◆ 「祝詞新講」 次田閏著 (~9)






部分的に割愛しまして…

今回よりいよいよ
「延喜式」所集の各「祝詞」の現代語訳を…
といきたいところですが…

その前に、
一度整理しておいた方がいいのではないかというものを先に。


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■過去記事
* ~1 序

* ~2 緒言
* ~3 祝詞の名義
* ~4 呪物崇拜と言靈信仰
* ~5 祭祀と政治
* ~7 祝詞の沿革
* ~8 祝詞の内容と形式

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■ 古本及び註釋書

(割愛します)

「祝詞」は「延喜式」第八卷に納められています。

その現存する各古写本について、その概要や評価がつらつらと8頁に渡り記されています。こちらで取り上げる意義は少ないと判断し、割愛します。


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「延喜式」九条家本 (東京国立博物館蔵 国宝)
*画像はWikiより



■ 「延喜式」の整理

当書は「延喜式」第八卷に納められる「祝詞」に対し、研究を重ねた次田潤氏がそれを分かりやすく講じた書。

なぜ「延喜式」?
…なのかを説明しておきます。

既に「延喜式」については、第6回目の記事にてごくごく簡単に触れています。そもそもなぜ「延喜式」?についてもごくごく簡単に書きました。

第6回目の記事をご参照下さいませ~などとは言いません!補足をしつつ、何で「延喜式」なんや?…から始めていきます。

(言葉足らずだったと反省しております)

今回の記事は次田潤氏に頼りません。ですからこの記事はWiki等を多少参考にしつつ、私の考えで、私の言葉で書いていきます。



◎「祝詞」とは何なのか?

「神道」は宗教ではなく「信仰」。
「●●教」という名称ではなく「道」なのです。
ですから教祖も存在しなければ、経典も存在しません。

「神社仏閣」などという言い方は本来は誤っていますし、これは仏教という宗教からの視点であり、「神道」側からすれば甚だ違和感を抱くもの。

魚類にクジラやイルカを含めるようなもの。例えが下手でしょうか?ニュアンスだけ感じとって頂ければ…と。

「信仰」というものには何ら制約はありません。宗教というものなら、多少なりとも統一性を保たねば成り立たないでしょうが、「信仰」は個人の勝手気ままな自由なもの。

「信仰」という観点からだけでみれば、私が頑なに拒絶するスピリチュアルなどを神社に持ち込もうが自由ですし、境内に犬など獣を連れるのも自由。ただし「神道」なのですから、スピリチュアルも獣も許されてはいません。

また日本「神道」を信仰しつつ、キリスト教徒である…などということも、何ら問題なく成り立つわけです。

そうして自然発生的な「精霊信仰」から始まった「神道」ですが、時代を経て「国家祭祀」に組み込まれていくこととなりました。
日本を統治する天皇は「現人神(あらひとがみ)(人の姿をした神)に。神社も新興の仏教に倣い建物を有するようになり、「祭」など様々な様式が整えられていきます。

これは天武天皇の御代に成立した「飛鳥浄御原令」の「神祇制度」に、各神社が組み込まれることにより、国家的な掌握がなされていったのではないかと考えます。天武天皇(或いは持統天皇か?)の思惑が後の時代にまで続いていきました。

そのなかで「祝詞」も整えられていき、「半定型化」しました。(完全に定型化したものもあれば、必要に応じて詞を変えるものもあるという意味で用いました)

ところが教祖は皇室祖神である天照大御神、経典は「祝詞」であるが如くにされてしまうこともしばしば。天照大御神が万人に教えを説いたこともなければ(個別案件に対してはある)、「祝詞」は神への「称え詞」であって教えなどは一言も含んではいません。

もう一度申し上げておきます。
「祝詞」は神への「称え詞」なのです。



◎「祝詞」の資料はほとんど無い?

「祝詞」の本文が掲載される現存する古典は二つだけ。

*「延喜式」第八巻に収められた二十七篇

*「台記」の別記に収められた康治元年(1142年)の大嘗會に奏した「中臣壽詞」一篇


「台記」は一篇のみしか掲載されておらず、「祝詞」を研究する際には、主に「延喜式」第八巻が対象となります。




◎「延喜式」とは?


これまであらゆる記事にて書いてきましたので、今さら…という感じもしますが、ごく簡単にだけ触れておきます。


先ず「律令」という古代国家の基本法があります。それを補完するものとして「格式」が存在します。

*律 … 刑法

*令 … 公私諸般の制度に関する規定

*格 … 律令の修正増補

*式 … 律令の施行細則等


「律令」は大宝元年(701年)に「大宝律令」として成立しました。「格式」はそれより100年以上も遅れて成立しています。

「三大格式」として三度に渡り編纂されました。
*弘仁格式 … 弘仁年間(810~824年)に編纂
*貞観格式 … 貞観年間(859~877年)に編纂
*延喜格式 … 延喜年間(901~923年)に編纂

これは編纂の年代であって成立は遅れます。例えば「延喜格式」は延長五年(927年)に完成しています。

このうち現存するのは、
*「弘仁格」の一部
*「弘仁式」の一部
*「延喜式」のほぼすべて

つまり事実上「延喜式」しか現存していないということになります。ところがこれが残されたおかげで、古代のあらゆる分野のことを知る大きな手がかりとなっています。

私も原文(写本)に目を通すのは初めてのこと(部分的にはありましたが)。遥か想像以上にいろんなことが書かれていて、それらを吸収できたらどんなに…などと、またまた貧乏性なのか意欲が沸々と。要検討!としておきます。

