■ Brigham Young
迫害されたモルモン教徒たちは安住の地を求めて放浪しユタの地にたどり着く。


製作年:1940、監督:ヘンリー・ハサウェイ、脚本:ルイス・プロムフィールド


■ はじめに

登場人物(キャスト)
 ジョセフ・スミス(ヴィンセント・プライス) モルモン教の創始者
 エマ・スミス(クレア・デュ・ブレイ) ジョセフの妻
 ブリガム・ヤング(ディーン・ジャガー) モルモン教の指導者
 マリー・アン・ヤング(メアリー・アスター) ブリガムの妻
 クララ・ヤング(ジーン・ロジャース) ブリガムの娘
 ジョナサン・ケント(タイロン・パワー) 主人公
 イライザ・ケント(ジェーン・ダーウェル) ジョナサンの母親
 メアリー・ケント(Ann E. Todd) イライザの子供
 ヘンリー・ケント(Dickie Jones) イライザの子供
 カレブ・ケント(Selmer Jackson) イライザの子供
 ザイナ・ウェブ(リンダ・ダーネル) ケント家と生活、非モルモン
 アンガス・ダンカン(ブライアン・ドンレヴィ) ブリガムに反発している人物
 ポーター・ロックウェル(John Carradine)
 ヒーバー・キンボール(Willard Robertson)
 ハイラム・スミス(Stanley Andrews)

ザイナは非モルモンだが、ケント家の人々と暮らしている。家族が殺されたらしい。
 


■ あらすじ

◆ モルモン教徒が襲われる

イリノイ州。モルモン教徒たちの集会が開かれている。怪しいものではなく、信仰と信者間の友好を深めるためである。

しかしそこを多数の銃で武装した集団が襲った。察知した信者たちは、女性と子供を庭にある地下室に避難させた。

男性たちは、非武装で彼らを迎えたが、多くが射殺された。また捕らえられてリンチされた。そして家には火が放たれた。

◆ どうすればよいか議論

これまでも、このようなことがずっと起こってきた。そしてモルモン教徒は、いろいろなところを移動してきた。ニューヨーク州、オハイオ州、ミズーリ州、イリノイ州。

今後どのようにするかを話し合った。一つは武器を持って戦う、もう一つは政治的解決を図ること、さらには別の土地に移る。

しかしどれをとっても、はっきりした保証がないものである。議論は堂々めぐりとなった。

◆ ジョセフ・スミスが殺された

モルモン教を創始したジョセフ・スミスが逮捕された。容疑は反逆罪。裁判が開かれた。

この時代ではありうることではあるが、裁判は宗教的な偏見に沿って展開された。

ブリガム・ヤングは、信仰の自由を求めて大陸に渡ってきた清教徒やクエーカー教徒の話をして、自分たちの信仰に理解を求めた。この話に法廷はシーンとなった。

判事は陪審員団に判断を求めた。ジョセフは有罪となった。裁判所の内と外で大歓声。

プリガムや傍聴に来ていたジョナサン・ケント、ザイナ・ウェブは暗い顔となった。

量刑の言い渡しは明日11時。ジョセフはブリガムに「みんなを頼む。我々を罰することができるのは神だけだ」と言って連行されていった。

ジョセフが裁判所から連行されたが、そこに武装した暴徒が乱入し、ジョセフは撃たれて死亡した。まだ量刑が決定される前である。

◆ アイオワに出発する

この時期にブリガムとアンガス・ダンカンの間に主導権争いが発生する。

保安官がブリガムを訪ねてきた。「これまで暴徒を抑えてきたが抑えきれない。退去してほしいとのこと」。保安官の言葉とは思えないが、ブリガムは拒否する。「我々は権利を守るために戦う」。

ブリガムによれば、ダンカンは「自分が後継者」と言っているらしい。ダンカンは言ってみれば和平派である。

ブリガムは「ジョセフが私を指名した。神が止めろと言うまで、私のやり方でやる」。ダンカン派の会合に出て行ってこのように宣言した。そして「(保安官への言葉とは違って)我々は今夜ここを去る。アイオワに行く」。

