれでいい。ああ、でも、いつか俺がした事を君が誰かにしてくれたら嬉しいかなとは思うが 」


「 ・・・なんですか、それ。心、広すぎですね 」


「 ほう、そうか?俺はそうは思わんが 」


「 絶対広いですよ。それで思い出しました。そう言えば俺、不思議に思っていたことがあるんです。聞いてもいいですか? 」


「 なんだ? 」


「 なぜ俺のイベントを・・・ 」



 迎えて入れてくれる気になったのか。

 もっと言えば、なぜ俺に声をかけて来たのか。



 LMEデパートは、高園寺グループとは全く関係が無かった。

 だからこそ俺もお願いする気になったのだが、イベント会場がここになった理由は、デパート側からの声がけがあったからだった。


 つまり俺からお願いした訳ではなかったのだ。



 それを不思議に思っていた。

 でもそんなものなのかと最初は受け止めていた。


 流行に敏感で、新製品などの売り場展開が素早いことがこのデパートの売りで、だからこそ、高級品を揃えながらもこのデパートはこんなにも人気があるのだろう、と。



 でも今日、初めてそうではなかったことを知った。


 いや、それも決して間違いではないのだ。

 いち早く情報をキャッチし、社長にそんな提案が出来るぐらいの人材を抱えている事だけは確かなのだから。



 最上階の一角に設えられていた社長室を後にした俺は、2フロア下に駆け下りた。

 そこは婦人服売り場で、彼女がたまたま今日、来ていると教えられたからだった。


 ネクタイを締め、スーツに身を固めた身長190センチの男が、平日昼間に一人で婦人服売り場をうろつくのはどうやらだいぶ目立つらしい。

 その証拠に、俺が彼女を見つける前に、彼女が俺を見つけてくれた。



「 あっれー?敦賀氏。どうしたの、こんな所で。迷子? 」


「 さわ・・・ちゃん 」


「 ぷっ。なに、相変わらず京子さんと一緒のさわちゃん呼びなんだ。以前みたいに椹さんの娘って呼んでもいいのに 」


「 本当、なのか? 」


「 ん? 」


「 君が、LMEデパートのバイヤーだって話。それで君が、俺のイベント計画を社長に話してくれたってこと 」


「 あれ。もしかしたら宝田社長がしゃべっちゃった?もう!そういうのは数年後に分かった方が感動が深くなるのに 」


「 ・・・ってことは、本当なんだ。なんで? 」


「 なんで?何でって、社長が何か面白いイベント無いかなーって言ったから。そういえば私の父がアーティストでー、それで知り合いになったギャラリストがいてーって話をしたら、面白そうだなって乗って来たって、ただそれだけのことよ? 」



 ただそれだけ?

 うそだ、社長はそんな風に言っていなかった。


 若いけど実直な商売をしているギャラリストがいると。どうか社長の力を貸してあげてくださいと。君が強力に押してきたという話をいま聞いてきたばかりなんだ。



『 それで、椹くんがそんな熱心に勧めるなら間違いないと判断して、イベント会場を提供することにしたのだ。椹くんも君と同じで若いが、信頼できる腕のいいバイヤーでな。彼女は良いものを見極める目を持っている。ついでに言うと、人を見る目もあると俺は思っているのだ 』



 この子には良いものを見極める目がある、という話は前にも聞いた覚えがあった。

 他ならぬ彼女の父親が娘をそう評価していたのだ。


 それで最上さんはトロ―ニーの布小物をすべて手掛けることになり

 俺は椹さんと専属契約をしてもらえることになって・・・




『 いいか、新米ギャラリストに教えてやる。

 ギャラリストはアーティスト、額縁屋、同業者、不特定多数の客の誰からもそっぽを向かれてはならない。なぜなら商売として成り立たなくなるからだ。逆に信頼を得ることさえ出来れば、思わぬところから道が拓けることもある。それを信じて頑張れ 』




 そのとき俺は、はいと答えた。

 頑張ろうって思って、そのまま突き進んできた結果が今の俺だということだ。

 社さんが言った通り、知らぬ間に道は拓けていたのだ。



 胸が、これでもかと熱くなった気がした。

 信じられないぐらい感動している。


 自分とは6才しか違わないのに、社さんと俺の差は何だろう。


 落とされた奈落が深かったからこそ、挿し込んできた光明の明るさと、人の暖かさが有難かった。

 感謝の気持ちがこみ上げる。そのすべての想いを込めて、俺は心の底から頭を下げた。



「 さわちゃん。ありがとう。本当にありがとう!! 」


「 ちょっと!なによ、急にやめて。しかも何でそんなに腰を折るのよ。まるで私がそうさせているみたいじゃん!顔を上げてよ! 」


「 ふっ。ごめん 」


「 それに、どうせやるなら個室の懐石料理に招待してくれて、二人きりになった時に感謝をささげてヨ 」


「 懐石料理?そういうのが好き? 」


「 別に。特に思い入れがある訳じゃないけど、買い付けのために海外に行くと無性に日本料理が食べたくなっちゃうのよ。今回も一昨日帰って来たばかりだから 」


「 海外って。そう言えば聞いたよ、社長から。君はなんのバイヤーなの? 」


「 私?私は婦人服やアクセサリー関係のバイヤーだよ。可愛い物とか素敵なものとか大好きなんだ。でも自分じゃ作れないからさー。いつの間にか買う専門家みたいになっちゃった 」




 俺の娘はそんなに器用じゃなくてな。

 感性はあると思うのだが。




「 ああ・・・ 」


「 あっ、敦賀氏、ねぇ、これ見て!! 」


「 ん? 」


「 いまマネキンに着せようとしていたの、このワンピース。素敵でしょう?機械に一切頼らずに職人さんが手作りした一点ものなんだよ。それで聞いてよ、これを作る職人さんが頑固でさぁ、譲ってもらうの、本当に苦労したんだ。何度京子さんの手作りバッグに助けられたことか・・・。そのたびに京子さんの顔を思い出していたからついこう思っちゃうんだけど、これ、京子さんに似合いそうだと思わない!? 」



 そう言ってさわちゃんが一着の服を手に取った。

 広げられたワンピースを見た瞬間、俺はレース・ローズを思い出した。


 手編みなのだろう繊細なレースにまとわれ、華奢で清楚で真っ白なワンピースは、丈が長ければまるでウエディングドレスのようだった。

 いや、これでも十分・・・。



 いいな、これ。

 これを着て最上さん、俺とパーティに行ってくれないかな。


 俺がこの服をプレゼントしたら

 彼女は首を縦に振ってくれるだろうか。

 パートナーとして同伴するのを快く了解してくれるだろうか。




「 うん。これ、最上さんに似合うと思う 」


「 でしょう?!さすが彼氏、分かってるぅ 」


「 さわちゃん、それ、俺が買う 」


「 へ? 」


「 いま買う。だからディスプレイするの、やめて 」



 たぶん、俺がそう言うとは予想していなかったのだろう。

 ワンピースを手にしたさわちゃんは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして俺を見上げて数秒後、ようやく俺の言葉を飲み込んだのか、力いっぱい俺の背中をバーンと叩いた。



「 よっしゃぁ、まいどありぃっ!! 」



 そりゃあもう、満面の笑顔で。






 ⇒レース・ローズ◇31 に続く


敦賀氏がキョーコちゃんに贈るためのワンピースを買うシーンも、割と前から妄想していたシーンだったので、書けて大満足です。


しかし、高級デパートで「まいどあり」は止めた方がいいぞ、さわちゃんw



⇒The Lace Rose◇30・拍手

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