宮本武蔵(十七)「命を惜しみ労わらなければならない」 | 俺の命はウルトラ・アイ

宮本武蔵(十七)「命を惜しみ労わらなければならない」

 『宮本武蔵』
 

 映画 トーキー 110分 

 イーストマンカラー 東映スコープ

 昭和三十六年(1961年)五月二十七日公開

 製作国  日本

 製作会社 東映京都

  配給    東映


 製作 大川博


 企画 辻野公晴

     小川貴也


 原作 吉川英治


 脚本 成沢昌茂

     鈴木尚之

 

 撮影 坪井誠

 照明 和多田弘

 録音 野津裕男

 美術 鈴木孝俊

 音楽 伊福部昭

 編集 宮本信太郎


  記録 石橋茂子

 装置 上羽峯男

 装飾 宮川俊夫

 美粧 林政信

 結髪 桜井文子

 衣裳 三上剛

 擬斗 足立伶二郎

 進行主任 植木良作


 助監督 山下耕作  

       富田義治

       杉野清史

 

 


 出演


 中村錦之助(新免武蔵)

 


 

 

 

 木村功(本位田又八)

 木暮実千代(お甲)

 浪花千栄子(お杉)

 


 

 坂東蓑助(池田輝政)

 加賀邦男(辻風典馬)

 風見章子(お吟)

 花沢徳衛(青木丹左衛門)

 阿部九州男(渕川権六)

 宮口精二(竹細工屋喜助)

 


 小笠原章二郎(七宝寺の和尚)

 有馬宏治(村人)

 梅沢昇(村人)

 大崎史郎(村人)

 長島隆一(村人)

 赤木春恵(竹細工屋の老婆)

 高松錦之助(村の老人)

 


 

 浜田伸一(村人)

 中村錦司(村人)
 遠山金次郎(村人)

 片岡半蔵(村人)

 河村満和(木戸役人)

 近江雄二郎(木戸役人)

 石丸勝也(炭焼の男)

 源八郎(村人)

 菊村光志(村人)

 大浦和子(村人)

 鈴木金哉(木戸役人)

 五里兵太郎(役人)

 波多野博(使者)

 


 潮路章(亡霊)

 宮城幸生(亡霊)

 黒部武司(亡霊)

 伊藤克彦(村人)

 野間勝良(役人)

 春路謙作(寺男)

 岡島艶子(その妻)

 


 三国連太郎(宗彭沢庵)

 入江若葉(お通)

 丘さとみ(朱実)



 

 監督 内田吐夢


 


 ☆☆☆

 小川貴也=初代中村獅童

       =小川三喜雄

 中村錦之助=初代中村錦之助

         →初代萬屋錦之介

 坂東蓑助=六代目坂東蓑助

        →八代目坂東三津五郎

 鈴木金哉→鈴木康弘

 潮路章→汐路章

 三国連太郎=三國連太郎

 ☆☆☆

  台詞の引用・シークエンスの考察は、研究・

学習の為です。
 東映様にはおかれましては、ご理解・ご寛

恕を賜りますようお願い申し上げます。

 感想では結末に言及します。未見の方は

ご注意下さい

 ☆☆☆

 平成五年(1993年)一月四日

 京都文化博物館映像ホールにて鑑賞
 ☆☆☆

関連記事

『宮本武蔵 昭和三十六年五月二十七日公開

 内田吐夢監督作品(一)』

 http://ameblo.jp/ameblojp-blog777/entry-12164052318.html

 

『宮本武蔵(二)青春の悩み』 

http://ameblo.jp/ameblojp-blog777/entry-12236940664.html


宮本武蔵(三)野生児 野の子 色男


宮本武蔵(四)鈴の娘

 

宮本武蔵(五)暴れん坊

 

 

宮本武蔵(六)友の逃走

 

 

『宮本武蔵(七)空に吠ゆ』

 http://ameblo.jp/ameblojp-blog777/entry-12249731385.html

 

 

 宮本武蔵(八)関所突破 


 
宮本武蔵(九)功徳の一善

 

 

宮本武蔵(十)潜伏の日


宮本武蔵(十一)渦巻く謀略


宮本武蔵(十二)「俺は獣じゃない」

 

 

宮本武蔵(十三)山中の三人



宮本武蔵(十四)笛の音

 

 

 

宮本武蔵(十五)法縄


宮本武蔵(十六)千年杉


 

