☆☆妊娠中および授乳中の新型コロナウイルスワクチン接種について  | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

妊娠中および授乳中の新型コロナウイルスワクチン接種について、しばしば質問がありますので、これまでに発表された論文を下記にまとめます。

 

①N Engl J Med 2021; 385: 1533(米国)doi: 10.1056/NEJMc2113891

要約:妊娠中の新型コロナワクチン接種後の流産(6〜20週)リスクは14.1%でした(通常の母集団12.8%と変わりません:v-safeスタディ)。 

 

②JAMA 2021; 326: 1629(米国)doi: 10.1001/jama.2021.15494

要約:妊娠継続中妊婦92,286名の8.0%が新型コロナワクチンを接種しており、流産妊婦13,160名の8.6%が新型コロナワクチンを接種していました。28日以内のワクチン接種による流産率のオッズ比に有意差を認めませんでした(症例対照研究)。

 

③N Engl J Med 2021; 385: 2008(ノルウェー)doi: 10.1056/NEJMc2114466

要約:妊娠継続中妊婦13,956名の5.5%が新型コロナワクチンを接種しており、流産妊婦4521名の5.1%が新型コロナワクチン接種していました。3〜5週以内のワクチン接種による流産率のオッズ比に有意差を認めませんでした(症例対照研究)。

 

④Nat Med 2021; 27: 1693(イスラエル)doi: 10.1038/s41591-021-01490-8

要約:新型コロナワクチン接種妊婦10,861名とワクチン未接種妊婦10,861名を対象に観察研究を行いました。2 回接種後7~56日でのワクチンの効果は、新型コロナウイルス感染率を96%、症状出現率を97%、入院率を89%抑制しました。未接種群で重症者が1名おられましたが、死者は皆無でした。

 

⑤JAMA 2021; 326: 728(イスラエル)doi: 10.1001/jama.2021.11035

要約:新型コロナワクチン接種1回の妊婦7530名と、同じ条件で適合させたワクチン未接種妊婦7530名を対象に観察研究を行いました。1 回目接種後28~70日の観察期間中に、新型コロナウイルスPCR陽性率はそれぞれ1.6%(118名)と2.7%(202名)、感染率は0.13%(10名)と0.61%(46名)であり、ワクチン接種で感染リスクに有意な低下を認めました。ワクチン関連の有害事象は0.9%(68名)で報告されましたが、いずれも軽微なもので、多い順に頭痛10名、倦怠感8名、疼痛6名でした。

 

⑥Nat Med 2022; 28: 504(英国)doi: 10.1038/s41591-021-01666-2

要約:18,457名の妊婦に新型コロナワクチン接種を実施しました。新型コロナワクチン未接種妊婦で、妊婦感染全体の77.4%、入院者の90.9% 、重症者の98.0%、死亡者の100%を占めました。また、新型コロナウイルス感染と診断され28日以内に出産した女性の周産期死亡率は2.26%でした。

 

⑦JAMA 2021; 325: 2370(米国)doi: 10.1001/jama.2021.7563

要約:新型コロナワクチンを接種した女性103名(妊婦30名、授乳中16名、その他57名)と新型コロナウイルス感染が確認されワクチン未接種の女性28名(妊婦22名、その他6名)を対象に、コロナ関連抗体などを測定しました。ワクチン接種後の妊娠中、授乳中、非妊娠中の女性に、結合抗体,中和抗体,機能的非中和抗体、CD4+T細胞およびCD8+T細胞応答が認められました。また、臍帯血や母乳にも結合抗体や中和抗体が認められました。さらに、変異株に対するT細胞応答も維持されていました(前向きコホート研究)。

 

⑧JAMA Pediatr 2021; 175: 1069(米国)doi: 10.1001/jamapediatrics.2021.1929

要約:7名の授乳中の母親から、新型コロナワクチン接種前と接種後4〜48時間で数回自己採取した母乳中のmRNA濃度を測定しました。どの検体からもワクチンのmRNAは検出されませんでした。

