☆新型コロナウイルス感染:産婦人科学会ガイドライン | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

日本産科婦人科学会および関連学会から、新型コロナウイルス感染への対応としてガイドラインが発表されましたので、要点のみご紹介します。

 

①3月5日現在、武漢旅行者やクルーズ船など感染ルートの追える患者 さんから感染ルートの追えない国内感染者が増加しており、今後1〜2週間は注意が必要です。

②国内では個人個人の感染予防と重症化予防が焦点になります。妊婦も高齢者や合併症のある患者さんと同様の扱いになります。

③37.5度以上の発熱が4日(妊婦を含むハイリスク患者では2日)以上続く場合は帰国者・接触者相談センター(新型コロナ受診相談窓口)に連絡の上、対応医療機関への受診を指示してください。

④新型コロナウイルスに感染した方の産科的管理は通常の産科管理に準じますが、対応医療機関における院内感染対策には十分留意してくだ さい。

⑤特に医療スタッフの感染防御には十分留意してください。

 

産科的管理について

 妊娠初期・中期に高率に流早産や胎児奇形を来す可能性は少ないので、妊婦さんで感染が疑われる場合は自宅安静を指示してください。出血や腹痛、破水感などの産科的異常がなければ妊婦健診を1〜2週遅らせることも考慮してください。仮に感染が判明しても大部分は軽症であり薬物療法の適応は ありません。

 有効の可能性のある抗HIV薬(ロピナビル,リトナビル カレトラ)や抗イ ンフルエンザ薬(ファビピラビル アビガン)は原則的に妊婦禁忌であり、特効薬はありません。まだ3例のみですが、国内で喘息に投与される吸入ステ ロイド(シクレソニド オルベスコ)が有効であったという報告があります。本薬剤は喘息の妊婦にも有益性投与が認められています。しかしながら保険適応外である点に加えてまだ十分なエビデンスが無く、副作用の問題や高度の全身管理が必要であるため酸素投与が必要となった重症例には本人と家族に十分な Informed Consent のうえ呼吸器科や救命救急科医師の意見を求めたうえで投与を検討してください。

 妊娠中の高熱はサイトカイン血症により胎児に影響を来す可能性がありますので、適切な補液や解熱剤の投与は有効と考えられています。漢方薬については中国から、明らかな抗ウイルス活性はないものの、症状を緩和するには有効との報告があります。免疫力増強をうたうサプリメントや民間療法、ビタミン剤大量点滴には何の効果もありません。エビデンスに基づいた医学的適応で処方をお願いいたします。

 妊娠後期の感染で、出産に至るときは他の患者さんに感染させないよう受け入れ可能な施設でのみ対応してください。入院の適応は通常の産科的適応に準じます。胎児心拍モニターは専用とし、使用後は消毒してください。

 分娩室は必ずしも陰圧である必要はありませんが必ず個室とし、他の患者さんとはわけてください。陣痛室や出産後の回復室もトイレつき個室とし、医療スタッフは院内感染予防のため全身を覆うガウンとアイガード、N95マスクを着用してください。出産に際しては全身を覆うガウンとアイガード,N95 マスクを着用し会陰裂傷縫合には針刺し予防のため二重手袋と鈍針を使用してください。

 COVID-19 による肺炎など、母体側の適応による帝王切開は積極的に行うべきですが、COVID-19感染のみで帝王切開とする根拠はありません。母乳にウイルスが含まれるという報告はありませんが、直接哺乳時の飛沫感染、搾乳器による接触感染のリスクがありますので新生児は完全な人工栄養とし、母児双方ともPCRでウイルスが陰性となるまで母体との接触は避 けてください。感染が否定できない場合は個室でクベース収容を行ってください。児の管理は新生児科と十分な連携を取ってください。

 

下記の記事を参照してください。

2020.2.27「☆新型コロナウイルス感染 その3

2020.2.14「☆新型コロナウイルス感染 その2

2020.2.5「☆☆新型コロナウイルス感染