☆☆☆

感想では結末に言及します。未見の方は

ご注意下さい

☆☆☆

 

  新免武蔵は千年杉に吊るされ雨に打たれ

て悔しさを噛みしめ、「うう」と声をあげる。

 晴れた朝。沢庵は武蔵を見つめる。お杉

婆が現れ、「武蔵はまだ生きておりますかい

な?」と問う。

 武蔵は起きて足を振り二人を驚かし、「貴様

達は人間の皮を被った獣ばかりだ」と怒りの

声を語る。


 お通は床にあって「武蔵さん」と語る。


 夜。千年杉に吊るされる武蔵は哀しみを痛感

していた。地上に沢庵がいて彼の名を呼んだ。


  武蔵「生臭坊主」


  沢庵「その性根ならあと四五日は持つな。」

 

  武蔵「お前を蹴殺してやる!」


 武蔵は空間を蹴る。


  沢庵「足が動く。大地はびくともせぬ。何故

     それだけの力を身の内に蓄えておか

     なかった。

     折角人の子として生まれながら獣狼と

     変わらず。

     お主。この世に自分程強い人間はい

     ないと思いあがっていたであろう。」


 武蔵は技で負けた訳ではないが、沢庵は策

で負けようが負けは負けだと厳しく語り、儂は

勝者で床几に腰かけ、お前は敗者として惨めな

姿をさらしていると叱る。


   沢庵「人間の真の強さとはそんなものでは

       ない。もう一晩考えておけ。」


   武蔵「降ろしてくれ!もういっぺん生きてみた

       くなったんだ!俺はこんなところで死

       ぬのは嫌だ。」


   沢庵「いかん。やり直しがきかぬのが人生

       だ!」


 沢庵は去っていく。

 

 深夜。お通が杉を登り、縄目を鎌で斬り、武蔵

と共に地に落ちた。二人は愛を確かめ合う。




   武蔵「俺は生きてるぞ!」


 二人は共に歩んだ。だが、武蔵は姉お吟を救出

する課題があり、花田橋で再会することを誓い合

って姉のもとに向かう。


 千年杉の武蔵をお通が助け二人は共に何処か

に去り、沢庵もすがたを消したと聞き、お杉は怒り

権叔父を連れてお通を成敗すると主張し探索の

旅を始める。


 峡谷で武蔵はお吟を探し名を呼んだが、誰も

いなかった。

 

  お通が花田橋で気分がしんどくなり体調不良
になるが、親切な竹細工師喜助夫妻が看護して

くれた。夫妻はお通を可愛がり、竹細工の作り

方を教授した。


 お杉婆は権六叔父を連れて、逃げた嫁お通を

成敗し、又八を探しだし、家名の恥を雪がせると

語る。


 沢庵はその様子をじっと見つめる。


 花田橋近くで蓑を被った武蔵を見つけた沢庵

が呼び止めた。武蔵はよくも騙したなと激怒す

る。

 

   沢庵「ああするより貴様を青木丹左から救

       う手立ては無かった。」

 

