宮本武蔵 二刀流開眼(七)「一切容赦はない」 本日初代中村錦之助八十五歳誕生日 | 俺の命はウルトラ・アイ

宮本武蔵 二刀流開眼(七)「一切容赦はない」 本日初代中村錦之助八十五歳誕生日

『宮本武蔵 二刀流開眼』

映画 104分 トーキー カラー

 昭和三十八年(1963年)八月十四日公開

製作国  日本

製作    東映京都

 

 

 製作 大川博

 

 企画 辻野公晴

      小川貴也

     翁長孝雄

 

 

 

 原作 吉川英治

 

 

 

 脚本 鈴木尚之

           内田吐夢

 

 

 

 撮影 吉田貞次

  照明 和多田弘

 録音 渡部芳丈

  美術 鈴木孝俊

 音楽 小杉太一郎

  編集 宮本信太郎

 

 助監督 山下耕作

 記録  梅津泰子

 装置  館清士

 装飾  宮川俊夫

  美粧  林正信

 衣装  三上剛

  擬斗  足立伶二郎

 進行主任 片岡照七


 

 出演

 

 

 

 中村錦之助(宮本武蔵)

 

 

 

 

 

 丘さとみ(朱実)

 入江若葉(お通)

 

 

 河原崎長一郎(林彦次郎)

 南廣(祇園藤次)

 竹内満(城太郎)

 谷啓(赤壁八十馬)

 

 

 阿部九州男(渕川権六)

 香川良介(植田良平)

  国一太郎(横川勘助) 

 常田富士男(漁師)

 

 團徳麿(民八)

  遠山金次郎(小橋)

 藤木錦之助(牢人者)

  川路允(役人)

  鈴木金哉(御池)

 大崎史郎(宿の主人)

 

  片岡半蔵(居酒屋親爺)

  中村錦司(西山)

 島田兵庫(取次の門弟)

 江木健二(若侍)

  高根利夫(門番)

 有川正治(門弟)

 利根川弘(宿の者)

 
 

 木村功(本位田又八)

  浪花千栄子(お杉)

  木暮実千代(お甲)

 


 

 高倉健(佐々木小次郎)

 江原真二郎(吉岡清十郎)

 

 

 

 

 

 監督 内田吐夢

 

 ☆☆☆

  小川貴也=初代中村獅童=小川三喜雄

 中村錦之助=初代中村錦之助→初代萬屋錦之介

 阿部九州男=春見堅太郎=阿部九洲男

 團徳麿=団徳麿=太田黒黄吉

  鈴木金哉→鈴木康弘

 

 ☆☆☆

 画像・台詞出典 『宮本武蔵 二刀流開眼』DVD

 ☆☆☆

  台詞の引用・シークエンスの考察は、研究・

 学習の為です。 
 東映様にはおかれましては、ご理解・ご寛

恕を賜りますようお願い申し上げます。

☆☆☆

 平成十一年(1999年)六月十二日新世界東映

 にて鑑賞

☆☆☆

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宮本武蔵 二刀流開眼(六)合戦

 

  宮本武蔵は柳生の庄で兵法の達人柳生石舟斎と

の試合を熱望するが、四人の高弟と剣を構え、高弟

達の襲撃から咄嗟に大刀・小刀の二本を抜いて彼等

を驚かせて姿を叢に隠した。笛の音を聞き、愛しい女

性お通を思うが恋心を堪える。

 翌朝石舟斎の草庵において「此山長物ナシ 唯野二

長鶯アルノミ」の文に接して花鳥風月を友として生きる

境地に、一切の名聞や名利を離れた心を武蔵は感じ

る。石舟斎の悠々たる姿勢に「自分等は届かぬ」という

痛恨の気持ちちなった武蔵は、京に戻って吉岡一門

に対し、当主清十郎との一戦の約束を果たすべく準備

をする。

 

 阿波の国から大坂に出る便船に、剣士佐々木

小次郎が立っていた。

 客の女性達が花札に興じている。吉岡一門の門

弟祇園藤次が同門の友横川勘平と座って談笑す

る。横川は酔って鉢巻を締めている。

 

   藤次「ふふふ。半月回ってこれだけ集まるん

       だから先代の威光も大したもんだ。しか

       し、道場再建の目的で金を集めるのは

       ちょっと阿漕だな。のう横川。」

 

 横川は酔いが回って海に嘔吐した。

 

   小次郎「むさい奴め」

 

   横川「貴様。今なんと申した?」

 

   小次郎「むさい奴と申したが」

    

   横川「何!」

 

   藤次「横川。待て。貴公良い刀をお持ち

       だの。」

 

