宮本武蔵 般若坂の決斗(十四)影法師 | 俺の命はウルトラ・アイ

宮本武蔵 般若坂の決斗(十四)影法師


『宮本武蔵 般若坂の決斗』
映画 トーキー
106分 イーストマンカラー
昭和三十七年(1962年)十一月十七日公開

製作国 日本
製作 東映京都

製作 大川愽

 

 

企画 辻野公晴

 

         小川貴也

    翁長孝雄

 

 

原作 吉川英治

 

 

脚本 鈴木尚之

    内田吐夢

 

 

 

 撮影 坪井誠

 照明 和多田弘

  録音 野津裕方

 美術 鈴木孝俊

 音楽 小杉太一郎

 編集 宮本信太郎

 

 
  出演

 

  中村錦之助(宮本武蔵)

 

 大前釣(大坊主)

 鈴木金哉(玄関坊)

 月形龍之介(日観)

 

 

 

 監督 内田吐夢

 

  ☆☆☆

 小川貴也=初代中村獅童→小川三喜雄

 

 

 

  中村錦之助=初代中村錦之助

 

 →初代萬屋錦之介

 

 大前釣→大前均

 

 

 鈴木金哉→鈴木康弘

 

 

 

 月形龍之介=月形陽候=月形竜之介

 

         =月形龍之助=中村東鬼蔵

                   =門田東鬼蔵
 ☆☆☆

  平成十一年(1999)年六月五日 新世界東映

  平成十二年(2000年)九月六日 高槻松竹

  平成十五年(2003年)五月十五日 京都文化博物館

 にて鑑賞

 ☆☆☆

  台詞の引用・シークエンスの考察は、研究・

学習の為です。 
 東映様にはおかれましては、ご理解・ご寛恕を

賜りますようお願い申し上げます。



 ☆☆☆

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 阿巖を倒した武蔵は、玄関坊から「日観師

が御挨拶申したい」という言葉を聞き、挨拶

を受けることにする。大坊主の案内で、日観

師の部屋に呼ばれた。


 

 武蔵と日観は挨拶を交わす。日観は朝粥を

作り、当院の条例として、武蔵に進呈する。

 武蔵は粥を頂く。

 

 

  「儂は奥蔵院の住持の日観という者じゃが」

 

 

 

 宝蔵院胤舜の不在の為、代理で挨拶をする

 

ことを日観は語る。武蔵は丁寧な言葉に一礼

し、阿巌を木刀で倒したことを詫びる。日観は

武芸者であるから覚悟の上じゃよと述べた。

 

 

   「してお怪我のようすは?」

 

 

 

   「即死」

 

 

 

 武蔵は阿巌を殺害してしまったことを聞き、瞠目

 

する。

 

 

  「宮本武蔵殿と申されたな。剣はどなたに習

 

  われた?」

 

 

  「師は有りません。幼い頃に父無二斎に十手

 

  術を学び、諸国の先輩を尋ね、三川も師と仰

  いでおります。」

 

 

  「良い心がけじゃ。」

 

 

 

 武蔵は我以外皆我が師であることを語った。

 

 

 

 日観は「御身は強すぎる。もっと弱くおなりな

 

され。」と語った。

 

 

 武蔵は驚いた。

 

 

 

  「最前儂が菜畑で耕しておったが、御身は九尺

 

   も飛ばれたの。」

 

 

  「あれはあなたの殺気が、鍬を横様に投げてくる

 

  のではないかと思ったからです。」

 

 

  「あべこべじゃよ。」

 

 

 

 

 

 日観は笑い、「御身が十間程離れたところから凄い

 

 

殺気が伝わってきた。あれが近所の百姓かなんか

じゃったら、そんなことはなかっただろう」と説く。

 

 

  「つまりは影法師じゃ。」

 

 

 

 日観は、武蔵が自分の殺気を日観に伝え、その

 

殺気に驚愕して九尺飛び上がってしまったのだと

語った。

 

 

 武蔵は、愕然となり、深い敗北感を覚える。

 

 

 

 ☆☆☆師弟問答☆☆☆

 

 

 

 武蔵は朝粥を頂き、試合とはいえ、阿巌を倒した

 

ことを詫びるが、日観師より、彼が即死したことを

聞き、悲しむ。日観師は「御身は強すぎる。もっと

強さを貯めなきゃいかんな」と説かれ、菜畑での

跳躍が自己自身の影法師に飛ばされたのだと

説かれる。

  若き武蔵の心が木っ端微塵に粉砕され、叩き

潰される。

 師の静かで落ち着いた声が、武蔵に未熟さを、

鋭く問いかける。

 武蔵の苦悶が深まる。

 

 

 『宮本武蔵』全五部作は勿論のこと、自分が鑑

 

賞した内田吐夢監督作品の中でも、特に緊張す

る演技合戦の場面を挙げろと言われたら、迷うこ

となく、武蔵・日観問答のこの場面を挙げる。

 

 

 『宮本武蔵 般若坂の決斗』を史上最大の傑作と

 

いう風に評価するのは、自分には難しい。師匠だ

からだ。弟子は師を評価することが無理なのだ。

 オンリーワンの大師匠だ。

 

 

 限りない深さを以て迫ってくる。

 

 

 

 内田吐夢師の重い教えが厳しい叱声として聞こ

 

えてくる。

 

 

 初代中村錦之助の宮本武蔵が、月形龍之介の日観

 

師に剣を語り、弾き返される。熱き屈強の若者剣士が

重厚な老僧に吹き飛ばされる。

 

 人生の道を教えられる。

 

 

 初代中村錦之助が崇拝する大先輩月形龍之介に

 

全身を挙げてぶつかる道が、そのまま役の生き方

に呼応している。

 

  『宮本武蔵 般若坂の決斗』は、この初代中村錦

之助・月形龍之介の問答場面を中心にして、わたくし

に、師の映画としてその存在感を示している。

 

 

 

 

                            合掌