中村錦之助主演『宮本武蔵』一・三・四・五部4Kデジタルリマスター カラー・白黒映像の尊さ | 俺の命はウルトラ・アイ

中村錦之助主演『宮本武蔵』一・三・四・五部4Kデジタルリマスター カラー・白黒映像の尊さ

 初代中村錦之助後の萬屋錦之介

 本名 小川錦一

 

 昭和七年(1932年)十一月二十日東京府に三代

目中村時蔵・小川ひな夫妻の四男として誕生。

 

 昭和十一年(1936年)十一月初代中村錦之助

(しょだい・なかむら・きんのすけ)の芸名で初舞

台を踏む。

 昭和二十八年(1953年)十一月十五日に『鬼

一法眼三略巻』における虎蔵実は牛若丸を勤め

た後、映画俳優に転身する。

 時代劇映画を中心に出演した錦之助は大スタア

となった。

 

 昭和三十六年(1961年)から昭和四十年(19

65年)に製作東映、原作吉川英治、監督内田吐

夢の『宮本武蔵』を全五部作に新免武蔵後に宮

本武蔵役で主演する。

 

 『宮本武蔵』 

 昭和三十六年(1961年)五月二十七日封切

 

 『宮本武蔵 般若坂の決斗』

 昭和三十年(1962年)十一月十七日封切

 

 『宮本武蔵 二刀流開眼』

 昭和三十八年(1963年)八月十四日封切

 

 『宮本武蔵 一乗寺の決斗』

 昭和三十九年(1964年)一月一日封切

 

 『宮本武蔵 巌流島の決斗』

 昭和四十年(1965年)九月四日封切

 

 

 昭和三十六年(1961年)十一月二十日封切の

映画『反逆児』において主人公徳川信康役で主演

し、監督の伊藤大輔に師事する。

 

 本名を小川衿一郎に改めた時期があり、映画『祇

園祭』『幕末』はこの名前で製作した。

 

 

 昭和四十七年(1972年)芸名を初代萬屋錦之介

に改める。

 

 平成九年(1997年)三月十日六十四歳で死去し

た。

 

 

 令和四年(2022年)春初代中村錦之助後の初代

萬屋錦之介生誕九十年を記念して『宮本武蔵』全

五部作4Kデジタルリマスター版上映が行われた。T

JOY京都において自分は4Kデジタルリマスター版五

部作のうち四本を鑑賞した。

 

 四月二十八日十一時 シアター2

 『宮本武蔵』

 4Kデジタルリマスター版

 

 五月五日十一時 シアター11

 『宮本武蔵 二刀流開眼』

 4Kデジタルリマスター版

 

 五月八日十一時 シアター5

 『宮本武蔵 一乗寺の決斗』

 4Kデジタルリマスター版  

 

 五月十日十一時 シアター5

 『宮本武蔵 巌流島の決斗』

 4Kデジタルリマスター版

 

 『宮本武蔵 般若坂の決斗』4Kデジタルリマ

スター版はスケジュールの都合で見落とした。

 令和四年春から遅番勤務になることが多くなっ

た。そこでTジョイ京都で朝・午前中に一本銀幕

鑑賞して出勤するという日程が確保しうるように

なった。

 代わりに朝から夕方までの勤務時間のように仕

事後に映画・演劇・音楽に参加するということは

無理である。

 

 わたくしは昼から夜までの勤務ということが

昨春より多くなったので、『宮本武蔵』全五部

作4Kデジタルリマスター版上映に参加し得た。

 

 だが、勤務や学校で見聞し得なかった人は多

いのではないか?

