☆ヘパリン治療について | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

最近、ヘパリン注射やヘパリン培養に関する質問がちらほらございます。この件に関しては、2017年夏、とあるブログ記事で否定的な意見がありましたので、下記のブログ記事で最新の論文をご紹介しました。

 

以下に、プログ記事の要点を抜粋します。

2017.8.11「☆ヘパリンをお使いの方へお知らせ」:体外受精が行われ始めた最初の15年くらいは、ヘパリンを用いて母体の採血を行い、その血清タンパクをその方自身の培養液に添加していました。つまり、この期間は(意図せず)全てヘパリン培養を行なっていたことになります。この期間に重大な問題は生じていませんので、ヘパリンを培養液に加える安全性には問題がないことを示しています。

2017.8.11「☆ヘパリンをお使いの方へお知らせ その2」:①2017年米国生殖医学会(ASRM)は、ランダム化試験5論文から、ヘパリンによる着床率増加の根拠ありとしました。②2015年ヘパリンには胎盤形成促進作用があることが報告されました。③2003年(Fertil Steril 2003; 80: 376)ヘパリンの着床期(胚移植)からの使用のメリットが否定されるという論文が発表されましたが、この論文をよく読んでみるといくつかの問題点があり、この問題を指摘された著者は回答したことになっていない苦しい回答をしています(Fertil Steril 2004; 81: 1431)。

2017.8.12「☆ヘパリンをお使いの方へお知らせ その3」:①1992年と2000年に、英国の産科医Dr. Gregory J. Kesbyが1人で実験から執筆まで担当したヘパリンの胎児毒性に関する論文は、通常の濃度より20〜40倍高濃度のヘパリンを妊娠中期にラットに投与した毒性試験です。この論文では、通常量のヘパリン濃度では胎児毒性は生じていないことが確認されています。②ヘパリンの絨毛細胞への直接作用(プラスの作用)が、2005年、2006年に報告され、2015年最も信頼性の高いCochrane reviewで、着床期からのヘパリン使用は胚移植の妊娠率(着床率)増加に繋がる可能性があるとしています。

 

リプロダクションクリニックでは、これまでの経緯ならびに最新の論文のデータを吟味した結果、ヘパリン治療(ヘパリン注射、ヘパリン培養)の有効性と安全性を確認していますので、安心してお使い頂ければと思います。


なお、日本では不妊症と不育症の専門医は全く別々になっています。多くの不妊症専門医は不育症の診療経験がほとんどありませんし、多くの不育症専門医は不妊症(体外受精)の診療経験がほとんどありません。そのような中で、私は奇跡的に不妊症と不育症を両立する格好で現在まで診療に当たってきました。医師になって2年目の出向先の東京歯科大学市川総合病院では、日本で初めての凍結胚移植による出産に携わりました(1989年)。慶應義塾大学病院では(当時日本では初めてだった)不育症外来を担当していました(1991〜1996年)。私が作成した当時の不育症外来マニュアルをもとに、日本産科婦人科学会の研修手帳の執筆をしました。米国の留学先では、抗リン脂質抗体や血液凝固の研究に従事し、多数の論文を執筆しました(1996〜1998年)。帰国後は東海大学で不妊症の診療(体外受精)に携わりながら、日本血栓止血学会の抗リン脂質抗体標準会員会の副部会長として抗リン脂質抗体の研究と治療を行ってきました(1998〜2009年)。2009年に拠点を大阪に移した後も、抗リン脂質抗体標準会員会の副部会長としての職務を継続しており(現在も)、2013年リプロダクションクリニック大阪開院、2017年リプロダクションクリニック東京開院後、現在に至るまで抗リン脂質抗体の診療および研究に従事しています。不妊症の分野も不育症の分野も奥が深いため、一朝一夕の勉強では到底マスターする事はできません。幅広い知識と実践の上に、今日のリプロダクションクリニック での診療が成り立っています。

 

不妊症と不育症の狭間の分野はエビデンスが乏しい分野です。いろいろな先生がいろいろな事をおっしゃいますが、いまだ正解はありません。確定的(断定的)な事は言えない状態ですので、何を信じるか、誰を信じるか、その選択は、皆さんそれぞれが考え、自ら決断されるのが良いと思います。また、心配すると子宮内の血管が収縮し、子宮内膜や胎児への血流が減少することが報告されています。心配な出来事は極力排除し、安心して治療に臨めるようにしていただきたいと思います。日本では、不妊と不育が同時に診療できるクリニックは極めて少ないですので、不妊と不育の両方でお悩みの方は是非リプロダクションクリニック へお越しください。