☆新型コロナウイルスワクチンと血栓症(TTS) | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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アストラゼネカ社COVID-19ワクチン(バキスゼブリアⓇ)接種後の血小板減少症を伴う血栓症(Thrombosis with Thrombocytopenia Syndrome: TTS)の診断と治療の手引き・第2版が発表されましたので、ご紹介します。

 

TTSの診断と治療の手引き・第2版 2021年6月2日(日本脳卒中学会、日本血栓止血学会)

要約:

TTSとは

 全世界で新型コロナウイルスに対するワクチン接種が進む中、副反応として血小板減少を伴う血栓症が問題となっています。2021年3 月以降、アバキスゼブリア接種後に、異常な血栓性イベントおよび血小板減少症をきたすことが報道され、4月7日に欧州医薬品庁(EMA)は「非常にまれな副反応」として記載すべき病態と結論づけました。ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)と類似した病態と捉えられています。な

お、バキスゼブリアと同じアデノウイルスベクターワクチンであるAd26.COV2.S(ジョンソン&ジョンソン社)でも同様のTTS を生じることが報告されています。

 

TTSの特徴

1)ワクチン接種後4〜28日に発症する

2)血栓症(脳静脈血栓症、内臓静脈血栓症など通常とは異なる部位に生じる)

3)血小板減少(中等度〜重度)

4)凝固線溶系マーカー異常(D-ダイマー著増など)

5)抗血小板第4因子抗体(ELISA 法)陽性

 

TTS の頻度

 1万人から10万人に1人以下と極めて低いと報告されていますが、EMAはバキスゼブリア接種を受け

た2,500万人のうち、86人に血栓が見つかり(29万人に1人)、18人が死亡(139万人に1人)したと報告しています。

 

TTS の治療

 TTS は新しい疾患概念であり、有効性や安全性のエビデンスが確立した治療法は存在しませんが、HIT と類似した病態であることから、HIT に準じた治療が有効であると報告されています。

1)免疫グロブリン(IVIG)

2)アルガトロパン

3)フォンダパリヌクス

4)ダナパロイド

5)ステロイド

6)血漿交換

 

注意点

 TTS ではないワクチンに関連する典型的な副反応(接種部位の疼痛や圧痛、頭痛、倦怠感、筋肉痛、悪寒、発熱、関節痛、嘔吐など)はワクチン接種後2〜3 日以内に生じます。

 臨床所見でTTS を疑った場合には、ヘパリンを一時中止します(HITとの鑑別のため)。

 D-ダイマーが著増(基準値上限の4 倍以上)している場合、TTSの可能性が高くなります。

 TTS 発症例またはTTSの可能性がある症例では、2回目のバキスゼブリアⓇ投与は避けるべきです。

 本手引き作成時点で、ワクチン接種後のTTSの診断と治療に関する確立したエビデンスは存在しません。

 

解説:TTS はアデノウイルスベクターワクチン(アストラゼネカ社、ジョンソン&ジョンソン社)による極めて頻度が低い副作用ですが、一度発症すると重篤な事態に陥ります。現在のところ、mRNAワクチンであるファイザー社およびモデルナ社のワクチンでTTS は認められていません。