宮本武蔵 一乗寺の決斗(三)涙の尺八 | 俺の命はウルトラ・アイ

宮本武蔵 一乗寺の決斗(三)涙の尺八

『宮本武蔵 一乗寺の決斗』

  映画 トーキー 128分 イーストマンカラー 白黒映像部分あり

  昭和三十九年(1964年)一月一日公開

  製作   大川博

 

 企画   辻野公晴 

       小川貴也 

       翁長孝雄

 

 原作   吉川英治

 

 脚本   鈴木尚之

       内田吐夢

 

 撮影   吉田貞次

 照明   和多田弘

 録音   渡部芳史

 美術   鈴木孝俊

 音楽   小杉太一郎

 編集   宮本信太郎

 

 

 出演

 

 中村錦之助(宮本武蔵)

 

 入江若葉(お通)

 

 
 浪花千栄子(お杉)

 竹内満(城太郎)

 花沢徳衛(青木丹左衛門)

 千田是也(本阿弥光悦)


 

 

 

 監督 内田吐夢

 

 ☆☆☆

 小川貴也=小川三喜雄=初代中村獅童=小川三喜雄

 

 中村錦之助=初代中村錦之助→初代萬屋錦之介

 

 

 ☆☆☆

 画像・台詞出典 『宮本武蔵 一乗寺の決斗』DVD

 ☆☆☆

  台詞の引用・シークエンスの考察は、研究・

 学習の為です。 
 東映様にはおかれましては、ご理解・ご寛

恕を賜りますようお願い申し上げます。

☆☆☆

 平成十一年(1999年)九月十一日福原国際東映

 平成十二年(2000年)九月八日高槻松竹

 平成十五年(2003年)五月二十二日京都文化博物館

 にて鑑賞

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 宮本武蔵 一乗寺の決斗 昭和三十九年一月一日公開 内田吐夢監督作品(一)

 

 宮本武蔵 一乗寺の決斗(二)「怖い人」

  本位田杉は一途に祈っている。

 

  婆が一礼して笠を被る。その姿を青木丹左衛門が見ていた。

お婆は丹左衛門に気付かずに歩んで行った。

 

    丹左衛門「あれは作州宮本村の本位田のお婆に

          似ていたような。」

 

  宿おみや。

 

  城太郎が夕陽を見て、「カーカー!鴉の馬鹿。お師匠様の馬

鹿」と鴉と武蔵への怒りを述べた。

 

  お通は臥せっていた。

 

   お通「武蔵様は何故あのように酷い事を為さるので

       あろう?」

 

   城太郎「お通さん。もうそんな事考えるの、およしよ。又、熱

        が出るじゃないか!」

 

   お通「人の命を奪って喜んでいると。お婆様が仰った通り。

       武蔵様に限って。どうしても私にはそう思えない。」

 

 

  お杉婆が宿に戻ってくる。青木丹左衛門はお婆の後をつけてい

た。

    

   お通「お帰りなさいまし。」

 

   お杉「お通。未だ灯りを灯さぬのかえ?」

 

   お通「はい。」

 

   城太郎「お通さん。おいらがやるから寝といでよ。」

 

   丹左衛門「城太郎!」

 

  青木は別れた息子を見て胸が熱くなる。

 

  城太郎は父が見ているとも知らず、灯りを灯した。

 

   お杉「武蔵(たけぞう)の奴。今日も一日無駄骨

       じゃった!お通。その気があるなら肩揉

       んでたも。」

 

 お通は婆様の肩を揉んであげる。灯火が彼女の顔

を照らした。

 

   お杉「婆の苦労も知らず。又八の奴。何処をどう

       うろついて居る事やら。」

 

  

  丹左衛門は思わず落涙するが、泣いている顔を隠し

振り返って尺八を吹き歩みだした。

 

  本阿弥の辻と呼ばれる複数の住居が実相院後の東南

の辻にあった。光悦とその親戚達が家を並べて居住し、町

人の和の暮らしを明るく為していた。

  光悦が歩む。子供達がかごめかごめを歌っている。

 

  「御研小屋」と敬称される小屋では、職人達が銘刀を研ぎ

光悦は研がれた刀を見つめる。

 

  宮本武蔵は、光悦の優しい心遣いを受けて宿泊させても

らっていた。

 

  墨絵「栗の図」が掲げられていた。

 

  宋の梁楷が描いたと言われている。

 

  武蔵はこの絵を凝視した。

 

 

 ☆☆☆虚無僧の涙☆☆☆

 

 花澤徳衛の青木丹左衛門と浪花千栄子のお杉が同じ場面

に映る。『宮本武蔵』五部作では昭和三十六年の『第一部』以

来である。観客の心にも歴史が感じられる。丹左衛門は池田

家の家臣としての威風を見せていたが、虚無僧となり外見は

大きく変わっていた。

 お通に対するセクハラから失脚し虚無僧となって厳しい暮らし

をしている。

 お婆がわかならいことも察せられる。

 

 花澤徳衛が渋い。権力を笠に着て威張り散らしていた時代か

ら、セクハラでの失敗から奢りを反省し、苦しんでいる朱実や又

八を助ける心優しき虚無僧に変わった。哀感と切なさが観客の

心に伝わる。

 

 お通は愛する武蔵が、人の命を奪って喜ぶことを悲しみ、その

ことに疑問を持つ。城太郎はお通さんに会ってあげないお師匠

様を残念に思っている。

 

 我が子を見つける丹左衛門。ここでも花澤徳衛の驚きの声と

目が印象的だ。会っても中々名乗れない親心が切ない。

 灯火がお通を照らすシーンにドキドキ緊張する。

 

 内田吐夢の映像の深さがある。

 

 入江若葉が美しい。

 

 「お通さん!」と驚く丹左衛門。抑えていた片想いが湧く。初老

の男が若い美女に抱く恋心が切ない。

 涙を流し切なさを感じる丹左衛門が、その涙を隠して尺八を吹く

在り方に、「男の道」を感じた。

 

 光悦の住居には和の心がある。

 

 内田吐夢の情熱が、本阿弥の辻の活気を鮮やかに表現する。

 

 千田是也は一歩一歩の歩みに町人・文化人の風格を漂わせる。

 

 梁楷の墨絵を見つめる宮本武蔵。

 

 後姿で墨絵への敬意を表す初代中村錦之助。

 

 背中に一道を歩む武芸者の真剣さが光っている。

 

 

                                 文中敬称略

 

 

  花澤徳衛没後十七年・十八回忌御命日

  平成三十年(2017年)三月七日

 

 

                                   合掌

 

 

                               南無阿弥陀仏

 

 

                                   セブン