 

 午前十時の映画祭のように少なくとも一週間

は上映期間を確保して、初代中村錦之助生誕九

十一年上映を秋に再開して頂きたい。

 

 『宮本武蔵』全五部作の感想は過去記事で管見

した。

 

宮本武蔵 昭和三十六年五月二十七日公開 内田吐夢監督作品(一)

 

 

宮本武蔵 (二) 青春の悩み


宮本武蔵(三)野生児 野の子 色男

 

宮本武蔵(四)鈴の娘

 

宮本武蔵(五)暴れん坊

 

 

宮本武蔵(六)友の逃走

 

 

宮本武蔵(七)空に吠ゆ

 

 宮本武蔵(八)関所突破 

 

 
宮本武蔵(九)功徳の一善

 

 

宮本武蔵(十)潜伏の日

 

宮本武蔵(十一)渦巻く謀略

 

宮本武蔵(十二)「俺は獣じゃない」

 

 

宮本武蔵(十三)山中の三人


 

宮本武蔵(十四)笛の音

 

 

 

宮本武蔵(十五)法縄

 

宮本武蔵(十六)千年杉

 

宮本武蔵(十七)「命を惜しみ労わらなければならない」

 

 



宮本武蔵 般若坂の決斗 昭和三十七年十一月十七日公開 内田吐夢監督作品(一)


宮本武蔵 般若坂の決斗(二)端坐


宮本武蔵 般若坂の決斗(三)宮本姓


宮本武蔵 般若坂の決斗(四)青春二十一


宮本武蔵 般若坂の決斗(五) 約束の場へ


宮本武蔵 般若坂の決斗(六)花田橋

 
宮本武蔵 般若坂の決斗(七)「許してたもれ」

 
宮本武蔵 般若坂の決斗(八)浪人対名門

 

宮本武蔵 般若坂の決斗(九)陶器作りを見る


宮本武蔵 般若坂の決斗(十)「我に苦難を与えたまえ」


宮本武蔵 般若坂の決斗(十一)「兵法です」

 

 
宮本武蔵 般若坂の決斗(十二)跳躍


宮本武蔵 般若坂の決斗(十三)剣と槍 本日内田吐夢百十九歳誕生日


宮本武蔵 般若坂の決斗(十四)影法師

 

 宮本武蔵 般若坂の決斗(十五)未熟者

 

  宮本武蔵 般若坂の決斗(十六)赤子の笑顔

 

 

宮本武蔵 般若坂の決斗(十七)「剣は念仏ではない。命だ」

 

 

 宮本武蔵 二刀流開眼 昭和三十八年八月十四日公開 内田吐夢監督作品(一)

 

宮本武蔵 二刀流開眼(二)柳生の庄 

 

宮本武蔵 二刀流開眼 (三)芍薬の枝 本日内田吐夢四十八回忌命日

 

宮本武蔵 二刀流開眼(四)柳生四高弟 本日公開五十四年

 

 

宮本武蔵 二刀流開眼(五)感覚は感覚

 

 

宮本武蔵 二刀流開眼(六)合戦

 

宮本武蔵 二刀流開眼(七)「一切容赦はない」 本日初代中村錦之助八十五歳誕生日

 

 

 

宮本武蔵 二刀流開眼(八)吹き針

 

 

宮本武蔵 二刀流開眼(九)五条大橋

 

宮本武蔵 二刀流開眼(十)涙堪えて

 

宮本武蔵 二刀流開眼(十一)「これからだ」

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗 昭和三十九年一月一日公開 内田吐夢監督作品(一)

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(二)「怖い人」

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(三)涙の尺八

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(四)墨絵を見る

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(五)町人のたつき

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(六)兄と弟

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(七)誘われた剣士 

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(八)「お案じなさいますな」

 

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(九)果たし状

 

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(十)酒席の剣士 本日萬屋錦之介八十六歳誕生日

 

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(十一)両雄出立 本日平幹二朗八十五歳誕生日

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(十二)雪の三十三間堂

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宮本武蔵 一乗寺の決斗(十三)緋牡丹の一片

https://ameblo.jp/ameblojp-blog777/entry-12428218336.html

 

 

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(十四)牡丹の樹

 

