☆新型コロナウイルスの精巣への影響は? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、新型コロナウイルスの精巣への影響を検討したものです。

 

Fertil Steril 2020; 113: 1135(中国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.04.024

要約:2020年1〜3月に中国で新型コロナウイルスに感染した男性34名(18〜57歳)を対象に、診断がついてから1ヶ月後の精液中の新型コロナウイルスの有無をqRT-PCRで検査しました。また、過去に作成した精巣組織サンプルのACE2およびTMPRSS2遺伝子発現を検討しました。6名が精巣に不快な症状を呈しましたが、どなたの精液中にも新型コロナウイルスは検出されませんでした。また、精巣組織のACE2およびTMPRSS2遺伝子発現は少数であり、両者の遺伝子を発現している細胞はほとんどありませんでした(4/6490)。なお、精液検査は実施していません。

 

解説:新型コロナウイルスは、ウイルスのスパイクタンパクのS1ドメインがACE2に結合することにより細胞内に侵入します。ACE2は肺、小腸、心臓、腎臓、精巣など様々な細胞に認められます。また、TMPRSS2はウイルスとACE2の結合を増強することによりウイルスの細胞内への侵入を促進すると考えられており、TMPRSS2は前立腺に認められます。本論文は、新型コロナウイルスに感染した男性の精液中にウイルスが存在しないこと、精巣にはACE2とTMPRSS2の共発現は見られないことを示しており、精巣の細胞への新型コロナウイルス感染の心配は考えにくいとしています。ただし、発熱による精子への一時的なダメージは起こり得ますし、新型コロナウイルス感染による長期予後については現在のところ不明です。

 

下記の記事を参照してください。

2020.6.25「Q&A2606 新型コロナウイルスへのアビガン

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2020.5.11「Q&A2561 新型コロナウイルス時代の妊活

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