  小次郎「伝来の長光」

 

 

 藤次は差し料には長過ぎるのようだがと疑問

を述べる。「三尺です」と小次郎は答え、「長剣

だな」と藤次は感想を語った。

 

    小次郎「これくらいのものが差せぬよう

         では。」

 藤次は何流を学ばれたかと問い、小次郎は

富田流ですと力強く返事をする。「富田流は小

太刀の筈だが」と藤次が問うと、小次郎は堂々

と宣言する、

 

     「小太刀です、しかし、富田流で学んだ

      からと言って、小太刀を使わねばなら

      ないという法はありません。私は人真

      似が嫌いです。」と。

 

 錦帯橋で飛燕を斬った小次郎は、郷里を尋ね

る藤次に岩国の産ですと生国を語り、藤次に「大

坂ですか」と問い返す。藤次は京都だと答える。

 小次郎は京都に吉岡清十郎という人がいるそう

で立ち合ってみたいと希望を語る。藤次は吉岡家

の道場に行けば大怪我・負傷をするだろうと予言

する。

 剣の腕に誇りを持つ小次郎は「所詮はただの二

代目。大したことはありますまい」と微笑む。

  横川が怒る。藤次は先程飛燕を斬ったと言っ

たなと問い、小次郎が頷くと、空に飛ぶ海鳥を斬る

のも容易であろうなと問うた。吉岡を腐したことが

気に障ったことを小次郎は確かめる。藤次は法螺

吹きもほどほどにせよと注意する。小次郎が法螺

吹きを問うと、藤次は「人を舐めるのも程がある」

と遂に怒った。横川は「この方は吉岡の門弟祇園

藤次殿だ」と注意する。小次郎は法螺吹きと言われ

た言葉に自身の面目が立たぬといい、お望み通り

海鳥を斬ると宣言したが、海鳥を私の前に呼び降

ろして頂きたいと頼み、藤次は出来ぬことを言った

から謝れと命じた。

 

   「謝るぐらいなら身構えはせん」

 

  大太刀を抜いた小次郎はお首を拝借したいと

述べ、罪のない海鳥よりお首のほうが格好と語り、

藤次が首をすくめた瞬間、その髷を斬った。

 藤次は面目を失い、横川と共に小次郎の実力に

怯える。

 

 海辺の部屋に清十郎は朱実や門弟達と居たが、

お甲は藤次を迎えに行き、門弟達も気を遣って、

藤次を迎えに行く。二人になったので清十郎は

相手をしろと朱実に迫るが、朱実は好きな武蔵を

思って、強引な清十郎を拒絶する。

 

 船場で吉岡門弟達が到着した筈の藤次を探す

が見当たらず、派手な着物と大太刀で闊歩する

小次郎を生意気と見做す。当の藤次は頬かむり

をしてお甲を呼び出す。お甲は藤次の髷無の頭髪

を見て笑う。笑い事ではないと怒る藤次は若先生

に顔向けできんと恥じる。

 

    お甲「藤次様。あたしと清十郎さんとどっち

        が大事だい?これだけのお金があれ

        ば」

 

  金を持てって逐電しようというお甲の誘いに

藤次は乗って金を持ち逃げする。   

 

   海辺の部屋では清十郎が朱実の手を掴んだ。

 

    朱実「行けません。放して下さい。嫌です。」

 

  清十郎はお甲と話しはついていると脅すが、朱

実は「おっかさんがあたしを売ったって」と突っぱね、

「死んだって嫌な男なんかに!」と清十郎の暴力に

抵抗する。  

 

    「嫌だと言ったな!」

 

 振られて逆上した清十郎は、朱実の身体を強引に

奪う。傷ついた朱実は海辺に走って、「武蔵さん」と

愛しい人の名を呼び、来年正月に会いますと望みを

語って、海に身を投げる。

 

  その声を聞き、その早まった行為を見た老人二人

が居た。お杉婆と渕川権六だ。

 

   お杉「権爺よあの女子何と言うた?」

 

   権叔父「確か武蔵とか。」

 

   お杉「婆もそう聞いた。関わりのある者かも知れ

       ぬ。早よ行きゃ!」

 

 権叔父は捨身の勇気で朱実を助けるが彼自身が

溺れてしまう。お杉が漁師達に助けを求めて声明を

為し仏に二人の命の救助を祈る。漁師達の働きで

二人は陸に戻るが、朱実は蘇生し、権叔父は亡くな

る。

 

    漁師「駄目だな!年寄のほうは。」

 

    お杉「婆が生かして見せる!」

 

    漁師「生かせるもんなら生かしてみろ!」

 