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(十五)牡丹を焚く

https://ameblo.jp/ameblojp-blog777/entry-12428670488.html

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(十六)「夜が明け次第」

https://ameblo.jp/ameblojp-blog777/entry-12429333303.html

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(十七)「自身の油断を戒めている」

https://ameblo.jp/ameblojp-blog777/entry-12429820725.html

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(十八)琵琶の音色

https://ameblo.jp/ameblojp-blog777/entry-12445623486.html?frm=theme

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(十九)小袖と手紙

https://ameblo.jp/ameblojp-blog777/entry-12454844176.html

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(二十)親子の絆

https://ameblo.jp/ameblojp-blog777/entry-12455076621.html

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(二十一)少女の呼声

https://ameblo.jp/ameblojp-blog777/entry-12456641992.html

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(二十二)伽羅の香

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(二十三)文を結ぶ 内田吐夢百二十一歳誕生日

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(二十四)ただ一つの門

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(二十五)武士の仕度

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(二十六)武士の代表

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(二十七)戦地決定

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(二十八)戦地へ

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(二十九)「剣は絶体絶命」

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(三十)笛と剣

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(三十一)本望

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(三十二)恋慕と精進

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(三十三)下がり松

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(三十四)「七十三対一」

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(三十五)「われ事に於いて後悔せず」

 

 

宮本武蔵 巌流島の決斗 昭和四十年九月四日公開 内田吐夢監督作品(一)

 

  

宮本武蔵巌流島の決斗 (二)剣か恋か

 

宮本武蔵 巌流島の決斗 (三)剣一筋

 

宮本武蔵 巌流島の決斗 (四)開墾

 

宮本武蔵 巌流島の決斗 (五)お百姓さん

 

宮本武蔵 巌流島の決斗 (六)木の下の二人

 

宮本武蔵 巌流島の決斗 (七)鍬・剣・箸

 

宮本武蔵 巌流島の決斗(八)影・墨絵・地蔵

 

宮本武蔵 巌流島の決斗(九)果たし状

 

宮本武蔵 巌流島の決斗 内田吐夢監督作品(十)櫂

 

宮本武蔵 巌流島の決斗(十一)「剣は武器か」

 

 

 吉川英治は明治二十五年(1892年)八月十一日

に生まれた。昭和十年(1935年)八月二十三日から

昭和十四年(1939年)七月十一日にかけて、小説

『宮本武蔵』を新聞小説として執筆した。昭和三十七

年(1962年)九月七日に死去した。

 吉川英治は『宮本武蔵』第一部撮影現場を尋ね

初代中村錦之助と語り合った。

 

 髙倉健(たかくら・けん)

 本名 小田剛一(おだ・ごういち)

    小田剛一郎(おだ・ごういちろう)

 

 高倉健表記あり。俳優・歌手。

 昭和六年(1931年)二月十六日福岡県に誕生。

 平成二十六年(2014年)十一月十日東京都に

 おいて八十三歳で死去。

  任侠路線・ヒューマンドラマにおいて日本・

外国の銀幕で輝き世界フィルムを代表する大スタ

アである。

 健さんは『宮本武蔵』五部作においては冷酷非

情で誇り高き美剣士佐々木小次郎を鋭く深い演技

で勤めた。

 

 

 内田吐夢(うちだ・とむ)

 本名 内田常次郎

 明治三十一年(1898年)四月二十六日岡山県

 に誕生。

 

 俳優・脚本家・映画監督・テレビドラマ監修者。

 別名義 内田富 平田参作 閉田富

 

 

 昭和四十五年(1970年)八月七日死去。数え年

七十三歳・満年齢七十二歳。

 

 内田吐夢は六十三歳から六十七歳の五年に渡って

東映京都製作で吉川英治著『宮本武蔵』の映画化

を成した。

 大長篇小説の開巻冒頭から結末までを五本の映

画に表した。

 原作小説から割愛された部分もある。

 

 吉川英治小説を尊重し忠実に描写した場面があ

ある。

 

 

 

 吉川英治原作の精神と全く違う表現・描写もあ

る。

 

 映像化されたシーンは輝いている。

 

 吉川英治小説を身読心読し小説の声を聴き格闘

して撮った作品であることが窺える。

 

