宮本武蔵 二刀流開眼(十一)「これからだ」 | 俺の命はウルトラ・アイ

宮本武蔵 二刀流開眼(十一)「これからだ」

 『宮本武蔵 二刀流開眼』

映画 104分 トーキー カラー

 昭和三十八年(1963年)八月十四日公開

製作国  日本

製作   東映京都

 

 製作 大川博

 

 企画 辻野公晴

      小川貴也

     翁長孝雄

 

 

 

 原作 吉川英治

 

 

 

 脚本 鈴木尚之

           内田吐夢

 

 

 

 撮影 吉田貞次

  照明 和多田弘

 録音 渡部芳丈

  美術 鈴木孝俊

 音楽 小杉太一郎

  編集 宮本信太郎

 

 助監督 山下耕作

 記録  梅津泰子

 装置  館清士

 装飾  宮川俊夫

  美粧  林正信

 衣装  三上剛

  擬斗  足立伶二郎

 進行主任 片岡照七


 

 出演

 

 

 

 中村錦之助(宮本武蔵)

 

 

 

 

 

 丘さとみ(朱実)

 入江若葉(お通)

 

 

 

 

 

 河原崎長一郎(林彦次郎)

 南廣(祇園藤次)

 竹内満(城太郎)

 谷啓(赤壁八十馬)

  平幹二朗(吉岡伝七郎)

 

 阿部九州男(渕川権六)

 片岡栄二郎(村田与三)

  香川良介(植田良平)

  外山高士(木村助九郎)

  国一太郎(横川勘助) 

 楠本健二(友人)

  堀正夫(庄田喜左衛門)

 神田隆(出渕孫兵衛)

 

 

 

 

 

 常田富士男(漁師)

 

 

  團徳麿(民八)

  遠山金次郎(小橋)

 藤木錦之助(牢人者)

  川路允(役人)

  鈴木金哉(御池)

 大崎史郎(宿の主人)

 片岡半蔵(居酒屋親爺)

  中村錦司(西山)


 

 島田兵庫(取次の門弟)

 波多野博(小侍)

 江木健二(若侍)

  高根利夫(門番)

 大浦和子(宿の女中)

  有川正治(門弟)

 島田秀雄(友人)

  利根川弘(宿の者)

 水野宏子(小茶)


 

 木村功(本位田又八)

 薄田研ニ(柳生石舟斎)

  浪花千栄子(お杉)

  木暮実千代(お甲)

 


 

 高倉健(佐々木小次郎)

 江原真二郎(吉岡清十郎)

 

 

 

 

 

 監督 内田吐夢

 

 ☆☆☆

  小川貴也=初代中村獅童=小川三喜雄

 

  中村錦之助=初代中村錦之助→初代萬屋錦之介

 

   阿部九州男=春見堅太郎=阿部九洲男

 

   團徳麿=団徳麿=太田黒黄吉

 

   鈴木金哉→鈴木康弘

 

 

  薄田研ニ=高山徳右衛門

 ☆☆☆

 画像・台詞出典 『宮本武蔵 二刀流開眼』DVD

 ☆☆☆

  台詞の引用・シークエンスの考察は、研究・

 学習の為です。 
 東映様にはおかれましては、ご理解・ご寛

恕を賜りますようお願い申し上げます。

☆☆☆

 平成十一年(1999年)六月十二日新世界東映

 にて鑑賞

☆☆☆

 

☆☆☆

関連記事

 宮本武蔵 二刀流開眼 昭和三十八年八月十四日公開 内田吐夢監督作品(一)

 

宮本武蔵 二刀流開眼(二)柳生の庄 

 

宮本武蔵 二刀流開眼 (三)芍薬の枝 本日内田吐夢四十八回忌命日

 

宮本武蔵 二刀流開眼(四)柳生四高弟 本日公開五十四年

 

 

宮本武蔵 二刀流開眼(五)感覚は感覚

 

 

宮本武蔵 二刀流開眼(六)合戦

 

宮本武蔵 二刀流開眼(七)「一切容赦はない」 本日初代中村錦之助八十五歳誕生日

 

  宮本武蔵は五条大橋において弟子城太郎の肩を抱き、

朱実に問うた。

 

    「おっかさんのお甲はどうしている。まだ又八と一

    緒か?」

 

 朱実は「いいえ」と返事した。

 

 城太郎は橋の側で見ていたお通を探し、彼女の名を

呼んで橋の下に向かった。

 

 お通は武蔵が女人と会っていたことを悲しむ。その

女性は又八を誘惑したお甲の娘であったが、誰であれ

お通にとって、愛しい武蔵が仲睦まじくしていることは

ショックであった。

 橋の下の小舟でお杉を見つけ、お通は「本位田のお

婆様」と呼び、城太郎と一緒に介抱する。

 

 武蔵は、後方で自身と朱実を見つめる前髪の青年

剣士に注目する。

 

   武蔵「あれにいる前髪はお前の知り人か?」

 

