宮本武蔵 二刀流開眼(六)合戦 | 俺の命はウルトラ・アイ

宮本武蔵 二刀流開眼(六)合戦

『宮本武蔵 二刀流開眼』

映画 104分 トーキー カラー

 昭和三十八年(1963年)八月十四日公開

製作国  日本

製作    東映京都

 

 製作 大川博

 

 企画 辻野公晴

      小川貴也

     翁長孝雄

 

 

 

 原作 吉川英治

 

 

 

 脚本 鈴木尚之

           内田吐夢

 

 

 

 撮影 吉田貞次

  照明 和多田弘

 録音 渡部芳丈

  美術 鈴木孝俊

 音楽 小杉太一郎

  編集 宮本信太郎

 

 助監督 山下耕作

 記録  梅津泰子

 装置  館清士

 装飾  宮川俊夫

  美粧  林正信

 衣装  三上剛

  擬斗  足立伶二郎

 進行主任 片岡照七


 

 出演

 

 

 

 中村錦之助(宮本武蔵)

 

 

 

 

 

 

 入江若葉(お通)

 

 

 

 

 竹内満(城太郎)

 片岡栄二郎(村田与三)

  外山高士(木村助九郎)

 楠本健二(友人)

  堀正夫(庄田喜左衛門)

 神田隆(出渕孫兵衛)

 

 藤木錦之助(牢人者)

  川路允(役人)

  波多野博(小侍)

 有川正治(門弟)

 源八郎(人足頭)

 汐路章(髭の侍)

 


 

 木村功(本位田又八)

 薄田研ニ(柳生石舟斎)

 


 

 高倉健(佐々木小次郎)

 

 

 

 

 

 

 監督 内田吐夢

 

 ☆☆☆

  小川貴也=初代中村獅童=小川三喜雄

 中村錦之助=初代中村錦之助→初代萬屋錦之介

 阿部九州男=春見堅太郎=阿部九洲男

 片岡栄二郎=尾上助三郎

        =島田照夫

 薄田研ニ=高山徳右衛門

 ☆☆☆

 画像・台詞出典 『宮本武蔵 二刀流開眼』DVD

 ☆☆☆

  台詞の引用・シークエンスの考察は、研究・

 学習の為です。 
 東映様にはおかれましては、ご理解・ご寛

恕を賜りますようお願い申し上げます。

☆☆☆

 平成十一年(1999年)六月十二日新世界東映

 にて鑑賞

☆☆☆

関連記事

 宮本武蔵 二刀流開眼 昭和三十八年八月十四日公開 内田吐夢監督作品(一)

 

宮本武蔵 二刀流開眼(二)柳生の庄 

 

宮本武蔵 二刀流開眼 (三)芍薬の枝 本日内田吐夢四十八回忌命日

 

宮本武蔵 二刀流開眼(四)柳生四高弟 本日公開五十四年

 

 

宮本武蔵 二刀流開眼(五)感覚は感覚

 

 宮本武蔵は、芍薬の枝の切り口を見て、

何故非凡の切り手と分かったかと柳生四

高弟に問われ、「感覚は感覚」と答えた。

 

  「強いて目に見たく

   思召すならば 

   私をお試し下さる

   ほかはない」

 

 柳生四高弟は、この武蔵の挑戦的な言葉

を聞いて身構えた。四高弟ももとより武蔵と

の大勝負を待っていた。

 

 だが、武蔵が真に戦い相手は、芍薬の枝

を鮮やかに切った、四高弟の師柳生石舟斎

である。四高弟の剣は、言うならば、突破せ

ねばならぬ関門のようなものであった。

 

 その時、犬の鳴声が聞こえた。

 

 庄田は愛犬の太郎の声と確かめた。その

太郎が苦しむ声をあげた。

 

 武蔵は「死んだ」と語る。

 

 太郎は無惨に殺害された。

 

 殺した相手は城太郎であった。柳生家の

門弟達は激怒した。

 徳川頼宣公より賜った太郎は、大殿石舟

斎様の愛犬であり、許せぬ小童と城太郎へ

の激怒を燃やした。

 

 城太郎は、太郎に顔を引っかかれたこと

があり、名乗って尋常に勝負したのだと自己

の在り方を宣言する。

 だが、柳生家の門弟達は、城太郎を厳罰

に処そうとする。

 

