宮本武蔵 一乗寺の決斗(三十四)「七十三対一」 | 俺の命はウルトラ・アイ

宮本武蔵 一乗寺の決斗(三十四)「七十三対一」

『宮本武蔵 一乗寺の決斗』

  映画 トーキー 128分 

 イーストマンカラー 白黒映像あり

 東映スコープ

 昭和三十九年(1964年)一月一日公開

  製作国  日本

 

 制作   東映京都

 

 製作   大川博

 

 企画   辻野公晴 

       小川貴也 

       翁長孝雄

 

 原作   吉川英治

 

 脚本   鈴木尚之

       内田吐夢

 

 撮影   吉田貞次

 照明   和多田弘

 録音   渡部芳史

 美術   鈴木孝俊

 音楽   小杉太一郎

 編集   宮本信太郎

 

  助監督 鎌田房夫

 記録   国定淑孝

 装置   館清士

 装飾   宮川俊夫

 美粧   林政信

 結髪   桜井文子

 衣裳   三上剛

 擬斗   足立伶二郎 

 進行主任 神先頌尚

 

 出演

 

 中村錦之助(宮本武蔵)

 

 

 河原崎長一郎(林彦次郎)

 佐藤慶(太田黒兵助)

 香川良介(植田良平)

 鈴木金哉(御池十郎左衛門)

 西本雄司(壬生源次郎)

 山形勲(壬生源左衛門)

 
 

 高倉健(佐々木小次郎)

 

 

 

 

 

 

 

 監督 内田吐夢

 

 ☆☆☆

 小川貴也=小川三喜雄=初代中村獅童=小川三喜雄

 

 中村錦之助=初代中村錦之助

         =小川矜一郎→初代萬屋錦之介

         =小川錦一

 

 

 ☆☆☆

 画像・台詞出典 『宮本武蔵 一乗寺の決斗』DVD

 ☆☆☆

  台詞の引用・シークエンスの考察は、研究・

 学習の為です。 
 東映様にはおかれましては、ご理解・ご寛

恕を賜りますようお願い申し上げます。

☆☆☆

 平成十一年(1999年)九月十一日福原国際東映

 平成十二年(2000年)九月八日高槻松竹

 平成十五年(2003年)五月二十二日京都文化博物館

 にて鑑賞

☆☆☆

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宮本武蔵 一乗寺の決斗(三十三)下がり松

 

 二丁の駕籠が現れ、壬生源左衛門・源次郎少年が下

がり松の前に立った。源左衛門は吉岡門弟衆の挨拶を

受ける。

  

   源左衛門「源次郎」

 

   源次郎「はい」

 

   源左衛門「今日の果し合いはそちは名目人に

          なっているが、戦いは他の門弟衆

          がやる。お主は此処でじっと控え

          ておればよい。立派立派。まだよい。

          まだちっと早い。誰か火を貸さぬか」

 

   御池「御老体。煙草も宜しいが前に人数の手

       分けをしておいては?」

 

   源左衛門「おお。そのこと。備え立てて敵を待と

         う。しかし、この人数をどう手分けしよ

         うと言うのか。」

 

   植田「この下がり松を中心に三方の道を各十

      間くらいの距離を置いて道の両側を沿わ

      せることにします。」

 

   源左衛門「してここには?」

 

   植田「源次郎様の側には、拙者・太田黒・御池・

       横川・中村、そして御老体に壬生八剣士

       の面々がお守りします。山道のいずれか

       ら武蔵が来たという合図へすぐそれに合

       体して一挙に彼を葬ってしまう。」

 

 剣士の一人は「まだ来ぬか」と武蔵の登場を待つ。

 

 源左衛門は人数を幾箇所に分割して武蔵がどこ

から来るかわからぬが真っ先に彼にぶつかる人数

は凡そ二十名くらいにしかならないのではないかと

危惧する。植田はそれだけが一斉に取り巻いてお

るうちに何名かの者が加勢する作戦と語る。

 

  太田黒「武蔵の首は本陣を見ないうちに飛ぶで

       しょう。」

 

  源左衛門「うん。しかし、武蔵は稀代の逃げ上

        手故四、五人を斬って引き上げ『我

        一人勝てり』等と世間へ言いふらす

        かもしれん。」

 

  御池「御老体、その点、我々にぬかりはありま

      せん。」

 

 御池は鉄砲を構える剣士を見せる。源左衛門

は「おお」と歓声をあげる。同時に「飛び道具は

醜いと世間の口が?」と世評を気にする。

 

