宮本武蔵 一乗寺の決斗(十二)雪の三十三間堂 | 俺の命はウルトラ・アイ

宮本武蔵 一乗寺の決斗(十二)雪の三十三間堂

  『宮本武蔵 一乗寺の決斗』

  映画 トーキー 128分 イーストマンカラー 

  白黒映像部分あり

  昭和三十九年(1964年)一月一日公開

  製作国  日本

  製作   東映京都

  

  製作   大川博

  

  企画   辻野公晴 

        小川貴也 

        翁長孝雄

 

  原作   吉川英治

 

  脚本   鈴木尚之

        内田吐夢

 

  撮影   吉田貞次

  照明   和多田弘

  録音   渡部芳史

  音楽   小杉太一郎

  編集   宮本信太郎

 

  出演

 

  中村錦之助(宮本武蔵)

  

  岩崎加根子(吉野太夫) 

  平幹二朗(吉岡伝七郎)

    

  佐藤慶(太田黒兵助)

  織田政雄(木賃宿の親父)

  花澤徳衛(青木丹左衛門)

  香川良介(植田良平)

  鈴木金哉(御池十郎左衛門)

  楠本健二

  小野恵子(りん弥)

  

  山形勲(壬生源左衛門)

  東野英治郎(灰屋紹由)

  千田是也(本阿弥光悦)

  

 

  監督 内田吐夢

 

  ☆☆☆

  小川貴也=小川三喜雄=初代中村獅童=小川三喜雄

 

  中村錦之助=初代中村錦之助→初代萬屋錦之介

 

  鈴木金哉→鈴木康弘

  ☆☆☆

  画像・台詞出典 『宮本武蔵 一乗寺の決斗』DVD

  ☆☆☆

   台詞の引用・シークエンスの考察は、研究・学習の為で

 す。 東映様にはおかれましては、ご理解・ご寛恕を賜り

 ますようお願い申し上げます。

  ☆☆☆

 平成十一年(1999年)九月十一日福原国際東映

 平成十二年(2000年)九月八日高槻松竹

 平成十五年(2003年)五月二十二日京都文化博物館

 にて鑑賞

  『宮本武蔵』第一部感想(一)加筆しています

 

 宮本武蔵 一乗寺の決斗 昭和三十九年一月一日公開 内田吐夢監督作品(一)

 

 宮本武蔵 一乗寺の決斗(二)「怖い人」

 

 宮本武蔵 一乗寺の決斗 昭和三十九年一月一日公開 内田吐夢監督作品(一)

 

 宮本武蔵 一乗寺の決斗(二)「怖い人」

 

 宮本武蔵 一乗寺の決斗(三)涙の尺八

 

 宮本武蔵 一乗寺の決斗(四)墨絵を見る

 

 宮本武蔵 一乗寺の決斗(五)町人のたつき

 

 宮本武蔵 一乗寺の決斗(六)兄と弟

 

 宮本武蔵 一乗寺の決斗(七)誘われた剣士 

 

 宮本武蔵 一乗寺の決斗(八)「お案じなさいますな」

 

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(九)果たし状

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(十)酒席の剣士 本日

萬屋錦之介八十六歳誕生日

https://ameblo.jp/ameblojp-blog777/entry-12420243804.html

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗(十一)両雄出立 本日平幹二朗八十五歳誕生日

 

  宮本武蔵は扇屋を出て、吉岡伝七郎が待つ三十三間堂に

向かう。編笠茶屋に休息し亭主に草鞋があるかどうかを尋ね、

亭主は店の少女に買いに行かせる。

 虚無僧が尺八を吹く。武蔵は筆を出し手紙を書く。三十三間

堂における決闘の時刻は戌の下刻、現在の二十一時である。

 

   武蔵「もし拙者が亥の下刻までに此処に帰らなかったら

       この羽織とこの書状を扇屋に居られる光悦殿に届

      けて貰いたい。」

 

 亥の下刻は現代の二十三時である。

 

 

   亭主「本阿弥の光悦様に。お安い御用です。お預かりして

       きます。」

 

  武蔵は酉の下刻(十九時)かと時刻を尋ね、亭主は「まだそう

はなりまへんやろ」と答え、降雪を見る。

 虚無僧が現れ、宿の前で吹き、亭主からお金を貰い一礼する。

武蔵はかつて故郷で、自身を捕縛する為に追ってきた侍青木

丹左衛門がその虚無僧であることに驚く。虚無僧が去った後、

武蔵は亭主に馴染みの者かと問い、亭主は播州で御侍やった

方やそうですと答え、武蔵は丹左衛門と同一人物と決定的確信

を得て「城太郎の父だ」と語る。

 少女が草鞋を買ってきてくれたことを受けて、武蔵の決戦前の

準備は整った。

 

 雪がしんしんと降っている。

 

