宮本武蔵 一乗寺の決斗(十七)「自身の油断を戒めている」本日公開五十五年 | 俺の命はウルトラ・アイ

宮本武蔵 一乗寺の決斗(十七)「自身の油断を戒めている」本日公開五十五年

   『宮本武蔵 一乗寺の決斗』

    映画 トーキー 128分 イーストマンカラー 

  白黒映像部分あり

  昭和三十九年(1964年)一月一日公開

  製作国  日本

  製作   東映京都

  

  製作   大川博

  

  企画   辻野公晴 

        小川貴也 

        翁長孝雄

 

  原作   吉川英治

 

  脚本   鈴木尚之

        内田吐夢

 

  撮影   吉田貞次

  照明   和多田弘

  録音   渡部芳史

  音楽   小杉太一郎

  編集   宮本信太郎

 

  出演

 

  中村錦之助(宮本武蔵)

  

  岩崎加根子(吉野太夫) 

  

  

  

 

  監督 内田吐夢

 

  ☆☆☆

  小川貴也=小川三喜雄=初代中村獅童=小川三喜雄

 

  中村錦之助=初代中村錦之助=小川矜一郎

         →初代萬屋錦之介

 

  ☆☆☆

  画像・台詞出典 『宮本武蔵 一乗寺の決斗』DVD

  ☆☆☆

   台詞の引用・シークエンスの考察は、研究・学習の為で

 す。 東映様にはおかれましては、ご理解・ご寛恕を賜り

 ますようお願い申し上げます。

  ☆☆☆

 平成十一年(1999年)九月十一日福原国際東映

 平成十二年(2000年)九月八日高槻松竹

 平成十五年(2003年)五月二十二日京都文化博物館

 にて鑑賞

  

 宮本武蔵 一乗寺の決斗 昭和三十九年一月一日公開 内田吐夢監督作品(一)

 

 宮本武蔵 一乗寺の決斗(二)「怖い人」

 

 宮本武蔵 一乗寺の決斗 昭和三十九年一月一日公開 内田吐夢監督作品(一)

 

 宮本武蔵 一乗寺の決斗(二)「怖い人」

 

 宮本武蔵 一乗寺の決斗(三)涙の尺八

 

 宮本武蔵 一乗寺の決斗(四)墨絵を見る

 

 宮本武蔵 一乗寺の決斗(五)町人のたつき

 

 宮本武蔵 一乗寺の決斗(六)兄と弟

 

 宮本武蔵 一乗寺の決斗(七)誘われた剣士 

 

 宮本武蔵 一乗寺の決斗(八)「お案じなさいますな」

 

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(九)果たし状

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(十)酒席の剣士 本日

萬屋錦之介八十六歳誕生日

https://ameblo.jp/ameblojp-blog777/entry-12420243804.html

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(十一)両雄出立 本日平幹二朗八十五歳誕生日

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(十二)雪の三十三間堂

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(十三)緋牡丹の一片

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(十四)牡丹の樹

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(十五)牡丹を焚く

 

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(十六)「夜が明け次第」

 

 宮本武蔵は夜明けに一人で帰り、吉岡門弟衆に囲繞

されれば、戦って突破しようと決めていた。伝七郎との

激闘を制し衣服に血を浴びた彼は、戦いの中に身を置

き、常に緊張感の中に自己を置いていた。

 

  吉野太夫という美女と夜に同じ部屋に居ることは、

武蔵にとって不思議な感覚を呼び起こすものとなって

いた。剣に生きる武蔵と芸に精進する吉野が心と心

で見つめ合う。

  

  吉野は武蔵に問う。

 

   吉野「武蔵様。あなたはそうやって誰に備えてい

       るのですか。」

 

   武蔵「誰にではない。自身の油断を戒めている

       だけです。」

   

   吉野「敵には?」

 

   武蔵「元よりのこと。」

 

   吉野「それでは、もしここへ吉岡の門弟衆が、大勢

       して押し寄せて来てはあなたはたちどころに

       斬られてしまうに違いない。私にはそう思えて

       なりません。何と言う気の毒なお方であろ」

 

   ☆☆☆自身の油断☆☆☆

 

 宮本武蔵は自己自身の油断が何よりの大敵と考えて

緊張感を緩めぬように警戒している。

 吉野太夫は戦意に燃え、いつでも戦いの場に行こうと

して剣に生きて燃えている武蔵の在り様を鋭く洞察する。

 

 「自身の油断を戒めているだけです」と武蔵は語る。

 

 吉野は緊張感のただ中にある武蔵が、吉岡門弟衆と

戦えばすぐに斬られてしまうのではないかと推察し、

「気の毒なお方」と哀れむ。

 

  この言葉は武蔵の怒りを呼ぶものとなる。吉野の

厳しい言葉が武蔵の心の奥底の生き方を問いかける。

 

 内田吐夢は、武蔵が吉野との交流において、初代

中村錦之助がどのように確かめて表現するかを見つ

め、「錦ちゃん、どうする」と問いかけていた。

 

 『宮本武蔵』五部作撮影中に吐夢は、中村錦之助に

対して、「錦ちゃんも武蔵と一緒に成長するんだぞ」と

説いていた。新免武蔵後の宮本武蔵が野生児から剣

士となり、剣に生きることで血を流さねばならない事に

苦悩しつつ一歩一歩人間・衆生・生物として、学んで

行く。同時に俳優・役者初代中村錦之助こと小川錦一

も人間・衆生・生物として学んでいくようにという指導が

あった。

 

 中村錦之助の芸・演技をそのまま見つめて、彼の為

そうとする芸・演技をそのままに映そうという心が、吐夢

監督に在った。

 

 内田吐夢・中村錦之助師弟の心と心の交流が、作品

のワンシーン・一コマを産みだして行くことを想う。

 

 命一コマの精神は、吐夢と錦之助の問答に燃えている

ことを感じた。

 

 後のシーンで武蔵が吉野の心遣いを察し感謝しつつ

選ぶ行為は、中村錦之助の決断によって明かされ、吐

夢はそのままに撮り、錦之助の覚醒に感動したという。

 

 弟子錦之助の決定による演技に、師吐夢が武蔵の心

を教えられた。

 

 師弟の絆は、吐夢・錦之助の演出・演技の呼応に熱く

燃えている。

 

 『宮本武蔵 一乗寺の決斗』は昭和三十九年(1964年)

一月一日に公開された。本日は平成三十一年(2019年)

一月一日である。

 

 

 内田吐夢が演出し、初代中村錦之助が宮本武蔵の

生命を生きる。ベスト・最上・最高等と言うランキングを

越え、大傑作という評価することも憚るべきかもしれな

い、無限の深さを明かす映画である。

 

 生命の大地として働く一本である。

 

 

 『宮本武蔵 一乗寺の決斗』五十五歳御誕生日おめ

でとう。

 

                             合掌

 

                       南無阿弥陀仏

 

 

                            セブン