   武蔵「最前から見ておれば、少し御取

       り調べに手落ちがあろう。貴公

       達はなんとしてもその罪をこの

       子に問われるおつもりか?それ

       とも主人たる問われるおつもり

       か?」

 

   門弟「言うまでもなく双方糺すのじゃ」

 

   武蔵「宜しい!然らば主従二人でお

       相手致そう。」

 

 武蔵は城太郎の身体を投げた。

 

 柳生の門弟達は武蔵との斬り合いを思い

闘争心を剥き出しにした。

 武蔵にとっても、この対立は作戦の一貫

であり、石舟斎との試合の為に通らねば

ならぬ道であった。

 

   武蔵「某も些か剣を以て任じている者」

 

   庄田「この男には何か策があると見た。」

 

 庄田は、我ら四高弟で武蔵を見るので、他の

門弟達に武蔵を逃がさぬように門の警備を厳重

にするようにと指示する。武蔵に「そちの策は破

れた」と語った。村田は「武士らしく腹を切れ」と

命じた。

 武蔵は「馬鹿な事を」と笑う。木村は「つけあが

りおって」と怒る。

 高弟達は武蔵を取り押さえる。

 

   庄田「汝は何処に行こうとするか?」

  

 武蔵は柳生石舟斎先生に試合を申し込みた

いと望を語り、先生が試合をされず、武芸者に

兵法を教授されぬだから試合を申し込むより

道はあるまいと自己の決意を明言した。

 

   武蔵「まず合戦を申し込む!」

 

   木村「その心得で応戦してやる。そいつ

       を俺の方へ」

 

  木村は仲間達に武蔵を俺のもとに突き出

してくれと提案する。

  仲間達が同意して突き放すと、武蔵は素

早く抜刀して構えた。

 

   庄田「出来る」

 

 その時武蔵は、思いもよらぬ音を聞いた。

聞き覚えのある笛の音だ。

 お通が吹いてくれたいた音とそっくりの

音であった。

   武蔵「お通さん」

 

 その一瞬の隙を突いて木村が斬りかかるが、

武蔵はよけて素早く小刀を抜き、大刀と共に

構えた。

 高弟達は二刀流に驚く。

 

  武蔵「城太郎逃げろ!」

 

  武蔵と城太郎の主従は走り去った。高弟達

は「卑怯者」と罵った。武蔵は叢に身を隠し、「卑

怯と言ったな」と確認しつつ、目的は四高弟を

相手にすることではなくて、石舟斎と戦いたい

のだと自己課題を確認する。

 

     「あの笛、お通さんがこんな所に居る筈

      がない。ひょっとするとお通さんかも

      しれない。」

 

  武蔵の胸に諦めた筈の恋心が再燃する。

翌朝、里の清水を飲んだ武蔵は、その清々

しい味に感激する。石舟斎の草庵の前に立ち、

待ちに待った勝負の時を思い緊張する。

 だが、草庵の言葉が武蔵に大きな問を与

えた。

 

      吏事君ヲ怪シムヲ休メヨ

      山城門ヲ閉ズルヲ好ムヲ

      此山長物無シ

      唯野ニ鶯ノ有ルノミ

 

  花鳥風月のみがこの門をくぐる存在である

と武蔵は痛感した。

 

     武蔵「世俗を捨て自然の懐

         に遊ぼうとしている人

         間の言葉だ。そういう

         人の静かな住まいを

         騒がすことは心無い業。

         名利も名聞も無い人に

         打ち勝って何の名利に

         なろう。」

 

  武蔵は、自然の懐に自在に暮らす石舟

斎は名利を離れて悠々たる境地に生きて

おられると確かめる。

 

 石舟斎は草庵の中で武蔵を見つけ、「お

通さん」と呼び、彼女に武蔵のいる方角を

手で指す。

 

 お通は驚く。

 

 武蔵は、愛するお通を見て驚き、走り去る。

 

  お通は城太郎を呼び、「確かに武蔵様の

御姿でした」と報告する。

 城太郎は、自身を捨てて逃げた武蔵に

「おらを捨てたお師匠様の馬鹿野郎」と

怒鳴る。

 

 お通は泣く。

 