    お杉「権爺。この婆を捨てて先に逝くという

        法があろうか!?」

 

  お婆は号泣し親友権六を蘇生せしめようと

努力するが、権爺が息を吹き返すことは無理で

あった。

 

 植田や御池等清十郎門下の弟子達は淀川

へと向かう舟にお甲藤次が乗ると見て船場で

待ち伏せして舟を止めて捜索しようとする。

 船内に居た佐々木小次郎は哄笑する。横川

は小次郎に八つ当たりをして、小次郎は藤次

に金を持ち逃げされたことを見破って笑い、

吉岡一門は怒り、小次郎と草原で刀を構える。

 

   小次郎「先程は髷だけで許したが物足ら

        んと見える。拙者も少し物足らん。

        どうせ手入れに出す竿。少し手荒

        に使わせて頂く。」

 

  小次郎は大太刀を抜き、斬りかかってくる吉

岡の門弟達を斬る。清十郎が林彦次郎を伴って

馬でかけつけ、林に止めるように指示し、林は

「若先生がお見えだ」と語り、決闘を諌める。小

次郎は走り寄って清十郎に大太刀を向けるが、

清十郎も道場の当主で見事に飛びよけて棒を

構えた。

 

     小次郎「鮮やか!察するところ吉岡清

          十郎」

 

     清十郎「佐々木小次郎。流石に目が高

          い。」

 

  小次郎と清十郎は太刀裁き・棒の構えで相手

が誰であるかを看取した。小次郎の兄弟子伊藤

一刀斎と懇意である清十郎は小次郎を食客として

迎えて優遇する。武蔵からの挑戦状を受け取った

清十郎は宿敵が京に来たことを感じて、林を道場に

呼び、猛稽古をするが、その声と音を聞いた小次郎

は「まるで木剣に酢が入ったようだ。長居する所で

はなさそうだな」と酷評する。

 

  お通は武蔵の門弟城太郎少年と旅を為し、柳生

家の使いで、烏丸光広の邸へと急ぐ。

 

 城太郎が働いていた、京の酒場で、又八は店の

親爺に「いつかの小僧はどうした」と問い、親爺は

暇を出したことを伝え城太郎が宮本武蔵を尋ねた

ことを語り、又八は驚く。

 

  浪人赤壁八十馬が近寄ってきて「一献どうです」

と酒を勧め、又八は喜ぶ。

 

   赤壁「貴公。今の世の中をどう思われる?」

  

   又八「どう思うって?」

 

   赤壁「さればじゃ。家康のことをどう思うかと聞

      いているんじゃ。秀頼公のことをさしおいて

      大御所等とぬかしておる。馬鹿らしいとは

      思わんか?あの親爺から本多正純等帷幕

      の重臣を引いたら何が残る?多少武士が

      持たん才を持っていたに過ぎん。石田三成

      に勝たせたかったが、あの男諸侯を操縦

      すべく余りに潔癖で身分が足らんかった。そ

      うだ、貴公関東上方手切れの場合はどっちに

      付かれるか?」

 

    又八「勿論大坂方」

 

    赤壁「大坂方に。これは我が党の士か!改

       めて一献献じ申そう!」

 

  赤壁八十馬は蒲生家の浪人であると述べ名を名

乗った。又八は佐々木小次郎の名を騙って、赤壁は

驚き平伏する。二人は意気投合して夜道を酔って歩

む。

 傷ついた朱実が彷徨い、赤壁は拉致しようとするが

小次郎が彼を打擲する。

 又八は朱実を見て驚き、朱実は気絶する。小次郎は

赤壁の狼藉に怒りを燃やし、又八に「お前も仲間か」と

問う。又八は怒り、佐々木小次郎の名を名乗り、鐘巻

自斎の印可を見せる。

 小次郎は哄笑する。

 

    小次郎「世間を歩いていると色んな者に出会う

         がこれ程恐れいったことはないわ。拙者

         こそ佐々木小次郎。」

 

  又八は恐れおののき、謝罪し、伏見城工事現場で

鐘巻自斎の印可を持った侍草薙天鬼が殺害され、死ぬ

前に巻物を託されたことを報告し、名を騙ってしまった

ことを詫びて巻物を本来受け取るべき身である小次郎

に届ける。

 

  小次郎は印可の巻物を川に捨て、「鐘巻先生の印可

等一派を志す拙者には不要の物」と豪語する。又八が怯え

ると小次郎は「燕返しの腕を」と述べ気合の声で気絶させ、

「御女中」と呼んで朱実を吉岡家に保護する。

 