   太田黒「世評よりかは武蔵の首です。勝ち

        さえすれば死人に口無し。世評は

        作れます。敗れたら真実を言っても

        世間は泣き言としか聞いてくれます

        まい。」

 

   源左衛門「ようし、そこまで腹をくくっている

          ならば異存はない。用意に手間

          取っているうちに不意を突かれて

          もなるまい。手配は任せる。配備

          配備」

 

 剣士は部下に「集まれ」と声をかける。植田は

部下に「かねて申し渡したように山道へ急げ」と

指示する。一同は「はっ」と答える。木に登り銃

の手入れをする者、弓を構える者もいる。

 

 武蔵ははやる心を抑えて、吉岡・壬生方の大

人数の位置関係を確かめる。

 

   武蔵「七十三対一」

 

 松の枝が源次郎に当たり、少年は「ああ」と声を

出す。

 

   源左衛門「何じゃ!震えているのか?臆病者

          め!」

 

   源次郎「いや、背中に松葉が入ったんです。

        何も怖く等」

 

   源左衛門「それなら良いが、やがて斬り合い

        が始まるかよく見ておくんだぞ」

 

 そこへ佐々木小次郎が現れ、大笑して吉岡一門

を「馬鹿」と呼ぶ。

 

 源次郎少年は「怖い」と叫んで父源左衛門に抱

き付く。太田黒は「来たな」と叫び武蔵の襲撃と思

いこむ。佐々木小次郎は不敵な笑いを浮かべて、

冷たく吉岡一門に嘲りの視線を浴びせる。

 

  小次郎「目は無いのか?戦う前から目が

        上がっていると見える。拙者を

       武蔵と間違える用では心細いな。

       拙者は今朝の試合の見届け人

       として来た。その立会人に槍を向

       ける馬鹿が有るか?」

 

  太田黒「馬鹿?これは酷く御立腹だな。しか

       し、今朝の試合に貴公を立会人に

       誰が選んだ?当吉岡一門としては

       頼んだ覚えはない。それとも武蔵か

       らお頼みを受けて来られたか?」

 

  小次郎「黙らっしゃい六条の高札を立てたは

       しかと双方に拙者から申し置いた筈」

 

 

  太田黒「成程あの貴公は自分が立会人として

       立つとか立たぬとか、だがその折武蔵

       は頼むと言ったか?当方でもお願い申

       すと言った覚えはない。要するに貴公一

       人が出る幕でもないのに役を買って出た

       のであろう。そういうお節介は世間によ

       くあるものだ。」

 

  小次郎「言うな」

 

 

  太田黒「帰れ」

 

  植田「見世物ではない。」

 

  小次郎「帰ろう。これで拙者も公然と貴公達の

       お手並みが拝見出来るわ。ハッハッハ」

 

   太田黒「傍観者め」

 

   源左衛門「方々思わぬ邪魔者で心が緩んで

          ひけを取るようなことはあっては

          ならん。早く部署へ戻れ!」

 

 

 武蔵は沢山の剣士を相手にすることを再確認し

死の恐怖を抱きつつも、突破して勝つ事を考える。

 奇襲作戦しか無かった。

 

 小次郎は山道より下がり松を観察するが、厳しい

視線を見せる林彦次郎を見つけ、蓮台寺野以来

の再会を確かめる。

 

    小次郎「吉岡の門弟衆。これは異な所へ。さ

         ては戦列を離れて高見の見物と見え

         る。」

 

    林「何と」

 

    小次郎「お気になさるな。拙者とて同じ事。ま

         あ見られい。今にめったに見られぬ

         ものが見られる。」

 

 武蔵は下がり松前に床几に腰かける源次郎少年

の位置を強く見つめ心に焼き付けた。

 

    武蔵「突っ込むのは今だ。殺さなければ殺

        される。」

一乗寺

 吉岡門弟達は、武蔵が姿を見せぬことと刻限を

とうに過ぎていることから、怖気ついたかと予測す

る。

 

  太田黒は待たせておいてじらすのは奴の常套

手段であり油断召さるなと引き締める。

 

 烏が鳴く。門弟達は抜刀して武蔵を待つ。

 

 武蔵は小剣を鉢巻に差し、鯉口に唾をかけ、源次

郎少年を凝視する。

 

  ☆大いなる夢☆

 

