プロコフィエフの交響曲の探訪を続けています。
今日は第3番をご紹介しましょう。

1927年に完成させた歌劇「炎の天使」は、
今日ではプロコフィエフのオペラの名作として
確固たる地位を築いていますが、1928年当時は
まだ全曲完全上演の目処が立たない状況にありました。
(結局、このオペラの全曲完全上演は、
 残念ながら作曲家の死後になってしまいました。)

そこで、組曲版を作成して、
組曲版の上演を先に画策することを考えたのですが、
次第に、交響曲の作曲に傾いていきました。
「炎の天使」の中のテーマを、ソナタ形式の主題として
活用できることを思いついたからでした。

しかし、標題交響曲としてではなく、
絶対音楽としての交響曲として完成されました。
作曲者本人としてはかなりの自信作であったようです。
当時ライバル関係と目されていたストラヴィンスキーが、
この作品を絶賛したということです。

私の仕事場のライブラリーには、このCDが在ります。
新旧両版の演奏が収録されている二枚組です。
(まだ新旧の聴き比べを十全に果たしていないのですが)

プロコフィエフ/交響曲第3番(旧版&新版)
        組曲「3つのオレンジへの恋」
モソロフ/鉄工所 ヴァレーズ/アルカナ
 リッカルド・シャイー指揮
 ユンゲ・ドイチェ・フィルハーモニー
 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
 DECCA / グラモフォン / PROC-1090/91

プロコフィエフ/交響曲第3番CD

###<交響曲第3番 ハ短調 作品44>###

[第1楽章]
序奏を伴うソナタ形式による冒頭楽章です。
冒頭から鬼気迫る迫力ある響きに圧倒されます。
歌劇「炎の天使」から引用された主題が活用されています。
序奏の主題は「レナータの絶望」、
第一主題は「炎の天使マディエルへの愛」、
第二主題は「騎士ルプレヒト」の主題、が活用されています。

[第二楽章]
複合三部形式による静謐な緩徐楽章です。
歌劇「炎の天使」の第5幕「僧院の場」の主題が
活用されている楽章です。
第一次と第二次の両大戦に挟まれたこの時代の
陰鬱な雰囲気も暗示しているようにさえ感じられます。

[第三楽章]
スケルツォ楽章で、歌劇「炎の天使」の
第1幕第1場の音楽が活用されています。
コントラバス以外の弦4部セクションを、
各パート毎それぞれを三部に分割した
計13声部の弦楽器群を緻密に活用した
オーケストレーションが特徴的です。
ショパンのピアノソナタ第2番「葬送」の
あの一陣のつむじ風のような終曲からの
着想とも言われていますが、
主部の音楽は確かにそのように感じられる
実にユニークなものです。

[第4楽章]
ソナタ形式を自由に活用した構成による終楽章です。
歌劇「炎の天使」の第2幕第2場の「悪魔の音楽」
を中心として活用されています。
第1楽章の持つ濃密な迫力が回帰してきます。
轟然とした結尾も圧巻です。

全曲で約35分の規模ですから、
それ程長大な曲ではありませんが、
歌劇「炎の天使」と同様に、
濃密なドラマ性を湛えた密度の高い作品になっています。

1932年の社会主義国家成立後に祖国復帰した後、
次第に社会主義リアリズムに添った作風、
例えば最も頻繁に演奏される交響曲第5番とは、
かなり異質の、前衛への気概に満ちていた頃の
プロコフィエフの情念が最も濃厚に反映された
素晴らしい交響曲と言えるでしょう。
確かに第5番程の明確な大衆性が望める
聴きやすい音楽ではありませんが、
滅多に演奏されないことが惜しまれます。

YouTube / Sergei Prokofiev :
  The Fiery Angel Act 1 & 2 (Concert Version)