 吉岡伝七郎は正月には家に帰らぬと手紙で報告し、植

田は怒る。だが清十郎は武蔵ごとき自分一人で倒せると

不安を隠して豪語する。

 

 植田良平と相談した清十郎は、実父の命日を避けて

慶長九年正月九日に洛北蓮台寺野において武蔵と雌雄

を決する事を宣言し、高札を五条大橋に立てるように指示

する。

 

  道場において、清十郎は道場に生まれ剣法を教え

こまれたが、自己に何かが欠けていると悩みを門弟林

に語る。

 植田は吉岡道場から門弟が去って行くことを憤る。

 

 林は伝七郎様をお迎えに行くので、若先生を頼むと

郎党為八に託す。

 

  宮本武蔵は夜に山を見つめ河原で柳生石舟斎の

言葉を反芻していた。

 

    「武蔵という男は剣を通じて何を求めているの

     だ?名声か、栄達か?それともそれ以上の

     ものか?」

 

  

  宮本武蔵は夜に山を見つめ河原で柳生石舟斎の

言葉を想い起こしその広大な心を仰いでいた。

   「唯野に鶯を求めて。無念俺は石舟斎を

    求めてその顔を見ずに去った。この剣、

    この一刀のみが頼りの素浪人の俺が果

    たしてあの石舟斎の境地迄辿り着く事

    が出来るであろうか?

    姫路の城を出てから三年。沢庵を越え

    ようと誓った俺。

    おお。

    あの山は沢庵坊。

    あの峯は石舟斎。

    ようし、登ってみせる。辿り着いてみせる。

    俺の行く手に立ちはだかる者は、清十郎

    であろうと何であろうと一切容赦はしない。」

 

 ☆☆☆山・峯の両師を越えん☆☆☆

 

  初代中村錦之助は昭和七年(1932年)十一

月二十日東京都に誕生した。

  本名を小川錦一と申し上げる。父は三代目

中村時蔵、母は小川ひなである。昭和十一年

(1936年)十一月歌舞伎座で初代中村錦之助

の芸名で初舞台を踏む。歌舞伎役者として芸

道を歩んでいたが、映画界からスカウトされる。

 錦之助は映画界入りを父に相談する。三代目

時蔵は「お前が映画で失敗したら、歌舞伎界に

籍があると思うな」と退路を断って映画に精進す

ることを伝えたという。

 錦之助は昭和二十九年『ひよどり草紙』で銀幕

デビューを飾り、以後日本映画を代表するスタア

となり、大人気を博す。

 彼の大いなる芸道で、その芸を鍛え役者魂を

熱く燃やした巨匠が、内田吐夢と伊藤大輔であ

った。

 内田吐夢は『大菩薩峠』三部作で剣士宇津木

兵馬役に錦之助を抜擢する。錦之助は期待に

答えた。『浪花の恋の物語』では恋に命を賭ける

忠兵衛役を錦之助にオファーした。この作品に

おいても、錦之助は恋に全てを賭ける生き方

を熱くかつ繊細に勤めた。

 吉川英治の大作小説『宮本武蔵』を五年間

で一年一本の発表で映画化して行く。この広大

な企画は世界の映像史においても稀有なので

はなかろうか?

 

 吐夢は英治が書いた、剣一筋に生きる武蔵

に注目しつつ、剣に生きることは相手を殺傷

することであり、その罪に悩み悲しむ生き方を

五部作映画版で描いた。

 この問題は第二部『般若坂の決斗』第四部

『一乗寺の決斗』第五部『巌流島の決斗』に

おいて深く問われることとなる。

 

 本作第三部『二刀流開眼』において罪の問題

は一見強く打ち出されていないように見える。

 だが大詰の蓮台寺野の決闘の後に勝者・敗者

の在り方に戦いの残酷さが問われていると自分

は見ている。

   

 自己に至らぬことを見て師の教えに跳ね飛ばれ

る武蔵が主人公として銀幕に居る。

 

 これに対して高慢な美剣士としてライバル佐々

木小次郎が登場する。

 勤める役者は逞しきスタア高倉健である。高倉

剣の男前は三白眼で逞しい魅力で見せる。しか

し、本作では冷徹な美剣士の魅力を見せる。流石

である。

 