ブリガムはその場にいたヒーバー・キンボールに「今すぐ出発する。朝までに川を渡らないと取り返しがつかない」と指示した。

ダンカンはクレームをつけるが、結局一緒についてくる。その後もブリガムとダンカンはたびたび衝突する。

緊迫した雰囲気の中、幌馬車に乗り家畜を引き連れて出発する。雪が降って積もっている。

モルモンを襲撃しようと馬の一隊が追いかけてくる。元いた場所は襲撃されて燃え上がっている。

敵が後ろに迫る。凍った川を渡る。川を越えるのがなかなか大変だが無事に渡りきる。向こう岸に渡った一行をを見て敵は「モルモンもこれで終わりだ」と言う。

◆ 旅は続いた

川のそばでテントを張って野宿。自分の意見に反してついてきたダンカンが、またいろいろ文句を言っている。

しかし、それだけではない。ブリガムについて逃れてきた人々は、先のことが分からないので、みんな心配である。

ブリガムは「新しく馬車を作り、武器や衣服、食料を揃えて、ここを出発する。ロッキー山脈を越えてメキシコへ」と宣言する。「四年かかる」との声には「モーゼは40年間旅をした」と答える。

若干の脱落者が出るがブリガムは主張を変えない。

さらに旅は続いた。果てしない平原、河、沼、山。日照り、雨、風。よいところが見つかれば、しばらくはそこに定住する。

◆ 先住民と会う

ミズーリ州を越えた。先住民の姿を見かけるようになった。

先住民の一団がゆっくりとジグザグに進んでくる。よく知っている者が「敵意がないことを表している」と言った。

先住民のリーダーと監督をしている白人が来た。「しばらくここで休ませてくれ」と願い出た。監督の方はリーダーに「好ましくない」と言うが、リーダーは「君たちが来た理由は分かっている。我々も住んでいたところを追われた。歓迎する」と了解した。

このような好意的な反応はイリノイを出発して初めてのことである。ブリガムは「感謝する」と言って先住民式に手を上げた。

しばらくはここで暮らせるので、みんなに安堵が広がった。

ブリガムは「一応ここで定住して、少数の者で最終的な行き先を探そう」と考える。注、実際はそうしない。

◆ カリフォルニアへ

フォート・ブリッジゃー。すなわち大草原地帯(Great Plains)とカリフォルニアの境界まできた。フォート/砦となっているが、本当に砦があるわけではない。

ずっと病気だったジョナサンの母親イライザが死亡した。ジョナサンは墓を作って遺体を埋めた。

ダンカンは出会った者と「ここでは金が取れる」と話している。

祭りが行われてみんな楽しんでいる。しかしブリガムは「祭りで賭け事が行われている」と批判的。

「みんなを豊かな土地に導いたら、たちまち堕落する。必要なのは誰もいない土地だ」。

◆ ユタへ

ブリガムはカリフォルニアを前にして方針転換/方向転換した。すなわちカリフォルニアに背を向けた。

ブリガムは体調がよくないので一行は止まる。ブリガムを休ませる。

しかし妻のマリー・アンは、他の人の心配ににも拘わらず、病身のブリガムを馬車に乗せると主張した。一行はまた進みだした。

ブリガムは途中で意識を回復した。外を見まわした。広大な盆地が見えた。「この場所だ(This is the place)。ここに住もう」。盆地ではあるが砂漠である。

我々はここが後にモルモンの本拠地となるユタであることが分かっている。注、「ユタ」の名称は先住民の部族の名前に由来する。

みんなは馬車から降りて並んで、その地を見下ろした。しかしザイナはジョナサンに「カリフォルニア行はどうなったの?」ジョナサン「当てが外れた」。

ダンカンは「ここは砂漠だ。みんな死ぬぞ。別の教会を作る。カリフォルニアに行くぞ」。ダンカンたちはカリフォルニアに向かった。注、後でまた戻ってきている。

ダンカンが去った後、ジョナサンとザイナを含めて、盆地を見ながら跪いて祈った。

◆ 定住

みんなは、ここに定住するための数多くの作業を開始した。土地の開墾、道路の整備、住宅の建設、教会や公会堂の建設、作物の貯蔵庫。そして種まき。

次第に形が整ってきた。しかしダンカンがなぜかまだいる。

◆ ジョナサンは出張した

ブリガムはジョナサンとポーター・ロックウェルに出張を命じた。注、なんの目的であるかは明示されない。

ジョナサンの母親はすでに死亡している。後は三人の子供と(本来は家族ではない)ザイナがいる。言ってみればザイナもまだ子供である。ジョナサンの他にも適任者はいるだろうと思われるが、ともかくブリガムはジョナサンを指名した。数か月かかるらしい。

