新型コロナウイルス感染:ダイヤモンド・プリンセス号の対応 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、ダイヤモンド・プリンセス号の新型コロナウイルス感染対応に関する論文です。このような論文が欧州から発表されるのも不思議な気がいたします。

 

J Travel Med 2020; Feb 28: pii: taaa030(欧州)doi: 10.1093/jtm/taaa030

要約:ダイヤモンド・プリンセス号では、2020年1月21日にCOVID-19の第1号の患者が発生し、2月3日までに10名の患者が報告され、アウトレブイクが発生しました。そのため、2月4日までに発症した乗客の搬送と隔離、また発症していない乗客の検疫などの公衆衛生対策が実施されました。2月20日時点で、3700人の乗客とクルーのうち619人(17%)がSARS-CoV-2陽性となりました。SEIRモデルを用いてアウトブレイク初期の基本再生産数を推定し、3700人の乗客が均一な集団であるという想定した場合と、1000人のクルーと2700人の乗客を異質な集団として分けて想定した場合のモデルを用いて検討しました。また、対策がなされなかった場合のシナリオも推定しました。初期は、アウトレブイクが起こった武漢中心部の基本再生産数の4倍でしたが、ダイヤモンド・プリンセス号の対策により大幅に低下しました。1月21日から2月19日の間に介入がなければ、3700人のうち2920人(79%)が感染していたものと推定されました。従って、隔離と検疫により2307人の感染を防ぐことができ、基本再生産数は1.78まで低下しました。ただし、2月3日までにダイヤモンド・プリンセス号から全員が降りていれば、潜伏期間から感染者は76人に抑えられていたかもしれません。

 

解説:クルーズ船は限られたスペースに多数の人を乗せていますので、感染症のアウトブレイクが生じやすい環境です。今回ダイヤモンド・プリンセス号で実施された公衆衛生対策は、介入がなかった場合と比較して2000人以上の追加感染例を予防したものと推測されます。しかし、アウトブレイクの早期の段階で、すべての乗客とクルーを避難させていたならば、さらに多くの乗客とクルーの感染が予防できたかもしれません。現在米国でもクルーズ船への対応が実施されていますが、極めて難しい判断が要求されます。対応がよかったか否かの真の評価は、全ての事が終わってから下されます。

 

下記の記事を参照してください。

2020.3.12「☆新型コロナウイルス感染 その4

2020.3.6「☆新型コロナウイルス感染:産婦人科学会ガイドライン

2020.2.27「☆新型コロナウイルス感染 その3

2020.2.14「☆新型コロナウイルス感染 その2

2020.2.5「☆☆新型コロナウイルス感染