宮本武蔵 般若坂の決斗(七)「許してたもれ」 | 俺の命はウルトラ・アイ

宮本武蔵 般若坂の決斗(七)「許してたもれ」



『宮本武蔵 般若坂の決斗』

映画 トーキー 106分

イーストマンカラー

 昭和三十七年(1962年)十一月十七日公開

 製作国 日本

製作  東映京都

 

 

製作 大川博

企画 辻野公晴

         小川貴也

        翁長孝雄

 

 原作 吉川英治

 

 脚本 鈴木尚之

    内田吐夢

 

撮影 坪井誠

照明 和多田弘

録音 野津裕方

美術 鈴木孝俊

音楽 小杉太一郎

編集 宮本信太郎

 


 

 出演

 

  中村錦之助(宮本武蔵)

 

 

 入江若葉(お通)

 南廣(祇園藤次)

 宮口精二(喜助)

 河原崎長一郎(林彦次郎)

 香川良介(植田良平)

 赤木春恵(喜助女房)

 国一太郎(横川勘助)

 江原真二郎(吉岡清十郎)

 

 

 監督 内田吐夢

 

 

 

  ☆☆☆

 小川貴也=初代中村獅童→小川三喜雄

 中村錦之助=初代中村錦之助

 →初代萬屋錦之介

  ☆☆☆

  平成十一年(1999)年六月五日 新世界東映にて鑑賞

 ☆☆☆

 

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 武蔵は花田橋に自己の気持ちを文字で

彫り姿を隠す。

 お通は喜助夫婦にこれまでの御礼を語

った。

 優しい老夫婦はお通の一念が通じたこと

を喜び、武蔵との幸多き日を望み、暖かく

送り出してくれた。


 二人の祝福を受けて、お通が橋に行くと、

愛する武蔵は居なかった。


 橋には、「ゆるして たもれ」の七文字が

彫られていた。


 号泣し嗚咽を確かめ悲しむお通。


 武蔵は哀しみを以てその光景を見る。最

愛の人に愛されているという幸に出会い、ず

っと待っていてくれていた優しさに感激した

武蔵。


 だが彼が選んだ生き方「孤剣」は剣と剣の

戦いであり、流血の戦場であり、殺し合いの

場である。


 幸福な愛の生活は諦めなければならなか

った。


 お通への謝罪をこめて、武蔵は、叢の中を

歩んだ。


 京の遊里では、吉岡清十郎が一門門弟を

連れて豪遊していた。門弟の一人横川勘助

が清十郎先生の健の腕を絶賛する。別の門

弟の林彦次郎が追従だと叱責する。二人は

激論を語り合い衝突する。


 門弟の中の重鎮植田良平が両者を宥め、

「女共。酒だ」と酌を求めた。


 清十郎は静かに自問する。

 


    ☆☆☆孤剣の道☆☆☆


 花田橋の別れのシーンは切ない。内田吐夢は

甘美で情が溢れる物語の演出においても、その

力を光らせる。


 武蔵とお通が愛し合いながら、別れてしまう道は

哀切感が湧きおこる。お通が共に支え合い暮らし

たいと愛一筋の心を燃やす。しかし、武蔵は剣の

戦いを選んだ。愛するお通を、剣と剣で殺し合いを

為す道に巻き込みたくないという気持ちがあった。


 愛しい人に愛される。男にとってこれほど嬉しく

有り難いことはない。だが、その幸福を捨てて、敢

えて茨の道を選んだところに、青春二十一の武蔵

の決断があった。


 入江若葉がお通の涙を熱く流す。


 「ゆるして たもれ」の文字を見守るように緑色

の水が綺麗だ。


 日本映画の情の表現の中でも特に切なさが強く

光る名場面で白眉である。


 草むらを歩む武蔵。


 初代中村錦之助の眼光は厳しく鋭い。


 吉岡一門の酒宴は酒に浸り腕に溺れることへ

の警戒を示しているようにも思える。一門弟の追従

のような言葉よりも、同じ門弟の林の率直な言葉

のほうが、清十郎の心に応えている。


 河原崎長一郎の林は、吐夢が力を入れて描いた

人物である。第一部は出なかった。本作第二部に

始まり、三・四・五部にも出演する。

 武蔵に剣に生きて徹することの非情を強く問う存

在として登場する。


 江原真二郎の清十郎も大役で、名門の子の重圧

を表現される。


 香川良介の植田が渋い。



                            合掌