☆新型コロナウイルス感染に対する対策:BCG接種は? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

私が最近注目しているのは、新型コロナウイルス感染の予防策としてのBCG接種です。

 

まず、日本人であり現在オーストラリア在住のJun Satoさんがご自身のブログに下記の記事を紹介しました。

JSatoNotes Mar. 26, 2020

要約:BCGの接種と新型コロナウイルス感染に逆相関が認められます。

 

A(黄色): 現在BCGの予防接種が国民全員に実施されている国

B(紫色): かつてBCG予防接種を推奨していたが、現在は推奨していない国(接種中止年:スペイン1981年、西ドイツ1998年、イギリスとフランス2005年~2007年)

C(赤色):BCGワクチンの予防接種を実施していない国

 

すなわち、BCG接種のない国(赤色、紫色)で現在新型コロナウイルス感染が猛威をふるっていますが、BCG接種のある国(黄色)では新型コロナウイルス感染の広がり方が遅くなっています。顕著な例として、隣国同士での比較をします。

 

BCG接種の有無と感染者・重症者  

BCGなし     BCGあり   

イタリア  >  クロアチア

スペイン  >  ポルトガル

英国    >  アイルランド

スエーデン >  ノルウェー

米国    >  メキシコ

エクアドル >  ブラジル

 

また、BCG製剤による違いもあります。

 

BCG製剤の種類と感染者・重症者

西ドイツ(ヨーロッパ型) > 東ドイツ(ロシア型)

イラン(自国製)      イラク(日本型)

  

BCG製剤による違いを世界的に眺めると、1921年のオリジナルのBCGから製造されたロシア型、日本型、ブラジル型が新型コロナウイルス感染の予防(抑制)効果に優れているようであり、第2世代、第3世代のBCGの効果が弱いようです。また、中国では自国製のBCGを接種しているとのことです(詳細不明)。日本の感染者のうち1/3が日本国籍でなくBCGワクチンを接種していない可能性が高いこと、日本で死亡した高齢者のほとんどが70歳以上であり、BCGワクチン接種を受けていないこと(1951年からBCGワクチン接種開始)も、データの裏付けになるでしょう。興味深いのは、カナダでは59歳以下の方の新型コロナウイルス感染の罹患率が高くなっていますが、60歳以上の方にはBCG予防接種が実施され、59歳以下の方には実施されていません。つまり、高齢だから感染し重症化しやすいのではなく、BCGを打っていないから感染し重症化しやすいことが読み取れます。

 

丁度同じ頃、下記の論文が(査読未実施)掲載されました。

②MedRxiv Mar. 28, 2020(米国)doi: https://doi.org/10.1101/2020.03.24.20042937

要約:BCG予防接種を実施している国と比べ、BCG予防接種を実施していない国(イタリア、オランダ、ベルギー、米国、レバノンなど)では、新型コロナウイルス感染による感染者数および死亡率が有意に高くなっていました。昔からBCG予防接種を実施している国と比べ、最近BCG予防接種を実施を開始した国(イラン1984年から)では、新型コロナウイルス感染による死亡率が有意に高くなっていました。

 

BCG予防接種が免疫力強化に繋がる根拠の一部を示した論文が下記です。

③Cell Host & Microbe 2018; 23: 89(オランダ)https://doi.org/10.1016/j.chom.2017.12.010

要約:BCG接種によって、免疫担当細胞の一つである単球にエピジェネティック変化が生じ、IL1β分泌を促進し、その結果体内のウイルス量が減少し感染の発症が抑えられるものと示唆されます(trained immunity)。

 

解説:BCGは結核(Mycobacterium tuberculosis)を予防するワクチンの通称であり、このワクチンを開発したフランス・パスツール研究所の研究者の名前(Albert Calmette と Camille Guérin)の頭文字をとったものです(Bacille Calmette-Guérin)。BCGは、牛に感染する牛型結核菌(Mycobacterium bovisを弱めたものであり、1921年からヒトへの接種が開始され、日本では1951年から国民全員への接種が行われました。1965年には日本(Tokyo 172 strain)で作られたBCGワクチンがWHOの国際参照品に指定されています。乳幼児期にBCGを接種することにより、結核の発症を52~74%程度、重篤な髄膜炎や全身性の結核に関しては64~78%程度予防することができると報告されています。また、一度BCGワクチンを接種すれば、その効果は10~15年程度続くと考えられています。現在日本では、BCGワクチンの接種は0歳時に行なわれます。

 

①②は、因果関係(原因と結果)ではなく相関関係(関連)を示したものに過ぎませんので、証拠としては不十分です。しかし、このような背景のもとに、2020年3月末から、オランダ、ドイツ、オーストラリアで、主に医療従事者や高齢者を対象に、BCGワクチンによる非特異的な免疫賦活が新型コロナウイルス感染防御に有効か、あるいは重症化の抑制に有効かの検討が開始されました。結果は数ヶ月後に判明します。BCGの結核予防効果は10~15年程度と考えられていましたので、論文③のような作用機序(trained immunity)によりその他のウイルス感染の予防効果や肺炎の予防効果があるとすれば、意外に長期間有効なのだと思います。

 

下記の記事を参照してください。

2020.3.21「☆☆新型コロナウイルス感染:その5

2020.3.18「☆新型コロナウイルス感染:ISUOG学会ガイドライン

2020.3.17「新型コロナウイルス感染:ダイヤモンド・プリンセス号の対応

2020.3.12「☆新型コロナウイルス感染 その4

2020.3.6「☆新型コロナウイルス感染:産婦人科学会ガイドライン

2020.2.27「☆新型コロナウイルス感染 その3

2020.2.14「☆新型コロナウイルス感染 その2

2020.2.5「☆☆新型コロナウイルス感染