宮本武蔵(十二)「俺は獣じゃない」 | 俺の命はウルトラ・アイ

宮本武蔵(十二)「俺は獣じゃない」

『宮本武蔵』 

 映画 トーキー 110分 

 イーストマンカラー 東映スコープ

  昭和三十六年(1961年)五月二十七日公開

  製作国  日本

  製作会社 東映京都

  配給    東映

 

 

 製作 大川博

 

 企画 辻野公晴

      小川貴也

 

 

 

 原作 吉川英治

 

 脚本 成沢昌茂

     鈴木尚之

 

 

 

 撮影 坪井誠

  照明 和多田弘

  録音 野津裕男

 美術 鈴木孝俊

 音楽 伊福部昭

 編集 宮本信太郎

 助監督 山下耕作  

      富田義治

       杉野清史

 

 

 

 

 

 出演  中村錦之助(新免武蔵)


      浪花千栄子(お杉)


      風見章子(お吟)  
      花沢徳衛(青木丹左衛門)

       阿部九州男(渕川権六)

       石丸勝也(炭焼の男)

 


      三国連太郎(宗彭沢庵)

 

      入江若葉(お通)

 


 監督  内田吐夢

 

 


  ☆☆☆

 

 中村錦之助→初代萬屋錦之介

 

 ☆☆☆

  台詞の引用・シークエンスの考察は、

研究・学習の為です。

  東映様にはおかれましては、ご理解・

ご寛恕を賜りますようお願い申し上げます。

 

 ☆☆☆

 平成五年(1993年)一月四日

 京都文化博物館映像ホールにて鑑賞
 ☆☆☆

 


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 宮本武蔵(八)関所突破 

 

 
宮本武蔵(九)功徳の一善


宮本武蔵(十)潜伏の日

 

宮本武蔵(十一)渦巻く謀略

 

  青木はお杉に「又八が死んだぞ」と誤報を

伝え、卑劣にもお吟を捕えて武蔵を誘き出す

作戦を実行し更にお通に迫る。

 お杉婆は家で合掌し死んだと言われた倅又

八が何処かで生きていると強く語った。

 お婆を尋ねる者があった。

 

 新免武蔵である。


 驚くお婆に武蔵は伝える。


   「又八は生きてる。」


 お甲の名こそ隠したが、他国で女と息子は生き

て戦死はしていない。このことだけは親友又八の

母お杉に伝えたかった。


   これさえ済めばと武蔵は帰ろうとする。


  お杉は感激し、武蔵に感謝し、しばらく引き

止め食事を提供し風呂に入れてくれた。



   「もっと早くくれば良かった」


  戦場を経て、野武士や兵士と戦い、肉体疲労と

緊張でくたくたになった身体を風呂で癒し武蔵は

お杉の優しさに感謝感激する。


 だが、罠だった。風呂は青木の手勢で囲繞されて

いた。

 武蔵はお婆に嵌められたことに気付き、腰巻の

みの裸で風呂から出て、青木の手勢と戦い、彼等

兵士を殺傷し、天井から青木に怒りをぶつけた。


 青木はお吟を捕えて人質にしていることを告げる。


   「何故姉上を!」


 自分を攻撃するのらばまだしも、罪のない姉を捕え

る青木の計略に武蔵は激怒する。青木に智恵を与え

たのは勿論お婆である。


 

  武蔵は怒鳴り逃げて山の中に潜む。


   「何故村の者が俺を怖がる!

    俺は獣じゃないぞ!」


  青木の兵士達が武蔵に殺害される。


  炭焼きの男を殴り、弁当を奪う。男が逃げて、空腹

の武蔵が待ちに待った弁当箱を開けると中味は空で

武蔵は箱を叩きつけた。


宮本武蔵 
  ☆☆☆純粋な獣性☆☆☆


 お杉の息子への母性愛が通じたか、武蔵が又八

生存の知らせを伝えてくれた。

 浪花千栄子の母性の芸に圧倒される。


 初代中村錦之助が青木軍兵士を殺害し、命ぎり

ぎりに追い込まれても、せめてお杉に又八生存の

みは知らせたいという純な心を伝えてくれる。殺傷

事件を起こす武蔵だが、根は純粋で優しい青年な

のだ。


 その純な青年が獣性のままに殺戮を犯してしま

うことに、吉川英治の原作と内田吐夢の演出は

鋭い視座を持って見つめる。


 お杉が息子を奪われた恨みは武蔵に集中し、飯

を与え風呂に入れて油断させて青木一味に襲わせ

るという卑劣な作戦が為される。原作のこの筋も

怖いが、内田吐夢が緻密なミステリーと壮大なア

クションで重厚に演出される。


 吐夢写真は大いなる芸術であり、豊かな娯楽でも

あるが、その両者を包んで命一コマで歩む。一コマ

一コマ・ワンカットに吐夢の命がかけられている。


 その熱意に初代中村錦之助の熱演が応答し、

決死の大脱出と青木勢打倒のシーンが勤めら

れる。


 伊福部昭の音楽の迫力も凄まじい。

 

 屋根から激怒する武蔵。


 山から獣ではないと語る武蔵。


 弁当箱を奪うも空で空腹を怒る武蔵。


 純粋な優しさが又八やお杉に裏切られ、悲しみ

のままに敵と戦い暴力に走り獣と見られる。


 初代中村錦之助の悲痛さの名演は熱い。

 


                     文中一部敬称略


                           合掌



                      南無阿弥陀仏



                           セブン