 朱実は肯定しつつ深い知りあいではありませんと答

えた。

 

   武蔵「名は何という?」

 

   朱実「佐々木小次郎とか。」

 

   武蔵「何!あの男が岸柳」

 

 清十郎の駕籠が到着し、武蔵が来たかどうかを問い、

橋に居ることを門弟から聞き、見上げると朱実の姿を

見て驚く。

 

 武蔵と小次郎は互いにその眼力で見つめ合い、共

に凄まじい闘魂を確かめ合う。

 

 小次郎は大笑し、武蔵・朱実の側を通り過ぎ、清十

郎の駕籠の前に近付き、「はっきりと予言しておく。貴

男は負ける。武蔵と言う男の為に命を落とす。」と厳し

い言葉を語り、試合を止め高札を引き抜くようにと勧め

る。

 

 吉岡門弟植田良平が怒る。

 

 清十郎は「事は決したのだ」と後へは引けないことを

告げた。

 

   小次郎「朱実。来い!」

 

 朱実は従い小次郎の元に行きつつ、「あの人は恐ろし

い人」と武蔵に告げ、宿の名を伝え、「助けに来て下さい

ね」と頼む。

 

  武蔵と清十郎の決戦の日が来た。

 

  清十郎は郎党民八を連れて蓮台寺野に向かった。

 

  植田ら門弟は近くの木の元で待機を命じられた。

お杉がお通の手を引き、城太郎の制止を振り切って

歩む。城太郎は「お通さんに助けられたんじゃないか

?」と問うと、お杉は「婆の計略じゃ」と語る。

 

  吉岡門弟衆が緊張しているところへ現れたお杉は

「婆の一太刀」を武蔵に浴びせたいので助太刀したい

と申し出た。

 

  草むらにおいて清十郎は民八と武蔵を待っていた。

 

  武蔵が現れて一礼する。

武蔵 清十郎

     武蔵「清十郎殿。試合は真剣か?それとも?」

 

  清十郎は民八から木刀を受け取った。

 

     武蔵「そうであろう。」

 

  民八は驚き震え走り去った。

 

  植田ら門弟は民八から武蔵が叢から現れたと聞き、

急ぎ清十郎の助太刀に向かう。

 

  叢。清十郎は声をあげて、武蔵に木剣を打ちこもうと

突撃する。武蔵は大きく跳躍し清十郎の肩を木刀で叩き

砕き走り去る。

 

 植田ら門弟が駆けつける。清十郎は敗戦を詫びる。植

田は戸板を用意させる。

 小次郎が朱実を伴って現れた。清十郎が武蔵という者

の為に敗れたことを確かめ、打たれた腕の骨が折れて砂

利のようになっており、このまま戸板に揺られては頭に血

がのぼってしまうと警告し戸板を降ろすように指示する。

 

 清十郎に「歩いて帰れませんか?」と問い、都大路を戸板

で帰ったとあっては、貴男はともかく父上拳法先生が笑われ

ますぞと注意する。

 

 叱られた清十郎は門弟に自身の右手を斬れと命じるが、

横川ら門弟は斬れなかった。

 

   小次郎「拙者でよければ」

 

   清十郎「おお。有り難い。」

 

 小次郎は一刀のもとに清十郎が大怪我した右手を斬った。

清十郎は激痛に苦しむ。

 

   小次郎「すぐに血止めだ!」

 

  朱実は恐ろしさで震える。

 

   小次郎「朱実。お前が何時も呪っていた清十郎だ。お前

        の奪われた操が報われたぞ。」

   

 

  清十郎は斬られた右手の痛みを堪えて歩いて帰ろうとす

る。そこへ弟伝七郎が駆けつけ、兄が腕を斬られて、苦しん

で居る光景を見て驚愕する。

 

   伝七郎は兄を倒した大敵を追う。

 

   小次郎「無駄だ!そこいらをうろついている武蔵ではな

        い。」

 

 お杉はお通に「武蔵めの仕業じゃ」と怨念を燃やして語った。

お通は愛する武蔵を憎むお婆様の心に悲しみを覚える。

 

 城太郎が駆けて師匠を思う。

  

 宮本武蔵は叢において夕陽を背にして、自己のこころを語る。

 

     「名門の子。やる相手ではなかった。

      だが、俺は勝った。室町以来の京流

      の宗家吉岡の拳法を俺は倒した。

      だが、戦いはこれで終わったのでは

      ない。これからだ。」

 

 武蔵は夕陽に向かって歩みだした。

 

 空は一面夕焼けで赤くなった。

 

 その燃えるような赤さは剣によって流れる血を

映すか?

 

 或いは剣に命を燃やす武蔵青年の闘魂に応え

ているのか?