ジョナサンはザイナと話した。当然ながらザイナは強く反発した。「子供の世話はどうするの?。横暴でしょ。ブリガム・ヤングは指導者かもしれないけど神じゃないのよ」。

ジョナサンは考えを変えない。「結婚しよう」「今すぐに?」「春に戻ったら」。ザイナは切れた。しかしジョナサンは出ていった。

◆ 飢饉

盆地は大雪に見舞われた。食料が底をついて配給を制限した。

ザイナのところも食料がほとんどなくなった。ザイナは自分が食べる分を減らして子供に与えた。しかしそれでも子供たちは「お腹がすいた」と言ってくる。

◆ ジョナサンが戻ってきた

ジョナサンとポーターが戻ってきた。家の中に入るとザイナが倒れている。そしてメアリーが「おなかがすいた」と訴えた。

ザイナはこれまでのことを話した。家の中を調べたが、食料がなにもない。ザイナは泣き出した。

医者がきて診断した。ジョナサンに「ずっと何も食べていない」。ジョナサン「みんな子供にやった」医者「他の家でもそのようなところがある」。

ジョナサンはザイナに食べ物を作ってもっていった。体力が弱っているので、少しずつしか食べれない。しかし少しずつ体力を回復していつた。

ザイナは「今は結婚できない」「どうして?」「一度は信じようとしたけど、もうできない」。何を信じられないのかは不明だが、あえて推測すれば、ザイナはモルモン教を信じようとしたが、今回のことで信じられないということか?

ジョナサンはブリガムに抗議しに行った。「世話を約束していたのに。ザイナたちは飢えた。ザイナは食べる力がない。生きる力もない」「神が救う」「関係ない。神はどこにいる?あなたが言うから私は信じた。もう信じない」と激しく応酬する。