「日本古典全集」に収録された「延喜式」第1巻の本文 *画像はWikiより



◎「延喜式」の構成

全50巻からなる壮大な書。内訳を記しておきます。

*巻1・2 … 「四時祭」(しじさい・しいじのまつり)
*巻3 … 「臨時祭」
*巻4 … 大神宮
*巻5 … 斎宮
*巻6 … 斎院
*巻7 … 「践祚大嘗祭」
*巻8 … 祝詞
*巻9・10 … 神名帳(いわゆる「延喜式神名帳」)
*巻11~40 … 太政官八省関係の式
*巻41~49 … その他の宮司関係の式
*巻50 … 雑式

余談ですが…
第9・10巻の「延喜式神名帳」に掲載される全2861社(3132座)が、いわゆる「式内社」。



◎「四時祭」
「四時祭」は「定例祭」や「官祭」、「恒例祭」とも称される、齋日が決まっているもの。

祈年祭・鳴雷神祭・春日神四座祭・大原野神四座祭・園并韓神三座祭・大宮賣神四座祭・平岡神四座祭・鎮花祭・神衣祭・三枝祭・大忌祭・風神祭・松尾祭・平野神四座祭・四面御門祭・御川水祭・霹靂神祭・御贖祭・卜御體・卜庭神祭・月次祭・大殿祭・忌火祭 庭火祭・六月晦日大祓・中宮御贖・鎮火祭・道饗祭・伊勢太神宮神嘗祭・御巫奉齋神祭・座摩巫奉齋神祭・生嶋巫奉齋神祭・相嘗祭・鎮魂祭・新嘗祭・忌火炊殿祭・鎮御魂齋戸祭・東御魂齋戸祭・毎月朔日忌火庭火祭・中宮晦日御麻・毎月晦日御贖

「内閣文庫」所蔵の「延喜式」卷一
「国立公文書館デジタルアーカイブ」より



◎「臨時祭」

ある特別な目的を以て実施される「祭」のこと。やはりWikiが大変よく簡潔にまとめられているので、引用します。

━━1つは「延喜式」に規定された「恒例祭」以外の臨時の祭りを指す。遷宮、天皇の即位や行幸、国家的危機の時などに実施されるものを指す。
もう1つは、平安時代中期以後に登場した天皇の発願に由来して、朝廷における年中行事として定着した有力神社の祭祀を指す。「恒例祭」が勅使の派遣によって「臨時祭」化した「平野臨時祭」以外は、各神社においては「恒例祭」とは別に新たに始められた祭祀である━━


「恒例祭」とは「四時祭」のこと。



◎「幣帛」の頒布

各「祭」にはそれぞれ「幣帛」の頒布される対象の神社が記されます。つまり中央の神祇官より全国主要社に対して、定期的な「幣帛」頒布を行うことにより、それらを掌握していたということになります。

その一覧が掲載されているのが、巻9・10 の「神名帳」。つまり式内社。

例えば…
「祈年祭」は対象となるのは3132座。これは「神名帳」記載の全3132座と合致、従って全式内社が対象。

「春日神四座祭」は対象となるのは4座。これは大和国添上郡に鎮座する「式内名神大社 春日大社」のご祭神四座(武甕槌命・経津主命・天児屋根命・比売神)が対象。

「月次祭」は対象となるのは304座(うち198座は大社)。これは「神名帳」記載社のうちの304座に対してのみ「幣帛」頒布の対象となっていたことを示します。

「相嘗祭」は対象となるのは71座。これは「神名帳」記載社のうちの304座に対してのみ「幣帛」頒布の対象となっていたことを示します。

具体的に挙げると…

*「弓削社」は八尾市「弓削町」鎮座の弓削神社をリンクに採用
*「新屋社」は茨木市「西福井」鎮座の新屋坐天照御魂神社をリンクに採用


「内閣文庫」所蔵の「延喜式」卷一、「月次祭」の該当箇所
「国立公文書館デジタルアーカイブ」より

「相嘗祭」の幣帛に授かった大和国城下郡 池社(池坐朝霧黄幡比賣神社)



◎「律令」においての「四時祭」「臨時祭」

主な「律令」としては、日本最初の「大宝律令」(大宝元年・701年)、さらに部分改定が施されたと思われる「養老律令」(天平宝字元年・757年)があります。どちらも部分的に散逸した状態でしか現存しません。いずれも「延喜式」(延長九年・927年)よりはかなり古いもの。

おそらく天武天皇時代の「飛鳥浄御原令」で成文化された「神祇令」が、「大宝律令」「養老律令」に受け継がれたものとみられます。

この「神祇令」が「国家祭祀」を規定するもの。「養老令」に現存しています。

「養老令」の中の「神祇令」にみられるのは…
*「四時祭」 … 10祭
*「臨時祭」 … 2祭
*「大祓」 … 六月十二月の2度

*「四時祭」の10祭
祈年祭・鎮花祭・神衣祭・大忌祭・三枝祭・風神祭・月次祭・鎮火祭・道饗祭・神嘗祭・相嘗祭・新嘗祭

*「臨時祭」の2祭
天神地祗祭・大嘗祭

*「大祓」 × 2回

「大忌祭」が行われた大和国廣瀬郡 廣瀬大社



まだまだ書いておきたいことは山のようにありますが、ここまでにて。

次回は「延喜式」第八卷の「祝詞」冒頭文を。



*誤字・脱字・誤記等無きよう努めますが、もし発見されました際はご指摘頂けますとさいわいです。