   「いつも仕事をしていておもったのは、内田さん

    という人は、ぼくらよりひとまわりふたまわりも

    欲ふかいということだったな。」

   (鈴木尚之著『私説内田吐夢伝』548頁

    2000年3月16日発行 岩波現代文庫)

 

 撮影監督吉田貞次の言葉である。吐夢は貪欲に計画

を立て、途方もない実現不可能と思われる事柄も剛腕

で具現してしまう。

 まさに夢を吐く人であったという。

 

  一乗寺決闘の場面を撮るに当たって、鉄棒を埋めて

松の外皮を貼って樹に見せたことは前述したが、撮影で

は霧が立ち込めていたがそれが晴れて、その天候の変

化に撮影し、決戦の樹を撮ることが成り立ったという。

 決戦の地の樹が映る瞬間、画像はカラーから白黒に

転換する直後でもあり、緊張感がずっしりと観客の心

に迫る。

 

 一四〇人のキャストが集まるが、下がり松撮影の日

程を読むとそのハードさに圧倒される。

 午後八時就寝、午前三時起床暗闇の中に懐中電灯

を手にして一乗寺下がり松の撮影現場に臨んだ。

 

  武蔵は下がり松を見下ろす山の中で観察する。

  

  吉岡方はまず門弟達が下がり松に到着する。松明

を掲げ、ある者は鉄砲、ある者は弓を用意して、武蔵

謀殺を狙う。名門の面子にかけて一人の剣士武蔵を

殺害しようとする。

 

 壬生源左衛門・源次郎父子が駕籠に乗って到着す

る。父は可愛い我が子を名目人に立てたが実戦には

参加せず、周りの大人達が戦って武蔵を倒す光景を

よく見て学ぶようにと説く。

 

 蟻の這う間も塞ぐように七十三名の吉岡方は武蔵

の行動を予測し、飛び道具も用意し謀殺の計画を立

てる。武蔵を殺害すれば、世評は説得できると太田

黒は答える。

 

 ここで佐藤慶の冷酷演技が光る。

 

 香川良介の植田の重厚さも強烈である。

 

 山形勲が父性を熱く見せる。

 

 初代中村錦之助が、決死の場にいる武蔵の恐怖と

闘志を生きる。「七十三対一」の言葉には、まさに死の

戦いに命の全てを賭けて挑まなければならない青年

の叫びである。声の調子は落ち着いている。その落ち

着いた、静かな叫びが、武蔵の極限状況を表してい

る。

 

 西本雄司の源次郎少年が美しい。松の枝が服の

中に入って怯えるシーンに戦いの残酷さが示され

る。父に叱責され、怖がっていませんといじらしく

少年は語るが、その健気さが恐怖を一層深く伝え

ている。

 

 内田吐夢は少年を戦地に立たせる吉岡の名声

主義に深い悲しみを抱いている。

 

 佐々木小次郎が現れ、緊張する吉岡方が自身を

武蔵と間違えた事を嘲笑し、立会人だぞと注意する。

 

 このシーンの高倉健の冷酷演技は圧巻である。

小次郎は、武蔵対吉岡の大決戦を見て両者の戦術

をじっくり学ぼうとしている。飛び道具も用いて、武蔵

を暗殺しようとする光景を見られるのは、太田黒に

とって不愉快で、小次郎を立会人として認めず、追

い出す。

 

 高倉健と佐藤慶の演技合戦も凄みがある。

 

 吉岡方は大いに緊張していることが伝えられる。

 

 武蔵は奇襲戦法で決死の戦いに勝利を掴む

ことを考え、一番に源次郎少年襲撃を決める。

 

 七十三人の敵を一人で斬らねばならない。

 

 「突っ込むのは今だ。殺さなければ殺される。」

 

 鈴木尚之は、吉川英治の原作小説にはない言葉

を語り、武蔵の生命の在り方を書いた。

 

 武蔵は殺し合いの道に身を置き、殺さなければ

殺されるという恐怖感の真っただ中で剣を取った。

 一乗寺の決戦場は、殺し合いの場である。

 

 剣の鯉口に唾をかけて手に取った武蔵。

 

 彼は殺し合いを選び取り、敵を全て斬り殺す事を

選ぶ。

 

 剣は殺人であるという思想を、内田吐夢は宮本

武蔵の戦いに確かめた。

 

                       文中敬称略

  

        令和元年(2019年)十二月三十一日

 

 

                           合掌

 

 

                      南無阿弥陀仏

 

 

 

                          セブン