☆☆新型コロナウイルス感染 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

新型コロナウイルスに関する情報が欲しいとの声が多いのでまとめてみました。

 

2019年12月31日に中国武漢市が発表した原因不明の肺炎の原因は、新型コロナウイルスであることが2020年1月9日に確認され、WHO(世界保健機構) は1月10日新型コロナウイルスを2019-nCoVと命名し、1月30日に緊急事態宣言を発令しました。これを受け日本では、2月1日から新型コロナウイルスを感染症法の指定感染症、検疫法の検疫感染症に指定しました。これまでに中国本土で 2万人を超える患者が確認され、日本をはじめ世界各国で患者が確認されています。

 

コロナウイルスは1本鎖RNAをもつウイルスで、ヒトに感染するものが今までに6種類知られており、今回の2019-nCoV は7種類目になります。このうち4種類(HCoV-229E、HCoV-OC43、HCoV-NL63、HCoV-HKU1)はいわゆる風邪ウイルスであり、一般的な風邪の原因の10〜15%を占めている非常にありふれたウイルスです。残りの2種類は重症で、2002年に中国広東省で流行したSARS(SARS-CoV、致死率9.6%)と2012年にサウジアラビアで発見され広まったMERS(MERS-CoV、致死率34.4%) です。2019-nCoVの致死率は現在のところ2〜3%程度です。なお、季節性インフルエンザの致死率は0.1%未満です。新型コロナウイルスの発生は動物由来のウイルスが突然変異したためと考えられており、SARSはジャコウネコ、MERSはラクダに由来します。2019-nCoVの由来はわかっていませんが、武漢の海鮮卸売市場が初期の発生源となっており、同市場では海鮮だけでなく野生動物を販売する店舗もあったことが判明していますので、その中の何らかの動物由来の可能性があると考えられています。

 

ウイルスのゲノムはすでに解明され(Lancet Jan 29, 2020)、新型コロナウイルスにコードされているM蛋白の構造をもとに、M蛋白阻害活性をスクリーニングしたところ、30種類の治療薬が候補に上がりました。このうち12種類は HIV の治療薬であり、現在カレトラ(HIV 治療薬)を用いたオープンラベルの治験が開始しています。また、ACE2受容体に結合することも判明しています。ワクチン開発も始まったとのことです。

 

感染者の特徴は、25〜64歳、男性に多く、基礎疾患がある方、潜伏期間は1週間、重症化までは2週間、肺炎が100%に起こり、ARDSのためICU管理になります(Lancet Jan 24, 2020Lancet Jan 24, 2020N Engl J Med Jan 24, 2020N Engl J Med Jan 29, 2020)。最初は何とも無くても、どんどん状態が悪くなる印象です。他のコロナウイルスと同様に、感染の形態は、飛沫感染や接触感染であり、空気感染ではないとされています。ヒト〜ヒト感染の多くは家庭内感染と医療従事者です。一般的にコロナウイルスの表面はエンベロープで覆われており、アルコール消毒や界面活性剤(石鹸など)に弱い構造ですので、手洗いや消毒が有効です。医療機関では、マスク着用、個室管理などの標準予防策を取り、一般の方は、手洗い、消毒、外出を控える、人混みを避けるなどの一般的な感染予防策となります。

 

「飛沫感染」感染者のくしゃみやせきでつばなどの飛沫と一緒にウイルスが放出され、別の人がそのウイルスを口や鼻から吸い込んで感染する→感染した(と疑われる)人が飛沫を出さない(せきエチケット、マスク着用)

「接触感染」感染者がくしゃみやせきを手で押さえ、その手で周りの物に触れてウイルスが付着し、別の人がその物に触ってウイルスが手に付着し、その手で口や鼻を触って粘膜から感染する→電車のつり革など不特定多数が触れるものには手を触れない、手洗い、消毒に留意

「空気感染」空気中に長時間、感染源となる飛沫核が浮遊し、これを吸い込むことで感染する

 

通常の風邪症状を起こすコロナウイルスによる胎児への影響はないと考えられています。一方、妊娠中にSARSに感染した妊婦12名のうち、3名が死亡しています(致死率25%)。妊娠初期に感染した7名のうち4名が流産に至り(流産率57%)、妊娠24週以降に感染した5名のうち4名が早産になりました(早産率80%)(Am J Obstet Gynecol 2004; 191: 292)。また、妊娠中にMERSに感染した妊婦11名のうち、7名がICUに入院し、3名が死亡しています(致死率27%)。赤ちゃんも3名が亡くなりました(致死率27%)(J Microbiol Immunol Infect 2019; 52: 501)。2019-nCoVについては、ウイルス感染発覚から1ヶ月しか経過していない現在のところ、妊娠中に感染した場合の影響は不明ですが、現在までのところ妊婦における重症化や胎児障害の報告はありません

 

下記のリンク先を参照してください。

日本産婦人科感染症学会「新型コロナウイルス感染症について 妊娠中ならびに妊娠を希望される方へ