レース・ローズ ◇31 | 有限実践組-skipbeat-

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 前話こちらです↓ ※色が違うのはキョコside

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■ レース・ローズ ◇31 ■





 数分後、そのワンピースはまるで華道の家元が活けた花の如く可憐な箱に収められ、実に丁寧なラッピングが施され、あろうことかゴージャスなリボンまで結ばれて、サービスカウンターでお待たせしましたと手渡された。



「 ・・・さわちゃん。俺、こんなあからさまなプレゼント包装されたやつだと最上さんにどういう顔で渡すべきか逆に悩むんだけど 」


「 はぁ?ばっかじゃないの、敦賀氏。そういう時こそ、その顔を活かしなさいよ 」


「 はぁ? 」


「 はぁ?じゃないわよ!ねぇ? 」



 ラッピングしてくれた店員さんにさわちゃんが同意を求めると、俺より少々年上と思われるその女性は自信満々にそうですよ、と頷いた。



「 そうですよ。何も心配なんて要らないですよ。まずそのお顔でお嬢さんの視線を釘付けにしてさしあげればいいんです。そして見つめ合った後に一呼吸おいて、笑顔でハイって渡すだけでグッジョブだと思いますわ 」



 グッジョブって、そんな適当な・・・。



「 とにかくありがとう。それで、くれぐれもこの事は・・・ 」


「 言わないわよ、大丈夫。ヨーロッパでも割と有名な職人さんが手作りしたワンピースなだけに、輸入価格もあって一着40万もする代物だなんてキョーコさんには口が裂けても言いません 」


「 ・・・絶対だからな? 」


「 ふふふ。えー、どうしようかなぁ 」


「 さわちゃん!! 」


「 うそ、言わないよ。特別割引で36万にしてあげたことなんて 」


「 君、絶対彼女に言う気だろ? 」


「 そりゃあ、いつかはね。そうだなぁ・・・二人がおじいちゃん、おばあちゃんになった頃にまだ私と交流があったら、かな。その時にね!その日が来るのが楽しみだわー♡ 」



 そうなるように頑張って!と背中を押され、俺はLMEデパートを後にした。

 その足でまっすぐ最上さんの家に向かう。


 今日は水曜日だから恐らく彼女は家にいるはず。

 たぶん、12月のイベントに向けての新作を作っているはずなのだ。前にそう言っていたから。


 それでも念のために電話を入れた。すると思った通り彼女は家の中にいた。

 いまから行ってもいいかと聞いたらかなり戸惑っていたけれど、お願いしたいことがあると言ったら、それならどうぞと言ってくれた。



 ありがとうと言って電話を切って、助手席にある包みを見て口元を緩める。


 受け取ってくれるだろうかと想像を巡らせるだけでドキドキして、緊張感が高まった。


 ピンポンを鳴らすと彼女はすぐ応じてくれた。

 開かれた玄関から見えた家の中はびっくりするほど布に占拠された1DKだった。



「 なんか、この前よりかなり凄くなっている気がする 」


「 すっ、すみません!一度作業を始めちゃうといつもこんな感じで・・・ 」


「 いや、謝る必要なんてないよ。この前の俺の家だってそんな感じだっただろ。君の家と大差ない 」


「 そうでしたね、確かに 」


「 ね。むしろ普通だよ、そう思おう、お互いに 」


「 そうですね! 」


「「 でもときどき、もうちょっと広い家に住めたらなって思う時が・・ 」」



 玄関先で思わずハモって二人で顔を見合わせて目を細めた。

 そのときふと、一つのアイディアが浮かんだ。自分の店舗についてのことだった。


 社さんに背中を押され、さわちゃんから応援を受けていた事実を知って、俺の気持ちはだいぶ上を向いていて、だからこそ思いついた事かも知れなかった。



 俺は最上さんの家には上がらず、最上さんは玄関先の床に正座で、俺は膝だけを床に乗り上げた形で腰を下ろして二人で話を続けた。



「 それで、お願いしたい事って何ですか? 」


「 うん、あのね。最上さん、俺に同伴してくれないかな? 」


「 はい?同伴って、一体どこに? 」


「 昨日、君が行けばって勧めてくれた高園寺絵梨花が主宰するパーティに 」


「 はいっ?なんでですか? 」


「 それは、やっぱり俺、行きたくないから 」


「 なにそれ 」


「 俺、あの子の目がやっぱりどうしても嫌なんだよ。そんな子にまたパートナー面をされるかもと考えるだけで足取りが重くなる。けど、社さんが・・・。始めからパートナーを連れて行けば解決するだろってね。それを聞いて、それならいいかもって思ったんだ。最上さんと一緒ならって。君には申し訳ないと思うけど 」