 伝七郎は籠を止めさせ、門弟達に草鞋を直させる。

 

 三十三間堂に着くと、既に太田黒兵助とその朋輩が火を焚いて

待っていた。植田良平ら長老格の門弟達もじっと若先生伝七郎を

見守り、抜かりないように武蔵の襲撃に備える。ちと早過ぎたかと

伝七郎は焚火の前に立って手を暖め、酒を所望し飲む。

 

   伝七郎「美味い。」

 

   植田「壬生の御老体!」

 

 伝七郎の叔父壬生源左衛門が現れた。

 

   伝七郎「どうして此処へ?」

 

   源左衛門「おぬしのその姿を見て安堵致したぞ。」

 

   伝七郎「柔弱な兄とは違います。ご安心下さい。」

 

   源左衛門「だが、伝七郎、敵をあまり軽視して臨む

          なよ。」

 

   伝七郎「心得ております。」

 

 吉岡一門門弟衆は伝七郎を警護しようとするが、伝七

郎は一対一での決斗を望み、「武蔵一人俺で十分だ。大

勢の助太刀等あっては伝七郎の名が廃る」と助勢を断り

「引いてくれ」と頼む。

 

   源左衛門「万一の事があったら骨はこの源左衛門

         が拾ってやる。」

 

 伝七郎は笑い自信を持って「引いてくれ」と頼み、宿敵

武蔵との決戦の時に心を逸らせる。

 

 雪が降っている。

 

 三十三間堂の中から武蔵が現れた。ゆっくりと床を進む。

 

 伝七郎は雪る地に立ち、「武蔵!」と叫び刀を抜き、「遅

い!」と叱る。

 

 武蔵は微笑むように「良いか?」と尋ねた。

 

   伝七郎「『よいか?』とは何を!戌の下刻は過ぎて居

        るぞ!」

 

   武蔵「下刻の鐘ときっちりかどうかは約束してお

      らん。」

 

   伝七郎「降りろ!」

 

   武蔵「今参る。」

 

 伝七郎は刀を構え、斬りかからんとする勢いを見せる。

 

   伝七郎「怖気づくようでは伝七郎の前に立つ資格

        は無いぞ!」

 

   武蔵「何の吉岡伝七郎の如き、既に去年の春拙者

       が真っ二つに斬っておる。」

 

   伝七郎「何!」

 

   武蔵「今日斬れば御身を斬る事二度目だ。」

 

   伝七郎「何時何処で?」

 

   武蔵「大和の国柳生の庄。」

 

   伝七郎「大和!」

 

   武蔵「旅籠の風呂の中で。」

 

   伝七郎「何!あの時!」

 

   武蔵「どちらも身に寸鉄も帯びていない風

      呂の中で、自分は目を以て御身を斬

       った!」

 

 吉岡家の刺客二人が縁の下に潜み武蔵を狙う。    

 

   伝七郎「愚にも付かぬ事を!その独りよが

        りを覚ましてやろう!来い!」

 

 刺客が斬りかかるが、武蔵は斬り、縁から飛び

降り伝七郎を一刀の下に斬って致命傷を与え、

今一人の刺客も斬って足早に去って行く。

 

 

 

 伝七郎は首から出血し激痛を堪え、「カアッ」と叫び刀を振るう

が雪に倒れ込んで絶命する。

 

 壬生源左衛門・植田良平・太田黒兵助らが駆け寄り抱き起

こすが、伝七郎は死亡していた。

 

    太田黒「武蔵!」

 

    源左衛門「伝七郎!その死は無駄にはせん!決して

           無駄死ににはさせん。聞こえたか?

           伝七郎!」

 

 武蔵は扇屋に帰ってきた。少女りん弥が迎えに来てくれた。

 

    武蔵「拙者の帰りを待っていてくれたのか?」

 

    りん弥「ええ人と約束があったんでっしゃろ?」

 

    武蔵「違う。違う。そう見えるか?」

 

  武蔵は微笑んで歩み出す。

 

 ☆☆☆雪の夜の決斗☆☆☆

 

 宮本武蔵と吉岡伝七郎が三十三間堂において

対決する。本作中盤のクライマックスの一つであり

全篇の中程で強い緊張を呼ぶ。

 

 内田吐夢の深く重い演出は、史上最大の傑作と

いう言葉を以てしても語り尽くせない。寧ろ讃嘆で

あっても評価する事自体無理だと言わざるを得ない

重みがある。言葉や文字では語り尽くせない。無限

の力がある。

 絶対視・神格化と言う方もおられるかもしれない

が、『宮本武蔵 一乗寺の決斗』という映画は、自分

にとって、人生の大師匠なのだ。そのズッシリとした

重みと限り無い深みに、ただただ圧倒されるのみな

のだ。

 