ジョナサンは今まで少々不満はあってもブリガムに従ってきた。しかし今回は怒っている。ジョナサンの怒りに、ブリガムと妻は言葉がなかった。

◆ イナゴ

春になった。作物を植え付けた。しかしイナゴの大群が発生した。

みんなで畑にでて追い払ったが、追い払えるものではない。作物が食い荒らされている。

ブリガムは問われて「どうしたらいいか分からない」と答えた。

ともかくみんなはイナゴを追い払うのに懸命だが、空を見ると、さらにイナゴが押し寄せている。

一方ジョナサンはザイナに「元気になったら、カリフォルニアに行こう」。ザイナは微笑む。ザイナは次第に元気になった。

みんなの批判がブリガムに集中した。

ブリガムは自分の家。「指導者になれとの啓示を受けたと言ったが、それは嘘だった。いかなる罰も受けます」と反省した。そして「彼らを救って下さい」と祈った。

ブリガムがみんなの前で謝罪しようとした。集会を開く壇の上に立った。

ここで多数のカモメが飛んでくる。次々とイナゴを食べた。みんなは大喜びで歓声を上げた。

ザイナは「私が間違っていた。ここで生きていける」とジョナサンに言う。
 


■ 補足

◆ 本作のトーン

本作は、モルモン教やブリガム・ヤングをほぼ中立的に描いているようである。礼賛する雰囲気はなく、また誹謗することもない。当然ながらある程度は批判をしている。

ジョナサン・ケントを主人公にしているのは、おそらくは上記のスタンスを実現するためであろう。ブリガムを主人公にすれば、どちらかの方向性に走ることになっただろう。

◆ ジョセフ・スミス

1820年、ジョセフ・スミスは14歳の時、森の中で祈っている時、その前に「父なる神とイエスが現れた」という体験をする。

後にモルモン教=末日イエスキリスト教会を創始する。

ここは本作の範囲外。

◆ ザイナ・ウェブ

ザイナはモルモン教徒ではない。しかし反モルモンの襲撃時に家族を殺されて、ケント家で暮らしている。

それからもジョナサンの家族と一緒に幌馬車に乗っていく。

プリガムにも優しい言葉をかけられるが「改宗する気はありません」ときっぱりと答えている。

ザイナは「まだ子供」という設定になっている。カリフォルニア州との境界まで来たときに、ジョナサンとザイナは「カリフォルニアに行ったら何をしたいか?」という話をする。その中でジョナサンは遠慮がちにザイナにプロポーズする。

本作時、リンダ・ダーネルは17歳。
 


■ 蛇足

ハリウッド映画では、わりとキリスト教や特定の宗派を批判・邪推したような映画がある。もちろん本作のようにマジメに描いた映画も多い。

「(1998)グッバイ・ラバー/Goodbye Lover」(パトリシア・アークエット、メアリー・ルイーズ・バーカー、ドン・ジョンソンなど)では、モルモン教徒の刑事がいて、融通がきかない生真面目な人物として描かれている。

「(1993)コーンヘッズ/Coneheads」(ダン・エイクロイドなど)では、密入国者を取り締まるために、係員がエホバの証人を装って訪問してくる場面がある。

「(1960)エルマー・ガントリー/Elmer Gantry」(バート・ランカスター、ジーン・シモンズなど)では、そもそもキリスト教を信じてない人間たちが宗教活動をする姿が描かれている。しかしシャロン(ジーン)は最後に回心する。
 


■ 出演作

◆ ヴィンセント・プライス
(1939)女王エリザベス/The Private Lives of Elizabeth and Essex
(1944)ローラ殺人事件/Laura
(1951)替え玉殺人計画/His Kind of Woman
(1956)口紅殺人事件/While the City Sleeps
(1940)約束の地を目指せ/Brigham Young

◆ ディーン・ジャガー
(1957)四十挺の拳銃/Forty Guns
(1959)尼僧物語/The Nun's Story
(1960)エルマー・ガントリー/魅せられた男/Elmer Gantry
(1940)約束の地を目指せ/Brigham Young

◆ メアリー・アスター
(1937)ゼンダ城の虜/The Prisoner of Zenda
(1941)マルタの鷹/The Maltese Falcon
(1949)若草物語/Little Women
(1964)ふるえて眠れ/Hush... Hush, Sweet Charlott
(1940)約束の地を目指せ/Brigham Young

タイロン・パワー
(1939)地獄への道/Jesse James
(1941)血と砂/Blood and Sand
(1947)悪魔の往く町/Nightmare alley
(1953)ミシシッピーの賭博師/The Mississippi Gambler
(1948)征服への道/Captain from Casile
(1951)狙われた駅馬車/Rawhide
(1942)海の征服者/THE BLACK SWAN
(1946)剃刀の刃/THE RAZOR'S EDGE
(1940)約束の地を目指せ/Brigham Young
(1942)激闘/ベンジャミン・ブレイクの復讐/Son of Fury:The Story of Benjamin Blake

◆ ジェーン・ダーウェル
(1939)風と共に去りぬ/Gone with the Wind
(1946)荒野の決闘/My Darling Clementine
(1950)女囚の掟/CAGED
(1950)幌馬車/Wagon Master
(1940)約束の地を目指せ/Brigham Young

◆ リンダ・ダーネル
(1941)血と砂/Blood and Sand
(1946)荒野の決闘/My Darling Clementine
(1952)海賊黒ひげ/Blackbeard the Pirate
(1947)永遠のアンバー/Forever Amber
(1945)戦慄の調べ/Hangover Square
(1948)殺人幻想曲/Unfaithfully Yours
(1945)堕ちた天使/Fallen Angel
(1944)西部の王者/Buffalo Bill
(1940)約束の地を目指せ/Brigham Young

◆ ブライアン・ドンレヴィ
(1939)大平原/Union Pacific
(1947)死の接吻/Kiss of Death
(1949)狂った殺人計画/Impact
(1940)約束の地を目指せ/Brigham Young