☆新型コロナウイルス感染 その3 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

新型コロナウイルス感染の疾患名は「COVID-19」、ウイルス名は「2019-nCoV」から「SARS-CoV-2」に変更になりました。その後も短期間に多数の論文が発表されております(主に中国から)。呼吸器内科医のブログに毎日論文が更新されていますので、興味のある方はぜひ参照してみてください。同ブログ記事から、重要と思われる論文をいくつかピックアップしてご紹介いたします。

 

1 JAMA 2020, Feb 7(中国)

要約:中国武漢の単一施設における新型コロナウイルス肺炎138名の年齢中央値は56歳(22〜92歳)、54.3%が男性、病院関連の伝播は、医療従事者29%、入院患者12.3%。26%がICUで治療を受け、死亡率は4.3%

2 Radiology 2020, Feb 13(中国)

要約:重症呼吸不全のない新型コロナウイルス肺炎から軽快した方21名では、胸部CTによる肺病変の重症度は症状発現から約10日目が最大

3 Lancet Oncol 2020, Feb 14(中国)

要約:新型コロナウイルス肺炎1590名のうち癌患者は18名おり、癌患者は重症化する頻度が高い(8% vs. 39%)。過去1ヶ月に癌治療をうけている集団ではさらに重症化リスクが高い(75%)。

4 N Engl J Med 2020, Feb 19(中国)

要約:新型コロナウイルス感染の患者17名と濃厚接触者1名の、鼻腔と咽頭におけるウイルス量を調べたところ、ウイルス量は発症初期からかなり高く、2週間かけて徐々に減少し陰性化に向かった。また、咽頭よりも鼻腔のほうが高いウイルス量だった。無症候性の濃厚接触者も、ウイルス量としては症候性患者のそれと同様。

5 Lancet Gastroenterol Hepatol 2020, Feb 19(シンガポール)

要約:糞便中にSARS-CoV-2が排泄されていることが確認されたので、感染ルートは呼吸器系だけでない可能性がある。

6 Lancet Infect Dis 2020, Feb 19(中国)

要約:無症候性キャリアによる感染が推定される症例報告。武漢に3人家族が旅行し広州に戻ったところ、4日後に父親に37.5℃の発熱がみられ、その2日後にPCR検査で陽性が確認され、無症状だった妻と息子もPCR検査で陽性が確認された。

7 Lancet Respir Med 2020, Feb 21(中国)

要約:新型コロナウイルス肺炎710名のうち重症例52名(7.3%)がICU入室。平均年齢59.7歳、67%が男性、40%が慢性疾患を有す。32人(61.5%)は28日時点で死亡し、ICU入室から死亡までの日数の中央値は7日

8 JAMA 2020, Feb 21(中国)

要約:無症候性キャリアによる感染が推定される症例報告。武漢在住の20歳の女性が河南省に旅行し、旅行先で接触した5名の親族が新型コロナウイルス肺炎に罹患した。最初の女性は当初PCR検査で陰性だったが、後に陽性隣、再び陰性化した。

 

解説:これらの論文の中で最も重要なのは、無症候性キャリアによる感染の可能性についてです(論文4&6&8)。もしそうならば、新型コロナウイルス感染を予防することは極めて困難になります。無症候性の患者は健康状態が良好であるため、知らないうちにウイルスを他人に感染させてしまうわけです。もう1点は、糞口感染の可能性です(論文5)。SARS-CoV-2は、侵入時にウイルス受容体としてACE2を使用することが証明されていおり、ACE2 mRNAは消化器系に強く発現していることが知られています。したがって、飛沫感染や接触感染のみならず、便を介した感染対策も考慮すべきと考えます。また、飛沫感染や接触感染は、咽頭よりも鼻腔の方がウイルス量が高いため、くしゃみ、せき、つばだけでなく鼻水にも注意が必要です(論文4)。ウイルス量は発症初期からかなり高く、2週間かけて徐々に減少し陰性化しますので、隔離期間は2週間が妥当なところでしょう(論文4)。重症化するケースはそれほど多くありませんが、重症化した場合には死亡率が半数以上になりますので、ICU入室後1週間がヤマ場です(論文1&7)。もはや感染ルートを探すのはあまり意味がないと考えます。

 

下記の記事を参照してください。

2020.2.14「☆新型コロナウイルス感染 その2

2020.2.5「☆☆新型コロナウイルス感染