 武蔵は編笠茶屋で草鞋を求める。雪が降り始める。

雪の三十三間堂では足が冷えるので、血気に逸る吉

岡伝七郎が地上で焦り待っていることを読んだかと

思われる程見事な戦略で武蔵は草鞋を買って足を暖

めるのである。

 

  吉川英治の原作小説にしても、内田吐夢監督の

本作にしても、武蔵が此処で強かな作戦で決戦に臨

むことを鋭く洞察し描き出している。勝負は焦ったほう

が不利であり、身体全体の器官の状態を示す足の裏

を暖めておく戦法を取る武蔵が有利になる。

  武蔵と茶屋亭主の会話には信頼関係の暖かみが

ある。

  尺八の音の響きに胸が熱くなる。武蔵と丹左衛門の

再会に心を打たれる。まさに第一作以来の二人の顔合

わせである。暴れまくり殺人を犯し飯を強奪する野生児

だった新免武蔵は、青年剣士として凛々しい若者となって

いた。

 池田輝政の家臣として武蔵捕縛の指揮を取っていた青

木はボロボロの着物を着て虚無僧として暮らしている。だ

が表情は落ち着いている。武蔵は思わず一礼し、青木は

武蔵の変わった姿に気付かず礼をする。  

 

 初代中村錦之助と花澤徳衛の眼と眼、心と心の交流に感

銘を受けた。

 

  京都の編み笠茶屋に降り注ぐ雪。吐夢の描く京の冬は

深い。底冷えの寒さが伝わってくるようだ。

 

 伝七郎は三十三間堂に早目に着く。門弟衆や叔父の激励

を得て、自身の手で強敵武蔵を倒そうと血気に逸っている。

 この焦燥が伝七郎にとって命取りになってしまう。

 

 平幹二朗が傲慢不遜でありつつ、剣と家名の為に全てを

賭ける青年剣士伝七郎の誇り高き生き方を深い演技で熱演

する。

 

 香川良介の植田の暖かさ、山形勲の叔父源左衛門の家族

愛、佐藤慶の太田黒兵助の戦意が光っている。

 

 三十三間堂に武蔵が現れる。雪の夜。縁を草履で歩む武

蔵と地に立って冷えと戦う伝七郎。決戦の優勢劣勢が早くも

窺える。吉岡の刺客は、恐らくは伝七郎の意に反して植田や

太田黒が派遣した者達であろうが、潜みつつも武蔵の気迫を

恐れて中々斬り込みに行けない。

 

 武蔵は、大和柳生の庄の旅籠の風呂で会っていた過去を

語り、その時眼力で御身を斬ったのだと伝七郎に語り、挑発

する。血気に逸り戦闘心に燃える伝七郎は誇りを傷つけられ

て斬りかかるが、素早く動く武蔵は刺客二人と伝七郎を斬って

走り去る。

 

 一瞬で決する決闘。内田吐夢は戦いの瞬間を鋭く取る。

 

 縁からの飛び降り、刺客たち・伝七郎を斬る武蔵を、吐夢は

ワンカットで撮る。このカットはまさに命一コマであり、武蔵対

伝七郎の戦いの歴史が集約される。

 

 武蔵は瞬く間に去る。

 

 伝七郎は首の流血の激痛を堪え、刀を振って逃げた武蔵

を追い、戦意を示すが力尽きて倒れ死亡する。雪の白さと

伝七郎の流す血の赤が対照的だ。

 

 源左衛門・植田・太田黒らが伝七郎の死を悼む。吉岡一

門の熱き結束力が語られる。

 

 戦いは新たな戦いを呼び、血が流されて行く。

 

 内田吐夢の教えは深い。その偉大さは無限であり、一フ

ァンのわたくしが評価する等と言うことは恐れ多い。師の映

画を好きだなんて恐れ多くて言えない。

 吐夢映画は怖い。怖いのだが見ずにはおれない力、聞か

ずにはおれないパワーを以て私の心を引く。毎回叱責を受

ける気持ちになるのだが、吐夢映画上映と聞くと会場に行く

わたくしがいる。

 

 宮本武蔵は、決戦の後、何事も無かったように落ち着いた

様子で扇屋に帰還し、りん弥の優しい言葉を聞いて微笑む。

 

 この茶屋手紙執筆・三十三間堂決戦・扇屋帰還の錦之助

の美しさは光り輝いている。

 

 男がライバルの男と対決し三十三間堂で斬殺した後、落

ち着いて扇屋に戻り遊里の香りを確かめる。

 

 戦闘と平和が紙一重にある。

 

 剣士宮本武蔵の生き方は、戦いの場に置かれ、楽しい遊

び場においても何時狙われるか分からない厳しさに迫られ

ている。

 

 初代中村錦之助の沈着冷静な演技が、危険の真っただ中

に在る宮本武蔵の生き方を伝えてくれている。

 

 

                                  合掌

 

 

                            南無阿弥陀仏

 

 

                                 セブン