 伏見城では人足達が巨大な石の運搬

作業に従事していた。

 その中に本位田又八がいた。

  髭の侍の指揮の下、人足達は巨大な

石の運搬に勤める。

  昼食の時に、「こんな姿をお袋が見たら

怒るだろうな」と想像する。武蔵を尻目に出

世してやると野望を熱くするが、「それまで

お通は、待っていてくれるだろうか」と不安

に思う。

 城の様子を絵に描いていた侍が、警固

の侍に見つかり、争いになって重傷を負う。

 激痛を堪える侍は印可の巻物と金を又

八に託すが、間もなく息絶える。

 

   又八は巻物を見て、鐘巻自斎が佐々

木小次郎という弟子に与えた印可状であ

ったことを確かめる。

 

   本物の佐々木小次郎は、阿波から

大阪に向かう便船の中に居た。

 ☆☆☆二刀を取る☆☆☆

 

 宮本武蔵が、柳生四高弟と激論を戦わ

せる。共に闘争心と対抗心をむき出しに

して激論を戦わす。

  初代中村錦之助が青春の情熱を剣

に燃やす武蔵の心を熱く語る。

 

 太郎が城太郎少年に殺される物語は

残酷だ。犬が犠牲になる話は、小説で

あったとしても強い。

 

 武蔵は城太郎が犬太郎を殺害してし

まったことを契機にして、四高弟と戦う。

 

 戦いの渦の中で聴くお通さんの笛の

音。

 

 武蔵の胸にこれまで抑えつけていた

恋の炎が赤々と燃えだす。

 

 中村錦之助の驚きの表情と入江若葉

が笛を吹く美しさが連続して映る。

 

 同じ場に居ながら二人は、愛しい人が

いることを確認できぬまま、剣と笛という

それぞれの課題に邁進するが、その時

愛し合っていることをそれぞれに確かめ

る。

 

 このシーンは感動的である。

 

 この隙を逃がさず木村が斬りかかるが、

武蔵は構えて二刀流で応戦する。

 城太郎に逃げろと指示して武蔵は走り

出して叢に身を隠し、お通を思う。

 

 翌朝清水の美味しさに触れた武蔵が、

草庵の文字を見て花鳥風月を友として

悠然と暮らす石舟斎の境地を思い、試合

をすべきではないと痛感する。

 

 このシーンは美しさが光り輝いている。

 

  柳生石舟斎役の薄田研二が重厚で

深い。

 

  武蔵が静かに石舟斎を崇拝する身と

なるシーンが心に響く。

 

  伏見城の大工事のシーンは迫力豊か

である。

  現場指揮の侍を、汐路章が豪快に勤

める。

  木村功が又八の気の弱さを鮮やかに

演じておられる。

 

 大海を走る便船。

 

  アニメで描く鳥が飛ぶ。

 

  ここにも内田吐夢の実験精神が溢れて

いる。

 

  若者が海を見つめる。

 

  剣士佐々木小次郎。

 

  演ずる存在は、高倉健。

 

 この作品での健さんは、傲慢で気位が

高い小次郎を深く大きく勤める。

 

   後の弱きを助け強きを挫くヒーロー

と違って野心家で冷淡な剣士の役柄で

ある。

 

  高倉健の冷酷な美剣士。

 

  主人公のライバルとしての存在感を

鮮やかに明示する。

 

  初代中村錦之助と高倉健。

 

  東映を代表し、当時の日本映画界の

最大のスタアであった二人に武蔵・小次

郎で激突競演してもらう。

 

 錦之助が日本芸能界トップスタア、健が

ニューヒーローで、そのスタア序列が主演

武蔵役・準主演小次郎役と主役・ライバル

役に反映している。原作のイメージで行く

と、野生児から剣士へと目覚めていく武蔵

に健さん、美少年剣士小次郎に錦之助と

いう配役が想起されることがある。

 

 しかし、活動大写真となった作品を見て

みると、宮本武蔵に初代中村錦之助、佐

々木小次郎に高倉健という配役が理想を

極めていることを実感し、感嘆する。

 

 錦兄の芸が武蔵役に命を吹き込み、

健さんの凄みが小次郎の野望を鮮やか

に明かしている。

 

 そのスタア大激突が、本作第三部の

核心となっている。

 

  内田吐夢の視座は深い。

 

 

              文中一部敬称略

 

  高倉健没後三年・四回忌命日

        平成二十九年十一月十日

 

 

 

                     合掌

 

 

 

               南無阿弥陀仏

 

 

 

                     セブン