「 申し訳ないって、どうしてそう思うんですか? 」


「 だって君、このまえ高園寺さんから睨まれた時にムっとしていただろ。それからビックサイトの時だって。俺と一緒にいるってだけで見ず知らずの他人から嫌な顔をされるなんて実際不愉快だろうし 」


「 ああ、はい。ビックサイトの時のは全然私は気にしていませんでしたけど、でも実はあの時にそうなんだろうなって思っていたんですよね。あの人、敦賀さんのことが好きなんだろうなーって 」


「 ・・・そうなんだ 」


「 分かりやすいぐらい分かりやすかったですしね、あの人。だからこの前睨まれたときはムッとしちゃったんですけど 」



 そう言ったあと最上さんは口を閉ざしてしまった。

 沈黙の時がしばし流れる。

 その時間が続けば続くほど断られる可能性が高くなる気がして、俺は先手必勝とばかりに口を開いた。



「 最上さん、ダメかな?パーティの間は俺、ずっと君のそばにいるよ。あの子の知り合いばかりのパーティなんて居心地が悪いかもしれないけど、俺がずっと君のそばにいるから。だから一緒に来てくれないか?この前の君のイベントで俺が君の彼氏だったみたいに、今度は俺のパートナーとしてパーティに参加して欲しいんだ 」



 伺うように小首を傾げて、彼女の顔を覗き込む。


 すると最上さんは少しの間逡巡して、それから俺を見て、仕方がないなって笑顔を浮かべた。



罪作りだなぁ、もう・・・


「 え? 」


大丈夫。自分がしっかりしていればいいんだもん


「 最上さん? 」


「 はい、いいですよ、敦賀さん。だって私、言いましたから。私にして欲しいことがあるなら遠慮なく言って下さいねって 」


「 ありがとう 」



 本音を言うと、俺、この子ならそう言ってくれるんじゃないかって頭のどこかで予想していた。

 でも実際に彼女の口からそれを聞いたら安堵の気持ちが広がって、自分が何万分の一かの危惧を密かに抱いていた事を悟った。



「 それで、という訳じゃないけど、これ、君にプレゼント 」



 玄関先で話していたのをこれ幸いと、自分の背中に隠していた包みを彼女の前に差し出した。



「 ふぇい?なんですか、このゴージャスな包みは?! 」


「 君へのプレゼント 」


「 え?え?え? 」


「 パーティ当日はこれを着てくれたらなって思って、思わず買っちゃったんだ。あ、いや、でも違うから。今までのお礼の意味も含めているから、君が断っても君にプレゼントするつもりだったんだ。だから遠慮とかやめて欲しい 」