 鈴木尚之の著書によると脚本会議に吉川英治は

参加したという。

 小説から映画への改変描写について、吉川英治

は立腹はしないのではないかと自分は予想してい

る。

 

 映画鑑賞の本道はフィルム鑑賞である。

 

 これは不動である。

 

 退色・変色があっても上映されたフィルムを客

席で見聞することが観客の道だ。

 

 だが、4Kデジタルリマスター版の鮮明さに感嘆

したことも事実である。

 

 令和四年(2022年)八月七日、『中村錦之助主

演『宮本武蔵』一・三・四・五部4Kデジタルリマ

スター版』と題し4Kデジタルリマスター映像の美

を讃えた。本日はその続稿を記したい。

 

 『宮本武蔵』

 少年新免武蔵は関ヶ原合戦で泥を浴び迷い這いつ

くばり累々たる屍の山をかいくぐって親友本位田又

八を求める。

 草の緑色が鮮烈である。天下分け目の戦いに敗れ

たが生き残った喜びを再会した友と感じている。

 命を拾い生きている。初代中村錦之助と木村功が

若き武蔵と又八のいのちへの感謝を熱く明かしてい

る。

 

 伊藤大輔が感嘆した開幕シーンである。

 

 木暮実千代のお甲が木村功の又八の足の傷を吸

って治療するシーンに凄まじい色気がある。

 

 美作吉野郷宮本村の4Kデジタルリマスター映像

を見ていると大自然の息吹が聞こえ植物の新鮮な

匂いが伝わってきているのではないかという錯覚

を感じた。昭和三十六年の緑の豊かさを吐夢が記

録していることを感じた。

 

 

 その尊い自然が武蔵にとって晒され罰せられる

場になる。

 

 錦之助は千年杉に吊るされる。命の恐怖と体の

痛みは壮絶なものであったろう。

 

 千年杉に吊るされる武蔵の涙は4Kデジタルリ

マスター版で見聞すると雫が客席に流れてくる

のではないかと錯覚する。

 

 三國連太郎の怒鳴り声も4Kで聴くと改めて自

分自身の甘えが叱られている気持ちになる。

 

  「やり直しのきかぬのが人生だ」

 

 重く心に響く。

 

 白露城における潮路章名義の汐路章の先祖亡霊

が武蔵に課題を伝えるシーンも重い。

 

 『宮本武蔵 二刀流開眼』

 

 

 柳生の里の自然の輝きを4Kデジタルリマスタ

ー版は鮮やかに映す。緑が生き生きと息吹いて

いる。

 

 柳生四高弟と武蔵の激論で、城太郎に犬が殺

されるのは原作の指定通りだが酷く悲しい。犬

好き人間にとって辛い。『宮本武蔵 般若坂の

決斗』において犬が浪人衆に殺されることの悲

しみを吐夢は撮った。だが第三部では原作の指定

通り城太郎の柳生家お犬様殺しを撮る。やむを

得ないことではある。

 

 剣は残酷さの道であるという英治・吐夢の主

張なのかもしれない。

 

 四高弟に挑まれた武蔵が二刀流に覚醒するシ

ーンを4Kで見聞すると中村錦之助の至芸に改め

て緊張する。

 

 柳生石舟斎役を名優薄田研二が深く重い芸で勤

めている。

 

 吉岡清十郎との決戦を前に、山を見た武蔵が石

舟斎・沢庵を思う。

 

 船において美剣士佐々木小次郎が現れる。不適

な笑みを髙倉健が鋭く浮かべる。デジタルリマス

ターは健さんの三白眼を鮮やかに伝えてくれている

のだ。傲慢不遜で冷酷だが剣の腕は一流で酔った

祇園藤次は髷を切られて大恥をかく。後にクラタ

隊長を渋く演じる南廣が男の哀愁を豊かに演じて

いる。

 

 初代中村錦之助と薄田研二が出会うシーンは

一つであり、三國連太郎は出演しない。

 

 しかし、薄田研二と三国連太郎の顔が観客の

顔に浮かぶ。

 

 

 一・二部未見の観客は沢庵への想像を刺激され

る。

 

