本論文は、真のモザイク胚の頻度に関する検討です。
Hum Reprod 2021; 36: 1691(中国)doi: 10.1093/humrep/deab064
要約:2017〜2019年に、380名1719個の胚盤胞のPGTを実施しました。このうち、70名101個のモザイク胚と診断された胚盤胞を提供していただき、2回目のバイオプシーを行い、可能な限り3つの部分(TE、ICM、その他)に分離しました。なお、分析方法はNGS法を用いました。初回と2回目のバイオプシーによるPGT一致率は、全体で94.1%、部分で82.8%でした。101個のモザイク胚の2回目のバイオプシー結果は下記の通り。
2回目のバイオプシー結果
同一部位の異常 32個(31.7%)→4個でモノソミー/トリソミー →真のモザイク*
14個で同一のモザイク →真のモザイク/偽陰性
14個で異数性異常 →偽陰性
異なる部位の異常 15個(14.8%)→3個でモザイク →偽陰性
12個で異なる異常 →偽陰性
正常 54個(53.5%) →偽陽性
*Hum Reprod 2017; 32: 492の論文ででこのパターンを真のモザイクとしています
解説:PGTの結果が異数性異常の場合には異常であることに疑いはありませんが、モザイク胚の場合には正常胚が含まれるなど判断に疑いがあるとされていました。しかし、真のモザイク胚あるいは異常胚など、その判断には一致した見解はありません。本論文は、モザイク胚とされた胚を2回目のバイオプシーにより分類したものです。正常胚が53.5%(54個)含まれる一方で、異常胚が25.7%(26個)、モザイク胚が20.8%(21個)あることを示しています。たった1回だけのバイオプシーでの判断には誤りがあることを意味します。モザイク胚の取り扱いは、未だ不明な部分が多くありますので、今後の研究に注目したいと思います。
下記の記事を参照してください。
2021.5.12「niPGTの診断精度は?」
2021.5.4「☆非侵襲性PGT-A:賛成派 vs. 反対派」
2021.5.3「☆モザイク胚移植1000個の成績」
2021.4.9「PGTのバイオプシーによるマイナス効果はあるか?」
2021.2.10「PGT-Aの母子への影響は?」
2021.1.19「☆真の着床障害は本当は少ない!?」
2020.12.4「☆PGT-Aは正しく妊娠予後を予測できるのか?」
2020.11.4「PGT-A胚は妊娠判定日のhCGが低くなる」
2020.9.13「PGT-Aの際の新しいバイオプシー方法」
2020.7.3「☆PGT-A:バイオプシー方法による違い」
2020.5.19「☆PGT-Aはメリットが誇張され、デメリットが過小評価されている」
2020.3.27「PGT-Aの際に顕微授精は必須ではない」
2020.1.29「☆PGT-Aで出産率は改善するか」
2020.1.10「正常胚の出産率予測には桑実胚になるまでの時間が重要」
2020.1.9「☆PGT-A vs 形態学的選別:多施設ランダム化試験」
2019.10.30「世界の体外受精の成功率が低下しているのは何故?」
2019.10.3「☆刺激周期も自然周期も正常胚率は同じ」
2019.9.23「☆7日目正常胚盤胞も十分妊娠可能 その2」
2019.9.21「☆7日目正常胚盤胞も十分妊娠可能 その1」
2019.9.5「モザイク型の染色体を持つ夫婦のPGT-Aの是非」
2019.7.5「PGT-Aの正確性は?」
2019.5.13「胚盤胞のPGT-Aの正確性は?」
2019.3.12「モザイク胚100周期の移植経験」
2019.2.19「PGT-Aでメリットがある方は?」
2019.1.29「染色体一部モザイク(segmental mosaic)の取り扱い」
2018.8.19「☆PGT-A:賛成派 vs. 反対派」
2018.7.17「PGS(PGT-A)の精度は?」
2018.6.22「☆モザイク胚や異常胚の移植について」
2018.6.10「☆モザイク胚の淘汰:マウスモデル」
2018.6.3「モザイク胚の特徴は?」
2018.5.31「Q&A1845 PGS異常胚の出産」
2018.4.6「☆PGSの真価は?」
2018.4.5「☆PGSについて:ASRM公式見解」
2018.3.22「Q&A1772 モザイク胚について2」
2018.1.29「☆モザイク胚を移植したらどうなるか?」
2017.10.31「Q&A1627 ☆モザイク胚について」
2017.1.24「☆ASRM:PGS特集 その1 モザイクの取り扱い」
2016.8.9「☆女性の年齢別染色体異常頻度 その2」