「 敦賀さん、それ誰に言い訳しているんですか 」


「 いや、言い訳している訳じゃ・・ 」


「 ということは、この中身はお洋服ってことなんですね。そうなんだ。敦賀さんって意外と罪作りな人ですね 」


「 え? 」


「 開けても? 」


「 うん、見てみて。それで気に入らなかったら・・・・どうしよう 」


「 ぷっ 」



 華やかに結ばれたリボンが解かれ、乱れなくラッピングされた紙が丁寧にまくられる。

 可憐な模様が描かれた蓋を開けた最上さんは、現れたワンピースを見て、目を見張った。



「 うわっ・・っっ、信じられないほど繊細なレース 」


「 うん。さわちゃんが言うには・・・ちなみにさわちゃんってLMEデパートのバイヤーだって知ってた?今日、社長のところに挨拶に行って偶然顔を合わせたんだ 」


「 え、知りませんでした。そうなんですか 」


「 そうなんだって。そのさわちゃんが言うには、ヨーロッパの職人さんの手作りらしい 」


「 うそ、これ手作り?ってことはこれ、手編みってこと?!うわー、すごい。なんて芸術的!! 」


「 きれいだよね。レースが過去、宝石以上の価値として取引されていたっていうのも納得できる気がした 」


「 キレイ・・・なんてもんじゃないです。え、本当にこれを私に? 」


「 うん。俺じゃ着られないから 」



 俺の言葉に目をキラキラと輝かせた最上さんが明るく微笑む。

 本当はお断りするべきなのに、と呟いた最上さんは、けれどそのワンピースに心を奪われ、あっさり受け取りを承諾してくれた。



「 見れば見るほど素敵な服。このワンピースは白だから、バッグは華やかなのを持った方がバランスが取れそうかな。そうだ、立体的な花模様とか・・・ 」


「 もしかしたら、自分で作る? 」


「 もちろんです。だって私、手芸作家ですよ? 」


「 それ、最上さん、それってどのぐらいかかるかな? 」


「 え・・・あ、パーティって今週末でしたっけ?それだとさすがに間に合わないかも 」


「 来週末だったら?それなら平気? 」


「 平気です。一週間もあれば。でも・・ 」


「 じゃあ来週末にしてって言うよ。俺も見たいから。この服を着た君が自分で作ったバッグとペアになった姿を 」



 俺の言葉で彼女の顔がやわらかに華やぐ。

 良かったって思った。



 受け取ってもらえて良かった。

 喜んでくれているみたいで良かった。

 一緒に行くことを承諾してくれてよかった。

 俺のパートナーがこの子で良かった。


 いや、もちろん仮のパートナーだけれども。



「 当日は俺が迎えに来るから。会場がどこになるのかは知らないけど、とにかく最初から最後まで俺のパートナーとしてよろしくね 」


「 はい、了解です 」



 そんな訳で、パーティの日程は翌週土曜日にしてもらった。

 そのことを社さんに報告すると、社さんも一緒に行くと言い出した。


 絵画の販売はあらかじめ額とセットにしておき、オークションの形を取って手間と時間を省略しよう。その方が売上金も見込めるから、と言ったのは社さんだ。



「 でも俺、オークションに参加した事はありますけど、主催した事なんてないですよ 」



 携帯電話に向かって俺がそう断ると、社さんは分かってると言って笑った。



『 分かってる。俺だってそうだ。けど大丈夫。実は俺の知り合いにオークショニアがいるんだ。そいつに声を掛けてやってもらおう 』


「 え。そんな知り合いがいるんですか。社さんってすごい人脈を持っているんですね 」


『 そうねー、俺、額縁屋としてだけじゃなく、このフレンドリーな性格で色々な所に知り合いがいるからなー 』


「 フレンドリーって、普通、自分で言いませんよね 」


『 残念ながら俺は言うんだ。それで、だ、販売する絵をウチに持ち込んでもらえるか、蓮。なるべく早く額とセットにしておきたいから 』


「 そうですね、分かりました。契約アーティストたちに声を掛けてなるべく早めに集めてみます 」


『 頼むな。それで、依頼するオークショニアには事前に絵を見せることになるが問題ないよな? 』


「 ええ、大丈夫です。それでは、後ほど連絡します 」


『 ああ。販売希望価格を書いた紙も一緒に頼むなー。経費に関しては後で知らせる 』


「 了解しました 」



 通話を切ってただ一言。すごいな、と呟いた。


 社さんには今までもさんざんお世話になって来たけど、更にこんな風にお世話になるとは思ってもいなかった。



 なんだかやる気が湧いてきた。

 自分が選んだ作品が競売にかけられるという体験は生まれて初めてのこと。

 当日、パーティ会場にいるのは主催者である高園寺絵梨花を含む彼女の友人知人だけだから本来のオークションとは全く条件が異なるが、それでも期待に胸が膨らんだ。




 大丈夫だ。

 落ちた奈落は深かったけれど、そこから這い上がるのはそれほど難しい事ではなかった。

 周りに人がいてくれたから。



 諦めずに頑張ろうと思った。

 自分を応援してくれる人がいる限り。

 背中を押してくれる人がいる限り。



「 社さんじゃないけど、ほんと下を向いている場合じゃないよな 」



 せっかく利益を上げることは出来たのだ。

 希望する店舗は誰かに取られてしまったけれど、いつまでもそこに固執していたらまた奈落に落ちるだけ。

 そんな不毛は振り払わないと。



「 今度はちゃんと考えよう。明日 」


 あの不動産屋にもう一度行ってみよう、と思った。






 ⇒レース・ローズ◇32 に続く


頑張れ。



⇒The Lace Rose◇31・拍手

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