☆☆部分トリソミー/部分モノソミー胚の予測モデル | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、部分トリソミー/部分モノソミー胚の予測モデルを提示しています。

 

Am J Hum Genet 2020; 106: 525(イタリア、キプロス、トルコ、UAE、デンマーク、スペイン、米国)https://doi.org/10.1016/j.ajhg.2020.03.005

要約:まず、2018〜2019年の採卵で得られた8137個の胚盤胞のTE細胞のPGTをNGS法で実施し、部分トリソミー/部分モノソミー胚の頻度を確認したところ、正常胚3520個(43.3%)、異常胚4163個(51.2%)、部分トリソミー/部分モノソミーのみ199個(2.4%)、部分トリソミー/部分モノソミーを含む異常胚255個(3.1%)でした。

 

次に、PGTを実施した78個の胚盤胞(部分トリソミー/部分モノソミー胚53個、正常胚25個)で、2回目のバイオプシーを行い、TE細胞3カ所+ICM細胞のPGTの結果を分析しました。部分トリソミー/部分モノソミー胚において、TE細胞4つとICM細胞の全てが同一の部分トリソミー/部分モノソミー胚だったものは32.1%であり、減数分裂での異常と考えられ、逆にTE細胞4つとICM細胞のいずれかが異なっていたものは67.9%であり、体細胞分裂での異常と考えられました。一方で、トリソミー/モノソミー胚において、TE細胞4つとICM細胞の全てが一致したものは96.2%減数分裂での異常と考えられ、逆にTE細胞4つとICM細胞のいずれかが異なっていたものは3.8%体細胞分裂での異常と考えられました。また、正常胚において、TE細胞4つとICM細胞の全てが正常だったものは96.0%、TE細胞1つだけに異常が認められたものは4.0%でした。

 

初回TE細胞とICM細胞の結果が一致した場合には、初回と2回目のTE細胞の一致率が77.8%ありましたが、初回TE細胞とICM細胞の結果が一致しなかった場合には、初回と2回目のTE細胞の一致率はわずか15.4%でした。また、初回と2回目のTE細胞の結果が一致した部分トリソミー/部分モノソミー胚の異常部分の染色体は平均67.0Mbであり、初回と2回目のTE細胞の結果が一致しなかった場合は平均50.6Mbでした。

 

これらのデータから、初回と2回目のTE細胞の結果を踏まえた、部分トリソミー/部分モノソミー胚の予測モデルを作成しました。

     初回と2回目のTE細胞の結果  異常部分の染色体の長さ  ICM異常率

クラス1     一致しない         80Mb以下      10.5%(2/19)

クラス2     一致しない         80Mbを超える    44.4%(4/9)

クラス3      一致する         80Mb以下      77.8%(14/18)

クラス4      一致する         80Mbを超える    100.0%(7/7)

 

解説:PGTの結果を解釈する際に、モザイク胚の取り扱いと同様に悩ましいのは、部分トリソミー/部分モノソミー胚の問題です。本論文は、素晴らしい論理的思考の元に、部分トリソミー/部分モノソミー胚とされた胚を2回目のバイオプシーにより分類したものであり、部分トリソミー/部分モノソミー胚の予測モデルを提示しています(とても素晴らしい論文ですので、是非ご一読ください。無料でダウンロードできます)。部分トリソミー/部分モノソミー胚の取り扱いは、未だ不明な部分が多くありますので、今後の研究に注目したいと思います。

 

下記の記事を参照してください。

2020.7.3「☆真のモザイク胚の頻度

2021.5.12「niPGTの診断精度は?

2021.5.4「☆非侵襲性PGT-A:賛成派 vs. 反対派

2021.5.3「☆モザイク胚移植1000個の成績

2021.4.9「PGTのバイオプシーによるマイナス効果はあるか?

2021.2.10「PGT-Aの母子への影響は?

2021.1.19「☆真の着床障害は本当は少ない!?

2020.12.4「☆PGT-Aは正しく妊娠予後を予測できるのか?

2020.11.4「PGT-A胚は妊娠判定日のhCGが低くなる

2020.9.13「PGT-Aの際の新しいバイオプシー方法

2020.7.3「☆PGT-A:バイオプシー方法による違い

2020.5.19「☆PGT-Aはメリットが誇張され、デメリットが過小評価されている

2020.3.27「PGT-Aの際に顕微授精は必須ではない

2020.1.29「☆PGT-Aで出産率は改善するか

2020.1.10「正常胚の出産率予測には桑実胚になるまでの時間が重要

2020.1.9「☆PGT-A vs 形態学的選別:多施設ランダム化試験

2019.10.30「世界の体外受精の成功率が低下しているのは何故?

2019.10.3「☆刺激周期も自然周期も正常胚率は同じ

2019.9.23「☆7日目正常胚盤胞も十分妊娠可能 その2

2019.9.21「☆7日目正常胚盤胞も十分妊娠可能 その1

2019.9.5「モザイク型の染色体を持つ夫婦のPGT-Aの是非

2019.7.5「PGT-Aの正確性は?

2019.5.13「胚盤胞のPGT-Aの正確性は?

2019.3.12「モザイク胚100周期の移植経験

2019.2.19「PGT-Aでメリットがある方は?

2019.1.29「染色体一部モザイク(segmental mosaic)の取り扱い

2018.8.19「☆PGT-A:賛成派 vs. 反対派

2018.7.17「PGS(PGT-A)の精度は?

2018.6.22「☆モザイク胚や異常胚の移植について

2018.6.10「☆モザイク胚の淘汰:マウスモデル

2018.6.3「モザイク胚の特徴は?

2018.5.31「Q&A1845 PGS異常胚の出産

2018.4.6「☆PGSの真価は?

2018.4.5「☆PGSについて:ASRM公式見解

2018.3.22「Q&A1772 モザイク胚について2

2018.1.29「☆モザイク胚を移植したらどうなるか?

2017.10.31「Q&A1627 ☆モザイク胚について

2017.1.24「☆ASRM:PGS特集 その1 モザイクの取り扱い

2016.8.9「☆女性の年齢別染色体異常頻度 その2