 江原真二郎は昭和十一年(1936年)十月十二日

京都府京都市に生まれた。

 令和四年(2022年)九月二十七日、神奈川県横

浜市において八十五歳で死去した。

 二枚目スタア・名優として映画・テレビ映画に活

躍した。『宮本武蔵』五部作では二・三・四部におい

て名門の御曹司吉岡清十郎を繊細に勤めた。

 第三部『二刀流開眼』は決戦に敗れ腕の苦痛に

喘ぎ片腕を斬ってもらって歩もうとして倒れる清

十郎の苦闘を渾身の熱演で勤めた。

 

 

 五条大橋に武蔵・朱実・佐々木小次郎・吉岡

清十郎・城太郎・お杉・お通が集う。

 

 決戦で武蔵が清十郎の腕を叩き折り、小次郎

は案ずるふりをして清十郎の腕を斬り落とす。

 朱実は怯える。

 

 高倉健の冷酷な眼光が4Kに光る。

 

 

 江原真二郎の鬼気迫る歩みは4Kで見ると

改めて震える。

 

 初代中村錦之助が「これからだ」と宣言し

血のように鮮烈な赤の世界を歩みだす。

 

 これほど美しいラストは他に無い。

 

 

 

 『宮本武蔵 一乗寺の決斗』

 

 岩崎加根子の吉野太夫の気品を4K映像で見

て感嘆した。

 

 三十三間堂でロケが行われた。平幹二朗が雪の

中で致命傷を負う吉岡伝七郎の無念の最期を熱演

する。吉岡伝七郎との決戦の後の武蔵の血を吉野

が拭くシーンの赤さに緊張する。

 

 一乗寺の決戦。

 

 内田吐夢は武蔵一人と吉岡一門七十三人大激

闘を白黒フィルムで撮影した。昭和三十八年(1

963年)滋賀県饗場野をロケ地に位置付け人工の

下がり松を作り之を土の上に置く為三百人の作業

員の一か月の工事により下がり松セットが為され

た。完成した下がり松は作業員に感謝し作業して

くれた人々に負けない立派な作品にすることを誓

ったという。

 

 

 武蔵は壬生源次郎少年とその父源左衛門を串刺

しで斬る。

 

 林彦次郎は源次郎少年を無残に斬殺した武蔵を

糾弾する。

 

 鈴木尚之は『宮本武蔵 一乗寺の決斗』の白黒

決戦シーンは黒澤明監督『七人の侍』の激闘描写

に匹敵する名場面になったと『私設 内田吐夢伝』

に記している。『宮本武蔵 一乗寺の決斗』の決戦

シーンが映画史上の名場面であることには勿論同意

するが、『七人の侍』が正義を掲げて悪を倒すドラ

マであるのに対し、「生きる為に殺さねばならない」

という武蔵の苦悩は遥に深い世界である。

 

 作者鈴木尚之師に叱られても、『宮本武蔵 一乗寺

の決斗』白黒決斗場面はいかなる比較も絶した永遠

唯一の名場面と断言する。

 

 田圃の稲や泥や氷を4Kデジタルリマスターは

鮮明に伝える。初代中村錦之助と河原崎長一郎の

泥まみれの激闘に震える。武蔵は生き残る為に

林に剣を向け切っ先は彼の両目を斬る。林は激痛

で目を抑える。生き残る為とは言え酷い事をした

ことへの痛みから武蔵は逃げる。

 

 原作小説における源次郎少年の首が武蔵に斬ら

れ転がるシーンの描写は流石の吐夢でも無理だっ

た。

 

 だが、源左衛門が愛息源次郎を庇い守ろうとし

て武蔵の剣に串刺しにされ共に斬殺される場面も

強烈な表現で戦闘殺しあいへの悲しみが溢れる。

 山形勲と西本雄司が恐怖で親子愛を表現した。

 

 白黒で撮影されたことにより戦の酷さが深く表現

された。

 

 カラーと白黒が併用されていることは第四部の命

である。

 

 