 

 武蔵は一歩一歩踏みしめるように地を歩んだ。

 

 ☆☆☆戦いの一道☆☆☆

 

 武蔵が五条大橋で朱実と再会して感動を確かめ

る。その光景を見たお通が傷つく。朱実との再会を

喜びつつ、お通と師匠の再会を望む城太郎少年。

 だが、傷ついたお通は、橋の下で泣き、そこでお

杉と再会する。

 

 朱実を情婦にしている佐々木小次郎は武蔵を見

つめ、生涯の好敵手と直観する。武蔵も小次郎の

並々ならぬ闘志にただならぬものを感じ、強敵とな

る存在であることを本能的に感じる。

 

 このシーンは初代中村錦之助と高倉健が、眼力の

輝きでその緊張感を伝える。

 

 ライバル対面の名場面である。

 

 熱い錦之助武蔵と冷徹な健さん小次郎。

 

 二人の対照が銀幕の緊張感を盛り上げる。

 

 大きく笑って橋を渡る小次郎は、「貴男は武蔵に負けて

命を落とす。試合をお止めなさい」と清十郎の誇りを砕き

高札を引き抜くようにと語る。そのことはできないことを

承知で挑発的に語り侮蔑する。

 

 清十郎は誇り高い男であるから当然拒絶する。

 

 小次郎は剣の実力で武蔵が清十郎を倒すことを予見

し朱実を呼ぶ。このシーンの健さんの冷酷さも光ってい

る。

 

  丘さとみが哀れさを静かに明かす。

 

  武蔵・朱実・城太郎・お通・小次郎・お杉・植田・清十郎

がそれぞれの人生の課題を確かめて五条大橋に集う。

 

  八人の男女が橋に現れ、壮大な人間ドラマを語る。

 

  吐夢・鈴木尚之の脚本構成は緻密で完璧である。

 

  蓮台寺野決戦の日。

 

  木のもとで待つ植田。名優香川良介の重厚さが光る。

 

  叢における武蔵と清十郎の対面は静かさの中の剣

の戦いの重みがある。

 

  「真剣か、それとも」と問い、命を惜しむ清十郎は木刀

を選び、武蔵は「やはりな」と読みの予想を見せて相手を

呑み、怒った清十郎は焦って挑んで武蔵に腕の骨を折られ

て敗北する。

 

 植田が介抱するが、冷酷な小次郎は板を降ろさせ、吉

岡家当主ならば、都大路を戸板で帰れぬ筈と厳しく語り

腕を斬るべきだと提案する。清十郎は武門の意地を賭け

て重傷の身で歩みたいと望み、小次郎が自身の腕を斬っ

てくれることに礼を言う。

 

 しかし、小次郎に腕を斬られると、清十郎は沢山の血

を流して激痛に苦しむ。

 

 吐夢は人間の痛みを尋ね、激痛の中で苦闘しもがく

清十郎の生き方を追い極限状況で課題を求める人間

を描く。その探求は凄絶である。

 

 江原真二郎が渾身の熱演で清十郎の悲しみを明らか

にする。

 

 朱実が憎んでいた清十郎がのたうちまわる姿を見て

悲しみを覚える。ここにも吐夢の人間探求がある。

 

 お通・お杉・城太郎・伝七郎・林・植田が集い、それぞ

れの武蔵への心を思う。

 

 お通は恋、お杉は怒り、伝七郎は復讐心、林は疑問、

植田は闘争心、城太郎は師弟愛を感じる。

 

 怒りに燃える伝七郎に、武蔵はそこいらをうろつく男

ではないと説く小次郎。

 

 平幹二朗の怒りと驚きの表現は大きい。

 

 高倉健の冷厳な台詞回しと三白眼の眼力が鋭い。

 

 蓮台寺の決斗に現れる清十郎・植田・民八・小次郎・

朱実・城太郎・お通・お杉。八人の男女が織りなす愛と

悲しみのドラマが深い。

 

 物語の主要登場人物達がそれぞれの人生課題を荷

いつつ、一つの場に集まる。

 

  吐夢の演出力は物語を精緻に織りなす。

 

  群像劇の決定版である。

 

 ラストで武蔵は勝利を確かめ、名門の子を傷つけた

ことを痛むが、室町以来の京流の宗家に勝ったことを

喜ぶ。だが彼の剣の道はこの勝利で終わりではない。

 戦いはこれからなのだ。

 

 夕焼けに染まる空。

 

 武蔵はこの夕焼けに向かって歩む。

 

 文楽・歌舞伎に通暁していた吐夢がラストでセット撮影

を鮮やかに用いる。

 

 夕焼けの赤は、武蔵の情熱と剣の戦いの流血を同時に

象徴している。

 

 自己の命の全てを燃やして苛酷な剣の戦いの道に歩

む宮本武蔵。

 

 いのちの課題が赤々と燃える夕焼けへの歩みに示され

る。

 

 これほど美しく熱いラストを他に知らない。

 

 初代中村錦之助は銀幕において、宮本武蔵の命を生き

ている。

 

                               合掌

 

 

                          南無阿弥陀仏

 

 

                               セブン