 初代中村錦之助と高倉健は私生活でも友人

であった。

 「錦兄(きいにい)」「錦ちゃん」「健さん」の愛称

で映画ファンに敬われ愛されている。二人は亡

くなったが、ファンの心に「錦ちゃん」「健さん」は

永遠のヒーローとして今も光っている。

 映画界では先にスタアになった存在が兄貴

分・姉貴分となる。年は一歳下でも先輩スタア

錦兄が兄貴分で、健さんは「お前」と呼ばれて

いたようだ。

 スタア序列が役柄にも出て、当時の日本映画

界最大スタア錦之助が五部作の主役武蔵で、新

スタアの健さんが小次郎となる。

 だが吐夢の演出はそうした序列体制のみでは

なくて、二人を生き生きと役を勤させることで、良い

意味でライバル心を刺激している。

 高倉健は傲慢で誇り高き美男子佐々木小次郎を

冷たさを鮮やかに出す演技で、手強さ一杯に見せ

る。

 過去記事で述べたように、吐夢はアニメーションで

海鳥を描く。健さんの小次郎はアニメーションの海

鳥には優しく、藤次の髷を一刀のもとに斬る。

 新興の剣士小次郎に中年の藤次・横川は圧倒さ

れる。

 小次郎の大胆不敵で冷酷な個性を高倉健が鮮

やかに勤める。

 船場での吉岡一門との戦いでは高倉健の太刀

捌きが光る。

 『花と嵐とギャング』等ギャング映画で粋の良さ

を爽やかに見せてくれる健さんはこの時代既に

新スターとしての魅力をギラギラと放っていた

筈だ。

 その中でも小次郎役はライバルの冷たさで個

性を鮮やかに顕示したことは確かであろう。

 錦兄を助演に頂き主演した『日本侠客伝』が任

侠映画の黄金時代を引っ張ることは事実だし、

任侠映画の健さんにわたくしも惹かれているが、

「小次郎のような冷酷な役ももっと見たかった」

という心も抑えがたいのである。仁侠・任侠の

発達が東映映画の中で健さんを完全無欠の

ヒーローにして行く。冷酷な役柄が次第に減少

して行くことはスタア街道でやむを得ないことと

はいえ、本作の小次郎の冷徹さ・不敵さを見ると

「惜しいなあ」と思うのだ。

 高倉健の佐々木小次郎が当たり役であった

事の証だと申したいのだ。

 

 武蔵の求道と小次郎の能力。両者の対立が

原作小説において大きな主題を為しているの

だが、内田吐夢監督映画版でもこの二つの道

の対決が物語のクライマックスになって行く。

 

 ポスターやDVD配列では健さんが一枚タイトル

で留めだが、本編字幕では二人連名で左に表示

されて堂々の留めを取るのは江原真二郎である。

 

 吉岡清十郎は繊細で弱い心を隠すことなく戦い

に迷い悩む。愛する朱実の身体を奪ってしまい

罪に悲しむ。本作では清十郎が罪を通して剣に

悩む物語が大きな位置を荷い、江原がその期待

に熱く答えた。「名門の子」の苦悩である。

 

 アニメーションやセット撮影で象徴表現を鮮明

に打ち出す吐夢だが、朱実入水のシーンでは

本物の水に入って悲劇美を光らせた。

 

 権叔父の捨身を阿部九州男が大熱演で見せ

る。

 

 盟友権叔父の死をお杉婆が悼み悲しむ。浪花

千栄子の迫真の演技と渾身の熱演に、圧倒され

た。

 

 木暮実千代と南廣は中年の女と男の危ない恋

を渋く見せる。

 

 入江若葉と丘さとみのお通と朱実の清純さが

光る。ここにも新スタア若葉と現スタアさとみの

演技合戦がある。

 

 香川良介の植田良平と鈴木金哉の御池が重厚

である。

 

 武蔵が清十郎との洛北での決戦を前に山川を

見つめて道を求める。

 山に沢庵、峯に柳生石舟斎を思い、登り越えよ

うと望む。

 弟子にとって師は越えて行かねばならない存在

だ。その道は容易ではない。だが跳ね飛ばされる

からこそ、偉大な師を越えることが弟子の課題なの

である。

 

 初代中村錦之助の熱演は、崇拝する師匠達を

越えんとして、剣に燃える宮本武蔵の命の在り方

を、銀幕において明らかにしている。

 

 求道には終わりはないし果てもない。常に悩み

と迷い中で、師の教えを学び聞き、その偉大な師

を越えて行こうとする歩みだ。

 

 初代中村錦之助が大いなる芸道において教えて

下さったことを、一ファンとして学び確かめ尋ねたい。

 

  小川錦一様

  初代中村錦之助丈

  錦兄

  錦ちゃん

  初代萬屋錦之介丈

  

  八十五歳お誕生日

  おめでとうございます。

 

  平成二十九年十一月二十日

 

 

                            合掌

 

 

                        南無阿弥陀仏

 

 

 

 

                            セブン