妊活中および妊娠中のコロナワクチン：賛成派 vs. 反対派

米国生殖医学会（ASRM）の機関誌であるFertil Steril誌における今回の「紙面上バトル」は、妊活中および妊娠中の新型コロナウイルスワクチン接種の是非についてです。

Fertil Steril 2021; 116: 16（米国）doi: 10.1016/j.fertnstert.2021.05.083

Fertil Steril 2021; 116: 15（米国）コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2021.05.084

要約：妊活中および妊娠中の新型コロナウイルスワクチン接種について、賛成派と反対派の意見を伺いました。

賛成派：2021年5月末の時点で、米国では3300万人、全世界では1億6800万人が新型コロナウイルスに感染し、米国では59万人、全世界では350万人が亡くなっています。妊婦の感染は重症化しやすく、妊娠高血圧症候群、早産、死産率が高くなることが報告されています。このため、ワクチン接種が推奨されます。ワクチン接種により、母体内の赤ちゃんの免疫も獲得されます。新型コロナウイルスワクチンにはウイルスは入っていませんので感染しません。現在のところ、DARTスタディ（Development And Reproductive Toxicity）では、妊活中および妊娠中のコロナワクチン接種によるデメリットは報告されていません。もちろん、安全性に関するデータは限定的ですが、2021年5月末の時点で、v-safe登録者12万人における問題点は指摘されていません（流産率は12.6%）。アデノウイルスワクチンによるTTS（血栓症）の問題点はありますが、安全性および有効性を考慮すれば、妊活中および妊娠中のコロナワクチン接種のメリットは高いものと考えます。一方、ワクチン接種をしなければ、新型コロナウイルス感染リスクが増加し、母児共に生命の危険に晒されます。

反対派：妊婦および胎児は、薬剤に敏感であることは周知の事実です。新型コロナウイルスワクチン接種については、妊婦は対象外として始められました。このため、妊婦のデータが著しく欠如しています。DARTスタディのデータも乏しく、安全性についてお墨付きを得られるほどには至っていません。また、アデノウイルスワクチンによるTTS（血栓症）の問題点が解決されていません。これまでワクチンの有効性を証明するための対象者は主に医療従事者から得られていますが、対照群（プラセボ群）の選定と妊活中および妊娠中のデータが不十分です。次のパンデミックに備えるならば、妊活中および妊娠中の女性を除外せず、むしろ積極的に取り入れた検討がなされるべきです。

解説：このバトルは毎回そうなのですが、全く議論がかみ合っていません。まさに平行線です。その最大の理由は、両者のスタンス（立ち位置）にあると思います。皆さん同じ論文を読んでいるのですから、それをどう解釈して実際の臨床に役立てるかが重要です。賛成派はウイルス感染するよりはワクチン接種のリスクが少なくメリットが多いことを指摘し、反対派はデータ不足を指摘しています。しかし、コメントを担当した反対派の医師は、コメント内では逆に賛成派の立場を取り、本論文はあくまでもディベートであり、ワクチン接種して次のパンデミックに備えましょうという不思議なコメントを残しています。

下記の記事を参照してください。

2021.7.13「妊娠初期の新型コロナウイルス感染」

2021.7.7「☆コロナのスパイクタンパクとsyncytin-1の関連は否定」

2021.7.5「Q&A2981　コロナワクチンで不妊！？」

2021.6.26「Q&A2972　プロテインS活性低下でコロナワクチンは？」

2021.6.25「Q&A2971　抗リン脂質抗体でコロナワクチンは？」

2021.6.25「☆新型コロナウイルスワクチンと血栓症（TTS）」

2021.6.18「新型コロナウイルス感染で精液所見低下」

2021.6.17「☆新型コロナウイルスワクチンに関する声明：日本産科婦人科学会」

2021.6.12「☆新型コロナウイルスワクチンに関する声明：ESHRE」

2021.5.21「新型コロナウイルス感染はSTDではない」

2021.5.12「☆新型コロナウイルスワクチンに関する声明：日本産科婦人科学会」