宮本武蔵 般若坂の決斗(十一)「兵法です」 | 俺の命はウルトラ・アイ

宮本武蔵 般若坂の決斗(十一)「兵法です」



『宮本武蔵 般若坂の決斗』

映画 トーキー 106分

 イーストマンカラー

 昭和三十七年(1962年)十一月十七日公開

 製作国 日本

 製作  東映京都

 

 

 

製作 大川博

企画 辻野公晴

         小川貴也

         翁長孝雄

 

 

  原作 吉川英治

 

 

  脚本 鈴木尚之

         内田吐夢

 

 

 撮影 坪井誠

 照明 和多田弘

 録音 野津裕方

 美術 鈴木孝俊

 音楽 小杉太一郎

 編集 宮本信太郎

 


  出演

 

  中村錦之助(宮本武蔵)

 

 

 

  浪花千栄子(お杉) 

   南廣(祇園藤次) 
  

   河原崎長一郎(林彦次郎)

   阿部九州男(渕川権六)

   香川良介(植田良平)

  織田政雄(木賃の親爺)

   尾形伸之助(髭面の雲助)

  竹内満(城太郎)

 

   江原真二郎(吉岡清十郎)
 木村功(本位田又八)

 

 

 

 監督 内田吐夢

 

 

 

  ☆☆☆

  小川貴也=初代中村獅童→小川三喜雄

 

  中村錦之助=初代中村錦之助

 →初代萬屋錦之介

  ☆☆☆

  平成十一年(1999)年六月五日 新世界東映にて鑑賞

  ☆☆☆

 

 

 

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  清水寺でお杉婆と権叔父は震える手足で刀

を持ち、武蔵に斬りかかった。武蔵はすかさず

逃げる。雲助達は老人二人に協力しているが

武蔵の凄みに圧倒される。その様子を林彦次

郎が物陰に潜んで注視する。


   お杉「何故刀を抜かん?」


 本願堂で武蔵は「たたっ斬るぞ」とお杉・権

叔父・雲助達を怒鳴り、威嚇し一瞬の隙を

見て逃げる。

 雲助達が武蔵を追った時には、既に見失っ

ていた。

 雨の木賃宿で少年城太郎が尊敬する武蔵

が清水寺で襲われたが相手を撃退していた

ことを誇りに思い、師と慕う剣士を讃える。

 武蔵が宿に帰ってくる。城太郎は酒を買って

くると名乗り出る。貧乏武芸者で小遣が乏しい

と武蔵が財布事情を離すと三合の酒を買いたい

と城太郎は語り酒を買いに行く。

 木賃宿の亭主と武蔵は城太郎の口車に乗せ

られて酒を買ってしまうことを苦笑する。


 雨に打たれた林が宿に入ってきて武蔵に一礼

した。


   武蔵「吉岡のご門弟。先日は清水寺でお

       見受けしましたな。」


   林「吉岡道場で何故逃げられた?」


   武蔵「兵法です。」


  林は又会うこともあろうと語り去っていった。

戻ってきた城太郎は酒屋でおじさんのことを、

酔っ払いにしつこく聞かれたと報告した。

 城太郎は剣士で将軍様の剣術師範なら大名

で柳生様は一万石と讃え、「叔父さんは弱いの

かい」と貧乏暮らしの武蔵の在り方を問い、武蔵

は笑う。


   武蔵「国は何処だ?」


   城太郎「姫路。おじさんは作州だったね。

        お父っつァんは青木丹左衛門と

        言って五百石取ってたんだぜ。」


 武蔵ははっとする。故郷宮本村でお通を追い

回し、彼を捕縛しようとして失敗した青木丹左

衛門が、城太郎の父親だった。丹左は侍を辞

め虚無僧寺に入ったと城太郎は告げる。


 千年杉からの脱走が、この子の父親を失業

せしめ、この童を孤児にしてしまったのかもし

れない。武蔵の心は痛んだが、無邪気な城

太郎は、父と尊敬する武蔵の過去の対立を

知らない。


  「弟子にしてくれよ」と城太郎は武蔵の肩に

縋り、武蔵は入門を許可する。


 翌朝武蔵は木賃宿の親父に城太郎には黙

って、奈良の宝蔵院を見に行くことを告げて

去る。京から奈良への街道で武蔵は「叔父さん」

と叫ぶ城太郎の声を聞いて振り向く。城太郎は

武蔵に抱き付き、黙って去ったことを責める。


   「すまん。すまん。」

 

