新型コロナウイルスワクチンで不妊症になるのでは？という心配がまことしやかにネット上で拡散しています。新型コロナウイルスのスパイクタンパクと胎盤形成に必要なsyncytin-1の類似性から、交差反応する抗体が産生され胎盤形成が抑制されるのではないかというストーリーです。本論文は、新型コロナウイルスワクチンおよび新型コロナウイルス感染による着床や流産への悪影響を否定しています。
Fertil Steril Rep 2021, in press (Published online: June 01, 2021)
要約：2021年1〜5月にホルモン補充周期により単一胚盤胞移植を実施した171名を対象に、移植前に新型コロナウイルスのスパイクタンパク抗体検査を実施しました。抗体陽性者（0.80 U/mL以上）には感染かワクチン接種のいずれで陽性になったかを確認しました（なお、感染者に入院された方はおらず、ワクチンはファイザー社とモデルナ社のみ）。初回胚移植の141名を対象に、ワクチン接種群、感染群、抗体陰性群に分けて妊娠成績を検討しました。結果は下記の通り（有意差のみられた項目を赤字表示）。
＜全症例＞ ワクチン接種群 感染群 抗体陰性群 P値
年齢 36.4歳 33.1歳 34.6歳 NS*
BMI 29.0 32.1 28.8 0.005
子宮内膜厚 8.4mm 8.1mm 9.0mm NS*
臨床妊娠率 65.7%（23/35） 52.6%（11/21） 62.5%（55/88） NS*
流産率 0%（0/23） 9.0%（1/11） 16.4%（9/55） 0.048#
＜正常胚のみ＞
臨床妊娠率 70.6%（12/17） 70.0%（7/10） 70.0%（28/40） NS*
流産率 0%（0/12） 0%（0/7） 14.3%（4/28） NS*
*NS=有意差なし
#流産率については、原文から計算により算出
解説：もし、新型コロナウイルスのスパイクタンパクと胎盤形成に必要なsyncytin-1により交差反応する抗体が産生されるのであれば、ワクチン接種だけでなく感染者にも同様な現象（不妊）が生じるはずです。本論文は、このような背景のもとに行われた研究であり、新型コロナウイルスワクチン接種および新型コロナウイルス感染による着床（妊娠）への悪影響を否定しています。また、流産率も増加していません（むしろ低下）。
心配の元凶は、スパイクタンパクとsyncytin-1の類似性に基づく仮説に過ぎません。しかし、スパイクタンパクは1273個のアミノ酸からなる分子量180〜200kDaのタンパク質であるのに対し、syncytin-1は538個のアミノ酸からなる分子量73kDaのタンパク質であり、大きさに2倍以上の違いがあります。さらに、似ていると言ってもわずか4個アミノ酸が最長です。また、新型コロナウイルスワクチン接種および新型コロナウイルス感染により産生された抗体3000種類を調べたところ、syncytin-1に反応するものは一つもなかったことが報告されています。
ニセ情報に惑わされないよう、くれぐれもご注意ください。
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