 

⑨JAMA Network Open 2021; 4: e2120575(スペイン)doi: 10.1001/jamanetworkopen.2021.20575

要約:33名の授乳中の女性を対象に、1回目のワクチン接種2週後(第1時点)、2回目のワクチン接種2週後(第2時点)と4週後(第3時点)の3時点で、血清と母乳の検体を採取し、新型コロナウイルスのスパイクタ ンパク(S1)に対するIgG抗体を測定しました。また、全参加者は毎回の検体採取時に鼻腔咽頭検体の迅速抗原検査を受け、新型コロナウイルス感染がないことを確認しました。血清と母乳のペアのS1値の中央値は、第1時点で519と1.0 AU/mL、第2時点で18,644と78.0、第3時点で12,478と50.4でした。母乳と血清のピアソン相関係数は0.7でした。

 

⑩Sci Transl Med 2021; 13: eabi8631(米国)doi: 10.1126/scitranslmed.abi8631

要約:新型コロナワクチン接種後の抗体価は、妊婦、授乳中の女性,対照群で同等でした。しかし、Fc 受容体結合能と抗体のエフェクター機能は、1回目のワクチン接種後には、対照群と比べ妊婦と授乳中の女性では遅延していましたが、2回目の接種後に正常化されました。

 

解説:論文①②③は、新型コロナワクチン接種による流産リスクがないことを示しています。論文

④⑤⑥は、妊婦への新型コロナワクチン接種により、新型コロナウイルス感染率、症状出現率、入院率、重症化率、死亡率が低下することを示しています。また、ワクチン関連の有害事象は0.9%で、内容は軽微なものでした。論文⑦は、ワクチン接種後の血液、臍帯血、母乳に結合抗体や中和抗体が認められ、変異株に対する作用も確認できていますので、赤ちゃんを新型コロナウイルスから守ることになります。論文⑧は、新型コロナワクチンのmRNAは母乳中には存在しないことを示しています。論文⑨は、母乳中への抗体の移行度を示し、論文⑩は、妊婦や授乳婦におけるブースター接種の有効性を示しています。

 

私がいつも参考にさせていただいている、下記の医師のホームページをご参照ください(氏名の五十音順で表示)。エビデンスに基づいた正しい最新情報を得ることができます。

京都大学 川村孝先生

岐阜大学 黒木登志夫先生

参議院議員、慶應義塾大学 古川俊治先生

ノーベル生理学医学賞、京都大学 山中伸弥先生

 

下記の記事を参照してください。

2022.4.27「新型コロナウイルス感染者で卵巣と子宮内の感染はない

2022.4.12「☆新型コロナワクチン接種でAMHは変化しない

2022.3.13「☆新型コロナウイルス感染について:日本産科婦人科学会から

2022.3.7「新型コロナウイルス感染と精液所見

2022.2.23「新型コロナウイルス感染の精子への影響

2022.2.21「生殖器への新型コロナウイルス感染はない

2022.2.10「新型コロナウイルスの垂直感染

2022.1.27「新型コロナウイルスワクチンと妊孕性

2021.11.28「新型コロナウイルス感染による精子のRNA変化

2021.11.25「☆新型コロナ第5波はなぜ急速に減少したのか!?

2021.11.7「妊娠中の新型コロナウイルス感染:ESHRE

2021.10.28「新型コロナウイルス感染流行時の採卵成績 

2021.10.25「新型コロナウイルスの子宮内膜への感染リスクは低い

2021.10.10「山中伸弥教授から、新型コロナワクチン接種について

2021.10.4「卵巣機能は新型コロナウイルス感染やワクチン接種で変化しない

2021.9.30「Q&A3068 ☆コロナワクチンで流産80%はホント?

2021.9.28「Q&A3066 アスピリン服用中のコロナワクチンは?

2021.9.20「Q&A3058 第12因子低下でコロナワクチンは?