 岡田茂は『宮本武蔵 一乗寺の決斗』における

白黒映像は『飢餓海峡』に繋がったと分析してい

る。

 

 

 『宮本武蔵 巌流島の決斗』

 

 入江若葉のお通と三國連太郎の沢庵の語り

合いが第一作以来に復活して感動する。

 

 初代中村錦之助の武蔵が橋に現れる瞬間ま

で撮られていた。これは4Kデジタルリマスター

で明確に感じた。

 

 お通は滝まで武蔵を追い、武蔵は彼女を抱

きしめるが怯えて離れる。

 

 少年を斬った自己はお通さんに相応しく

ないという負い目がある。

 

 入江若葉は綺麗だ。

 

 柳生宗矩の陰が4Kで見るとドキドキ緊張す

る。

 

 武蔵と沢庵の再会シーンに改めて緊張した。

 

 田村高廣の暖かな笑声が心の奥底に響く。

 

 巌流島の武蔵対小次郎の決戦に内田吐夢

演出が極りを見せる。

 

 高倉健は斬られている小次郎の死の瞠目を

見せるが、4K映像はこの眼光を鋭く映す。

 長岡佐渡守が武蔵と小次郎の戦を見届けて

武蔵を追う細川家家臣を諫め静止する。

 

 片岡千恵蔵の風格が五部作の終幕を支えた。

 

 

 時代劇映画が最後になるかもしれないとい

う危機もあり、吐夢が『宮本武蔵』五部作を

撮るという課題を締めくくるに当たり、親友

千恵蔵御大も参加し重厚な存在感と父性を見せ

た。

 

 大詰は武蔵が小次郎を殺してしまったこと

への悲しみを語る。

 

 4Kデジタルリマスター版は武蔵の手につ

いた小次郎の鮮血の赤さを濃厚に見せる。

 

 

 武蔵は小舟一乗寺の決斗を思い出す。回想で

白黒映像が映される。白黒映像は武蔵の罪への

悲嘆を記録している。

 

 吉川英治の小説では小次郎蘇生を祈る武蔵

の祈りで終わるが、内田吐夢映画版は武蔵の

罪への痛みで終幕になる。

 

 「巨匠の平和論甘いですよ」と後輩工藤栄

一から辛辣な批評をされた。

 

 内田吐夢は工藤栄一の叱責に受けて立ち

語り合ったという。

 

 4Kデジタルリマスター版で見聞し原色とも

言うべき鮮明な吐夢映像を見せてもらった。

 

 宮本武蔵 初代中村錦之助

 本位田又八 木村功

 お杉    浪花智恵子

 おツウ   入江若葉

 朱実    丘さとみ

 

 五人は全五部作において当たり役を演じ勤め

生きた。  

 

 潮路章・中村錦司・鈴木金哉のように一人で

複数役を演じた俳優もいるし、池田輝政役を六

代目坂東蓑助後の八代目坂東三津五郎と佐々木

孝丸の二人で演じた配役もあった。

 

 だが、佐々木小次郎/高倉健、吉岡清十郎/江原

真二郎、林彦次郎/河原崎長一郎のように準主人公

を複数作品一人一役が成り立ったことも本シリー

ズの特徴である。

 

 

 剣に命を見出して誠実に剣を拠り所にして

道を歩み血を流し悩む。

 

 剣の加害によって傷つけ滅ぼした命の尊さ

を武蔵は学ぶ。

 

 令和五年(2023年)IP技術やデジタル化の

流れにおいて白黒写真や白黒フィルムを安易に

カラー化することを一部の学者・技術者・放送

局が犯しているが文化藝術史料資料の改竄・破

壊である。

 

 『宮本武蔵』一・三・四・五部4Kデジタルリ

マスター版をTJOY京都で見聞しカラーと白黒の

両方が共に輝いていることを感じた。

 白黒映像・白黒写真は至宝である。映像や写真

においてのみ成り立つ貴重な色彩である。

 

 内田吐夢はカラーで武蔵の学び、白黒で武蔵の

涙を映したのだ。

 

 

                   合掌