 武蔵は笑って詫びた。


 城太郎には父があり、奉公先の主人が居る

ので相談をしてこいという意味だったと語った。

 城太郎は主人に許可を貰い、木賃宿の亭主

からも同意して貰ったことを告げた。

 武蔵は、雨の夜酒を買いに行った城太郎が

しつこく聞いてきた酔客から手紙を預かって

いて渡され差し出し人の名が又八であったこ

とを驚く。


 文には故郷への愛が断ちがたいが、無職

で懶惰の日々を送っていることへの痛みと

吉岡一門が過日の敗戦を遺恨に思い、千人

の人数で君を狙っていると忠告してくれた。


 雨の夜、又八は酔いながら文を認め、城太郎

に聞かせていた。


 武蔵は又八と吉岡一門に手紙を書き、又八

には来年の一月元日から七日に五条大橋に

歩むので出向いて欲しいと伝え、清十郎には

果たし合いを望んでいることを記し、切った竹

に挟んで城太郎に託した。


 城太郎が又逃げるのではないかと疑うと「今

度約束を違えたら、儂の首を討て」と明言した。


 奈良宝蔵院での再会を約して師弟は別れた。


 吉岡道場では藤次が武蔵の書状を読み、「勝

手な事をぬかしおる」と怒る。

 

 清十郎は武蔵の挑戦に怯えを感じた。



 ☆☆☆清水寺から奈良へ☆☆☆
 武蔵は郷里の先輩お杉・権叔父を斬りたく

ないが、二人が雲助達の助けを受けて斬り

かかってくるので怒鳴りつけて逃げる方法を

選んだ。その様子を林が観る。

 初代中村錦之助と河原崎長一郎の演技

合戦は、無言のうちに展開する。

 浪花千栄子と阿部九州男が震えながらも

恥辱を晴らす義戦と思いこんで武蔵に挑む

老人の闘志を細かく粘り強く表現する。


 木賃宿で貧乏だが強靭な腕を持つ武蔵と

孤児城太郎の絆が描かれる。竹内満が無垢

で明るい城太郎を爽やかに勤める。

 織田政雄の宿の主人が渋い。


 雨の夜の武蔵・林問答に、錦之助・長一郎

の芸と芸の合戦が火花を散らして熱く盛り上

がる。

 武蔵は清水寺で林が自身を見つめていた

ことを察知していた。

 林は吉岡の道場から何故逃げたと聞き、武

蔵は「兵法です」と明言する。

 このシーンで武蔵は吉岡一門を倒したことに

迷いは無くて意識は明瞭である。

 剣と剣の戦いで敵を倒し、襲われそうになる

と見たら逃げるのは兵法であって、卑劣では

ない。論理に迷いはない。


 だがこの後のシーンで吐夢は、武蔵の戦いに

おける苦悩を描き出す。


 林は、武蔵の苦悶を鋭く突き抉り出す存在

としてその存在感を増して行く。


 一年九日前に公開された伊藤大輔監督作品

『反逆児』では兄弟のような主従徳川信康と小

金吾を、錦之助と長一郎がそれぞれ勤めた。

 錦之助は三代目中村時蔵の息子で、長一郎

は河原崎長十郎・山岸しづ江の息子である。

 共に俳優一家の御曹司なのだが、吐夢は二

人を鍛え抜き、良きライバルとして切磋琢磨し

合う関係を具現せしめた。


 青空の下の街道で武蔵と城太郎が再会する

場面も暖かさが溢れている。

 武蔵が又八の手紙に感銘を受け、回想シーン

で酔った又八が城太郎に思いを語る場も印象

的だ。


 竹を切って手紙を挟む仕草に時代劇俳優錦

之助の風格が光る。


 吉岡道場のシーンでは南廣の藤次の強か

さと江原真二郎の清十郎の繊細さと香川良介

の植田の貫録が心に響く。



                          合掌