2021.9.8「新型コロナウイルスワクチンによる精液所見の低下はない

2021.8.24「☆新型コロナウイルス感染症対策:妊婦の方々へ 改訂版

2021.8.15「☆新型コロナウイルスワクチンに関する声明(第2報):日本産科婦人科学会

2021.7.20「新型コロナウイルスワクチンQ&A:学会の声明

2021.7.14「妊活中および妊娠中のコロナワクチン:賛成派 vs. 反対派

2021.7.13「妊娠初期の新型コロナウイルス感染

2021.7.7「☆コロナのスパイクタンパクとsyncytin-1の関連は否定

2021.7.5「Q&A2981 コロナワクチンで不妊!?

2021.6.26「Q&A2972 プロテインS活性低下でコロナワクチンは?

2021.6.25「Q&A2971 抗リン脂質抗体でコロナワクチンは?

2021.6.25「☆新型コロナウイルスワクチンと血栓症(TTS)

2021.6.18「新型コロナウイルス感染で精液所見低下

2021.6.17「☆新型コロナウイルスワクチンに関する声明:日本産科婦人科学会

2021.6.12「☆新型コロナウイルスワクチンに関する声明:ESHRE

2021.5.21「新型コロナウイルス感染はSTDではない

2021.5.12「☆新型コロナウイルスワクチンに関する声明:日本産科婦人科学会

2021.4.21「☆新型コロナウイルスワクチンに関する声明:ASRM

2021.4.17「妊娠初期に新型コロナウイルス感染した症例

2021.4.4「Q&A2889 新型コロナウイルスワクチン

2021.3.23「Q&A2877 ☆新型コロナウイルスワクチンを接種すべきか?

2021.2.19「☆新型コロナウイルス感染症対策:妊婦の方々へ

2021.2.17「☆妊活中および妊娠中の新型コロナウイルスワクチン

2021.1.27「☆コロナワクチンに関する日本産科婦人科学会の公式見解

2021.1.24「コロナのワクチンを打っても良いですか?

2021.1.17「☆新型コロナウイルスの妊娠初期感染の影響は?

2020.10.11「Q&A2714 コロナウイルス感染対策にビタミンDは?

2020.10.9「☆☆新型コロナウイルス治療薬:アビガン

2020.9.5「☆新型コロナウイルスの子宮内膜への影響は?

2020.9.4「☆新型コロナウイルスの精巣への影響は? その2

2020.8.7「☆新型コロナウイルスの精巣や卵巣への感染は?

2020.7.17「☆新型コロナウイルスの精巣への影響は?

2020.6.25「Q&A2606 新型コロナウイルスへのアビガン

2020.6.19「☆新型コロナウイルス感染:産婦人科学会ガイドライン

2020.5.11「Q&A2561 新型コロナウイルス時代の妊活

2020.5.5「☆新型コロナウイルス感染:妊娠中の感染 その3

2020.4.29「☆新型コロナウイルス感染:ビタミンDが有効!?

2020.4.12「☆新型コロナウイルス感染:妊娠中の感染 その2

2020.4.12「☆新型コロナウイルス感染:妊娠中の感染

2020.4.3「☆新型コロナウイルス感染症対策:妊婦の方々へ

2020.4.3「☆新型コロナウイルス感染に対する対策:BCG接種は?

2020.3.21「☆☆新型コロナウイルス感染:ウイルスの残留性

2020.3.18「☆新型コロナウイルス感染:ISUOG学会ガイドライン

2020.3.17「新型コロナウイルス感染:ダイヤモンド・プリンセス号の対応

2020.3.12「☆新型コロナウイルス感染 その4

2020.3.6「☆新型コロナウイルス感染:産婦人科学会ガイドライン

2020.2.27「☆新型コロナウイルス感染 その3

2020.2.14「☆新型コロナウイルス感染 その2

2020.2.5「☆☆新型コロナウイルス感染