      武蔵「又俺を騙すつもりか!」


  沢庵「お吟殿の身は心配ない。おい、武蔵。」


 沢庵は会わせたい人がいると述べた。武蔵は

沢庵と共に姫路城(白鷺城)を尋ね、城主池田

輝政に拝謁する。


  輝政は「いかさま不敵な面構え」と述べる。彼

は武蔵のことをよく知っていて、赤松一族の子孫

であることを強調する。


 沢庵は白鷺城のあかずの間に武蔵をしばらく

軟禁することを提案する。


 あかずの間に黒くなった血痕があった。沢庵

は漆のように黒いのは智恵でお主の祖先赤松

一族のあえない血だと教える。


   武蔵「この体に流れているのと同じ血。」


   沢庵「どんな血でも磨かなければ獣の血と

      同じ。母の胎内と思い、和漢のあらゆ

      る聖典がある。此処を暗黒蔵として暮

      らすも光明蔵として暮らすもただそな

      たの心一つじゃ。」


 武蔵のあかずの間での暮らしが始まった。柱

の血が赤く流れる。蹄の音が響く。これらは武蔵

の心象風景であろう。


 亡霊が現れ、武蔵に「我らの血がお前の中に

脈打っている」「我らの悔恨を生かすのだ」と歴

史を伝え励ます。


 喜助夫妻から竹細工作りを学ぶお通は、喜助

から「人の心も杓のようにありたい」という教えを

学ぶ。喜助の女房が何時の日か武蔵と会える

こ日が来ると励ましてくれた。


 雪の日。お通は武蔵の声を思った。


 沢庵が尋ねてきた、喜助はお通が店を手伝

ってくれていることに感謝する。


 沢庵は白鷺城見つめ、「お城の天守がよく見え

る。他に何か見えぬか?」と問う。


   お通「何にも」


   沢庵「今にわかる。」


 白鷺城の天守のあかずの間で学を独習し身心

を鍛えた。


  生命を奪って強さに驕っていた青年は、沢庵

の法縄・仲間・先祖の励ましを受け、生命の尊さ

に目覚めた。


    武蔵「今日までの己の勇気は本当の勇気

        ではない。もののふの勇気そんなも

        のではない。怖いものの恐ろしさを

        知り、命を惜しみ労わらなければなら

        ない。」


 ☆☆☆深き生命への目覚め☆☆☆


 武蔵は千年杉に吊るされ、暴れ抵抗しようと

するが手を縛られているので空間を蹴るしか

方法がない。沢庵はそこをついて、縛られた

武蔵に厳しい言葉を浴びせる。


  悔やみ悲しみ「降ろしてくれ」と頼む武蔵は

「もういっぺん生きてみたくなったんだ」と生きる

ことへの熱意を語る。


 だが沢庵は「やり直しがきかぬのが人生だ」

と述べる。この言葉は重い。


 お通が鎌を持って杉の木に登り、縄を切り、

救い出してくれた。武蔵は感激し、お通に愛を

伝え、お通も武蔵に恋心を覚えたことを確かめ

る。


 二人が愛に生きて歩むシーンは感動的だ。


 内田吐夢は本作のテーマカラーを緑にしている

のではないかと思う程、自然の緑が輝いている、


 初代中村錦之助の情熱と入江若葉の可憐だ

は恋人達の愛の深さを語っている。


 武蔵が峡谷にお吟を救出に行くシーンはどこに

課題の困難性を伝え、山の中に一人ある若者とし

て武蔵が描かれる。


 簑を被って顔を隠している沢庵は千年杉に吊る

したことは青木丹左の刀から守る為だったと述べ、

池田輝政公に引き合わせてくれた。


 輝政を重厚に勤める人は六代目坂東簑助。後

の八代目坂東三津五郎である。


 輝政は武蔵が赤松一族の末裔であることを述

べる。


 柱から出る赤い血や亡霊たちの暖かい言葉は

武蔵の心に響いた世界であろう。


 白鷺城で武蔵は和漢の書籍を熟読した。


 お通は優しい喜助夫婦に支えられ、武蔵を一途

に愛した。入江若葉の清純な魅力が光る。


 お婆はお通を追う。


 沢庵は喜助の店を尋ねて、白鷺城に何かが

見えるかどうかとお通に問う。お通は見えない。

沢庵は「何かはわかる」と武蔵との恋がお通に

成就することを祈る。だが、学んでいることの

武蔵を思い、彼の思い人お通には守秘義務を

守って語らず見つめる。


 三國連太郎の沢庵が暖かくて大きい。


 武蔵は和漢の聖典を精読し、自らの破壊に

明け暮れた在り方を深く反省する。


 衆生として、生物として、人間として、命の感謝

する者として武蔵は新生した。


 関ヶ原の合戦・野武士辻風一党との激突・青木

一党との対決で人を殺傷し強さに自惚れていた

新免武蔵は沢庵の法縄にかかり、罪の重さを知り、

お通と愛情を確認しあうが、あかずの間で亡霊の

声と聖典に学び、罪を反省し悲しみ、たった一つの

命を大切にして惜しみ労わることに目覚めた者と

なった。


 夕陽を受ける武蔵。


 生命を尊ぶ者として自己を確認する。


 初代中村錦之助はその深く重い芸によって、戦い

に勝つことに拘り敵を殺傷していた武蔵が、沢庵の

叱責で命を大切にする者に転成したことを演じ、命

惜しむ武蔵の生き方を鮮やかに明かした。



 画像出典

 『宮本武蔵』DVD


                       文中敬称略



 平成二十九年(2017年)三月十九日

                           合掌



                      南無阿弥陀仏



                          セブン


 
第一部 ラスト