☆新型コロナウイルスの精巣や卵巣への感染は? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、新型コロナウイルスの精巣や卵巣への感染に関する検討です。

 

Fertil Steril 2020; 114: 33(英国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.05.001

Fertil Steril 2020; 114: 56(イスラエル)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.05.023

要約:新型コロナウイルスが細胞内に侵入する際に関与するRNA発現(ACE2、TMPRSS2、BSG/CD147、CTSL)をヒト精巣とサル卵巣のscRNAseqデータセット(各3例)を用いて検討しました。また、ヒト蛋白アトラスおよびヒトプロテオームマップ(18例)を用いて、卵巣の蛋白発現とRNA発現を検討しました。ヒト精巣および精子にはACE2とTMPRSS2の共発現は認められませんでした。サル卵子にはACE2とTMPRSS2の発現が認められましたが、サル卵巣組織にACE2とTMPRSS2の共発現は認められませんでした。ヒト卵丘細胞にはTMPRSS2発現はなしかあっても10%以下でした。一方、BSG/CD147とCTSLの共発現は前期精子細胞で79%、後期精子細胞で91%に認められました。同様に、BSG/CD147とCTSLの共発現はヒト卵丘細胞で100%に認められました。

 

解説:新型コロナウイルスは、ウイルスのスパイクタンパクのS1ドメインがACE2に結合することにより細胞内に侵入します。ACE2は肺、小腸、心臓、腎臓、精巣など様々な細胞に認められます。また、TMPRSS2はウイルスとACE2の結合を増強することによりウイルスの細胞内への侵入を促進すると考えられており、ACEよりも多くの細胞で認められます。最近、BSG/CD147(ACE2の役割)やCTSL(TMPRSS2の役割)がウイルスの細胞内への侵入に関連するとの報告があります。本論文は、新型コロナウイルスが細胞内に侵入する際に関与する遺伝子や蛋白の発現を精巣や卵巣のデータベースで検討したものであり、精巣や卵巣の細胞にはウイルス侵入の可能性が極めて低いことを示しています。本論文の著者は、取り出した精子と卵子には新型コロナウイルス感染がないと考えられるため、ART治療は自然妊娠より新型コロナウイルスによる母子感染リスクが少ないと考えられ、ARTを推奨すると述べています。

 

コメントでは、検討したデータベースの症例が少ないため確定的なことは言えないこと、新型コロナウイルスは様々な体液内に存在するため精巣や卵巣のみならず、精液中や体液中のウイルスの関与も考慮すべきであるとしています。また、本論文の著者がARTを推奨すると言うのは現段階では早計であり、現在開発中のウイルスの侵入を防ぐ薬剤、ウイルスを中和する抗体(S309)、ワクチン(mRNA-1273)などの実用化が待たれるとしています。

 

下記の記事を参照してください。

2020.7.17「☆新型コロナウイルスの精巣への影響は?

2020.6.25「Q&A2606 新型コロナウイルスへのアビガン

2020.6.19「☆新型コロナウイルス感染:産婦人科学会ガイドライン

2020.5.11「Q&A2561 新型コロナウイルス時代の妊活

2020.5.5「☆新型コロナウイルス感染:妊娠中の感染 その3

2020.4.29「☆新型コロナウイルス感染:ビタミンDが有効!?

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2020.3.17「新型コロナウイルス感染:ダイヤモンド・プリンセス号の対応

2020.3.12「☆新型コロナウイルス感染 その4

2020.3.6「☆新型コロナウイルス感染:産婦人科学会ガイドライン

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